蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ビッグデータ・ベースボール

2016年07月18日 | 本の感想
ビッグデータ・ベースボール(トラヴィス・ソーチック 角川書店)

2013年のシーズン、それまで20年以上シーズン負け越しを続けていたピッツバーグパイレーツは、過去のデータ分析から得た情報を重視した戦術を採用し、さほどの戦力補強もなしに所属地区2位になりプレーオフに進出した・・・という話。

パイレーツが採用した主な戦術は、
①大胆な守備シフト
②投手に(シフトを生かすために)ゴロを打たせる投球をさせる。
③ピッチフレーミングを重視(フレーミングのうまい捕手をFAで取る)

①、②は、MLBのTV中継を見ていると、左の強打者の時に内野手全員がセカンドよりも右側に寄っている、なんてシーンを時折見かけますのであまり驚かないのですが、③は初耳でした。
ピッチフレーミングとは、本当はボールなのにキャッチャーがミットをうまく動かして捕球し、ストライクに見せかける技術のこと。TVでもよく見かけますが、そもそも素人が見てミットが動いて見えるようではダメなようです。
そんなもの大した影響ないだろ、なんて思ったのですが、数値化してみると、とても大きな効果があるそうです。パイレーツは独自の分析でフレーミングがうまい(しかし打率等が悪くて全体としての評価が低い)キャッチャーをピックアップしてFAで獲得し2013年の好成績につなげたそうです。

本書でもしばしば指摘されているように、データを見せられても現場の感覚に合わない作戦は、よっぽどの覚悟がないとなかなか(継続的には)採用されません。
例えば、「ノーアウトランナー一塁での送りバントは最悪の戦術」というのがデータから明らからしいのですが、日本では(プロ野球でも)まだ当然の戦術(というか昔に比べて送りバントって増えているような気がします)ですし、見ているファンの視点でも「へたに打たせてダブルプレー、なんて場面だけは見たくない」なんて(私なんかは)思ってしまいます。

これは野球に限ったことではなくて、それまでの常識を一変させるような統計的事実を受け入れるのは、実生活でもビジネスでもとても難しく、このあたりの意思決定方法をどのように変えていくのか、というのがいわゆるビッグデータ時代の大きな課題なのでしょう。

投球や打球の軌道等を精密にデータ収集する機器は(アメリカで)既に開発されているそうで、日本の野球界でもいつの日か「ビッグデータベースボール」が見られるかもしれませんが、少なくともアメリカに比べて受入れに要する時間は相当に長くなってしまいそうです。

余談ですが、ピッチフレーミングなんて(一見、重箱のスミとしか思えないような)所までデータを収集して分析しているのですから、審判のジャッジの癖や傾向の分析はいの一番にやっていると思うのですが、(ホームタウンデシジョンの傾向については言及がありましたが)そういう話題は登場しませんでした。
これは、球団としても「ジャッジを分析してそのウラをかくようにしている」なんてことは公言しにくところなんでしょうな。

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