蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ルリボシカミキリの青

2012年12月02日 | 本の感想
ルリボシカミキリの青(福岡伸一 文芸春秋)

「ルリボシ」を変換すると最初に出たのは「瑠璃星」、「カミキリ」を変換して出たのは「髪切り」だった。「瑠璃星髪切り」、うーん、なかなかいいなあ、と思った。というのは、本書とは何の関係もない話だが、本書によるとこの虫の青さというのはこの世の何物にも比せないほど美しいという。

著者のエッセイのうまさというのは、よく知られているが、本書でも、

「海のおばけ」(昔読んだ絵本の主人公がいたというアメリカの水族館を訪ねて見たカミツキガメの話)
「シガコン奇譚」(昆虫オタクの集う店の話)
「先輩から後輩へ」(NHKの「ようこそ先輩」に出演したときの話。こんな先生にいてほしかったと思わせる)
「鈴木少年の大発見」(フタバスズキ竜の発見者の話)
「出題者の悪夢」(大学入試試験を作る教官の悩みの話)
「恥多き物書き」(著書における恥ずかしかった間違い)
「神隠し殺人事件の一考察」(死体の解体はとても大変、という話)

などが面白かった。
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猫を抱いて象と泳ぐ

2012年12月02日 | 本の感想
猫を抱いて象と泳ぐ(小川洋子 文芸春秋)

もう30年くらい昔のことなので、記憶が確かではないけれど、当時、(多分)新井素子さんがエッセイで“性格が暗いことのどこが悪いのか、オタク(当時はコアなSFファンを指していた)のどこが悪いのか、友達がいないことのどこが悪いのか、私はそれは誇るべき長所だと思う”といった主旨のことを書いていて、(それにぴったりとあてはまりそうな)私は妙にほっとしたことを覚えている。

そういう、クラい人が年々(少なくとも表面上)減っていて、そう人くらいしか読まないいわゆる純文学系の小説を読む人も世界的に見てもかなり少なくなっているらしい(日本以外の国ではそういう類の小説は大学の研究室の中くらいでしか読まれないとも聞く)。
小川さんの著書がそれに分類されるかはやや微妙(例の博士の本以降、人気作家になったので)だが、本書は、エンタテイメントというよりはそれに近い。

祖父母に育てられてた主人公は、生まれつき唇がくっついていて切開+移植手術を受けて唇に産毛が生えいている。チェスを覚えるがチェスが乗ったテーブルの下でしか考えることができず、心を許すのは、祖父母とチェスの師匠(廃車になったバスの中に住み、身動きもままならないほど太っている)と主人公の家と隣家のはざまにはさまれてミイラになってしまった(と主人公が想定している)少女のみ。

暗い話だよな・・・これで主人公がチェスのトーナメントとかで大活躍というのならそうでもないのだが、チェスを指すのは、チェスクラブの地下にある秘密の部屋と老人ホームのみ。

誰がこんなわけのわからない話を長時間かけて読むのか、もっと楽しいことが世の中にはあるのではないか、と思うのだけれど、暗い性格の私のような者には、暗い物語世界に親近感を覚えるのか、とても楽しく読めたのだった。
それに上記のような筋はともかく、チェスがわからなくてもチェスをとても魅力的に感じさせるのはすごいなあ、と思った。
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