蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

魔将軍

2011年01月03日 | 本の感想

魔将軍(岡田秀文 双葉文庫)

 足利幕府第6代将軍義教の生涯を描く。

5代将軍に嫡子がなく、後継者も指名しないまま亡くなってしまったので、血縁者の中からくじ引きという空前絶後の方法で6代将軍を決めることになる。
 例え先代が指名せずに死んだとしても実質的な権力者がいればくじ引きなどせずとも後継者を決めることはできたはずで、この頃の幕府は本当に有力守護の力が均衡していたことを表している。
また、くじ引きで決めたことを公けにしてしまった事自体、幕府の権威があまり高くなかったことを暴露してしまっているようにも思えるが、あるいは当時の世間ではくじの神託性が相当に高かったのかもしれない。(最近読んだ「大黒屋光太夫」の中で、難破しかけた舟を救うために船員たちが真剣に御籤に頼る場面があって、江戸時代においても神託の信頼性は相当に高かったようなので、現代から見るとばかばかしいくじでの将軍決めも、室町の人々には合理性があったのだろう)

 義教は、歴史的評価はかならずしも高くないように思えるが、関東、九州の有力勢力を押さえ込んで、将軍の常備軍を整備し中央集権を果たしたのだから、本書の評価通り、業績としてはとても大きいものがあったようだ(信長に比肩する、というのは、言いすぎだと思うが) 。
この(私にとっての)意外性が、本書の読みどころだった。

 本書は、いくつかの章で推理小説仕立ての謎解きがあるが、ちょっと中途半端な感じ。それに最大の謎解きともいえる、くじ引きの裏側、については、まあはっきりいって平凡そのもので、少々がっかりした。

コメント
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