蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

影踏み

2008年08月24日 | 本の感想
影踏み(横山秀夫 祥伝社文庫)
主人公の双子の弟は、思いを寄せていた女性が兄に好意を持っていることを知ってグレて盗みをはたらく。
将来を悲観した母親は弟を巻き込んで心中を図る。弟は死亡するが、その魂は兄の「中耳」に宿り、時々兄に話かけてくる、という設定になっている。

家族の心中事件をきっかけにして、優秀な大学生だった兄も職業的窃盗犯(夜中の寝込みを狙う「ノビ師」)になっている。この兄弟と弟がグレた原因になった女性の三人を中心にした連作集。

死んだ弟が兄の脳内で生きているとか、子どもがグレたくらいで心中しちゃう親とか、主人公の異常なまでのハードボイルドぶり(ヤクザにとっても強気なところとか)など、物語の骨格はかなり現実離れしている。
一方、事件記者だった著者らしく、警察内部の事情や、警察と職業的犯罪者との関係など、リアリティを感じさせる場面が多い。窃盗犯の手口の描写など、「もしかしてあなたやったことがあるんじゃない」と思えるほど詳細である。主人公が「足」として使うのがママチャリというのも妙に納得できた。(もっとも、こうした内容が本当にリアルなのかどうかは、私にはよくわからない)

こうしたアンバランスな基盤の上にありながら(あるいはそれゆえに)、不自然さを感じさせず、最後まで楽しめる。
コメント
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