蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

見上げれば星は天に満ちて

2008年08月17日 | 本の感想
見上げれば星は天に満ちて(浅田次郎編 文春文庫)

アンソロジー。浅田次郎さんの選ということで、読んで楽しいエンタティメント系小説が多いのかと思ったが、文学系の著者が多く、作品も多くは文学っぽくて、すらすら読めるようなものは少なかった。どれもかなり有名な作品のはずなのだが、「山月記」以外は読んだことがなく、あらためて「オレは名作のたぐいをほとんど読んでないのだな」と反省した。

森鴎外の「百物語」、山本周五郎の「ひとごろし」、井上靖の「捕陀落渡海記」がよかった。

「百物語」は選者が解説で言っているように、「絵を描くとみせて、額縁だけを描いてやろう」(この例えがなんとも、うまい)とした小説で、怪談は文中に全く登場しないのだが、そこはかとない怖さ、不気味さ、さびしさが感じられる。

「ひとごろし」は、描写が映像的で、映画を見ているような楽しさがある。

井上靖さんというと、私には教科書などでよく読まされた記憶があって、あまりいい印象を持っていなかったし、「風林火山」とかも今一つだったなあ、という印象を持っていたが、「捕陀落渡海記」は、そんなイメージをすべて払拭した。緊張感に満ちた残酷な物語だが、読後感は悪くない。
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