蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

1997年-世界を変えた金融危機

2008年08月18日 | 本の感想
1997年-世界を変えた金融危機(竹森俊平 朝日新書)

西暦の最後に「7」が付く年には、国際金融に大混乱が起きる、というのが最近30年間(1987、1997、2007)のジンクス。本書は、1997年のいわゆるアジア通貨危機の原因と影響を分析している。

サブプライム問題が本格化しかけたころに執筆されたと思われるので、2007年の危機との関連性はあまりつっこんで論じられていない。ただ、次のような指摘がなされている。
アジア通貨危機の教訓から、アジア主要国は、その後投資を控えて貯蓄(外貨準備)を増やすようになった。その貯蓄の運用先はアメリカの債券や株であり、これがアメリカ景気を支え、住宅バブルを生み、サブプライムの原因となっている、という。

本書の主題である「ナイトの不確実性」とは、確率分布を推測できることができない不確実性のこと。過去に同様の事例が少ない事象(例えば日本の巨大な政府負債)は、確率分布を推測できるだけのデータがないので、「ナイトの不確実性」である(そうでない不確実性は「リスク」)。

10年に1回起きるかどうかという国際金融の危機はたいてい、その勃発時点で「リスク」と捉えられるのか、それとも「ナイトの不確実性」なのかはわからないが、事後的にはたいて「ナイトの不確実性」に分類されることになる。
「リスク」は管理できるが「ナイトの不確実性」には(少なくとも事前の)有効な対策はないとされる。

なんとなく、危機を引き起こしてしまった政策当局の言い訳に都合の良い理屈のような気がするが、実際本書によるとグリーンスパン議長は「ナイトの不確実性」をよく引用したという。

「ナイトの不確実性」に値する危機が起こってしまった時に、では、事後的に過去の危機から学んで有効な対策を建てられたかというと、まれにうまくいくこと(LTCM危機)もあるが、大抵、失敗する。典型的な失敗例として日本の住専問題がかなり詳細に解説されている。

住専問題の国会決議で痛い目にあったことが、その後の本格的な金融危機に対応が遅れることになった原因になったのだが、本書によるとアメリカでも似たような例(1993年のメキシコ危機で政府裁量で使える為替安定化資金を使ったため、議会が激怒しこの資金を政府裁量で使えなくしてしまった。これが1997年の危機における機動的な対応を難しくしたという)があった、という。

あまり目新しい議論はないが、この手の本としては、ジャーナリスティックになりすぎず、かといって学者らしい堅苦しさもなくて、読みやすい。
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