蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

日本の歴史をよみなおす

2005年08月24日 | 本の感想
網野善彦さんが書いた「日本の歴史をよみなおす(全)」(ちくま学芸文庫)を読み終わりました。

著者の主張は、米作を中心とした農業生産により自給自足を達成しそれゆえに外界に対して閉じた環境が江戸時代までの日本社会の特色であったという通説を否定し、商工業、金融、水運といった産業も農業同様か地域によってはそれ以上に盛んであり、海外との貿易も相当に古い時代から繁栄してきた、ということだと思います。

私が興味深く感じたのは以下の2点です。

①金融の起源
米を支配者から支給され、その利息として秋に収穫した米の一部を返したのが税(年貢)の起源であるという見方です。同時にこれは金利とか融資の起源でもあり、これが本当だとすると朝廷が成立する前よりすでに金融の仕組みはあったということになります。またすでに鎌倉時代には複式簿記に匹敵するような精密な記帳経理が行われていたというのにも驚きました。
私たちの社会は、ここ100年くらいで驚異的な進歩を遂げてきたと錯覚しがちですが、社会の基礎部分というのは、はるか昔から長い時間をかけて作られるのであり、1000年ほど前の社会と今の社会も骨格においてはそれほどの差がないのではないかと、感じました。

②商工業の担い手
天皇家の雑用係みたいな役目の職業がやがて、商工業、金融業に担い手になっていたとする見方です。ある時代からこうした職業は賎しいものとされていくのですが、天皇の側近という最も聖に近い位置にあるものがもっとも汚らわしいものにある時点から一変してしまうという、ロマン小説の筋書きみたいな変遷が実際の歴史上も展開されていたかもしれないという点がユニークだと思いました。
コメント
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