蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

豚を盗む

2005年08月15日 | 本の感想
期待することと決断すること、それがギャンブルの楽しみのすべてである。当りを期待することが楽しみの半分なら、残りの半分は期待が現実になったときの、つまり当ったときの喜びではないかと人は言うかもしれない。しかしレースが終わったあと、たとえ期待が現実になっていたとしても、奇妙なことにそこにあるのは後悔だけである。二万円で買った車券が当る。すると当った人間はなぜ五万円買わなかったのかと悔やむ。五万円買っていればなぜ十万円買わなかったのかと悔やむ。必ず悔やむ。はずれていればむろん悔やむ。だから、さっき言ったようにレースそのものの中にギャンブルの楽しみはないし、レースが終わった後にあるのは後悔のみ、とすれば、ギャンブルの楽しみのすべてはレースが始まる前にしか存在しない。
(佐藤正午「象を洗う」より)

上の文章にはしびれました。ギャンブルをやり続けている人間の心持を見事なまでに言い当てています。しびれた後には、神様か悪魔に「おまえの本性はこうだろう」と指弾されたような気分になりました。

佐藤正午さんとは競輪を中心とした短編「君は誤解している」で出会い、次に「象を洗う」を読み、「永遠の1/2」「ジャンプ」「side B」も読みましたが、どうも小説よりエッセイの方が圧倒的に面白く読めました(ギャンブルが主題のものがあるせいかもしれません)。作品は長編がほとんどだけれども(エッセイを含む)短編の方がより魅力的だったようにも思いました。
「象を洗う」の続編である「豚を盗む」も出版されてすぐ買ったのですが、「面白そうな本ほど読むのが後回しになる」という癖があるので、買ってか数ヶ月後にやっと読み終わりました。1つ1つのエッセイが短編小説のようでとても楽しめました。特に「小説のヒント」がおすすめで、「十七歳」という小説もかなり出来が良かったと思います。(作者本人はあまりお気に召さなかった作品のようですが)
コメント
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