老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「東京ディストピア日記」桜庭一樹

2021-06-14 13:35:54 | 暮らし
「東京ディストピア日記」は、東京の東部下町エリア、スカイツリーが見える地域に住む著者が書いた2020年1月から2021年1月迄の記録である。

マスク不足による狂想曲、アベノマスクの醜態と、「お家でお踊ろう」の曲に合わせて首相が寛ぐ動画が招いた国民の怒り。

それらを書きながら、著者の生活も長年馴染みにしていた年老いた店主が経営する小さな喫茶店が休業し、長年執筆の場にしていた近所のホテルラウンジも居づらい雰囲気になっていく。まともな対策もしない為政者によって、東京はディストピア化され次第に街から人が消えていく。

この本の舞台になるのは、その殆どが徒歩か自転車で回れる下町。本を読んでいる私も橋のたもとに佇み、スカイツリーが見えその橋を往き来する人達を眺めているような気分になる。

著者は住居内のエレベーターで偶々咳き込む人と、二人でいる時身体の向きを変え眉をひそめる自分も、不寛容な世界の住人になりつつあるのではないかと心痛める。

この本は日々の身近な事だけでなく、世界で起きているコロナ禍についても書いてある。

オーストラリアがWHOに「コロナ発生状況の独自調査を始めたい」と表明し中国が猛反発して、トランプのアメリカが「武漢ウイルス」と表現して中国が猛反発。まるで中国もアメリカもジャイアンみたいだと。

ジャイアン同士が角突き合わせているうちに、感染は世界中に広がりつつある。

「ジャイアンにとっては国際政治で優位に立つ事、経済力を保つ事が最も優先すべきであり、それに比べれば人命なんて何万、何十万という数字に過ぎないのではないか。ジャイアン達が作るのが正史の正体とするならば、政治や戦争の時代は何時もそうだった」と述べながら、だからこそ著者は諦める事なく、たったひとつの命の絶対的価値のために芸術や哲学は必要とされているのではないかと私達に問うている。

それはコロナとディストピアに見舞われた東京という都市に生きている人間の記録であり、その時世界と日本という小さな国で何が起きて、人々はどう動いたかの記録となっている。

私達は未だディストピアの渦中にいる。心を強張らせ、他者への想像力を弱め、誰かのSOSにも余裕なく立ち去る生活を強いられている。

だからこそ著者は胸を張って、踏ん張り、強さ優しさ、たくさんの想像力を忘れず歩いて行こうと決意する。

本の終わり近くに、著者が佇む道の前を馴染みの喫茶店の老店主が「人出が戻って来たから又店を開けたよ」と自転車でサーッと駆け抜けて行く場面がある。今までは豆の販売だけをしていたのだ。

ディストピアの中でも人は生きている。

「護憲+コラム」より
パンドラ

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