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老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

フト思ったこと

2025-05-04 16:42:11 | 環境問題
半年ほど前のこと。群馬は松井田のとある市道を走行中に、60-70cm程の高さの特段に壁面を補強していない土壁が2メートルほど突然崩れるさまを目撃した。

また数日前、松井田の別の場所、そこは見上げるほど高い丘の上に民家が数軒立ち並び、すぐ裏に崖が迫るという、良く見かける補強を施していた筈の崖に、応急処理的にブルーシートが被せてあるのを見かけた。

松井田もご多分にもれず、冬の終わりから春にかけて、さして雨が降らない天気が続いているが、一旦降るとなると豪雨的な降り方になることを繰り返している。

水文気候のムチ打ち症(Climate hydrowhiplash)の典型的な情況が、注意してみるとここ安中の松井田でも起こりつつあるのではないかと見ている。

国連事務総長のグテーレスさんが、地球温暖化を通り過ぎ、今や地球沸騰化と宣言したように、気温はこれ以上高くなると引き返せないという閾値にいよいよ私たちは近づいており、気候のムチ打ち症といった気象上の症状として私たちの眼前に立ち現われていると考えるべきではないかと思っている。

崖の強度というものは、今までの気候状況のバランスの下では充分に保証されるやり方で設計され、補強されているものだろう。
しかし、地球温暖化から地球沸騰化へと移行しているという現在、今までの条件の下では保証された強度を持っていた壁が、気象状況のバランスが変わってしまった現在、ヒョットすると最早持たない状況に私たちは入り込んでしまったのではないか?
そんな状況を、ここ松井田で散見したのではないか、とも思っている。

事は、崖崩れだけの問題ではない。昨今の世界で頻発する山火事も全く同じことが根本的原因のように思える。
即ち人々は、従来のイメージと同じ思いをもって山に入り、従来と同じ行動をするものの、山林自体は今までのバランスとは違った状況になっており、充分管理下に置いた筈の行動が急速にコントロール不能の状況になってしまった結果なのではないか?

世界各地の洪水被害も今までとは次元の異なる状況の発生が今後懸念される。

しかも、このバランスの崩れは刻々とその様相を変えていくものであり、しかもその変化のスピードは刻々と上昇していくと、予測されている。

この国土のバランスの悪化、不安定さの進行は、ほっておくべきことではなく、正に(人・もの・金)をつぎ込むべき大切な事業と捉えるべきと思う。

次から次へと兆円単位のイベントを繰り返す国や自治体や国策会社の箱物事業や再開発事業の連鎖だけがクローズアップされる社会では持たない、と思う。

万博は止められず進んでしまった。JR東海のリニアも水面下で粛々と進行している。

現在のバランスに基づく机上の計算では充分安全性は保証されていると、聞けば答えるだろうリニアなど果たして、自然界のバランスが時々刻々と変化していく今後、本当に大丈夫なのだろうか。ことは、人の安全だけの問題ではない。がけ崩れに象徴される環境面の劣悪化に拍車をかける事業に彼らは手を染めてしまっているのではないかと懸念する。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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☆「gooブログ」が11月18日をもってサービスを終了するとのアナウンスがあり、「護憲+」ブログも「Hatenaブログ」に引っ越すことになり、当記事を最後に、以下引っ越し先に一本化します。
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https://rojinto-goken.hatenablog.com/
これまでの、長きにわたるご訪問有難うございました。
新しいサイトにも是非引き続きお越しください。お待ちしています。

『世の中のムチ打ち症』の悪化を憂える

2025-03-28 09:58:37 | 環境問題
ロス地域でひと月にわたる大火災があった。
UCLAのスウェイン氏は、原因に世界で進む『気候のムチ打ち症』の進行を挙げる。

昨日、ある駅前でこんな光景を見た。塾がハネ、解放された子供数人が多くの人が往来する舗道で追いかけゴッコを始めていた。お年寄りや幼児らもいる駅前の歩道での出来事。思わず連れ合いが注意をする程、危険な振る舞いに見えた。

『ムチ打ち症』には、異常な日照りと大雨が急に交代する気象だけの問題ではないと感じる。『世の中のムチ打ち症』とも言える困った症状が進み始めているのではないか?

例えばアシストされ、高速化した自転車で、時間に急かされ走り去る人々が歩道に溢れる。
上のゴッコ遊びと同じ危なさを感じる。

そして拡大する格差の放置や異常気象の進行の放置で、脆弱な人々の疲弊が一方で進む。
片や再開発と称し街に高層ビルを作り続け、それを持続可能な街作りに貢献する事業体の使命だ、と強調する企業や行政があり、多くの人々は彼らの提示する利便さや豊かさを安易に受け入れ、大都会への集中度は増し、喧騒さに輪が掛かる今の世の中。
その一方、取り残され忘れ去られる山谷がある。

今の世には、格差拡大による疲弊があり、見せかけの豊かさに安易に乗る喧騒があり、時間と管理に囚われた人々の忙しなさが舗道に溢れ、そして忘れ去られた山谷がある、という様々な極端が同居し、それぞれが進行を早めていると感じる。

『世の中にムチ打ち症』が蔓延し、世の危うさが拡大していると感じる。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

酷暑が如何に危険であるか、を説明する考え方が提供される

2025-03-20 13:15:46 | 環境問題
超加工食品の記事探しをしている際、興味ある記事を見つけたので、ここに紹介します。
「猛暑が老化スピードを加速する」事実を裏付ける考え方を提示する研究報告になります。

こまめに水分を取らないと熱中症が心配、暑さで寝不足になるのが心配、といった考えを持っていることから、猛暑・酷暑が危険であることは薄々感じていたとは思いますが、何故危険なのかの本質を上手く説明することは、結構難しかったのではないかと思います。

今回紹介する記事は、猛暑・酷暑が、事実として私たちの体に危険な刻印を押す実態を示すものであり、猛暑・酷暑の危険性の認識を更に深め、対処を自身の問題として、また家族・地域社会・国として、更に行政・政治家・政党として考る際に必要な道しるべとなる事柄を示唆してくれているものとして、非常に重要な研究だと思います。

紹介する記事は、次の2つ。詳細な訳出はせず、要点のみの紹介になります。

「喫煙が原因で実質年齢が高齢化していくのと同じように、熱暑が人びとの老齢化を促進している(原題:Heat can age you as much as smoking, a new study finds)」npr、2025年3月17日、Alejandra Borunda氏記す
「熱暑が老齢化のスピードを早める可能性がある(原題:Extreme heat may speed up aging)」 NEWS MEDICAL LIFE SCIENCES、2025年3月5日、Priyom Bose博士記す

またこれら2つの紹介記事のもととなる最近報告の学術研究は、次のものになります。

”遺伝子レベルの測定から、屋外の気温がアメリカの高齢者の生物学的年齢の老齢化を加速している(原題:Ambient outdoor heat and accelerated epigenetic aging among older adults in the US、Science Advances,vol.11,No.9,2025、Feb.26)”

1. 今回の研究の要点
研究者らは、全米各地から選んだ3600人以上の高齢者からの採取血液を分析して、それぞれの被検高齢者の『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』を算出している。
合わせて、研究者らは、血液採血前の6年間にわたり、それぞれの被験者が受けていた熱履歴を示す『暑さ指数(Heat Index)』を、『気候と天候モデル』をもとに算出し、それら得られた『各被験者の受けていた暑さ指数』と『各被験者のエピジェネティック年齢』とを付け合わせて、それらの間にある相関性を検討している。
即ち、今回、研究者らは屋外の気温と湿度とが如何に人々の生物学的な年齢に影響するかの確認を、高温に曝された人々のDNA上に起こる微小な変化の調査と付け合わせることで行ったわけである。

得られた結果は、明白であり、厳しい『暑さ指数』の地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』が、『暑さ指数』が小さい冷涼な地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』に比べて、14カ月程高齢化・老齢化が進行していることを示したという。

2.『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』とは何か?
人が持つ遺伝子DNA鎖というものは、人が齢を重ねるにつれて、DNA鎖の配列に変更はなくとも、DNA鎖のある部分に後天的に様々な修飾が起こり、そしてその修飾が蓄積されていくさまが、即ち、人が老いていく様子とプラスの比例関係になっているとされている。この修飾が年齢とともに増大していくことはごく自然なことで避けられないことであり、即ち暦の上での年齢にふさわしい老齢の兆候をごく自然に積み重ねていくのが人間だと言えよう。但し、ある人は暦の上での年齢より老けて見えたりすることがままあるのも、また反対に年より若く見えたりすることも、良くある事実でしょう。

この「暦の上での年齢」では推し量れないことがままある実質的な年齢のことを、「生物学的年齢」とも言い、また今回紹介する『エピジェネティック年齢』とも言っております。

3.『エピジェネティック年齢』の算出の方法
先に触れた修飾の仕方の一つとしてDNA鎖の構造中のシトシン部分の水素がメチル基で置き換わることに注目が集まっている。具体的には、グアニンが隣接するシトシン部位にメチル化が起こることが認められており、そしてDNAのメチル化修飾度合いが、分析機器的に技術的に定量可能となったことから、この技術を用いて研究が進められ、分析的に求めたDNAのメチル基修飾度合いの定量測定値が『生物学的年齢』『エピジェネティック年齢』と極めて良く相関することが判明したことがあり、それを利用しての老齢化や逆に若返り化に関する研究が近年盛んに行われているのであろう。

幾つか他の修飾がある中でメチル基修飾に注目が集まっている理由は、分析機器的に取り組みやすく、この分野の分析機器の開発が先行したことに原因があるのではと思います。

4.『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因ならびに懸念すべき情報
生物学的観点からみた私たちの実質年齢の高齢化・老齢化を促進する動因として熱波・熱暑が働くことは今回の研究から明らかにされたと言えます。

ここで、併せて注意すべき点として、高齢になるにつれ、老人は熱に対する防御能力が低下していくことが避けられないという事実でしょう。
即ち発汗能力の低下であり、血流の能力の低下であり、結果としての血液温度を下げるのに必要な体の表面への血液送達力の低下であり、また老齢になると服薬するある種の薬剤が人の熱耐性を妨害する等のことも要因とされている。そもそも老齢化するほど熱暑に弱い状況に老人は置かれることに留意することが重要と言える。

そして異常気象の現状はというと、例えば、猛暑で名高く熱中症や心臓疾患が頻発している米・フェニックスでは、昨年32.2℃(90度F)越えが記録となる188日に達し、その内の140日以上が37.8℃(100度F)越えとなったとされる。
また、気象評価を行っているアメリカの国立機関によると、2050年頃のアメリカでは、熱暑日の日数が更に20日から30日増大すると見積もられると報道されている。
即ち、熱中症の恐れを心配する必要のある熱暑日や熱帯夜が、更に1カ月分追加されることになるのである。

また熱暑や熱波が、高齢者の老齢化を促進するという研究結果は人々の心臓機能の老化をも促進することを意味しており、心臓疾患の悪化といった危惧すべき事態の進行が懸念される所です。しかも、危惧すべき対象となる人は、高齢者だけではなく、若い人にも同じく、熱暑・熱波は人々のDNA上に悪い刻印を押していくことになります。

ボストン大学の高齢医学者のCarrさんによると、例えば今回の研究が示す早期老齢化の状況は、認知症・糖尿病・心臓血管系疾患といった疾患の早期発症に結び付くものであり、これら発症の早期化が早く起これば起こるほど、人々の健康と仕事の生産性に影響を及ぼし、地域共同体に大きな影響を与えることになると指摘している。

『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因には、熱波や熱暑以外にも多くの要因がストレスとして働くとされ、例えばタバコの喫煙や食習慣や運動の多寡そして生活水準や教育水準、更に精神的ストレスや物理的ストレスもストレスになると指摘している。

ここで、食習慣のストレスに、超加工食品が拡大している現状も加えるべき、と考えます。
超加工食品の拡大を懸念する理由は、簡単に言えば、工業界が期待するがままに、超加工食品への依存を高めていくと、私たちの胃袋にはそもそも限界があり、拡大する超加工食品で既に満たされた私たちの胃袋には、伝統的な食べものに向ける隙間・余地が無くなっている、と表現すれば容易に理解していただけると思います。

それら伝統的な食べものに、実は健康に役立つ『良さ』があると言われているのですから。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5-1)

2025-03-12 10:22:30 | 環境問題
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5-1)
超加工食品の市場拡大とNOVA分類化。その対比を通して、私たちの食の流れを考える

超加工食品(Ultra-Processed Foods; UPFs)の話を続ける。

前回のポイントを再掲すると、
1. 「食べもの」のシステムに、「工業的生産化」を推進するという考えが急速に拡大し、その結果、超加工食品の市場規模も急拡大し、今や超加工食品は「地球ブランドの食べもの」になっている。
2. その結果、世界各国に古くから伝わる伝統的食べものは衰退している。
そして、「食べものの工業的生産化」には、工業型農業(集約的工業型畜産業も含む)がセットされており、よって「工業的生産化」の特徴として、少数の限られた栽培種(イネ・小麦・トウモロコシ・大豆・綿花等のGM種)や選ばれた動物のみが優先されることがあり、他の多くの植物種や動物種は数を減らしている。即ち「食べものの工業的生産化」の方向性は、生物多様性に多大な悪影響を及ぼしているのである。
3. 超加工食品の現在地として、米国や英国では市民の日々の摂取カロリーの50%以上が超加工食品から摂取しており、オーストラリアやフランスでも1/3以上、そしてアジア・アフリカ・ラテンアメリカでも急速に拡大している。
4. しかも、超加工食品の持つ影響力について国際間で大いに議論する流れは、今までのところ醸成されていないのである。

これから、食との付き合いの流れの一つとして超加工食品が急拡大している意味を、NOVA分類システムとの対比をもとに更に考えて見たい。

人々と「食べもの」との付き合い方やその向う先を決める「世の中のシステム」においては、複数のエンジンや複数の進路・回路が用意され、それぞれが様々に機能し、様々な方向に進んでいくことができることが望ましい「世の中のシステム」の筈なのに、一つのエンジンのみが優先され、向かう道筋も一つのみが優先され、それらが世の中を支配するまでに至ることが許容されている今の「世の中のシステム」に根本的な違和感を抱いている。

この優先され世の中を支配する唯一のエンジンを動かし、向かう先を一つのみに決めているのは、無論、現在「人・モノ・金」を抑え、世の流れを作りだす上で優先権を確保し抑えている社会の支配層であり、彼らの優越性が強くなりすぎていること、換言すればエリート層が提示する、エリート層にとっては都合のよいシステムを市民層にトップダウン的に下していく構造・システムが極端に優先されている、ということにあると思う。

世の中にあるトップダウン構造・システムが優先されていることにより起こっている超加工食品の急速拡大する構図に、彼らが意識していたかどうかは別にして、見方によっては『竿を指す』研究が2009年、ブラジルのサンパウロ大学のモンテイロ教授らにより行なわれた。彼らは、全ての食べものを彼らが設定する基準(「食べもの」を作る際、家庭では入手できない食品素材が使われているかどうかと共に、台所の調理手段とは全く異質の工業的製造手段が用いられているかどうか、をも基準の中に勘案している)の下、4つのグループに分ける試みを行った。彼らの行った分類、即ち『NOVA分類システム』を先ずは紹介する。

紹介する出典先は次になります。
『NOVA分類システムから見た超加工食品と食事の質と健康』
国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations)
原題:Ultra-processed foods, diet quality, and health using the NOVA classification system

(第一グループ:未加工の食べものと最小限に加工された食べもの)
未加工の食べもの(自然な食べもの)は、果物や葉野菜や茎・種子・根といった可食部の植物を指し、また動物由来のものとして、筋肉部や臓物や卵・ミルク等を指し、更に自然界のキノコ等の菌類や藻類・水等を指す。

最小限に加工された食べものは、上の未加工の自然な食べものを、貯蔵性を高めたり、食べる際の安全性を高めたり、より美味しく食べる目的で、以下に示す様々な方法で加工を加えたものであり、方法としては非可食部位や望ましくない部位の除去、乾燥化・押しつぶし・擂りつぶし・粉末化・部位別に分けること・濾過・蒸し焼き・燻製化・煮沸化・非アルコール型発酵・パスツール殺菌処理・冷却化や真空包装化等の加工処理が挙げられる。
ここで、未加工の食べものと最小限に加工された食べものとの区分けを厳格にする必要性はないとしている。

未加工の食べものと最小限に加工された食べもののエネルギー密度【簡単に言うと一口分の食べものが持っているカロリーの大きさ;一口分のカロリーが大きい食べものは、エネルギー密度が大きい食べものということになる、例えば油で揚げたスナック菓子や砂糖・脂肪分をふんだんに使った洋菓子等はエネルギー密度の大きい食べものの代表といえる;食べものと健康との関係性を考える際、この食べものが持っているエネルギー密度の大きさは、重要な考慮すべき因子とされている】は様々であり、脂質・炭水化物・蛋白の含量とそれらの含有割合も様々である。ビタミンやミネラル分やその他の生理活性物質についても同様である。

大まかに言うと、動物由来の食べものは種々のアミノ酸やビタミン・ミネラルの良い供給源であるが、エネルギー密度は通常高く、健康に問題のある動物性脂肪を多く持っており、そして食物繊維はほとんどないという特徴を持つ。
植物由来の食べものは、通常エネルギー密度は低く、食物繊維の良い供給源となる。そして多くが様々な微量栄養素・生理活性物質に富み、アミノ酸供給源としても良好な性質を持っている。

これらの状況は、種としての人間が雑食性の生き物として生れてきた来歴と結びつくことであり、古くから伝わる伝統的食べものが、同じような雑食性的組み合わせからなっている理由でもある。例えば穀物(grains and cereals)と豆類(legumes and pulses)との組み合わせ;根菜類(roots)と豆類の組み合わせ;穀物と野菜の組み合わせ;そしてそれら組み合わせへの適量の動物由来の食べものの追加である。

これらを主体にした食事というものが、健康な食事の基本となってきていたのであり、残していきたい考え方であり、食べ方であり、生き方である。

(第二グループ:台所向け・調理向けに加工された食品材料)
このグループには、油・バター・ラード・砂糖や塩が含まれる。
これらの食品材料は、第一グループの食べものや自然界から次に示す方法で製造されたもので、方法としては、圧縮・精製・擂りつぶし・製粉・乾燥などがある。

これら方法のあるものは、古い歴史を持つものであるが、現在では通常、家庭やレストラン等での食べものの調理に使いやすいよう、工業的に生産されている。

当然、このグループの食品材料は栄養性のバランスは欠いており、また塩を除いてエネルギー密度は高い(1g当たり砂糖4kcal、油脂類は9kcal)。
因みに、調理した豆類のエネルギー密度は、1g当たり1.3kcal程、調理した野菜は0.4kcal程である。

家庭で、レストランで、これらの食品材料を加え、第一グループの食べものを調理して、食べものが出来上がる。
多くの第二グループの食品材料は安価なことから、過剰使用に気を付けることが必要。

(第三グループ:加工した食べもの)
このグループには塩漬け調理した野菜や豆類の缶詰やビン詰、果物のシロップ詰・魚介類のオイル漬け缶詰・ハムやベーコン、パストラミやスモークした魚介類等の動物性食品・大半の焼き立てのパン製品・塩だけが加えられているシンプルなチーズ等が含まれる。

これらの加工した食べものは、第一グループの食べものに塩・油・砂糖・その他の第二グループの食品材料が加えられ作られており、これら加工処理によって作られた食べものは保存性が向上し、嗜好性も向上している。

多くの加工した食べものには、第一グループの食べものに2~3種の第二グループの食品材料が加えられており、家庭やレストランにおける食べものの中に混ぜられて食べられるのが普通で、時にそのままの形でスナックとして食べられることもある、非常に嗜好性を高めた食べものである。

第二グループの食品材料を使って第一グループの食べものを加工するやり方は、古くから自家製造されてきたものであり、今も残っているものではあるが、現在は大半が通常工業的に生産されている。

加工された食べもののエネルギー密度は、野菜缶詰を除いて多くの食べものは1g当たり1.5~2.5kcalの妥当なものもあれば、3~4kcalといった高いものもある。

(第四グループ:超加工食品”Ultra-Processed Foods; UPFs”が属する)
超加工食品(UPFs)は、大量生産を目標に、工業的手法や工程を使って調製し用意した食品素材を調合・混合・組み合わせ、工業的手法を用いて作りあげたものと規定している。

超加工食品の典型例は、炭酸入りソフトドリンク類・甘味のある油っこい袋入りスナック類や塩味袋入りスナック類・キャンディ類・大量生産した袋入りパンやバン類・クッキーやビスケット類・ペイストリー類(焼き菓子類)・ケーキ類・ケーキミックス・マーガリンやその他のスプレッド類・甘みを付けた朝食用シリアル類・フルーツヨーグルト類・エネルギードリンク・調理済み畜肉食品・チーズ・パスタやピザ・魚やチキンのナゲッツやスティック類・ソーセージ類・バーガー類・ホットドッグ等々である。換言すると、ファーストフード店やコンビニの棚で極めて良く見かける『食べものたち』だといえる。

超加工食品には、製造面の特徴、用いる食品素材の特徴、その配合・調合の仕方の特徴、そして製造する超加工食品の嗜好性UPを目指す細工上の特徴等において、以下に示す特徴があり、第1~3のグループの食べものと超加工食品とを判別する際に役立つことになる。

1. 第一グループの食べものを材料とし、それらを細分化・分画化し、糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維その他ビタミンやミネラル等の各成分に分けてそれぞれを別々に利用するという思想がある。
【家庭の台所ではあり得ない工業的製造ならではの発想である】

2. そして、第一グループの食べものも、何でも良い訳ではなく、選ばれたごく少数の作物が上記発想の分画に供せられる。ここに大きな特徴がある。
選ばれる植物性の食べものは高収量作物(多収穫性・病害虫抵抗性を持たせた所謂GM作物であるトウモロコシや小麦やコメや大豆やサトウキビ・テンサイ糖)であり、動物性の食べものは集約型工業型飼育システムで育成された家畜からのものが選ばれる。
【ここでも、台所とは異なる工業的ならではの発想があり、生物多様性の減少化の問題や多肥料・多農薬・多量用水・農地の多量占有といった問題が内在していることから、水系の劣化や富栄養化そして土壌・水系の酸性化とともに、そもそも人新世時代の望ましくないサイクルを促進する材料が一杯詰まった環境を生みだすことになる】

3. 細分された各分画食品素材(糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維・ビタミンやミネラル等)は、あるものは加水分解処理を行い、油脂類については水素添加還元処理を施し、その他化学修飾処理(澱粉の処理が典型例)を行うことも、大きな特徴である。

各種処理で得られる代表的なものに、糖類ではフラクトース・高フラクトースコーンシロップ・果汁濃縮物・転化糖・マルトデキストリン・デキストロース・ラクトース(乳糖)があり、油脂分では水素添加油脂【例えば飽和脂肪酸が一例でこれにより液状油脂を固体にしたり、油やけの心配のない油脂が提供できるという利点があり、焼き菓子等に重用されている。一方、油脂中にある全ての不飽和結合の完全水素添加を敢えて行わなかった時期には健康被害の原因となることが後に判明し使用禁止となったトランス脂肪酸がここに登場していた】やエステル交換油脂【食用油脂の融点を上げたり下げたり調整する目的で利用されているようだ】があり、蛋白では蛋白加水分解物・大豆たんぱく分画物・グルテン・カゼイン・乳性蛋白・骨から機械的に切り離された肉(mechanically separated meats)等がある。

4.そして、上記の諸作業で生産した家庭の台所では入手不可能な、各食品素材を目的性能が最大限に発揮されるよう配合し、その混合物を、例えばエクストルーダー(射出成型)処理やその他の成型加工機を使って製品を作りだしている。
【3,4共に家庭の台所では為し得ない工業的製造ならではの発想がここにもある】

5.更に大きな特徴として、商品の嗜好性や販売力を高めることを目的に、着色料やフレーバー剤やフレーバー増強剤や人工甘味料や乳化剤・増粘剤・発泡剤や消泡剤・賦形剤・炭酸化剤・ゲル化剤・つや出し剤等の食品添加物を加えることで、製造する超加工食品にお化粧を施す努力をしていることが挙げられる。加えてパッケージングも購買意欲を高める目的で工夫を凝らしていることは言うまでもない。
また、従来から言われている、嗜好性拡大のための塩分や糖分・油脂分の過剰使用による健康被害が、超加工食品の販売力の高さと相まって高まる恐れを秘めている。

6.超加工食品は、その簡便さ・利便性ならびに賞味期限の長さ、過食さえ心配な美味しさ、そして繰り返し購入が懸念される常習性といった性能をも秘めた商品と言える。
そして、これら超加工食品は、安価であり、そして至る所でもっとも購入しやすい状態で販売され、更に今風の独特の新規販売戦略も世の中に組み込まれつつあり、先に示したように、世界の各地で市場規模を急速に拡大しているのもうなずける状況がどうやら確立してきているのが、現在の世の中の大きな特徴である。
【この辺りは、非常に興味があるとともに懸念される部分でもあり、別の機会に紹介する予定です】

次に、超加工食品を他の食べものと見分ける際に役立つ情報を紹介する。

製造メーカーは、販売する商品のラベルに製造工程の情報は記載することはなく、ましてやその製造工程を採用している目的についての情報等の記載はない。このことが、時に購入時に紛らわしさ、不明確さが生れる原因となる。
無論、例えば新鮮野菜や果物・根菜類やジャガイモの様なもの、そしてパスツール殺菌処理牛乳や冷蔵販売の肉製品、さらに台所用の食用油や砂糖・塩等といったものは、明らかに超加工食品ではない。

しかし、容易に判別が付けにくいものも多くあり、例えばパン類であり、朝食向けのシリアル類である。

判別に役立つ一つに、”あらかじめ包装されている出来合いの食べもの(pre-packaged food)”やドリンク類に対し、法令で定められているラベル表示の確認を行うやり方がある。

工業的生産であるが、使用材料が小麦粉・水・塩とイーストだけから作られているパンは第三グループの加工された食べものになる。しかし、ラベル表示に乳化剤または着色剤かのいずれかが付け加わっていれば、それは超加工食品となる。

ひき割りオーツ麦(steel-cut oats)のプレーンタイプやコーンフレークのプレーンタイプや裁断された小麦(shredded wheat)は第一グループの最小限に加工した食べものになるが、同じ食べものであっても砂糖が加わっていれば、第三グループの加工された食べものとなり、さらにフレーバー剤や着色料が使われていたら超加工食品となる。

一般化すると、購入する食べものが超加工食品であるのか、異なるのかの判別は、ラベルの使用添加物に家庭の台所では見ることのない、既に上記した超加工食品向けの工業的に生産された食品材料を一つでも含んでいれば、その食べものは超加工食品とみなすことになる。

ここで、一つ注意しておく必要のある問題が、添加剤のラベル表示には、国際間で統一されていない状況があるということである。

例えば、フレーバー剤(flavours)やフレーバー増強剤(flavor enhancers)の表示については、着香剤(flavourings)や天然フレーバー(natural flavours)や人工フレーバー(artificial flavours)、更には具体的にグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)と記載されるケースもある。着色剤については、カラメル色(caramel colour)の表示もあり、乳化剤の場合には、大豆レシチン(soya lecithin as emulsifier)と記載される場合もある。
国連食糧農業機関が定期的に添加剤のリストの更新サービスを行っており、参考になる。

今回の情報はここまでとしたい。

超加工食品をめぐるMonteiro教授らのNOVA分類の動きに合わせて、超加工食品が潜在的に持っている健康への影響を調査する研究の報告例が相次ぎ出されている。

そして、超加工食品を大きな商機として拡大化を図るビジネス界の動き、殊に私たちには付いていけそうもない新たなバーチャルな広告販売戦略の動向や、Monteiro教授らのNOVA分類システムの問題点を指摘し、分類システムの改定を目指すNOVO Nordisk Foundationが資金を提供する2年をかけてのNOVA2.0の展開の動向等々、ビジネス界と学界等とのやり取りの状況の紹介は最近の重要なテーマの一つであろう。次回以降これらの紹介を展開したい。

超加工食品が大きな利益を生む商機ととらえるビジネス界のトップダウン的な上からの圧力の拡大と、結果としての超加工食品の市場の興隆を見るにつけ、これらビジネス界のエンジン推進力を、Monteiro教授らの提示したNOVA分類システムがブレーキ役として働く機能を持っていそうなことが垣間見える点が殊に興味深い。

エリート層のトップダウンの圧力が、どの分野でも幅を利かせすぎているのが、現代の特徴とすれば、これに『棹差す』動きには大いに注目したい。

山火事の頻発を目にして、参考となる考え方を提示した。
ブレーキは不充分、アクセルは踏み続ける結果、人新世時代は進み、自然界からの解答が、地球の温暖化・沸騰化の現出であり、世界は今、ある地域は異常な乾燥、別の地域は異常な豪雨。そして異常な乾燥と異常な豪雨が予測不能に急に激変する所謂「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」または「水に着目した気候のムチ打ち症(hydroclimate whiplash)」が現出していると述べた。

『人新世時代』の進行とともに発生する災厄は『人災』であり、しかもその『人災』は、『格差の拡大を不公正・不公平な形』で私たちに強いてきているのであり、その上更に、その『人災』の発生は、今までは私たちの意識の外、無縁のものと思ってきていたものが、今や私たちはその『災厄という人災』の発生が、確率の問題と考えざるを得ないまでに私たちの目の前に浮上してきているのである。

『人新世時代』の進行につれ派生して起こる『災厄という人災』は、異常気象の進行だけではないのであり、例えば超加工食品の隆盛もその一つではないか,という思いからこの話題を取り上げております。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

「孤独死の急増」そして「気候のムチ打ち症」状の進行で山火事が頻発化している

2025-02-27 16:46:17 | 環境問題
「孤独死の急増」そして「気候のムチ打ち症」状の進行で山火事が頻発化している。
次のステージへと、私たちは一段階段を登ったようだ。

一昨日、陸前高田で山火事が発生。昨日鎮火したが、隣の大船渡で別の山火事3件が昨日発生し、同地区の900世帯程2000人を超す人に避難指示が出される事態を岩手めんこいテレビが伝えている。9日間連続して乾燥注意報発令が出される中での林野火災である。

直接の火災発生の原因は今後の調査に待つことになるだろうが、現時点では、異常乾燥・強風が火災拡大の背景要因としてあげられている。そして併せて消防庁の専門家らの意見として、直接の要因となり得る原因として、火に対する住民の不注意を指摘し、基礎情報として、2023年度の林野火災1299件の出火原因を示している。それによると「焚火の不始末」が416件、「野焼きなどの火入れ」が247件、「放火と放火の疑い」が98件、「たばこの不始末」が49件、「マッチ・ライターが原因」が32件と、人の不注意等の原因が全体の65%程を占めていることを指摘している。

65%と出火原因の2/3は、確かに人の不注意・不始末が原因である。
しかし、それ以外の原因も1/3程あるのであり、今回は現在のところ余り指摘されていない要因を説明する情報を紹介したい。

2025年がスタートした直後の1月7日ごろから始まり、鎮火にほぼ月末までを要し、話題を集めたロサンジェルス地域の大規模な山火事があった。
この1月のカリフォルニアで連続した山火事を伝える情報の中で、山火事が何故起こるのかを、納得できる形で説明している考え方がその中で紹介されていた。今回はその辺りの紹介が中心になる。

1月のカリフォルニアの山火事の原因として、主に2つのことが挙げられた。
一つは今年、特に強かったSanta Anaと呼ばれる乾燥した季節風の存在であり、その結果各地の湿度は低くなっていた、という説明である。かなり説得力はある。

しかし、もっと納得できる説明が2つ目のものであり、そこで登場するのが「気候にはムチ打ち症という症状(climate whiplash)」があるという説明であり、この「気候のムチ打ち症」の症状の悪化が世界で起こっており、その結果として山火事の頻発化が世界で起こっている、とする説明である。

そして、「気候のムチ打ち症」の症状の一つが「山火事」であり、別の症状としては、これまた世界で頻発する「豪雨・豪雪・洪水・地滑りそして熱波・日照り・干ばつ化」があるという説明である。

では主に(Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日)と(LA fires show the human cost of climate-driven ‘whiplash’ between wet and dry extremes)の情報をもとに「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の説明を進めて見たい。

1. 「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」とは何か?
1月のカリフォルニアの山火事が発生する前の該当地域の状況を見ると、昨年2024年の10月以降の秋から冬にかけての今期の雨季のシーズン(南部カリフォルニアは地中海的気候の地域として知られ、通常は秋から3月当たりまでを雨季、夏場は乾季としているという)、カリフォルニア南部地域の降水量は同時期平均の10%に満たない極端に雨の少ない乾燥状況が起こり、野山の植生は異常に乾燥し火事に対して一触即発の状況が生れていたとの情報が専門家から指摘されていた。

そしてさかのぼって1年前の秋から冬の雨季のシーズンの降雨量と更にその前年の2年前の同じ雨季のシーズンの降雨量は、今期と反対に両シーズンとも、異常に雨の多いシーズンになっていた。

この前年と前々年の2つの雨季の降雨量の多さが、カリフォルニアの各地域に異常な植物の繁茂を引き起こし、結果的に山火事の際の燃料が大量に生産されてしまっていたのである。

そして2024年の10月以降から始まった今期の雨季は、異常に降雨量の少ない状況が発生しており、従って異常に繁茂した植物生態系から、同時に大地からそれらが保持していた水分が急速に奪われる状況が進行していたのである。いつ火事が起こってもおかしくない状況が生まれていたのである。

この、極端な雨季と極端な乾燥時期とが交互に交代する、しかも極端な形で突然にそして急速に交代する有り様を指して、「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」【UCLAのSwain氏は「水の循環から見た気候ムチ打ち症(hydroclimate whiplash)」との呼称を使用している】という言葉を与えているのである。

そして専門家らは、この「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の循環サイクルが、いわゆる現代の人類が引き起こしつつある「気候変動」の進展によって加速度的に拡大化を引き起こしている、と指摘しているのである。

Swain氏が使うhydroclimate whiplashという用語は、激烈な降雨の天気が続く時期と危険な乾燥・日照りの天気が続く時期という両極端な天候の時期が、丁度ブランコが揺れ動くように交代を繰り返す有り様を称して、それを引き起こす要因が、水の存在状態の急激な変化・変転に基づくこと(上空大気に水分が吸収されている有り様と、上空大気が一気に水分を吐き出す有り様)を強調するために水を意味する「HYDRO」を付け加えているのだと思う。

2.「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の原因とその症状の納得できる説明の仕方
何故、降雨量が極端化したり、乾燥状況が極端化するのかの、説明に『上空にある大気』を『スポンジ』に見立てて、その『スポンジの大きさ』に着目して、「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の原因を説明する、やり方が現在主流になっていると思う。

一般に、大気の気温が1℃上昇するにつれて、大気の吸水力と保水力は7%高まるとされている。即ち「大気のスポンジ」は7%大きくなるのである。

そして、人新世時代の気候変動が更に更にと進行するにつれて地球の気温は産業革命前に比べ既にパリ合意目標の1.5℃にほぼ到達し、何ら有効な手立てを今後も行うことに失敗すれば今世紀末までに更に気温は上昇し2.7℃からそれ以上になって行く軌道を私たちは現在辿っているとされる。

ここで問題になるのは、大気の温度の上昇につれて『大気のスポンジの大きさ』は丁度銀行預金の利子が福利で増えるように、スポンジの大きさの方は指数関数的に大きくなっていくという事実があることである。

即ち、『大気のスポンジ』は更に更にと加速度的に大きくなって行っているのが私たちの現在地であり、気候変動対策を怠ってきている人類に対する自然界の返答である。

肥大化する『大気のスポンジ』は、乾燥の時期となれば、海から・植物から・大地からすべてそこにある水分をより急速に、そしてより大量に吸収して大気中に保持する能力を高めているのであり、大地は極端な乾燥・日照り・干ばつになり、農業活動を始めとして、生命をも危険にする状況がそこに生まれるのである。

そして一旦バランスが変わり、大気がスポンジを絞るがごとくに水分を絞りだすとなれば、異常な豪雨や雷雨【大気中により多くの水分が存在する状況は、同時に大気中のエネルギーの増大に繋がり、雷雨・豪雨や台風等の極大化が説明できる】が発生することになるわけである。異常に乾燥した大地には、少しの降雨さえ吸収する力がなくなっている可能性があり、豪雨や雷雨が容易に洪水や土砂崩れに結び付くことにあるのであろう。

すべてが、人新世の進行を放置する人間の無策が原因の『大気のスポンジ』の大きさの更なる拡大が引き起こしているのだ、とする説明である。

3.「気候のムチ打ち症」の現況と予測
世界の気象状況の記録によると、20世紀半ば以降、現在までの期間に発生しているHydroclimate Whiplash事象は世界全体で31~66%増大している、という(出典:Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日 by UCLA)。

そして、研究者らは控えめに見積もっても、平均気温が産業革命前の水準を3℃上回ると今後「気候のムチ打ち症」の症例数と症状の悪化は2倍以上になるとしている(出典:Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日 by UCLA)。

また、今後「気候のムチ打ち症」の症状が、北アフリカ・中東・南アジア・北ユーラシア・熱帯太平洋・熱帯大西洋で最も増加するとの予測も出されている。しかしそれ以外の地域でも、これに類似の変化を感じることになるだろう。即ち「気候のムチ打ち症」の発症は温暖化・沸騰化を進める地球環境では、極めて普遍的なものであり、何処で起こってもおかしくないことに注意することが求められる。

実際、2023年10月から11月にアフリカ東部地域(ソマリア・エチオピア・ケニア)を豪雨が襲い、それが原因して大規模洪水が発生(100人以上の人が死亡し、70万人以上の地域住民が避難を強いられた)するという被害が起こっていたのであり、そこでも洪水発生の直前の2020年~2023年に記録的干ばつがこれら地域を襲い、地域の数百万人の住民が食料不安・食糧危機に陥っていたのである。これら地域の洪水被害で起こったその後の被害は食料不安だけではなかった。悪化した水資源の衛生環境問題で伝染病被害もそれら地域に襲いかかるという構造が脆弱な地域には合わせて起こるのである。この点は別の機会に触れることとする。

話題を変えて「高齢者の孤独死が急増している」とのニッセイ基礎研究所の調査結果の話をしてみたい。

パンドラさんの記事に触発されて、コメントを加える形で意見を既に少し述べているが、更に少々付け加える形で、この「高齢者の孤独死が急増している」という話題を考えて見たい。

報道されている事実をなぞってみると、2011年のニッセイ基礎研究所の推計によると、65才以上の孤独死が、全国で年間26821人だったという。

また、衆院決算行政監視委員会における立憲長妻議員の質問への答弁として警察庁が行った発表数値によれば、2024年1月から3月のわずか3カ月間65才以上の孤独死数が17034人だったとしている。これを単純に4倍して1年間の死者数にすると68000人の孤独死者数になる(出典:日本経済新聞2024年5月14日)。
従って、高齢者の孤独死数は、2011年に26821人、そして推定値ではあるが2024年の68000人への拡大化が、全国レベルで起こっていたことになる。

更に、東京23区に限定した高齢者の孤独死の推移データがある。
2015年に3116人、2020年に4207人となっている。

即ち、単純計算では全国レベルで253%(13年間で)へと増大、東京23区限定では135%(5年間で)へと増大していることになる。

但し高齢者の一人暮らしの人の人数も時の流れとともに、増大しており、それを織り込むことがこの手の情報を評価する際には必要となる。そこでそのデータを見て見ると

2000年(303.2万), 2010年(479.1万), 2020年(671.7万) ,2025年(予測)(815.5万)

独居老人もまた、近年急増していたのである。

バックグランドとなる独居老人数の拡大を考慮に入れて、以上のデータを使い、高齢者の孤独死の推移を再度計算してみると、
1.全国レベルでは:2011年から2024年の正味の増加率は1.58倍程となり、13年の期間で正味58%の高齢者の孤独死が増大している。
2.東京23区では:2015年から2020年の正味の増加率は1.15倍程になり、5年の期間で正味15%の高齢者の孤独死が増大している。

独居老人の増大を勘案しても、高齢者の孤独死は明らかに拡大しているのである。

その上で2024年の65歳以上の孤独死数68000人の持つ意味を更に考えて見たい。

全国の一人暮らしの老人数を2025年時点の全国の数値の815.5万人を2024年に仮に使って、65歳以上の孤独死数の割合を計算すると0.8%を超えている。
しかも年々孤独死割合が増大している状況は明らかになっているのである。

あと5年後もすれば、1%程度となることが予測される、即ち100人に1人の一人暮らしの高齢者がひっそりと亡くなる事態の到来が避けられないのである。この実態の深刻さを私たちは今後を考える上での基本的な情報と捉えておきたい、と思う。

現在を考える際に必要な基本的な情報として、一つは「気候ムチ打ち症」の進行は避けられず、世界の至る所で、可能性として洪水被害、台風被害、熱波や干ばつによる被害が拡大し世界の人々の生活基盤の根本を突き崩してしまう事態を私たちは避けられそうにない、という視点を持つことの重要性と、そして「高齢者の孤独死」という問題においても100人に一人が毎年なくなって行くことが避けられない環境に私たちは暮らしている、という視点を持つことの重要性を私たちは認識する必要がある時代を迎えていると思いたい。

極めて厳しく、悲しく、残酷な現実ではあるが、この視点を基にしての私たちの覚悟が求められていると考えたい。

先に、「人新生時代」とは、「人災」が「構造化」され、「固定化」されていく時代なのではないか、との指摘を行っている。

今の世の中を動かしているのが、極論すれば一つのエンジンのみで進行している世の中だ、との思いがある。

簡単化すれば、トップ(エリート層と称する、人・もの・金を手にする支配者層・企業家層そして官僚層)の差配するシステムのみが日本だけでなく世界でも優先されてしまう社会が盤石な状態で作りあげられ、機能しているのである。その結果として、ここに見てきたように私たちの暮らしが、私たちの命そのものが危機を迎えつつある状況に向かっているという現実がある。

パンドラさんが、指摘する『金持ちはより金持ちに、貧しい人達はより貧しく、それが、彼らが望む社会の有り様だ』の考えが、優先される世の中はやはりおかしい。

2023年にテキサスを襲った熱波で10人のテキサス人が亡くなった情報を伝えるなかで、ニューヨークタイムズの記者は、「激化する気候危機による死は、弱い立場の人たちを守ることができなかったから起こったことだ。熱中症で、低体温症で亡くなる人が増大する事態を前にして、亡くなった人を、単に暑さのせいで、寒さのせいで亡くなった、と語りたくはない。彼らは貧困のせいで、社会が彼らを見て見ぬふりをしていたせいで、そして世界が富める人々に価値を置き、貧しい人達には価値を置くことを拒んでいることのせいで、亡くなっていると語りたい」と語っている。

人新世が推進する中、私たちは次のステージへと一段階段を登ったようだ、と言えるが、しかしこの状況に何とか竿を差したいものであり、少なくとも、もう一つの別の道・レールを私たちは用意する必要があると思っている。

「気候のムチ打ち症」関連の情報は、興味深い。更に別の機会に提示したい。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5)超加工食品を『うっかり失念して』はならない

2025-02-24 11:21:46 | 環境問題
超加工食品に焦点を当てた議論を紹介する。超加工食品絡みの話題は多い。
先ずは次の情報を紹介する。

地球規模で食べ物のシステムを議論する際、超加工食品も中心に据える必要があり、地球規模の超加工食品の隆盛が生物多様性に及ぼす影響の視点からの行動が求められる
(原題:Ultra-processed foods should be central to global food system dialogue and action on biodiversity、BMJ Global Health, 2022年3月28日)

始めに、要点を纏めると、
1. 世界の食ベ物のシステムの中に「工業的生産化」を推進するという考えが急速に進展している、その結果として超加工食品が急速に隆盛している。
そして、食ベ物のシステムの工業化の推進により、生物多様性に多大な打撃が与えられている。
土地の利用実態や食ベ物の生産実態が生物多様性に及ぼす影響については、多大な注目が集まっているのに比べて、超加工食品の果たしている生物多様性への影響については、ほとんど関心が向けられていない。
2. 数えきれないほど多くのブランドの超加工食品が工業的規模で生産され流通されていることから、超加工食品は『地球規模にブランド化した食べ物』と称揚されている。
その結果、世界各地の伝統的な食べ物の栽培や生産や消費が、反対に犠牲にされつつある。これら世界各地に伝わる伝統的な食材・食べ物の多くは、新鮮であり、最小限に加工されている食べ物なのである。
3. 超加工食品は、特徴として数としては僅か数種類の高収量型作物(トウモロコシ、小麦、大豆や油糧種子;遺伝子組み換えGM作物に相当する)を材料とし、それらから単離して作られた「添加物」を使って生産される。
超加工食品に使われる動物由来の「添加物」の多くは、同じく高収量型作物由来の穀物を使った飼料(ここでもGM技術が登場する)が給餌され、閉鎖的環境の下で養育される家畜らから作られている。
従って超加工食品の隆盛には、高収量型作物の栽培がセットされており、よって化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用・灌漑という水の多使用に結び付く工業型農耕法の諸問題がついて廻るのである。
更に家畜飼育の為の飼料穀物栽培の為に、土地が過剰に開墾されるという問題をも付随することになり、また、化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用等の状況から水系の汚染や藻類の異常繁殖等の問題が発生し、土壌の劣化をも起こす条件を助長しているのである。
農業界と食品業界を覆う『工業化』一辺倒の思想を放任していて良いものかが、問われていると思う。
4. 農業の生物多様性(agrobiodiversity)の損失に及ぼす超加工食品の影響は大きいが、今までの所、世界の食料システムについてのサミットや生物多様性の総会や気候変動の総会の場で、この問題は看過されている。
かかる世界の会合において、超加工食品が抱える課題に関する議論の優先順位を高め、そしてこの課題解決の政策を合意し、その合意に沿った行動を緊急に始めることが求められる。

(序論)
地球規模化した超加工食品が、世界の国々に拡散したことで、新鮮であり、加工程度は最少の世界各地の伝統食材・食べ物が犠牲になってきている。

スーパーの棚には、僅かな種類の高収量型作物から作ったグルコースシロップやグルテンや大豆たんぱく等の「添加物」を使用し、工業生産された超加工食品のパック商品が、華々しく宣伝され陳列され販売されている。

アメリカや英国では、市民は日々摂取するカロリーの半分以上を超加工食品から摂取している状況が既に起こっている。オーストラリアやフランスでも1/3以上になっている。そしてアジア・アフリカやラテンアメリカの低所得諸国でも急速に消費が拡大している。

現在ある程度の人が、ベジタリアン志向を強め、ビーガンに向かっている。しかし全体としては、世界は動物起源の食べ物に向かっており、これら動物起源の食べ物は、少種類の穀物飼料で育った家畜を使用し、工業的手段を用い生産されているのである。

世界の食べ物事情における超加工食品への依存度の拡大は、農業の生物多様性に影響を与えている。よって世界の食料システムに関する議論や政策の決定や各国の行動計画の中に超加工食品の抱える問題点を指摘し、その課題解決を優先させていくことが求められる。

(農業の生物多様性が厳しい脅威に曝されている)
「農業の生物多様性(agrobiodiversity)」は、動物・植物および微生物の多様性及び変異性を指す言葉であり、食べ物と農業とに直接的・間接的に関係するものであり、そして私たちの食ベ物のシステムの持続可能性や強靭性に大きく関係しているのである。

「農業の生物多様性」には、収穫を目的としない種類の植物の多様性も含まれ、収穫を意図しない植物の多様性も、私たちが行う作物の耕作のうえで有用であり、農業生態系の維持・多様性の維持の点で役立つのである。
しかし、世界における農業の生物多様性は低下しており、殊に植物遺伝子の多様性が低下しているのである。

農耕が始まって以降、7000種以上の食用の植物が確認され利用されてきた。しかし2014年時点で、意味がある栽培が行われているのは200種にも満たず、しかも重量ベースでみると、全作物生産の66%以上が僅か9種類の作物で供給されている時代になっている。

人々の接食するエネルギーの90%が僅か15種類の作物からのものであり、40億人以上の人が、その15種の中の3つの作物(米・小麦・トウモロコシ)のみに依存している。
私たちの食料システムの多様性に起こっている変化が、私たちの食べ物の多様性の低下とともに、健康であり、強靭性と持続可能性も期待される昔から伝わる私たちの食ベ物のシステムを妨害し、更に、生物圏や生態環境の劣化をも引き起こしているのである。

(超加工食品の世界拡大が、農業の生物多様性に打撃を与えている)
多くが汎用品食品や化粧品にも使われる添加物(普通の家庭で通常手に入らない添加物を使って工業的に製造した食べ物が超加工食品ともされる)を用いて一連の工業的工程を経て作られる「加熱済み調合食品」や「簡単にすぐに食べられる食品」が超加工食品である。

これらには多くの種類があり、例として甘みを付けたスナック菓子や塩味のあるスナック菓子、ソフトドリンク、即席めん類、再構成され作られた畜肉食品、調理済みピザやパスタ類、包装入りパン、ビスケットや菓子類等がある。
これらの食べ物が「地球規模化した超加工食品」の主力製品であり、中流の上にある諸国から中流の下に位置する諸国にわたり、ほぼ全ての国で急速に普及している。
従って、地球規模で食事のパターンが、加工食品への依存を高め、そして食べ物の多様性は逆に減少の速度を早めているのである。

この変遷は、食料システムの工業化・食品製造技術の変化・市場の拡大を含むグローバル化・多国籍企業の政治力と生産のネットワーク化や資材調達のグローバル化等が推進されることで起こっている。

小売業部門の展開もまた、超加工食品の市場拡大と多様化に貢献しており、特にこのことは低収入諸国や中収入諸国で起こっている。

超加工食品が急拡大し、反対に新鮮で加工度の低い伝統食材が衰退していく方向性は、食べ物として利用できる食用の植物の種類の多様性が低下していくことを意味する。

超加工食品は、ごく少数の高収量型作物から作られる添加物を使って工業的に製造される。
ブラジルの主要スーパーで販売されている7020種の超加工食品に使用されている5種類の主要添加物を調査したところ、次の結果が得られている。サトウキビ由来が52.4%、牛乳由来が29.2%、小麦由来が27.7%、トウモロコシ由来が10.7%、そして大豆由来が8.3%

2019年度のオーストラリアにおける包装された食品と飲料(24229種の製品、大半が超加工食品)の調査によると、上位の添加物として、砂糖(40.7%)小麦粉(15.6%)植物油(12.8%)そして牛乳(11.0%)となっている。

従って、バランスのとれた健康的な食事に必要な多様な食べ物を、超加工食品で置き換えるということは、食べ物の多様性を損なってしまうことに繋がるのである。

農業耕作地に見られる景観の均一性・単調さという現象も、安上がりで標準化された添加物利用を推進する現在の動向を鏡映しにしている。豆類(pulses:大豆やひよこ豆等、搾油向け、飼料向けの豆類を除いた食用の豆を指す)や果物・野菜やその他の作物といった農業の生物多様性に寄与している多種類の栽培を特徴とした従来の農業生産システムが、脇に追いやられている結果が、農業耕作地に見られる景観の単調さなのである。

超加工食品の生産には、それに用いる作物穀物生産の為の大規模な耕作地の拡大が必要であり、耕作には大量の水資源やエネルギー資源・除草剤や化学肥料の大量使用が必要であり、結果として水系の富栄養化や温室効果ガスの排出量拡大や使用包装材のプラスック汚染問題も発生する。更に植物種の多様性の低下もあることから生態系の劣化や生物多様性への影響が発生することになる。

また、ホットドッグやチキンナゲッツのような再構成型畜肉製品は別種の農業の生物多様性の損失を生む。
すなわち、動物由来の添加物の生産は、家畜を狭い場所に閉じ込め、超加工食品に使用されるのと同じ種類の高収量穀物からなる飼料を与え、飼育した家畜を使って行われている。

ブラジルの研究によると、牛肉の生産には、ブラキアリア(もっとも一般的な飼料植物)、トウモロコシ、大豆、綿、ソルガム、小麦といったわずか6種類の植物からの牧草地と肥育場の飼料が使用されている。
アメリカの肥育場では、5種類の作物(トウモロコシ・ソルガム・オオムギ・エン麦・小麦)が使われている。

大規模な放牧場の土地面積が求められ、飼料向けの工業型単一穀物栽培の需要も高いことから、動物由来の食べ物の生産は、他の作物類の栽培・生産に大きな影響を与える。
例えば、ブラジルでは、2008年と2019年とを比較した場合、米や豆類といった主食になる作物向けの耕作面積は、それぞれ約43%(米)、30%(豆類)減少している。

一方で、主に家畜の飼料になる、併せて超加工食品向け材料にもなる大豆の耕作面積は、同じく2008年から2019年の間に69.9%の増大が起こっている。

ブラジルの家計調査(2017~2018年)のデータを使用して、様々な食ベ物の調達パターンが、植物種の多様性にどのような影響を与えるかを調査した結果、家庭が購入する買い物かごに超加工食品が多く含まれると、農業の生物多様性が著しく低下することが判明した(植物種の多様性を反映するシャノンエントロピーが13.8%減少;未公表データ)。

(世界的な課題に再度焦点を当てる必要がある)
食品に関わる議論やその行動において、世界に拡大する工業型食品のシステムによって破壊されつつある農業の生物多様性に関する議論に注目を当てることが必要とされる。

気候変動の政府間パネル特別排出シナリオ報告書に基づく研究によると、生態学的価値が市民や政策立案者らに重視され、適切に運用されようとも、動物性食品を含む食品の生産と消費は増加し続けることが予測されている。

現在の超加工食品に向かって拡大を続ける工業型食品のシステムというものは、拡大するにつれて利用耕作地の拡大をも推進することになり、その圧力により新鮮であり、健康的であり、そして持続可能性が期待できる従来の作物向けの耕作地は減少させられていくのである。

生物多様性喪失が前例を見ないスピードで進んでいることから、植物由来の新鮮な、加工度の低い食品を豊富に含む食生活のパターンへの再帰も迅速に行われることが望まれる。

超加工食品の人の健康に及ぼす影響に関する研究報告はかなり行われている。

しかしながら、超加工食品が及ぶす人の健康への打撃、地球環境への打撃についての人々の認知度は、依然として低いままである。
故に国際社会はこれから進むべき進路の議論の中に、超加工食品の話題を結果として欠落させてしまっており、その状況が続いている。

国連の生物多様性総会2021向けの草案には、超加工食品のことは一つも言及されておらず、生物多様性に及ぼす世界で進行中の工業型食品のシステムの問題についても言及はない。

代わりに、野生種の保存と消費の増加に焦点が当てられており、生物多様性全体に損害を与える食品の生産と消費を減らすことには焦点が当てられていない。

同様に、国連食料システムサミット行動計画2(持続可能な消費への移行)と、それに続く解決策と協調化(例として、子供と全ての人々の為の持続可能な食料システムによる健康的な食事)において、動物由来の食べ物や油脂含量の高い食べ物・塩分の高い食べ物・糖分の高い食べ物を『懸念すべき食べ物と特定』はしているものの、『食品の加工方法に関わる問題点』にはほとんど触れておらず、ましてや『超加工食品の問題や超加工食品の環境への悪影響』については、全く触れていないのである。

農業の生物多様性に及ぼす超加工食品の悪影響、および持続可能な生態系環境に及ぼす超加工食品の悪影響に関する研究はこれからも継続していくべき分野であり、政策の決定に活かしていく必要がある。

『うっかり、議論し忘れた』と葬り去ってはならない大切な議論すべき対象なのである。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

農業と食を通して世界の潮流をみる(3-4)

2025-02-20 20:59:01 | 環境問題
農業と食を通して世界の潮流をみる(3-3)において、遺伝子組み換え作物(GM作物)ならびに遺伝子編集技術(CRISPR-Cas9)を用いる育種で生まれる作物(GE作物)を期待する遺伝子技術擁護・推進側の言説(殊に精度・コスト・スピードの点を中心に)の説明ならびに、懐疑的立場からの視点をも併せて紹介した。
今回紹介の報文(『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの(原題Beyond the Genome: Genetically Modified Crops in Africa and the Implications for Genome Editing)のかなりの部分は既に紹介しております。

但し、取り上げた文献が訴えたいポイントの一つがまだ残っており、それを紹介致します。

そのポイントとは、アフリカ大陸にGE技術を成功裏に導入・定着させるために乗り越えなければならない条件についての議論になります。
では始めます。

アフリカ大陸におけるGM作物は、解決が求められる様々な課題に直面していた。ゲノム編集(GE)作物とその編集技術をアフリカ農民らに役立たせたいと考える人々にとっては、従ってGM作物が直面していた難題にからむ議論が良い教材になるのである。

かかる観点から、アフリカにおける今後のGE技術の潜在能力について考えていきたい。

1.「制度的な構造」の重要性
資金提供側(例えば各種開発銀行や慈善団体基金)が、アフリカにおける支援対象としてゲノム編集技術に注目するにつれて、誰がその技術を使うのか・どんなプロジェクトが推進されるべきか・どの地域で必要とされるか、といった重要な疑問や課題が生じてくる。

GM技術、GE技術の両方とも、研究室レベルでは誰もが自由に簡単に利用できる筈であるが、やはり実態としては、両方とも相応のインフラを用意することが必要であり、そして資金や材料の調達が求められ、しかも時間的な余裕も必要なのである。

GE技術をアフリカ大陸に今後拡げていくに際して、先行するGM技術の辿った開発の軌跡をたどり、どこでどの様な障害があったのかを確認してみることとする。

その障害のいくつかとして、計画がトップダン式であったこと、農民たちを優先するという意識の欠如と責任感の欠如があったこと、そして知的所有権が盾となり、技術利用者らの利便性が限定化されてしまったことが挙げられる。以下に詳細をしめす。

GM作物をアフリカに展開し、営業ベースに乗せるために、3つの方策が取られていた。

最も直接的なものが第一の方策であり、そこではGM種子の販売を民間会社が市場で行うというものであった。この例が南アフリカの害虫食害耐性GM綿花やGMトウモロコシである。
第二の方策は、民間企業がある特定の国の研究機関と協力し、種子の共同開発及び共同販売を行うことを目指すものである。
例えば、ブルキナファソがモンサント社と提携して、モンサント社が特許権を持つBt技術を地域の綿花に導入することを目指したものが挙げられる。
第三の方策は、最も複雑なもので、民間会社と国家の研究機関とある種中立的なアフリカ農業技術財団(AATF;African Agricultural Technology Foundation:サハラ以南の資源に乏しい小規模農家への利用性と技術を導入するための官民協力を推進する非営利の財団)という機関との間のPPPs(Public Private Partnerships:官民が互いのリスク分担を契約で取り決め、対等な立場で公共事業に取り組む事業化手法)を利用するやり方である。

ここで注目すべき方策は、後者の2つの協力型開発の例になる。即ちこれらの協力型開発では、ビル・ゲイツ氏や他の開発推進者は、これらの協力型開発によって「アフリカ農家の栄養課題、生産性課題や作物病害の課題解決が出来る」だけでなく、関係する専門科学者や育種技術者たちの「技術の交流」も期待できると主張していた。しかし、協力型開発の実態は、GM技術の擁護派らが主張していた程には単純なものではなかったのである。

一例として、ガーナとナイジェリアの科学者らや政策立案者らを対象としたアデンレ氏の調査(Adenle,2014,259)がある。それによると、「回答のあった大半は、新たな改良を施し、新品種の開発を目指す研究過程で地域の科学者らの関与は全くなかったか、あっても無視できるほどの僅かな関与しか出来なかった」というものであった。これらの不満が出てくる要因として、AATFが関与するアフリカの研究プロジェックトには多数の研究会議、資金提供者、民間主体等が関わるという多層的構造があり、従って複数の主体が関わることが原因しているとされる (Rock and Scurman, 2020)。

それと開発目標の食い違いが問題点としてある。マトケバナナのプロビタミンA(体内でビタミンAに変る)強化を目指すビル・メリンダ・ゲーツ財団が資金を提供したウガンダのプロジェクトでは、農民らの考えや希望はほとんど無視され、開発が進められた。ウガンダのバナナ農家達のGM技術への要望は、実際には害虫や病害に対する抵抗性付与にあった。栄養価の改善の要望は、優先順位の低いものであった (Schnurr et al., 2020)。
当時、資金提供者側では、栄養強化の話題が流行していた。その流行が開発の動向を決定してしまったのだ。

GM作物の流通・販売というものは、ある意味トップダウン式思想が支配していると言え、例えば、ブルキナファソや南アフリカでは、販売者または政府から提供されるGM種子には、外部投入資源が多数同時に合わせて梱包され流通していたのである (Fischer et al., 2015; Luna and Dowd-Uribe, 2020)。そして、これら外部投入資源が多数合わせて梱包されたGM種子には、複数のインセンティブというオマケがついており、農家らの使用意欲をそそる形でGM種子は提供されたのである。しかし、農家達はインセンティブ付きGM種子の採用で常に便益を受けた訳ではなかった。

問題を起こした例もあり、例えば、2000年代初頭、ブルキナファソはモンサント社と提携して、モンサント社の害虫耐性Bt遺伝子技術を地元綿花栽培品種に導入した。州が2008年にモンサント社のBt綿花を採用決定したことで、業界をあげて大量に栽培が行われることとなった(2013年時点で栽培綿花の70%がGM綿花になっていた (Dowd-Uribe and Schnurr, 2016; 164)。そしてGM綿花が従来品と比べて品質が低下するという事態が発生した。このことから、従来の綿花に戻すという結果をうんでいる。

この例も資金提供者側のトップダウン的取り組みがプログラムの内容を支配し、アフリカの農民や育種家・農学者や市民団体の関与が為されていないということの問題点を示しているといえる。

以上の例から、GM作物がアフリカ大陸で辿った軌跡の中において、開発のパートナーシップの力関係がどうであったのか、そしてその力関係の故に如何なる結果がGM作物の開発に発生していたのか、が確認できるのである。今後GE技術をアフリカ大陸に根付かせる上で、「制度上の構造」の重要性が指摘されるのである。

必要以上に複雑なパートナーシップでもって組み立てられたプロジェクトや農民たちの要望・地元が持つ意味のある経験や知識を組み込んでいないプロジェクトというものは、どのような技術であろうとプロジェクトの失敗のリスクが生れるのである。

2.独立の機関による体系的評価の欠如
GM作物が世界の最貧困農家の食料生産を増やす可能性についてこれまで多くの議論が為されてきた。インド・南アフリカやブルキナファソのGM作物を早期に導入した農家に関する報告では、大きな期待が寄せられスタートしたのである。そしてこれら早期導入者たちがGM作物を植えてから数十年が経った段階で、明確ではあるが複雑な状況が浮かび上がってきている。

最近の研究によると、事前調査、計量経済モデル、農場レベルデータではない実験的試験に基ずく調査等、様々な評価において、GM作物の利点が強調されており、それにより現実が曖昧にされる傾向があることが明らかになってきている(Schnurr and Dowd-Uribe,2021)。

また、これら評価を行う組織が、導入を目指す技術の推進側の利害関係者であるという評価方法の根本的な課題も発生しているのである。事実、アフリカ大陸全体にわたり、評価を行っている個人や諸機関の多くが評価対象の技術を宣伝し普及することにも責任を持っているという課題をアフリカの学者たちが指摘している(Schnurr,2019,198)。

ブルキナファソの前に触れたBt綿花の例が、適切な評価報告方法の重要性と、もしもその健全な評価報告がなければ発生してしまう問題を浮き彫りにしている。

即ち、2016年に政府がBt綿花栽培の中止を決断し、衝撃を与えた訳であるが、その後の調査と分析により、モンサント社とブルキナファソの科学者らが2006年時点で品質の悪さを認識し懸念していたこと、収穫量の拡大が予測された量より大幅に少なかったこと、および資金力のある裕福なブルキナファソの栽培者らはBt綿花により多くの利益を得た一方で、貧しい農家らは多くの利益を逸していたことが明らかになった、としている(Luna and Dowd-Uribe,2020,2)。

これほど多くの問題点が何故報告されなかったのであろうか。
理由の一つに、評価を行う主体へ資金を提供していたのも、研究プロセス全体に資金を提供していたのもモンサント社だったということがある。多くの研究者は、問題点の指摘を思いとどまってしまう構造になっていたのである。

そして多くの評価が平均値の使用にこだわり、「農家が提示する様々な結果に内蔵される大きな変動幅と相違点とが曖昧化されてしまう」という問題も指摘されている。
さらに、GM綿花で収穫量が拡大したとする根拠のデータは、零細農家のデータを除外し、専門家からのアドバイスを受けることが可能な裕福な農家からのデータを用いている。

Glover (2010,490)はインドにおいてもBt綿花の報告中に同様の問題点があることを報告している。即ち、インドにおけるBt綿花の報告では、「灌漑と良好な生育条件に恵まれた」農場からのデータが優先して採用されている(インドの一般的綿花栽培は雨水に依存する天水栽培が主流)。これら現実と乖離したインドでの情報を利用しアフリカ大陸にバイオテクノロジーの導入を推進しようと試みる推進派は、2021年にNature Foodの場を借りて相変わらず非現実的な根拠をもとにした主張を繰り返しているという実態があるのである。

ひも付きではない独立した研究機関の存在が求められる所である。
かかるひも付きでない研究例から出されている事実に、インドにおける17年間のBt綿花栽培の実績データとBt綿花栽培が始まる前の3年間の実績データを付け合わせ比較した研究があり、その結果は綿花収穫量の拡大はBt綿花栽培の導入の結果ではなく、同時期に起こっていた肥料の使用拡大と新しい殺虫剤の影響だとしている。そして、Bt綿花栽培の導入で期待された殺虫剤の使用量の削減は一時的なものであり、標的害虫がBt耐性を獲得していったことで、逆に使用量が増大という事態を引き起こしているとも指摘している。

『纏めとしての政策的提言』
GE技術にからむ3つの特徴(精度・コスト・スピード)をもとに推進派は、資金と情報量をバックにアフリカ大陸にGE技術の導入のレールを作り、推進しようとしている。
GE技術作物をめぐるこの新たに起こりつつある熱狂を前にして、先例となるGM作物の教訓を振り返ることが、私たちにとって役立つことを見てきた。

アフリカ大陸の小規模農家が直面する現実の課題を解決していく上でGE技術がより良く機能していくに必要と思われる4つの提言を以下に提示する。

1. 農業パートナーシップの再構成化
GM作物をアフリカ大陸に根付かせる前回の取り組みで妨害となった同じ障害物は、回避できる可能性はある。鍵となるのは、プロジェクトの始めから最後までにわたって、農民たちの要望や考えを開発プロジェクトの構想やデザイン化の中に意味あるやり方で取り入れていくことであり、開発プロジェクトの構想やデザインを作りかえることである。

アフリカのゲノム編集技術は協同して開発に取り組む形式に転換することが求められるのであり、その協同開発型の取り組みにおいては、育種の優先順位やプログラムは、アフリカの科学者らとともに技術の便益を受ける農民たちによって推進される必要がある。

かかるパートナーシップを再編成する試みで有望な一つの例が、最近の「アフリカ主導の南北植物ゲノム協力事案」であり、それはアフリカ各地に生育する植物のゲノムを染色体レベルで集積化を行う初の試みである。
このプロジェクトはアフリカの科学者らにより始められ、アフリカの農民と科学者らの優先事項が常に最優先されるように運用されており、必要に応じて科学者らは世界中にパートナーを求めることも行われている。

かかる協力関係の構築例を例外のものとするのでなく、当然のものとするには、資金提供国側の行動の変革が求められる。
即ち、資金提供国側は、提供国側が念頭に置く供給技術をトップダウン的・供給側の論理でもって支配的に導入を推進していくのではなく、ボトムアップ的・受益者側の論理が支配する開発プログラムへと移行することが必要なのである。

かかる変革をスタートさせる最初のポイントは、「ゲノム編集技術作物を用いて、アフリカの農民たちをどのように助けられるか?」という「先ず技術ありき」ではなく、むしろ最初のポイントはより開かれたものであるべきであり、例えば「アフリカの農民らの生活水準を高めていくには何が求められるのか?」という「受益者側の論理・考え方」の優先が求められるのである。
即ち、GE技術の導入についても、資金提供側は決して「質問」の前に「解答」をも事前に用意していてはいけないのである。

2.成果の評価方法
2つ目の推奨事項は、ゲノム編集技術がどのように測定され評価されるのかに関わるものである。
ゲノム編集技術作物がアフリカの農業システムと上手く同調してアフリカに導入されるようデザインしていく上には、長期にわたる定性的な成果評価方法そして併せて各学問分野が参加する学際的な成果評価方法が求められる。

GM作物の導入時には、その導入の熱意を支えた多くの研究や情報は、欠陥があったり・偏りがあったり・あるいは妥協の産物と言えるものであった。従って結果として、GM作物導入のために為された巧言や美辞麗句と、実際にGM作物を取り入れ栽培を行った農民たちが味わった現実との間には大きな隔たりが生じてしまったのである。

したがって、ゲノム編集作物を導入するに際しては、以前とは違った新しいやり方の技術評価方法がセットで提供され、実践される必要がある。その新しい技術評価方法としては、プロジェクト自体と提携関係のない社会科学者・農学者・経済学者等で構成された学際的なチームが計量経済モデルや大規模調査だけに頼ることなく、農場ベースの研究設計をも統合したものである必要がある。

そして、手入れの行き届いた実験室的なフィールド試験ではなく、対象とするアフリカの通常の圃場・農耕システムを網羅し、多数の生育期間をも意識した縦断的な分析が為される必要がある。そうすることで、研究者らは生産性の考慮を超えて、技術がより広範な社会文化的・環境的・経済的・政治的背景に適合するかどうかをより良く理解するための複雑な定性的・定量的な質問をすることができる状況が生まれるのである。

この評価の改善を求める声は、方法論的な批判に止まらない。ゲノム編集作物の成果を予測するには、基盤となる政治的・経済的関係に注意を払う必要がある。

GM作物の熱狂を煽った多くの初期のデータというものは、技術への楽観的思い入れが優先され・尊重され、様々な農家の間にある相違点(性別・階級・土地面積やその他の権力区分の違い)は過少に評価されるといった技術供給者側の思惑に沿ったプログラムを通じて生み出されたものであり、その結果、一部の農家は利益にあずかることができたが、他の多くの農民は排除されてしまった。

あるべき技術評価方法は、アフリカの農耕システムを中心に据えたうえで、新しいゲノム作物の持つ潜在能力を、様々な地域で行われる様々な農家の方式で、そして長期にわたり調査するやり方であり、それにより、ゲノム編集作物が対象となる農民らにとって有益かどうかについての正確な評価が提供されるのである。

3.誠実なブローカーへの呼びかけ(ブローカーへの更なる誠実さの要請)
3つ目の提言は、正直な仲介者、即ち遺伝子編集作物に関する利点と欠点の両方を当該技術の採用を考えている農民ら等に素直に指摘することができ、そして農民らが持っている価値観を尊重した上で、当該技術の全体像を示すことで農民たちの採用の可否の決定に協力できる専門家であるという意味での正直な仲介者の必要性に関するものです。

科学者らや政策担当者らは、GM作物に関する議論を往々にして「政治化」し「二極化」する方向に立ち働いてきているが、Stone氏(2021)は新しい農業技術というものは、そもそも様々な利害関係者に対して、様々な時間枠でプラスに働くことも、マイナスに働くこともあるとし、これら「隠された’えこひいき‘」や「隠密型支援」を科学者らや政策担当者らはやめる必要があると指摘している。

無論、仲介者というものは、社会的、政治的な条件が許す限り誠実であるものだ。
そして批判的な研究というものは、技術の中立性の誤った考えを暴露するものである。

アフリカにおける遺伝子組み換え(GM)作物をめぐる議論においては、アフリカの農業バイオテクノロジーをめぐる議論を展開する上で、誠実なブローカーを自認する一連の組織が主導していた。その中に、「コーネル大学の科学連盟」、「アフリカバイオセーフティ専門家ネットワーク」、「農業バイオテクノロジーオープンフォーラム」などがあった。
しかし、批判的な社会科学的研究により、これら誠実なブローカーと目されていた諸機関がアフリカ大陸におけるテクノロジーの普及を拡大しようとしている正にその利益団体のための広報機関として機能していたことが明らかになってきているのである。

実際、私たちの誰もが偏見から無縁の客観的な評価を新しいテクノロジーの可能性について提供できる、すなわち誰もが正直な仲介者たりえるとする考え方自体が、政治的および経済的思惑を超越して議論の枠組み作りを行える『正直な発言者』が存在する、という考えを私たち皆に納得させ押し付けるための策略的な物語・言説だといえる。このような考慮は、『正直な仲介者』が予算、助成金申請、協力者との良好な関係の維持に結びついている組織的レベルでは、さらに複雑になり、実際に不可欠になります。

全体像を見ると、アフリカのバイオセーフティ法と規制機関は新しいバイオテクノロジーを推進するための道具として位置付けられている。

アフリカの規制当局は、推進に向けた取り組みを放棄し、公益を代表して行動し、健康や環境の安全、その他の正当な社会的・開発的目標の確保に責任を負う独立した調停者としての役割を優先すべきである。

アフリカ諸国政府は、特定の技術やその応用を推進する個人や機関から独立した、規制機関を設立すべきである。政府や公共部門の機関の役割は、国家の戦略的優先事項を推進し、公共財の創出と分配を促進すること、特に貧困層や疎外された人々やコミュニティに利益をもたらすことであるべきであり、民間主体が知的所有権で守られる専有技術でもって優先的に利益を得るように配慮することだけではないのである。

全体としては、ゲノム編集をめぐる議論が活発化していることは、この新しい技術の可能性を評価する全ての人の価値観と利益を批判的に検討する機会を提供することになる。
これは、技術の採用または拒否から利益を得ようとする個人や機関の意見だけが支配的にならないように保障するために不可欠です。

4.ゲノムを超えて
4つ目の政策提言は、アフリカへのゲノム編集作物の推進を支える実験プログラムと、より広範な農業開発パラダイムの両方の規模に関するものである。

GM作物の拡大に付随して発生していた以前の熱狂の高まりと同様に、ゲノム編集作物に対する現在の熱狂は植物ゲノムの変更が生活、食糧安全保障、幸福の広範な変化を引き起こす可能性があるという考えに基づいているが、それは規制上の障壁によってGM作物がブロックされることが最小限化される場合に限られるとされている(Mudziwapasi et al.,2018; Smyth,2020)。

この簡略的枠組みに異議を唱え、それに代わって植物の育種というものは、田園地域の発展を推進する上での多くの道具・手段の中の1つだとする考え方があり、その考えに沿って政策上の変革が行われるべきだとされる。

アフリカのGM作物の前例は、ゲノムレベルの強化への投資だけでは長期的変化をもたらすのに不十分であることを示している(Dowd-Uribe and Schnurr,2016)。
資金提供者らや科学者らは、小規模農家が直面している長年の課題に対処するには、『ゲノムレベルの投資』重視から『システムレベルの投資』へとシフトすることが求められる。これには、プロジェクトの設計段階で、統合された信用、普及、市場アクセス、貯蔵、灌漑への同時投資が含まれる(Brander et al.,2021; Fischer et al., 2015)。

これに関しては、より広範な体系的問題(改良された品種が特定の農業システムに適合するかどうか、またどのようにしたら適合するか)の理解に関わる社会科学や応用フィールドサイエンスを優先することが求められ、バイオテクノロジーや植物育種の実験室的レベルのデータを優先することでもっては、このことは達成できないのである。

バイオテクノロジーや植物育種の実験室的レベルのデータを優先するのであれば、実験室、温室、または限られたフィールド試験では約束されたGM作物の有益性が、農家の畑には転嫁できなかったGM作物の過ちを繰り返すことになる。ゲノム編集作物が成功するには、その背後にある政府機関や組織は、有益なゲノム特性への彼らの投資が農家の直面する現実の状況に対して適切でありかつ有用であることが保証されるような農業および生計システムのアプローチを採用する必要がある。

結論
本稿では、社会科学者がゲノム編集に関する萌芽的な議論や学問に取り組むべきだというBartkowskiら(2018), Kuzma (2018)そして Montenegro de Wit (2020)の呼びかけを真剣に受け止めている。

このことを踏まえて、私たち自身の集積している野外実地調査・実験およびアフリカにおける過去30年間の農業バイオ技術の厳密な評価をもとに、私たちはアフリカ農業の改善におけるゲノム編集の果たす役割について現在進行形で行われている議論を評価している。

私たちはゲノム編集を取り巻く物語・言説(narratives)、殊に「精度とコスト・スピード」に関連した物語・言説が以前のGM技術の登場時に行われ、語られた物語・言説を鏡映しにしている点を指摘した。

前回のGM技術と今回のGE技術との間にある言説・物語のこの同期性・共時性(意味のある偶然の一致)というものが、アフリカにおけるGM作物を妨げた数多くの障害物の存在を冷徹に評価する上での妨げとなっている。

過去の技術革新の取り組みを妨げた落とし穴を避けるには、該当の技術が地理的場所の違いや所属する組織・機関の違いやあるいは予算の多寡に関係することなく様々な技術関係者が公正・公平に利用できるように、その技術を脱商品化する必要がある。そしてこのことができるかどうかが、未だに解決されていないのが問題なのである。

利害関係を持っている諸機関や諸組織はCRISPR関連の手段や革新化に関わる知的所有権獲得争いに躍起になっているのである。現在、これら特許の多くは教育機関によって保有されているが(Nature,2021)、このことが必ずしも研究者、製品開発者、または農家等の他のユーザーが利用しやすくなることに繋がらないのである。

ここで調査したように、多くの特許ライセンスは研究のみを対象としており、基礎研究に続く商業化の段階は対象とされてはおらず、即ち実際に利用する時点では特許所有機関・組織との交渉が求められるのである。
このような構造的な取り決めは、グローバルサウス側の労働力と知識がグローバルノース諸国の利益のために引き抜き取られるという今までに起こっていた歴史的な搾取構造を再現する恐れがある。

従って、アフリカ大陸向けのGM作物の開発時点で為された様々な作業を冷静におさらいすることが、技術推進擁護派および技術懐疑派の両方にとって良き教訓となるのである。
ここで展開した教訓としては、ゲノム編集等の新技術の擁護派は技術の過大評価を行いがちになる性向がある、という指摘である。

むしろアフリカ大陸の田園地域の発展を促進するために開発プログラムを再考したり、再設計したりする機会の醸成のために、ゲノム編集にまつわる熱狂を利用することが求められるのである。

ゲノムを超えて私たちが進んでいくには、資金提供者、政策立案者、科学者たちは農家らと協同して技術をともに開発していく必要があり、特許に縛られない素材を探索し、そして種子というものが、高度の複雑さを持つ農業生態系のシステム・耕作生産システムの中のあくまでも一つの要素だという認識を持つことが求められるのである。

そのような姿勢・考え方を持たなければ、資金がどれだけ豊富にあろうが、努力がどれほど果敢に為されようが、ゲノム編集プロジェクトは過去の過ちの轍を再度踏むという危険に陥るであろう。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

砂漠化課題に関するトップダウン的多国間協議の場の現在地、そしてボトムアップ的に市民層から提起される『植物を重視した条約(Plant Based Treaty)』運動というアイデア

2024-12-20 21:06:51 | 環境問題
地球温暖化課題解決を目指す各国政府間協議がCOPsの場で毎年開催されている。
今年度はアゼルバイジャンでのCOP29が12月初旬、先進国側から支援金を3000億ドルに増やす約束で何とか決着を見たところである。途上国側からは、不充分を指摘する声が多数出されており、不満が残る決着だったとされる。

地球温暖化の大きな側面である地球砂漠化の課題を討議する多国間協議が、12月初めの12日間を使ってサウジアラビアで開催されていた。この砂漠化課題COPは2年ごとに開催されることから今回がCOP16となっている。

11月後半の時期を使って毎年行われる多国間協議に比べて注目度合いが気になる所であり、今回のCOP16【国連砂漠化防止条約;UN Convention to Combat Desertification(UNCCD)】を紹介する記事を先ずは以下に記します。

紹介記事は3つになります。記事の重複を避ける等でかなりの編集をしています。

1. サウジアラビアで行われていた地球砂漠化に取り組む国連会合で、成果が得られず
(原題: Saudi-hosted UN talks fail to produce deal to tackle global drought)
Al Jazeera, 2024年12月14日
2. COP16が、世界の土地の4分の3は「永久的な乾燥状態」にあると警告
(原題:COP16 report warns three-quarters of global land ‘permanently drier’)
The Economic Times 2024年12月10日
3.国連COP16は地球の乾燥を抑制し、停止するのに役立つだろうか?
(原題:Can the UN COP16 summit help stop Earth’s land drying out?)
Deutsche Welle, Dec.12, 2024年、Holly Young氏記す

1.サウジアラビアで行われていた地球砂漠化に取り組む国連会合で、成果が得られず
Al Jazeera, 2024年12月14日

今後の干ばつ対策は、2年後の2026年のモンゴルで開かれるCOP17に先送りされる。

国連砂漠化防止条約(UNCCD)の締約国会議(12日間に亘り開催。COP16と呼ばれる)は、合意に至らないまま、サウジアラビアの首都リヤドで終了した。

今回の会議は、コロンビアでの生物多様性会議、韓国でのプラスチック汚染問題会議、そしてアゼルバイジャンでのCOP29という一連の多国間会合を引き継ぐ形で行われたが、残念ながら、どの会合も不満が残るものだったとされている。

国連砂漠化防止条約の締約国会議は、気候変動に関する強力な世界的義務を作りだすこと、早期警報システムを作るのに必要な資金を各国に要請すること、そして貧困諸国(特にアフリカ諸国)の強靭化に必要なインフラを構築することを目指してきている。

UNCCDのイブラヒム・ティアウ事務局長は、最善の方策の合意にはまだまだ時間が必要だと、述べている。

情報筋によると、196カ国及び欧州連合(EU)とからなる締約国は、「今後の干ばつ対策の基盤を築く上で大きな進展があり、2年後のモンゴルでのCOP17で完成することになるだろう」としている。

会議2日目に国連は報告書を提示し、その中で人が作り出す環境破壊により干ばつという事象が発生しており、世界の損害額は毎年3000億ドル以上と見積もられる、としている。
そして、2050年までに世界の人口の75%が干ばつによる影響を被ると予測している。

グローバルサウスとノースとの間に認識の違いがあることが明らかとなってきている。

COP16に参加したあるアフリカ代表は、干ばつに関して全ての政府が強力な準備と計画を策定し責任を負うという、拘束力のある議定書が合意されることが今回の会議の目標だと語り、アフリカ各国が強い統一戦線を組み議定書合意に向け、従来以上の団結を見せている、と指摘している。

一方、2名の別のCOP16参加者は、先進国側は拘束力のある議定書を望んでおらず、その代わりに「枠組み」作りを求めて争っているのが先進国側の姿勢であるとし、アフリカ諸国が不満を抱く原因だとしている。

リヤドでの会議に先立ち、UNCCDは15億haの土地が2030年末までに回復されることが必要であり、その為の資金として最低2.6兆ドルが求められるとしている。

2.COP16が、世界の土地の4分の3は「永久的な乾燥状態」にあると警告
The Economic Times 2024年12月10日

サウジアラビアで開催されている砂漠化等の課題を討議するCOP16において、国連後援の報告書が月曜日に発表され、世界の75%以上の土地が過去30年間以上にわたり「永久的な乾燥状態」にあると指摘している。

今や乾燥した大地は南極を除く陸地面積の40%程になっており、この陸地の乾燥化状況を放置すると、2100年までに50億人の人々に影響を与えることになるだろうと国連砂漠化防止条約(the United Nations Convention to Combat Desertification :UNCCD)の締約国会議は指摘している。

砂漠化からの回復が困難とされる現在の状況は「人類の生存への脅威」であり、農業活動が難しい乾燥大地や地域は、1990年から2020年の期間に430万km2(4.3億ha;地球の陸地面積は130億ha程、農耕地面積は12億ha程とされる。30年間での4.3億ha分の砂漠化拡大が如何に深刻な問題なのかは容易に理解されるだろう)分が増加している。

乾燥(Aridity:水分の慢性的な不足・欠乏状況)地域面積割合は、30年前の37.5%から40.6%へと拡大している。

報告書はまた、最も甚大な影響を受けている地域を挙げており、地球海地域・南部アフリカ・南部オーストラリアそしてアジアとラテンアメリカの幾つかの地域としている。

「日照り(droughts)」は一時的な少雨の時期を指すが、「乾燥(aridity)」は絶え間なく続く永久的な変容・変質を意味する」とUNCCDのIbrahim Thiaw事務局長は指摘する。

「より乾燥した気象状況により今や地球上の大地は影響を受けており、元に戻れない可能性がある。地球上の従来の環境を基に調和してきた生命活動が、変化して来ている環境条件に再度調和するよう再編成されることが求められている」とティアウさんは語る。

この変化は、温室効果ガスの排出による地球温暖化の影響が原因であり、降雨状況を変化させ、地表からの水分蒸発を増進させている、と報告書は指摘する。

「国連の科学者組織が地球の多くの地域の永久的な乾燥状況を生み出した原因が化石燃料の燃焼だと、警告したのは今回が初めて」とUNCCDの主席研究者のBarron Orrさんは語る。

更にこの状況は、水の利用性に対して壊滅的な影響を与える可能性があり、人間社会にとっては利用可能な水の量が危険な限界閾値に近づく恐れがあり、自然環境にとっては良質な水の量が危険な限界閾値に近づく恐れがある、とOrrさんは付け加えている。

慢性的な水不足の影響は、土壌の劣化・自然生態系の崩壊・食糧安全保障の不安定化や移住の強制化に繋がる。

乾燥地化が懸念される地域に居住する人は既に23億人に達するとされ、現在の状況が変わらなければ、最悪の場合、今後50億人が影響を受けるとされる。

この状況への対処策として、科学者らは「地域の乾燥度の状況を、既存の日照り監視システムの中に組み込むこと、土壌と水系の管理方法を改善すること、および影響に脆弱な地域を強靭化すること」を推奨している。

3.国連COP16は地球の乾燥を抑制し、停止するのに役立つだろうか?
Deutsche Welle, Dec.12, 2024年、 Holly Young氏記す

健康な土壌というものが、水と食料を私たちに与えてくれる上で重要な条件。
2週間以上に亘り多くの国がサウジアラビアに集まり、この課題に関して討議を重ねていた。

干ばつ化や大地の劣化は、私たちの生存に関わる重大な事態であり、今世紀末までに50億人に影響が出る恐れがある、とする国連の報告書が今週出された。

最早、土壌は耕作不能となり、利用できる水は減少し、生態系の崩壊が進行していることから、人々は居住する土地を追われ、移住を余議される人の数は拡大を続けている。

国連の科学者らは、地球温暖化が第一の要因として挙げられるが、それ以外の要因として森林伐採・持続可能性が疑わしい農業慣行の存在、そして厳しさが増しつつ、頻発化する干ばつ事象の存在が、大地の劣化の要因としている。

30年前に国連砂漠化防止条約(the UN Convention to Combat Desertification :UNCCD)に署名した国々が、2週間以上にわたり行動計画や干ばつ強靭化策や大地の再生を討議した。

劣化大地の再生は「達成困難な大事業」と過大に論評されることが多い難題であり、見過ごされてしまうことが多い私たちが直面する危機、と言える。

「気候変動危機や生物多様性の減少危機や環境汚染危機等に比べると、大地の劣化に関する危機意識は極めて小さいものである。しかし実態としては毎年大地の1億ha以上(全陸地の1%程)が劣化していっている」と国際的なNGO国際自然保護連合のデービッド・グッドマンさんは指摘する。

COP16の主要中心議題は、干ばつ対策に関する世界的な枠組みを構築することであり、この問題はどの国でも、どの生態系でも起こり得る課題である、と国連砂漠化防止条約機構のイブラヒム・ティアウ所長は語る。

「フィリピンで、初めてとなる干ばつが今年発生した。つまり干ばつは最早、乾燥地域だけに起こる現象ではなくなってきており、北方の森林地帯(boreal forest)の林においてさえ起こる。」

2000年以降29%の拡大が起こったとされる干ばつは、世界規模で発生する最悪の災害であり、2050年までには世界の75%の人々に悪影響が出ると予測されている。

干ばつによる災害が起こった後に事後的に対策を取るやり方から、干ばつが発生する前の干ばつ強靭化対策や危険管理対策といった、より積極的な対応策に移行する必要がある、とグッドマンさんは指摘する。

「干ばつ対策を大幅に強化する必要性についての基本的合意は各国にあるものの、どのようにして実現化していくことが、最善かに関しては合意されておらず、依然として関係各国で論争が続いている。」とグッドマンさんは語る。

アフリカの幾つかの国は、「法的拘束力を持つ」干ばつ管理『議定書』を望んでいる。しかし、行動の指針となる『枠組み』を優先し、行動の加速化を望む諸国も存在している。

EUを含む勢力は、拘束力のある行動への準備が出来ていないようだと、セネガル代表のエマニュエル・セックさんは語る。

「議定書に合意できる段階に達した、と参加諸国が声明出来る状況を、来るCOPまでに作りたいものだ」とセックさんは語る。

移住圧力と不安定化が高まっている。

今回のCOP16の討議の中心課題は、干ばつ・砂漠化や大地の劣化の拡大化により引き起こされる数百万にも及ぶ強制的に移住を迫られる人々の問題であり、結果的に起こる地域社会・国際社会の安全保障に関連する問題である。

かつて肥沃だった土地が、水が不足し、埃まみれになったことから移住をせざるを得ない状況になっている数百万人に及ぶ人々が中東やアフリカや南アジアの地域に存在しており、これからの数十年間に更にこの状況の悪化が拡大すると見られている。

例えば、1960年代以降、チャド湖は90%ほど湖の面積が縮小し、周辺地域住民の生活の術は奪われてしまい、地域社会に緊張化が高まっている、とチャドの活動家イブラヒムさんは語る。「湖の縮小により、資源は枯渇し、地域住民は水の近くの周辺に集中化してきており、紛争を引き起こすもとになっていると、イブラヒムさんは語る。

資金面の公約が提示されるものの、大きなギャップが存在している。

国連の目標(15億haの劣化土壌を2030年までに再生する)を達成するには、2030年末までの全投資額は少なくとも2.6兆ドルと見込まれている(1日当たりに換算すると毎日10億ドルに相当)、とCOP16の始めに発表された報告書は指摘する。

サミット2日目に、120億ドルの寄付が開発金融機関連合とリヤド干ばつ強靭化パートナーシップから公約された。

サミットの第2週目には、「緑の壁を目指す大運動(the Great Green Wall initiative)」の実施化のための支援金がイタリアから1100万ドルとオーストリアから360万ドルが提示された。
【 the Great Green Wall initiative:アフリカが主導する大地の緑化を推進する運動。1億haの劣化土地の再生、2.5億万トンの炭素固定化、地域社会で1000万人の雇用を創出すること、を目指す運動という】

「今年度に行われた他の多くのCOP サミットでも経験したように、持てる資源の動員・調達・移動や資金の動員・調達・移動といったことが、依然として大きな課題として残っている」とグッドマンさんは生物多様性の為のCOPサミットのことを念頭に置いて指摘している。
グッドマンさんは毎年の必要な資金を満足するためには年間2780億ドルの資金ギャップが残っているとし、やるべきことは山積している、と指摘する。

大地再生と干ばつ強靭化への資金面で、現状6%分の貢献をしている民間セクターはもっと大きな役割が期待される、と国連砂漠化防止条約機構のイブラヒム・ティアウ所長は語る。
「私たちは慈善事業の話をしているのではない。食べ物や綿花を栽培したり、鉱物資源の採掘を行う民間セクターが、彼らの土地に対し彼ら自身が投資するような話、を私たちはしているのだ」と語る。
10億haを超す土地の再生により、農業の生産性が向上することになり、それによって予測される収益の増大分は年間最大1.8兆ドルになるとされる。

サミットの最終日、グッドマンさんは気候変動と生物多様性の喪失に関する目標を達成していくには、大地および自然生態系の両方が健全であることが必須の条件であり、その為に各当事者らは、それぞれ野心的な目標を高めていくことが必要とされる、としている。

大地は劣化すると、植物や動物の生命の維持が困難になるだけでなく、土壌に閉じ込められていた炭素が大気中に放出されることになり、気候変動の要因が拡大することになる。
国連砂漠化防止条約機構が設立されて以降、50以上の国が目標を設定して、大地の再生ならびに保護活動を行ってきている。
植林・輪作・土壌の保水力の改善や有機性肥料あるいは化学合成肥料の投与は、大地を再生させるのに役立つ戦略である。

各当事者らは、2030年までに「大地劣化の中立化:land degradation neutrality」と呼ばれる「健康な土壌における正味損失ゼロ化」の達成を目標としている。
「2030年以降に対する野心的目標をも、展開していきたいものだ」とも指摘している。


以上、砂漠化防止条約の実効化を目指す今年度の国際会議(COP16)の状況を紹介する記事を見た。

近年の多国間協議の実態の特徴は、特に多国籍巨大企業が国際的課題に対する利害関係者としての地位を国連から認められ、多数の政府代表者に交じって彼らの配するロビーストをも含めた企業関係者が、協議の方向性を左右する動きをしており、国連自体もまた次々に生じる難題に直面して、巨大企業の力なしでは乗り越えることが難しいとの判断のもと企業に依存する姿勢を取っているのが、現今の多国間協議の特徴だと言える。
多国間主義(multilateralism)からマルチステークホルダー主義(multistakeholderism)への移行である。
ここで国際社会が課題解決のため多国籍企業の力に頼れば頼るほど、社会を構成する市民の課題解決への影響力は、反対に低下していくことになる。

この流れは、国際社会だけに起こっているのではなく、日本国内にも社会を支配する考え方の大きな流れを形成しており、市民が普段抱く社会の閉塞感の根本要因だと思っている。

いわゆる巨大企業が差配するトップダウン式政治経済システムのみが社会の動向を決定していくのであり、一方の市民の影響力はほぼ発揮することが期待できない出来ないシステムが出来上がっているのでは、との懸念を絶えず持っている。

今回のCOP16においても見られるグローバルサウス側の諸国が国際会議の運営や結果に不満を呈することになるのも当然であり、また一方で、閉塞感に苛まされる市民が日本に存在し続けるのも頷ける。システム上の課題が社会に存在しているからだと思う。

何をどうしたら良いか、は非常に大きな私たち市民のテーマだと思う。

一つの切り口となる考えは、巨大企業のトップダウンの力が横行する社会状況に風穴を開けるものは市民側から生れるボトムアップの力であろう。ここでもやはり、では具体的にどうしたら良いだろうか、という問題が起こると思う。

かかる市民側からのボトムアップの力が、結構容易に達成できるのではないかと感じる、そういった視点から興味深い話題を次に紹介したい。

『植物を重視する条約(Plant Based Treaty)』運動という話題で、まさに運動主体の掲げるスローガンに市民側からボトムアップ的推進が記されております。

以下の情報は、Plant Based Treatyを推進するグループのホームページから取っています。

先ずは彼らのスローガンから紹介しましょう。彼らの心意気を強く感じる宣言です。

『私たちは、国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change;UNFCCC)パリ協定(Paris Agreement)【2015年パリでのCOP21で採択された国際的枠組。産業革命前に比べて2℃以下、努力目標として1.5℃以内に抑えること。その為の目標を各国は提示し、5年ごとに進捗状況を検討し見直すこと、を掲げた国際間協定】に賛同し、同調する形で、ボトムアップから生まれる圧力を背景にして、『植物を重視する条約』を世界規模での討議課題にすべく活動する『草の根運動』の組織です。』

『化石燃料条約(Fossil Fuel Treaty)』をモデルとし、『植物を重視する条約』を推進する私たちの運動は、『私たちが現在採用する食のシステム』自体が内包している問題点を、現在の気候危機との闘いという世界規模の議論の場の最前線に置くことを目指している。
その理由は、緊急を要する現在の生態系劣化の原因が、世界を覆う『動物飼育型農業』の拡大化の動きであると考えており、より健康な・より持続可能性の高い『植物を重視した食べ物』へと私たちのシステムを移行することが望ましいと思っているからです。

次いで彼らのホームページの『私たちについて(About Us)』の部分の紹介です。

1.私たちの使命:公正であり・植物を重視した食料システムに向けての移行を推進すること。
それにより、私たちは地球閾値(シキイチ)限界内で安全な生活が確保でき、そして地球
の再森林化が可能となる。

2. 私たちの目標:「植物を重視する条約」を国連気候変動枠組条約(United Nation Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)に付け加えることが私たちの目標である。
それにより、植物を重視した食料システムに向けての私たちの移行が実現される。2番目の目標は各都市や各組織が、植物を重視した食料についての最善の実行政策を推進し、そして自然環境を再度野生化する上での最善の実行政策を推進できることになる。

3.植物を重視する条約のプログラム
3-1 植物を重視する条約を推進する支援者や支援団体・組織を統合すること
植物を重視する食生活への転換と移行を推進する上での進め方として、数百万人の支援者からボトムアップ的に発生する支援圧力(この中には著名人らや科学者・政治家らや各種団体・企業や地域共同体も含まれる)を統合し、「植物を重視する条約」が世界規模の議題となるよう各国政府に圧力をかけていく考えを持っている。

現在支援を表明している組織等の実態
34の都市 216,411人の個人 1552の組織 2080の企業

3-2 各種プレイブック等の活用
幼児教育、大学、老人ホームやアスリート向けの植物を重視した条約の最善の実践法を纏めたプレイブックを利用して、植物を重視した食べ物の選択肢と教育の拡大を目指す。
大学向けガイドには、炭素ラベル表示の推進、地球月間や肉食を避ける週間や世界ビーガンの日やVeganuary(1月をビーガンの月とするNPOの運動)等の存在をカレンダー化して周知することを目指す。

3-3 「植物を重視する条約」の地域共同体へのアプローチプログラム
私たちは、地域に密着した支援組織基盤の構築を重視しており、これら活動によって地域共同体が既に行っている気候課題対策や生物多様性課題対策や食料貧困対策の中に、「植物を重視する条約」の考え方や「食料を重視した食事システム」の考え方を広め、導入していくことを目指している。

3-4. 地球気候会議に対する提案
私たちは、国連気候変動枠組条約締約国会議(COPs)やボン気候会議や国連経済社会理事会(Economic and Social Council:ECOSOC)のSDGs協議などの世界規模の気候会議の場で、『植物を重視する食事システム』への移行課題を議題化するように支援啓発活動を行っている。私たちは、2023年12月に初の年次報告書『Safe and Just』を刊行している。

3-5 トレーニングと能力開発
私たちは、植物を重視する運動を強化し、推進するために役立つ道具作りやトレーニングや新たな支援者の募集等を行い、それらにより効果的な都市地域のチ-ム活動の立ち上げに取り組んでいる。

以上で、「植物を重視した条約」のホームページに記載の「私たちについて」部分の紹介を終わります。

『植物を重視した条約』に関する話題は他にも多く紹介されています。残りの興味ある情報は別の機会に紹介する予定です。

ここで、『植物を重視した条約』の運動を、自身の中に取り入れることは極めて容易なことを強調しておきます。

単に、肉食を止めるか、肉を食べる回数を減らせば、彼らの運動に参加したことになりますし、それをきっかけに自身の健康を食べものの視点から見つめ直すことにも繋がるという利点があります。
以前、農水省が一日豆類100gを食べましょうという運動を行っていることを紹介しております。畜肉を控えることで摂食量の低下が懸念される蛋白量は、農水省としては珍しい良き提案を取り込めば、充分確保は出来、お釣りさえ出るかもしれません。
畜肉経由という効率の悪い蛋白摂取ではなく、効率の良い直接的蛋白摂取策を、例えば豆類を食べることで私たちは実践でき、実感が出来ます。

国際間のトップダウン的方式では解決策の合意が難しく、議論がなかなか煮詰まらない国際会議の動向をしり目に、私たちは自身の食生活の見直しという簡単な行動で持って、地球環境という難題でさえも、極めて簡単に良い方向に持っていくことが可能だという、ある意味爽快感さえ覚える少なくとも閉塞感を少しは軽減できる運動を、彼らは提示していると思っております。何故なら、現在、『畜産型農業』向けの飼料耕作面積及び放牧用地・牧草用地は、世界の全農耕地面積の半分以上を占めていると言われております。彼らの運動は、必要以上に農耕地を占有している『畜産型農業』の問題点を指摘しているのであり、また良く言われる牛肉を経由して私たちが受け取る栄養分は、家畜向けの飼料(トウモロコシや大豆等)の持つ総栄養分の10分の一程という利用効率の悪さを問題にしているのです。

畜産・畜肉業界も巨大であり、トップダウン的経済政策システム作りの内側にいる組織でしょう。彼らの推奨する世界的課題の解決策作りには、『畜産型農業』を見直す・減少させるなどという考えが入り込む余地は、期待する方が無理でしょう。
市民からのボトムアップ型運動のみが、切り込んでいける運動であり、彼らの運動が求められる理由になります。

彼らのホームページには、個人なり組織なり企業や地方公共団体の参加を促す場所があり、より直接的参加も可能です。

今回はここまでとします。

「護憲+bbs」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

優遇され、優先される階層や地域の為の再開発事業。置いてきぼりの階層や地域は放置され、格差は拡大する。こんなシステムを座視していて良いか?別の道も用意すべきだろう。

2024-11-24 14:54:48 | 環境問題
再開発事業に関する記事が発表されている。
まずは、共同通信配信の記事を再録しておきたい。

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「富裕層に手厚い再開発事業の実態」---2024年11月17日(共同通信)

全国118地区で進む『市街地再開発』のうち約9割に国や自治体から補助金が投じられ、公費負担の総額が予定を含め『1兆543億円』に上ることが17日、共同通信の調査で分かった。
地方で補助金依存の傾向が強く、事業費の過半を公費に頼る例も4地区で確認された。
「タワーマンション」は全体の半数以上の66地区(19都府県)に建てられ、主に『富裕層向け』の物件が乱立する。

巨費の税金を投じる割に公共性や地域住民への恩恵が乏しいとの指摘もあり、街づくりの在り方が問われそうだ。

情報公開請求で入手した資料や自治体の開示情報を基に、29都道府県で進行中の「第1種市街地再開発事業」について2023年度末時点の資金計画を集計した。その結果、補助金が入るのは104地区で、全118地区の事業費総額8兆5218億円に占める補助金割合は12.4%だった。

補助割合は静岡県富士市の「富士駅北口第1」が57.7%で最も高く、同県沼津市の「沼津市町方町・通横町第1」が56.9%、秋田県横手市の「横手駅東口第2」が53.3%で続いた。
***

再開発事業というものが非常に気に掛かっている。

中央区で今も展開される再開発事業と称する超高層ビル群の乱立的建設問題を取り上げた情報を以前提供している(2023年3月12日2024年5月31日の「護憲+」記事)。

気に掛かっている根本は、我が国が取る政策には一面的偏りがあると感じる点です。
即ち、政策選択の際に経済成長を第一に置く姿勢は、理解できなくはないものの、選択された政策で利益を得る対象・階層・地域に優先性・一面性の点で偏りがある点です。
即ち、主な対象は都市部・市街地部であり、そこに居住するエリート層と呼ばれる階層が主に政策の恩恵を享受するのであり、利権と結び付く企業による、企業の為の政策作りになっていることが非常に気に掛かるのです。

そして、そのシステムから弾き出された階層や地域は放置され、いつまでも後回しにされる。かかる公平性・公正性を欠くシステムは当然格差拡大を助長する。

国の採用する企業に押された政策は残念ながら一面的であり、偏りがあり、公平性・公正性を欠くシステムなのだ。それが今まで続き、そして今も続いている。

この一面的であり、公平性・公正性を欠くシステムが横行する要因としては、「経済は好循環し続けることで、初めて企業と我が国は成り立つ」という信念の存在があるのだろう。

企業はその信念で計画を立て遂行しようとし、そしてその信念に押される形で政府や行政府にその信念が固着し、更に市民もその考えを是とする人々が現在は大勢を占めているのであろう。かかる状況が今までもそして現在も主流であるからして、例えば、そこまで公費を使うのは無駄だ、の声が多数寄せられても、押し切ってオリンピックや万博や神宮外苑等の誘致や再開発が結果的に推進されていく状況が我が国で横行していることが理解できるし、そして今は、公費投入は少ないだろうが開業の後には、間違いなく公費を当てにしなければ成り立たないであろうリニアの開発が粛々と進行する構図の存在も理解できる。

残念ながら、これが我が国の特徴であり、現状の姿だと思う。

現在のシステムの偏りの課題の一つは、上記の共同通信情報でも指摘されている都市部偏重の横行であり、一方で農・漁村部や林業地域を軽視している国の姿勢です。

農村部や林業地域を軽視する国の姿勢は、両業種の就労者数の推移で明白でしょう。
即ち、小規模家族農家は、1965年以前は約600万戸以上だったのが、2022年には104万人弱に低下し、食糧自給率(カロリーベース)は1965年までは70%以上だったのが2023年には38%(いずれも農水省データ)へ低下していること、そして林業分野の就労者数は1955年に51.9万人だったのが2020年には4.4万人へ(林野庁)と低下していること、そしてそれらの状況が放置されていることから明らかでしょう。

共同通信記事が紹介する政府の都市部偏重政策と、ここに示した就労者数等の推移から見た田園地域軽視の政府や企業の姿勢は明白です(スマート農業等の技術に一方的に頼り、技術革新を過大視する考えには賛成できかねております)。

またシステムの偏りの課題の別の面としては、例えば正規職の門戸は狭められ、非正規なら働けるといった人々の生活から安心感を奪うような不公平であり不公正なシステムを醸成し放置している現在の国の姿勢も挙げられる。この職の不安定化の問題の放置は、それ自体社会で暮らす人々の生活基盤を脅かし、そして例えば若者の結婚の意欲をもさえ現在は脅かし、最近の出生数の異常な低下へと結びついていると言える(2000年頃までの120万人程の出生数が2023年は73万人程へ、今年は70万人を割ると予測されている)。

職の安心・安定化という課題は非常に大きな私たちのテーマと考えております。

そして、市街地の優先、農村共同体地域の軽視という私たちが直面する課題は国内だけの問題ではないのであり、国際的にもグローバルノースとグローバルサウスの格差の問題として厳然たる状況で存在しています。

例えば現在行われているCOP29。ここ何回かの会議の推移をみれば、国際間の格差の存在や不平等性や不公正さの存在、そしてその存在の固定化は良く了解できるところです。

即ち、地球温暖化の主犯であるグローバルノース側は自国の温暖化の緩和(mitigation)や適応(adaptation)については、持てる富を使い対処する一方で、GHG排出量的には罪を問えない環境にありながら、『緩和』や『適応』に必要な資金がなく、最近の異常気象が原因で発生した『被害と損失』に対する手当もままならずに、グローバルノースの資金を当てにせざるを得ないグローバルサウスの窮状に対するノース側の姿勢に如実に表れていると感じます。

グローバルサウス側は、今回のCOP29において、温暖化の『緩和』や『適応』の行動、並びに異常気象の結果受けた『被害と損失』に対し保障や支援金を要求する権利を主張することは正当性があり、そしてその『緩和・適応』行動並びに『被害と損失』に対する保障や支援金の額が年に1.3兆ドルとの主張にも妥当性があると言われています。

この正当性・妥当性のあるサウス側の要求に対して、ノース側は15年前に年間1000億ドルの支援を約束していたが、ノース側は様々な条件をその都度付けては不充分にしか対応して来なかった歴史がある。

11月22日が最終日だったCOP29。延長した23日の土曜日になっても双方折り合いがついていない状況のようだ。

サウス側の求める毎年1.3兆ドルの資金提供の要求に対して、ノース側は年間2500億ドルまで資金提供額を上げて提示しているが、金額面の隔たりだけでなく、それ以外にもサウス側は問題にしていることがあり、一つは支援の内実が結局はサウス側に借金の形を背負わせるものではないのか、もう一点はサウス側の声を聞くことさえ充分に行おうとしないノース側のロビイスト攻勢であり、数と力に物を言わせた強引であり、傲慢なノース側の姿勢にサウス側は不満を溜めていると言われている。

今回のCOP29の最終文書成立は、かかる状況と従来からのノース優先サウス置き去りの会議の進め方の問題からサウス側は一部に現在も全面拒否の姿勢が残り難航しているという。

【24日10時のCNNニュースで、2035年までに年間3000億ドルへ支援金を増額する案で合意に達した模様。合意内容に但し書き等があるのではないかと思われるが、注視していきたい】

かかるごとく、国際間に置いても不公平不公正な格差の存続と放置を目論む動きや、いわゆるステークホルダーが有利となるルールの存続を目論む動きが存在し放置されようとしているのが、世界の動向と言えるのである。

かかる国内外の状況を見るにつけ、国内のシステムや国際間のシステムには一面性といった偏りがある点が問題であり、それらを是正していくことは、非常に大切な私たちの努力目標と考えております。

従って、私たち市民のものの見方・判断の仕方を多面化する試みは重要であり、それに役立つ情報の提供は有効な手段であると考えております。

そこで今回は目についた次の2つの情報を先ずは提供します。

***
1.世の中には公平性が欠けているという1つの例が、危機にあるザンビアのダムである
(原題:Zambia’s Kariba Dam crisis is one of inequality)
AlJazeera Nov.16,2024 Harry Verhoeven氏記す

ザンビアや他のアフリカ諸国政府は、都市部の共同体を重視し、田園・農村地域の共同体は軽視する姿勢を、長期にわたり取り続けてきている。

アゼルバイジャン・バクーで、国連気候変動会議COP29が開催されている。
気候変動対策に向けての資金面の交渉動向に行き詰まり感が出るなか、アフリカ南部の国々では、ある種の「再生可能エネルギー」が気候変動時代では結局のところ「再生可能なエネルギー源」たりえないのではないかという 懸念が出始めている。

ザンビアとジンバビエは、今年ひどい日照り・旱魃に見舞われ、その結果農作物の収穫に壊滅的な被害が発生し、地域を流れるザンベジ川の水量が記録的に低下している。

カリバ-ダムがザンベジ川で稼働しており、数十年間、ザンビアとジンバビエに大量の電力を供給しているが、今年9月のザンビア当局の発表では、極端な水位の低下が起こり、6基の発電タービンの内、運転可能なタービンは1基のみになっているとしている。

都市部全域で時に数日にわたり電力供給停止が起こり、最近では散発的な電力供給が常態となっている。ダム水を湛える世界最大規模のカリバ湖の水はザンビアとジンバブエの人々の生活用水でもあり、史上最低の降雨量を記録した2022年を筆頭に近年の降雨量不足は、電力をカリバ-ダムに依存する大半の都市部住民の生活に打撃を与えている。

農村地域も同様に降雨量の激減に打撃を受けている。ザンビアではここ40年以上にわたり耕作時期に厳しい日照り・降雨不足が発生しており、その降雨不足に苦しむ地域が、トウモロコシ年間供給量の半分を生産している地域であり、また家畜の4分の3以上が飼育されている地域なのである。
従って、農作物の収穫不足や家畜の損失が食品のインフレ悪化に影響を及ぼしている。

UNICEFの報告によると、5万人以上の5才以下のザンビアの子供が栄養失調の最もひどい症状である消耗症(wasting)の症状を呈しているという。またザンビアは、2万件を超すコレラ流行と戦っており、ザンビアは水不足・エネルギー不足・食糧不足の3重苦に見舞われている。

『多くの人々は、これら3重苦の災厄の原因が気候変動だとしている』

『しかし、これら災厄の第一の要因は気候変動ではないのである。
即ち、既に別の要因が原因して生じていたこれらの災厄を、気候変動という要因が更に悪化させる方向に働いているというのが、真の姿なのである』

3重苦の災厄の直接のそして根本の要因として問題にすべきは、以下に示す相互に関連し合っている『政府が採用してきた2つの政策』なのである。

『真の要因の第一は、政府が進める開発事業において、都市部共同体の開発を優先する政府の姿勢が問題であり、一方田園・農村地域共同体の開発は軽視されているのである』

ザンビアのジニ計数(社会の収入格差・不平等性を示す指数。0から1の間の指数で1に近いほど収入格差・不平等性は大きい)は高く、世界最高レベルの国々の中の一つに数えられている。

そして都市部の労働者は定期的な収入を得ることが容易であるのに対して、人数的に多い田園地域の小規模自営農家らは収入の最も低い階層を構成しており、しかも彼らは予測困難な気候変動の悪影響を最も受けている階層でもある。

ここで富裕層と貧困層との間を隔てている大きな溝というものは、単にたまたま出来上がったものではないのであり、ある意図を持ちデザインされた状況の結果出来上がった溝だと言える。

例えばここ数十年間行われた租税の改革では、都市部居住の富裕なエリート層や田園地域の大地主層は優遇されており、一方自給自足型農家や農業関連で雇用されている従業員層は後回しにされているのである。

その結果、都市部に住むザンビアの子供達は適切な食事・きれいな水そして電気とトイレの環境に恵まれる一方で、農村地域で暮らす子供達はこれらのサービスが得られないことから、農村地域では年間15000人程の子供達が下痢等の回避可能な疾病が原因して命を落としている。ここ数十年にわたり、アフリカの中でも最も多くの栄養失調者及び発育不全者を出しているのがザンビアなのである。

この状況を生んでいる要因が、ザンビア政府の採用してきている都市部偏重の政策であり、予算配分なのである。

『第2の要因は、多くのアフリカの政府の採用する水力発電への継続的傾倒の姿勢である』

この水力発電への傾倒の姿勢というものは植民地時代の遺産であり、この傾倒姿勢は独立後も熱心に引き継がれているのである。

2011年以降カリバ-ダムが水不足からフル稼働が出来ない状況が続くにも関わらず、ここ20年以上にわたり、数十億ドルの資金がガーナ・リベリア・ルワンダ・タンザニア・エチオピア等の国々でダム建設やダム改修のために費やされている。

「ダムの効能の分配が中立的でない点は強調する必要がある」

ダムは農村部に作られるが、ダムの効能の主な受益者は通常別の地域に居住しており、それら主な受益者というものは、政府にとって重要な都市部の選挙区住民であり、鉱業事業関係者や各種利益団体等々なのである。
ダムの生み出す信頼性が高く手ごろな価格の電力は彼らエリート層に主に提供されている。

一方、ダム周辺の人々や生態系は、往々にして被害を被るだけの存在なのである。
カリバ-ダムは1955年から1959年にかけて英国の植民地政策の中で、環境アセスメントを行うことなく建設され、建設地域にいた数万人に及ぶトンガ-ゴバ族の人々を強制的に移住させたのである。そして移住に関わる約束事や移住先の話等々は破られ続けてきていた。

ザンビア政府は永年カリバ-ダムをザンビア並びにアフリカ南部地域の連帯の象徴として称揚してきているのが、ザンビアの農村部の9割の住民は電力供給を受けておらず、ダムの恩恵を享受できていない。

水・エネルギー・食糧システムの同時的危機は、ザンビアと共に他の多くのアフリカ諸国において、早急に根本的な解決策を打ち出す必要がある。

そして借金返済や緊縮財政の矢面に農村部住民を立たせるべきではなく、気候の混乱や経済不況に対して自力で対応・対処することを農村部住民に強いるべきではないのである。

農村部住民や農村共同体に対し、水・エネルギー・食糧に確実かつ適切・手ごろにアクセス利用できるよう必要な政治的意思と配慮及び予算建てを政府は用意する必要がある。

最近の日照り・水不足によって生じている停電や農作物の不作という事象は、これまで政府が採用してきた都市部共同体の偏重や巨大ダム偏重の姿勢が生み出している社会の不公平性の存在に原因があり、社会のリスクが際立ってきているのである。

よって従来とは異なる道を採用し、踏み出していかない限りは、悪化していく厄災から我々は逃れられないだろう。

***
2.より公正な世界を作るために、G20が主導する時期に来ている
(原題:It’s time for G20 to take the initiative to help build a fairer world)
Al Jazeera、2024、Nov. 18 Fahrettin Altun氏記す

国際間に介在するシステムが危機にある。
私達が暮らす今の世界は、危機が連鎖して襲いかかる状況の中にいる。

食料不足・日照り・市街地を襲う戦争や集団虐殺といった危機が世界の多くの地域で頻繁に起こり、私達の「人間らしさ」に暗雲を投げかけている。

そして世界を変革する可能性のある新たな技術やシステム(例えば革新情報システムや武器、AI技術や暗号技術による仮想通貨)の主導権争いを制するのは誰だ、といった競争が加速していることも、我々の希求する「集団的幸福」に新しい脅威を投げかけている。

世界の協調を推進し、経済の成長を生み出し、国際間紛争を抑制し、世界の安定と平等と公正性を保証するため、我々は第2次世界大戦後に「規則に基づく国際間秩序」の構築を打ち出しているが、我々が直面する様々であり複雑な現今の難題に対して、この規則・システムを用いて最適な対応策を編み出すことに我々は現在苦闘をしており、これら危機を抑止するには力不足だと感じているのである。

『少数の強力な国家群及び利益団体にのみ利益をもたらし、市民大衆には大惨事を与える状況が、世界秩序の新たな常態になってきている』
それ故に、現在我々は直面する社会の諸課題への対応策・解決策を生み出すシステムを包括的に改革することが、我々の義務として求められていると言える。

『私達にはより公平な、より安定な、より公正な世界秩序が必要なのである』

今日、確立された国際間の核心システムにおける規律や規範や価値観を踏みつぶす行動を、ある種の国家が行っており、そして、それらの国は彼らの行動がどのような影響を世界に与えるかについてほとんど注意を払っていないように見える。

レバノンやパレスチナに対するイスラエルの現在の行動が、かかる甚だしい国際間の規律違反の例としてあげられる。地域の平和や世界の安定を達成するためにはイスラエルの行動は止める必要がある。

しかし国際間のシステムに対し不当な権力を持つごく少数の、即ち「超大国」と呼ばれる国々は、イスラエルを保護する行動を取っており、イスラエルは罰せられることなく行動を遂行している。この結果我々の現在のシステムは、今やその核心的目標を果たすことが出来ない状況に陥っている。

超大国はこの4半世紀にわたり偽善的で、差別的で紛争を助長する行動を取ってきている。
従って戦後構築してきた国際間秩序における主導的役割を超大国が担うことが可能だという根拠の正当性は、失われていると言える。

よって利己的な超大国がこれまでに形作り、そして取り仕切ってきたシステムではなく、世界の大多数の国々が形作り、そして取り仕切る新しいシステムが必要なのである。

開発が既に進んでいる国と発展途上の国からなる19カ国そして欧州連合とアフリカ連合を加えたG20には、より安定的な国際間の金融システムの基盤を作る上で充分な潜在能力がある。

このG20の年次サミットが、より公正なそしてより持続可能な世界の構築を目標に月曜日からブラジルで始まった。

第一にG20が取り組むべき目標は、現在不利な立場にある組織や諸国を支援する公平公正な世界メカニズムを確立することである。

G20に集まる多くの新興発展国の役割は、世界経済の一極化を目指す大国の影響力を弱めバランスを取ることであり、より公平な経済的配分を保証する影響力を果たすことである。

今回のG20は、気候変動やAIのような今後の世界経済を形作る可能性のある共通の課題に対する共通政策を確立していく機会でもある。

我々が今後向かうであろうシステムには2つがあり、1つは限られた数の強大な力を持つ国々がその有する特権を維持し、世界のその他多くの弱小国を危機の混乱の中に閉じ込め続けるシステムであり、もう一つは世界資源が公平・公正に世界に分配され、相互間に利益のある福祉のシステムや開発のシステムが確立されるシステムである。

G20参加国は、また現在の国際間システムにおける危機を悪化させている「信頼感の危機」に目を向ける必要がある。今日、「人間らしさの未来像」は次から次に出る革新技術、殊に通信技術の革新化、に翻弄されている。インターネットやソーシァルメディアの時代になり、オンライン上におけるプライバシー侵害問題やデータの安全性の問題やサイバー攻撃問題・情報戦争や心理戦争等の要素をも抱え込んだ現在の戦争形態の問題そしてデジタルファシズムの問題といった新たな課題が我々の眼前に立ち現われてきており、取り組むべき政治的経済的課題を複雑化深刻化させている。

デジタル革新技術が投げかける課題に対する、有効な政策的・戦略的対応策や倫理的規範の確立ということに関しては、私達は今までの所、対応が出来ているとは言えない。

多くのデジタル革新技術というものは、悪意のある組織の手に利用されると大衆を操作する武器にもなるものであり、最近の数年間我々は、これらの技術が間違った情報を流布したり、集団殺略といった戦争犯罪を封印するのに使われているのを目撃しているのである。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える

2024-10-14 20:33:39 | 環境問題
今回は、世界の農業が取り組む必要があるにも拘らずに、なおざりにされがちな土壌の健全性に係る問題を取り上げてみます。
2つの情報になります。

一つは、地域共同体の農民らからのボトムアップで提示されている肥料に係る情報であり、殊に典型的な有機肥料の一つ『ボカシ』にスポットライトをあてた情報です。
もう一つは、開発銀行や基金、欧州のいくつかの国、慈善団体等の外部機関・組織がアフリカ諸国とアフリカ連合を糾合する形で、トップダウン型でアフリカの肥料政策を決めていく状況に関する情報になります。

ここで、アフリカの農業に対する支援資金の大半は後者のトップダウン型システム内で使われており、前者のボトムアップ型システム(このボカシの普及だけの問題ではない)には資金的な支援はほとんど廻っていない、という状況の認識が非常に大切なことになる点を強調しておきます。

肥料の問題も、多方面にわたります。『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える』の表題で興味ある続きを展開したいと思っております。では始めます。

有機肥料として知られる「ボカシ」が、ケニア農民らが行う土壌の再生に役だっている
(原題:For Kenyan farmers, organic fertilizer bokashi brings the land back to life
Mongabay, 2021,November 16 Isaiah Esipisu氏記す

(要約)
・ケニアの乾燥したTharakaNithi郡に暮らす農民らは、「ボカシ」と称する有機肥料を使用することで新鮮野菜を育てている。
・農作地で発生する廃棄物の混合物から作ることができる「ボカシ」は、土壌に加えると栄養分と微生物叢との両方を土壌に供給することになる。一方、従来の合成肥料は、即効的に働く栄養成分は提供するが、投入した量の半分も利用されずに、作物に利用されなかった大半は流出し水系等環境劣化の原因を作り、そして従来の合成化学肥料は土壌の微生物叢を供給する能力もない。
・「ボカシ」を利用する耕作法は、「資源に着目する開発運動ケニア(the Resources Oriented Development Initiative Kenya, RODI Kenya)」から支援を受ける小規模農家らが共有しているアグロエコロジー技術の数多くの中の一つである。
・最初に施用する「ボカシ」のコストは多くの小規模農家にとって高額であるというハードルの存在が指摘されるが、次年度以降の施用コストは徐々に低下していくことと、併せて利用する農家に対しては「ボカシ」を購入するのでなく、自身で作ることを推奨しており、「ボカシ」採用を推進する運動のハードル低減化に努めている。

Karungaru,Kenya---ケニア西部TharakaNithi郡Karungaru村は非常に乾燥した土地柄であるが、そこに住むPeninah Muthoniさんは、そんな環境の中でアマランスやホウレンソウ等の野菜を栽培している。それが可能となっている理由は、農業生態学(アグロエコロジー)に適った技術を彼女が取り入れていることであり、ケニア各地の彼女以外の数百名の農民も同じように新鮮野菜の栽培を行っている。
「ボカシ」のお陰で土壌の栄養状態は既に良くなっているから、今行う必要のあることは土壌水分を保持するためのカバー作物の手入れと時々行う作物への水やりになる」と彼女は語る。

Muthoniさんは、2019年RODIケニアが主催するワークショップに参加して教わった多くの技術を自宅周辺にある3か所の菜園で実践している。Sack gardens(土を入れた麻袋を利用する野菜栽培法。一袋あたり約0.35平米の面積で毎日5リットルの水やりが必要であり、通常の畑4.4平米と同等の収穫量が期待できる), 洗面台に似たへこみの有る鉢を利用する耕作法(sunken basins), そして3か所目の 「ボカシ作り」の場を組み合わせて、Muthoniさんは3人の実子と11人の養子を養うのに必要な量以上の野菜を育てている。

彼女の農作業においては、鍵となるのは肥料である。ケニア農業家畜業研究機関の代表的な研究者であるPatrick Gicheruさんによれば、ケニア各地の農民らは重要な栄養素の幾つかを欠く土壌を利用して耕作を続けている。

Gicheruさんが行ったケニア各地の調査の結果、驚きと共に分かった点は、予想していた土壌の酸性化による農業生産性の悪化ではなく、土壌中の亜鉛(Zn)とカリ(K)が決定的に不足していたということの発見であった。
土壌劣化の主な原因は土壌の過剰使用であり、農耕地は休耕を間に取り入れることなく、繰り返し栽培が行われて、作物の生育で土壌から吸収され奪われる栄養分の補充は行われていないのである。
ここで栄養分の補充は化学肥料の投与が1つのやり方であるが、科学者らは化学肥料の投与が土壌中に生息する微生物叢に危害を及ぼす可能性を指摘している。
そしてケニアで推奨され多く使われている化学肥料には、カリ(K)のような鍵となる栄養素が欠けているのである。

RODI ケニアによると、これらの欠点の解決を目指し、すでに数千の農民らが「ボカシ」の利用に取り組んでいる。

RODIケニアは1989年設立の農民の所得向上と食料安全保障に取り組むNGOである。
RODIケニアの取締役Esther Bettさんは彼女自身の経験から、ボカシが合成化学肥料より優れていること、さらにボカシの調製に要する日数が2週間ほどと短期間であることから、他の有機糞尿系肥料と比べても優れていると語っている。
このバイオ肥料「ボカシ」の卓越性は、使用する農民自らが、彼らが暮らす地域で入手可能な素材を用いて作れるということである。幾つかの農家や事業体がこのバイオ肥料の生産と販売化を始めている。

Bettさんによると、既に著しく劣化した農地の回復には3年ほどの日時が掛かるという。

このバイオ肥料「ボカシ」の利点を全ての人が認めている訳ではない。Kakamega郡で1.6ha(4エーカー)の土地を使いトウモロコシを栽培しているPhilemon Olemboさんは、合成化学肥料の利用を優先している。理由は有効成分が高度に濃縮されており、トウモロコシの栄養不足状況の対応に即効的に利用でき、市場での入手性も良いという理由から優先しているという。彼はバイオ肥料の良さを認めてはいるが、彼にとっては即効性が最も重要な選択条件であり、彼のビジネスにおいては遅効性というバイオ肥料の持つ効能発現の時間を待ってはいられない、としている。

Bettさんによれば、化学合成肥料は土壌に栄養分を供給し、一部は作物に利用され、そして使われなかった分は直ちに流出していく。一方ボカシは栄養分と共に微生物叢も一緒に土壌に供給することになる。

化学合成肥料は毎年供給する必要があるが、ボカシは3~4年の間、有効性が維持される。従って次年度以降のボカシの追加量は低減させていくことが可能なのであり、計3回のボカシ供給の後は、土壌が本来持っていた良い状態に再生されたこととなる。

ボカシの施肥量は毎年低下させることになる。第一回目の施肥には1ha当たりほぼ2.4トン(1アール当たりは1トン)が必要である。50kg袋のボカシが約18ドルであり、1haあたり初年度のボカシ代は約864ドル(1アール当たり約360ドル)となり、地域の小規模農家にとってはかなりの初期費用である。
Bettさんは、ボカシを自身で生産することと、耕作規模は可能な大きさ、例えば1/4エーカー(1エーカーは約1224坪、よって1/4エーカーは約300坪)から手始めにやっていくやり方を推奨している。

【RODIケニアの生産担当者Erastus Mainaさんのボカシの作り方の一例:家畜の糞尿を粉炭と混ぜ、空気を混ぜ込むような方式で混合して毒素分を除去する。次いでふすま(bran)とコメ・小麦・トウモロコシの実の外皮分を加えて分解を促進する。他の助材としては微生物の栄養源としての廃糖蜜(molasses)やコメの殻やコーヒーの殻等農業廃材が利用できる。これら廃材にはシリコン(Si)が含まれ、作物を大きく強靭にする働きがあり、そして害虫被害や悪天候等への抵抗力がつくという。土壌の表面部分もまたボカシに加えることで微生物叢を導入することも行い、合わせて近くの家畜向け物販店で入手可能な酵母類も発酵過程の促進のために加える。最後に卵の殻や灰を加えてCaの補給を行う。灰にはC・Mg・K・Pが含まれる。これらのものが投入され混和され、そして層状に積み重ねられ、ポリエチレンで覆う。発酵が直ちに始まり、内温が24時間以内に60℃以上になる。
毎日ボカシ層の切り返し作業を繰り返して、8日間温度管理を行う。そののち層状に拡げて7日間自然放冷を行う(この間は1日に1回の切り返しを行う)。
Mainaさんは、他の糞尿バイオ肥料の生産には3カ月の日数がかかるのに対して、ボカシの製造は通常2週間でできると指摘している】

RODIケニアは、国内35か所の刑務所が運営する農場にボカシの技術とその他のアグロエコロジー技術を導入している。また28の学校とも協力関係を結んでいる。
RODIケニアはボカシの包装品を農家に販売しており、農家の関心が高まっている、とBettさんは語る。

アフリカ食糧主権同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa:AFSA)のMillion Belayさんによると、ボカシの様な効能が証明されている技術がアフリカの農業と食糧システムの強化の鍵を担っていると指摘する。Belayさんはアグロエコロジー技術のアフリカでの採用には障害が存在していると指摘し、その障害として先進工業諸国の種子企業や肥料メーカーが、アフリカを彼らの作る化学合成肥料や農業用化学薬剤やハイブリット種子の大きな売り先・市場と見なしていることをあげている。

Belayさんは、アフリカの各国政府が農業の研究、殊にアグロエコロジー分野の研究にもっと投資する必要があると指摘する。

Belayさんは、更に、世界の大学において、アフリカの食糧安全保障を確保するには、西欧が実践する農耕法を採用する必要があるとの教えが、本流の考え方として代々教授されてきており、そう言った考えを信じ込んだ卒業生が各大学から卒業し、社会に出てきているのが実情なのであり、彼ら卒業生はアグロエコロジーが資金的支援に値するものとは思っていないのである。かかる現実・実態がアフリカへのアグロエコロジー技術の推進・浸透を妨げている面がある、とBelayさんは指摘する。

その上で、全ての物事は土壌の健康度合い及び健全な農耕技術から始まるものであり、気象状況が望ましいと言えない環境下でさえ、健康的な食料は、良く手入れされた健康な土壌から作り出される、ということをBelayさんは強調する。

アフリカ諸国は土壌の健康問題に取り組むことを決定している
(原題:African countries decide to tackle soil health challenges)
RURAL21 2024年 6月26日 Birthe Lappe氏とChristine Wolf氏が記す

2024年5月アフリカ連合(African Union)とケニア政府主催の「アフリカの肥料と土壌の健全性についてのサミット」がナイロビで開かれた。60名を超すアフリカ国家元首や大臣、政策担当者、民間セクター、NGO、学界、支援団体など約4000名が参加した。

「土壌を破壊させる国は、自らを破壊させる」とアフリカ連合副委員長のンサンザバガンワ氏が、米国ルーズベルトの過去の発言を引用して宣言を行っている。

アフリカ諸国では過去10年にわたり、食糧不安と栄養失調が拡大し、世界市場に食糧と肥料とを依存する割合も高まっている。

国際肥料開発センターによると、2021年の穀物生産が3000万トン不足すると見られている。殊にマリ・ブルキナファソ・タンザニア・ザンビア・マラウイ・モザンビーク・ジンバブエでは6000~9000万人が食料供給の危機に瀕するとされている。

この状況の背景には、アフリカの土壌の永年にわたる劣化の進行も影響しており、持続可能性の乏しい管理方法と継続する施肥不足が原因して、栄養枯渇と肥沃度の低下が起こっており、アフリカ農業の低収穫性の原因となっている。

ロシアのウクライナ侵略やコロナパンデミックも、アフリカの状況を悪化させており、肥料の入手性に重大な影響を及ぼしている。

サミットでは、総合的土壌肥沃度管理(integrated soil fertility management: ISFM)の観点から、肥料使用の改善策と土壌健康度合いの改善策の両面に焦点が当てられている。
肥料使用の改善策としては、無機合成肥料と有機肥料との両方の効率的利用の検討が必要と指摘された。

ナイロビ宣言が今回発効する以前に、アフリカで実践されていた肥料政策の基本原則は、2006年のアフリカ版緑の革命のための肥料に関するアブジャ宣言(Abuja Declaration on fertilizer for the African Green Revolution: 2006年、AGRAが活動を始めていた時期)であり、そこでは2006年当時に窒素換算で1ヘクタール当たり8kgだった化学合成肥料施肥量を2015年までに50kgへと拡大を目指すとの目標が記されていた。

今回のナイロビサミットにおいて、ナミビア大統領のムブンバ氏は、「土壌肥料の管理にはバランスを取ることが極めて重要だ」と指摘し、またマラウイの大統領チャクウェラ氏は、「無機化学合成肥料へのアクセス性と使用量を増やすという従来の目標を目指す努力の結果、農業生産高は増加しているが、その有益性・有効性は、期待した全ての課題の解決には未だ達しておらず、残された課題としては、土壌の健全性への緊急な対策が重要なものとして残っている」と指摘している。

肥料の課題に対して、ナイロビ宣言は、2006年の肥料に関するアブジャ宣言の考え方を大きく変更したものであり、パラダイムシフトが為されていると言える。

サミットの結果、アフリカ連合の加盟55カ国全てがナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動を採択している。

ナイロビ宣言では、2034年までに有機肥料そして無機化学合成肥料の国内生産量の3倍化を目指し、小規模農家がそれら肥料を入手しやすい価格と環境を作ることを目指している。

また各国は劣化した土壌を少なくとも30%は健全な状態に回復することを目指すという。

ナイロビ宣言の目標達成のため、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州委員会、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、国際農業開発基金(IFAD)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を含む14の援助国・機関が、ナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動の実施に対して協調的支援を行うことを約束している。

以上で情報の提供は終わりですが、最後にRODIケニアが主導する『ボカシ』の利用をアフリカの小規模農民に当てはめて、必要とされる年間のコストの計算をしてみると、

小規模農家数:3300万(出典:Celebrating small-scale farmers this World Food Day, 2023年10月12日、FARM AFRICA)
各農家が1アールの農地にボカシを施すことを仮定すると、
360ドルx 33,000,000=11,880,000,000ドル/年間(118.8億ドル、約1.7兆円)

ここで、RODIケニアのBettさんの推奨する手始めに1/4の0.25アールから始めることを組み込むと、約30億ドルとなり、円換算では4350億円となる。

COPで今も続く金満国が求められている年間支援金額は1000億ドルであり、この支援要求額の3%分であり、充分手が届くボカシ支援金額だろう。

後楽園を築地へという無駄な問題をやり玉にあげるとすれば、当時のドームの施工に350億円が掛かったという。築地では500億円は下らないと予想するが、500億円と仮定して上記円換算の4350億円との割合をみると11%程になる。
大阪の件もあるだろうし、NHKの年間7000~8000億円をかき集めるシステムもいつも通りに気に掛かります。NHKは1世帯あたり町会費のイメージの年2000円(5000万世帯として)1000億円程で回転する事業体を目指すべきだ、といつも思っています。

ドームの使い勝手が悪くなったとか何とか、といった風説をどうやら流し始めて、築地移転もやむを得ないとの世の流れを作ろうとし始めているきらいが見られる。

ドームや大阪の件は、スポットの1回の資金ねん出だが、NHKは毎年アフリカの小規模農家に必要な土壌改良という、とても有意義な活動支援を、例えばSDGsの良く目標にされる2050年までの期間の支援金原資として充分に充当できるものと思うのですが。

お金は活かして使いものだとつくづく思う所です。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan