漫画家白戸三平が死んだ。
わたしが彼の名前を知ったのは、京都時代。河原町の古本屋で彼の漫画(雑誌ガロ)を手に取ったのが最初だった。漫画の題名は『カムイ伝』。
主人公のカムイは被差別出身の少年。彼と農村出身の少年、武家出身の少年三人が、それぞれの自由を求めて苦闘する話だった。その話と白色の毛を持って生まれ、兄弟狼から差別された孤独の白オオカミが大自然を生き抜く姿を組み合わせた物語。漫画には珍しい縦軸と横軸の物語が重層的に重なり合うふくらみのあるストーリーだった。
まず、わたしは『カムイ』と言う名前に魅かれた。「カムイ」はアイヌ語で、神を意味した。その反対に、「アイヌ」というのが人間を意味している。日本列島に古くから住みついていた先住民である「アイヌ」の人々の人間と神が共生している世界観を象徴しているのが、『カムイ』という言葉である。
・・・・アイヌの伝統的信仰では、あらゆるものに“魂”が宿っていると考える。中でも、植物や動物など人間に自然の恵みを与えてくれるもの、火や水、生活用具など人間が生きていく上に欠かせないもの、天候のように人間の力の及ばないものなどを『カムイ』として敬った。・・・・
https://www.akarenga-h.jp/hokkaido/ainu/a-03
白戸三平は、なぜ被差別民出身の少年に「カムイ」という名前をつけたのか。
彼の父親は、プロレタリア画家岡本唐貴。幼いころから、神戸や大阪の朝鮮人の近くを転々としている。(父親の活動=共産党のオルグ。)さらに白戸の弟真は、被差別出身の友達がおり、友達の家業の手伝いなどしていた。
こういう環境から、差別された民族アイヌと差別された被差別の人々が重なり、『カムイ』という名前が誕生したのではないか、と想像している。
差別された人々の想いや生き方だけでなく、白戸は、“孤独の白い狼”が大自然を生き抜く姿に、アイヌ民族の自然への崇敬の念(カムイを生み出す心)を描きたかったのではないか。
白戸は、“忍者武芸帳”や“忍者赤影”など忍者ものを書いている。彼の“忍者”ものへの執着の一つに立川文庫があると語っているのを聞いて、納得した。わたしも“立川文庫”の大ファンで、“猿飛佐助”や“霧隠才蔵”の活躍に胸を躍らせた1人。
白戸が少年向けの漫画に忍者を取り入れたのも自分の少年時代の興奮や胸の高まりを忘れる事が出来なかったからだと思う。※立川文庫とは - コトバンク (kotobank.jp)
ただ、彼が凡百の漫画家と違うのは、『カムイ伝』もそうだが、底辺に住む人間たちの生きざまに焦点をあて、差別される人間たちの苦悩や生きづらさを見事に描き切っている点にある。
彼の作品の背後には、強固な“マルクス主義”哲学があると評する人もいるが、わたしは彼の幼少期の生活や特高警察に弾圧された父親に代わり、家族の生活を支えた自身の経験が色濃く反映されていると思う。
その背景に加えて彼の家族の芸術的感性がある。父親は画家。妹は絵本作家。弟は、白戸と一緒に漫画を描いた。地を這いずり回るような苦闘の生活にありながら、芸術的才能を磨くことを忘れなかった心の豊かさが、白戸一家にはあった。
白戸の漫画が全共闘世代の愛読書になったのは、白戸の漫画の底辺に流れる“心の豊かさ”が光となって、既成の秩序や体制と苦闘する全共闘に集まった若者たちの心に刺さったのだと思う。
白戸三平 多くの人の心に刺さり続けた漫画家だった。 合掌!
「護憲+BBS」「どんぺりを飲みながら」より
流水
わたしが彼の名前を知ったのは、京都時代。河原町の古本屋で彼の漫画(雑誌ガロ)を手に取ったのが最初だった。漫画の題名は『カムイ伝』。
主人公のカムイは被差別出身の少年。彼と農村出身の少年、武家出身の少年三人が、それぞれの自由を求めて苦闘する話だった。その話と白色の毛を持って生まれ、兄弟狼から差別された孤独の白オオカミが大自然を生き抜く姿を組み合わせた物語。漫画には珍しい縦軸と横軸の物語が重層的に重なり合うふくらみのあるストーリーだった。
まず、わたしは『カムイ』と言う名前に魅かれた。「カムイ」はアイヌ語で、神を意味した。その反対に、「アイヌ」というのが人間を意味している。日本列島に古くから住みついていた先住民である「アイヌ」の人々の人間と神が共生している世界観を象徴しているのが、『カムイ』という言葉である。
・・・・アイヌの伝統的信仰では、あらゆるものに“魂”が宿っていると考える。中でも、植物や動物など人間に自然の恵みを与えてくれるもの、火や水、生活用具など人間が生きていく上に欠かせないもの、天候のように人間の力の及ばないものなどを『カムイ』として敬った。・・・・
https://www.akarenga-h.jp/hokkaido/ainu/a-03
白戸三平は、なぜ被差別民出身の少年に「カムイ」という名前をつけたのか。
彼の父親は、プロレタリア画家岡本唐貴。幼いころから、神戸や大阪の朝鮮人の近くを転々としている。(父親の活動=共産党のオルグ。)さらに白戸の弟真は、被差別出身の友達がおり、友達の家業の手伝いなどしていた。
こういう環境から、差別された民族アイヌと差別された被差別の人々が重なり、『カムイ』という名前が誕生したのではないか、と想像している。
差別された人々の想いや生き方だけでなく、白戸は、“孤独の白い狼”が大自然を生き抜く姿に、アイヌ民族の自然への崇敬の念(カムイを生み出す心)を描きたかったのではないか。
白戸は、“忍者武芸帳”や“忍者赤影”など忍者ものを書いている。彼の“忍者”ものへの執着の一つに立川文庫があると語っているのを聞いて、納得した。わたしも“立川文庫”の大ファンで、“猿飛佐助”や“霧隠才蔵”の活躍に胸を躍らせた1人。
白戸が少年向けの漫画に忍者を取り入れたのも自分の少年時代の興奮や胸の高まりを忘れる事が出来なかったからだと思う。※立川文庫とは - コトバンク (kotobank.jp)
ただ、彼が凡百の漫画家と違うのは、『カムイ伝』もそうだが、底辺に住む人間たちの生きざまに焦点をあて、差別される人間たちの苦悩や生きづらさを見事に描き切っている点にある。
彼の作品の背後には、強固な“マルクス主義”哲学があると評する人もいるが、わたしは彼の幼少期の生活や特高警察に弾圧された父親に代わり、家族の生活を支えた自身の経験が色濃く反映されていると思う。
その背景に加えて彼の家族の芸術的感性がある。父親は画家。妹は絵本作家。弟は、白戸と一緒に漫画を描いた。地を這いずり回るような苦闘の生活にありながら、芸術的才能を磨くことを忘れなかった心の豊かさが、白戸一家にはあった。
白戸の漫画が全共闘世代の愛読書になったのは、白戸の漫画の底辺に流れる“心の豊かさ”が光となって、既成の秩序や体制と苦闘する全共闘に集まった若者たちの心に刺さったのだと思う。
白戸三平 多くの人の心に刺さり続けた漫画家だった。 合掌!
「護憲+BBS」「どんぺりを飲みながら」より
流水