8月19日にアメリカの新駐日大使
ジョン・ルース氏が着任し、25日に麻生首相を表敬訪問したと報じられている。下馬評では元国務次官補で著名な政治学者である
ジョセフ・ナイ氏の名が挙がっていただけに、オバマ大統領のサプライズ人事である。
周知のように、ナイ氏は2007年にアーミテージ元米国務副長官と共同で、通称「アーミテージレポート」を提言したほどのアジア外交・防衛の専門家である。一方駐日大使に決定したジョン・ルース氏は弁護士出身で外交はずぶの素人と言われる。オバマ大統領はどうしてジョセフ・ナイ氏を忌避して、ルース氏を駐日大使に任命したのであろうか。どう見てもオバマ大統領との個人的な人間関係だけではなさそうである。
先ず第一に「アーミテージレポート」は日米軍事同盟強化を背景にしたアジア外交を目指しており、話し合いによる平和外交を進めようとするオバマ外交にナイ氏は相容れない、との大統領の判断があったのではないかと想像される。
事実オバマ大統領は米国の財政赤字縮小のため日本への輸出も検討されていた新型戦闘爆撃機(F22)の開発を中止し、軍事予算の削減を議会に提示している。このことからも、日本の憲法9条改正を唱え日米軍事同盟強化を唱えるアーミテージ氏と共同レポートを作成したナイ氏のアジア外交とは、相容れないことは明らかである。
もう一つの理由は、オバマ大統領は現在米国の財政赤字と経済建て直しに注力しているが、今や米国の財政は日中の米国国債の購入に大きく依存し、しかも最大の依存先が同盟国の日本から中国に入れ替わり、いつ関係が割れてもおかしくない薄氷の上を歩いている。
何としても中国に見捨てられないようにするには、米中関係を良好に保ち、軍事予算を削減してでも財政赤字を縮小して、中国の米国国債離れを阻止せねばならない。この苦しい財政と経済状況が駐日大使人事にも影響したと思われる。
全く皮肉な現象であるが、リーマンブラザーズ破綻に端を発した米国経済の破綻と同時に、軍事予算の増大を伴い対中・日米軍事同盟強化を目指す「アーミテージレポート」はお蔵入りせざるを得ない運命となり、それに伴いジョセフ・ナイ氏の駐日大使人事も白紙となり、代わってルース氏の選任となったのではないだろうか。
日本政府もこれまで通り「アーミテージレポート」を信奉して、日米軍事同盟を強化しようとしても、もはや米国の財政状況はそれを進められる状況でないことを認識すべきである。それを無理に進めればアメリカの財政赤字は更に悪化し、中国の米国国債離れを招き、更に米国財政が悪化することは必至である。
もはや米国は財政面から軍拡する余裕はないのである。オバマ大統領が関係が不安定な中国を重視し、11月に日本より先に中国を訪問するのは当然であろう。そしてナイ氏を駐日大使からはずし、対中・対アジア外交戦略の転換を暗に示し、中国のアメリカ国債へのつなぎ止めの代償と見れば、今回の人事はより分かりやすい。
オバマ大統領の訪中を機会に米中関係を更に緊密にして、完全に冷戦時代の終わりを確認し、北朝鮮の核廃棄も米中朝で整え、6カ国間の完全な国交回復も視野に入れ、北東アジアでの平和を確立し、日米、米韓の安保軍事条約の存在意義をうすめ、在韓、在日米軍を漸次縮小できれば、必然的に財政再建にも繋がる。
またイラクからの撤退も早晩財政再建にプラスになれば、中国も安心して米国国債への投資を継続できるはずである。このようにオバマ大統領の訪中の最大の目的は、米国財政再建策の提示にあると思われるのである。
一方日本は国と地方の財政赤字は約1200兆円で米国の6倍といわれている。まだ国民と企業の資産で国債を消化する余裕があり、外国に購入を依存しなくてもよいところが米国との違いである。しかし日本も内政は疲弊し、1200兆円もの財政赤字は紛れもない事実であり、国の借金である。中国、北朝鮮を仮想敵国に見立てて日米軍事同盟強化を吹聴する余裕などないはずである。
民主党が政権に就いたならば、オバマ大統領と共に北東アジアの平和を目指し、軍事的緊張を無くし、同時に日米軍事同盟を見直し、財政再建に注力して欲しいものである。健全な国家財政こそ最大の国力であり、財政再建をして、富国強兵から富国世界平和へと主導して欲しいものである。
「護憲+BBS」「各国の動きに注目する」より
厚顔の美少年