老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

映画「ぼくは君たちを憎まないことにした」

2023-11-29 11:47:26 | 社会問題
実話です。パリに住む小説家志望のアントワーヌは、メイクアップの仕事をする妻のエレーヌ、3歳のメルヴィルの3人家族でした。

2015年11月13日(金)バタクラン劇場に出かけた妻が夜遅くなっても帰宅しません。その日、パリ同時多発テロが起き、シリアで計画されて送り込まれた8人のISは、バタクラン劇場、サッカー競技場、カンボジア料理店とイタリア料理店を襲い、130人の犠牲者と300人以上の負傷者を出したのでした。

アントワーヌはエレーヌに連絡しても携帯は留守電になっています。病院を訪ねて探し回っても、名簿にはエレーヌの名はない。そして月曜日、ようやくアントワーヌはエレーヌの遺体に会えたのです。

父子2人暮らしになり、公園で父親と遊んできて、家に戻ると「ママ!」「ママ~!」と探し回るメルヴィル。野菜ジュースを作ろうとして、蓋をしないで回して噴き出すのに呆然としたり。なにかにつけアントワーヌはエレーヌを思い出します。

そんな中で「僕は君たちを憎まないことにした」(Vous n'aurez pas ma haine…)とアントワーヌはFBに、テロリストたちに宛てた手紙を綴ったのです。

その一文はたちまち拡散され、1日で2万人以上の人が見ました。ル・モンド紙からも連絡が来て、トップページに掲載されました。
https://www.lemonde.fr/attaques-a-paris/article/2016/07/17/vous-n-aurez-pas-ma-haine_4970898_4809495.html

「私はあなたを憎むという贈り物をあなたに与えません」「憎しみに怒りで応えることは、あなたを今あるものにしたのと同じ無知に屈することになります」「幸せで自由な人生を送ることこそが、彼らへの返事なのです」と、アントワーヌは書いたのです。
https://nikumanai.com/

彼、Antoine LeirisのFB投稿がたちまち広がり、3日間で20万人にも読まれたのは、人間には憎しみに囚われないという心の強さがあるからでしょう。

社会にはいろいろな事件、出来事があり、自分が不利益を被ることがある。例え些細な事でも悲しみや怒りが湧くのは当然だと思います。

しかし、怒りや悲しみを超えることも人間には出来るのだと思います。怒りは大きなエネルギーであるから、その怒りの原因となった問題を解決することに振り変えることができます。

怒りや悲しみを乗り越えるのは苦しい作業だけれど、そこには人間への希望が生まれると、私は信じています。

そのことを以前に教えてくれたのは、留学中の息子さんがハロウィンで訪ねた家で銃撃されて命を失った時の、服部夫妻の姿です。

被告は無罪!(何で?)となった刑事裁判後に、夫妻は民事裁判を行いますが、被告は決まった賠償金すらもほとんど支払っていません。

どんなにか辛かったかと思いますが、夫妻が目指したのは米国の銃規制でした。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E7%95%99%E5%AD%A6%E7%94%9F%E5%B0%84%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

悲しみや怒りを復讐に向けず、罪の根源に向けた。見事な生き方だと思います。

もう1つ思うのは、まるで反対の心性。これだけホロコーストへの怒りを持っていながら、イスラエルはパレスチナの人々の土地を奪い、ガザを爆撃するという圧倒的な武力を振るう。この暴力はナチスと同じです。

日本でも犯罪が起きると、社会に怒りが満ちます。そして「目には目を」のような言葉がネットには溢れます。怖いのは無関係の人達からの悪意と罵倒。加害者の「家族」の名前や住所までを暴き、攻撃する人もいるらしく、これもまた、残酷な犯罪に他ならないと思います。

「幸せで自由な人生を送ることこそが、彼らへの返事」というアントワーヌの言葉は味わい深いですが、もう1つ深いのは「加害者も銃社会の被害者」という服部さんの言葉でしょう。

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小出裕章氏の原発事故の本が中国語に翻訳出版

2023-11-28 20:35:54 | 原発
小出裕章氏の『100年後の人々へ』(集英社)が中国語に翻訳され、香港で出版されました。⤵

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02W6EF7v4HUnU3u2PynBB3MgU9bGcXAmeHTQnqckC5sLiEKcjwcapmdc9utULZ7uR1l&id=748403086&mibextid=Nif5oz

広告文「膨大な歴史の中で、偶然に「出会う」人もいるでしょう。 これは奇跡です。 個性豊かな人々の出会いは、新しいものを生み出す源です。本との出会い!」←google翻訳

中国語で「原発事故」について、お読みになりたいお知り合いがいらっしゃるようでしたら、是非お勧めください。

初文出版社(香港)で、78香港ドル、香港・台湾で発売されるそうです。

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「妖怪の孫」を問い続ける

2023-11-27 10:34:58 | 自民党政治
昨年末から私事のゴタゴタで新聞を読む時間がとれず、昨年12月28日以降の東京新聞がほとんど山積みになっていた。それを先週から紐解き始めてスクラップしたところ、あらためて「安倍晋三の醜悪な時代」が浮き彫りになった。昨年7月8日、政治的思惑でも言論弾圧でもなく、宗教的怨恨で銃撃されて鬼籍に入って以降、彼の功罪について「死者に鞭を打つな」とばかり罪の追求が鈍り、功績ばかりが生き残っているように感じるが、紙媒体の記録(新聞)は正直である。

まずは、3月19日付「本音のコラム」で現代教育行政研究会代表・前川喜平氏(元文科省官僚)から引用すると、3月17日から映画「妖怪の孫」の上映が始まった。この映画は祖父・岸信介、父・安倍晋太郎から政治思想を引き継いだ安倍晋三がどういう男だったのか、安倍政治とは何だったのかを問うた労作だという。
◆映画「妖怪の孫」公式サイト
https://youkai-mago.com/

コラムでは「妖怪の妖術」について次の点に言及している。(抜粋)
①(国益や政策ではなく)選挙に勝つことが目的の選挙戦略
②森友事件、加計学園問題、桜を見る会での数々の国会虚偽答弁
③「やってる感」だけのアベノミクス
④内閣法制局長官を差替えて強行した集団的自衛権行使の憲法解釈変更
⑤統一教会問題(と安倍晋三)
そして、安倍政治は過去のものではなく岸田政権へと引き継がれ、日本は戦争する国へと向かっていると締めくくっている。私は最近の新聞記事・webニュースを読んでいて、このコラムが的中していたことを再認識した。

①はすなわち、「選挙で勝って政権を獲れば、私利私欲で何をやっても許される」の布石である。安倍が官房長官時代にNHK番組改変に関わり、公共放送を捻じ曲げたのもうなづける。
それは3月、放送法の解釈変更を要求するための行政文書を高市早苗総務相(2015年当時)が指示した問題として発覚した。ご存じの通り、高市早苗は安倍晋三の「お気に入り」の一人だった。
◆放送法レク「あった可能性高い」 調査結果にも高市氏は「不正確」/朝日新聞サイト
https://www.asahi.com/articles/ASR3Q6VQZR3QUTFK00Q.html
高市は「捏造だ」と否定し続け、それ以降はうやむやになっている。「捏造」と「不正確」は全く別物だが、大見得を切った高市は責任すら取っていない。
そして7月11日付、東京新聞紙面「視点」でNHK「クローズアップ現代+」の放送内容にNHK経営委員会が介入した事案を「放送法に抵触する」と論説委員・桐山桂一氏が問題提起した。2018年、同番組が行った「かんぽ生命保険の不正販売問題」報道に日本郵政が抗議し、当時のNHK会長が厳重注意された件だ。その議事録の全面開示を求めて裁判が続いているがNHKは情報開示に応じず、いまだ裁判所も開示命令を行わないという。

②は問題点を整理した、わかりやすいサイトがある。
◆今さら聞けない、森友・加計問題/日本経済新聞サイトhttps://vdata.nikkei.com/newsgraphics/fv20180523/
さらに驚くべきは、このニュース。関連したニュースが多く流れている。
◆加計学園が銚子市に千葉科学大「公立化」泣きつき…/日刊ゲンダイDIGITAL
https://news.yahoo.co.jp/articles/939f48290c862ae70c29a18ef39d04fbeabb9c55
“妖怪”安倍がオトモダチを優遇した、なれの果てである。

③は、アベノマスクに代表される安倍の思いつきが日銀とグルになり、様々な統計数字に手を加えて「景気がいい」偽装された経済政策を行った。トリクルダウンで中小零細企業が潤うなんて、ド素人の発想でしかない。
東京新聞11月22付「社説」では、アベノミクスを引きずる岸田政権の無策を批判している。
◆家計の苦しさ アベノミクスと決別を/東京新聞web版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/291501

④の問題は結果的に防衛予算倍増へつながっている。東京新聞2月22日付記事で「敵基地攻撃能力=先制攻撃」の懸念について国会議論で政府が説明責任を果たしていないことを伝えていた。7月4日付記事では、政府与党が「防衛装備移転三原則の要件緩和」の与党協議について国会を経ずに議事録も非開示という現状を掲載。民主主義を軽視した「密室協議」と批判されて当然だろう。
そして10月5日付記事で、専守防衛の議論もなく「トマホーク」ミサイルの大量導入を前倒しすることを報じている。
◆「敵基地攻撃能力」運用が1年前倒しへ~/東京新聞web版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/281815

⑤については政府与党の腰が重い、引けている姿勢が続いている。8月23日付紙面「社会時評」ではロバート・キャンベル氏(日本文学研究者、早稲田大学特命教授)が統一教会と政府与党の癒着について「自民党、なかんずく安倍派議員に集中している」と記し、岸田総理「各議員が説明すること」、松野官房長官「コメントを差し控える」、福田達夫総務会長「何が問題か、僕はよくわからない」との各々のコメントについて、「政治家の言葉もいよいよ軽く、世界情勢とは乖離していくことに不安を覚える」と憂いていた。

それ以外にも、アベノボウレイを引きづっているニュースには事欠かない。
・沖縄県民を無視した辺野古新基地問題。政府寄りの司法判断、軟弱地盤工事の御用識者判断と寄付金。
・2017年に起きた臨時国会不招集の裁判が上告棄却。東京新聞社説は「民主国家と言えるのか」。
・2019年に起きた安倍演説中にヤジ排除の裁判。高裁が地裁判決を一部取り消し。「司法は政権への忖度を追認するのか」とはジャーナリスト・青木理氏のコメント。
 そして、出ました!2013年当時、東京五輪招致推進本部長だった馳浩石川県知事が安倍晋三の命を受け、機密費で招致買収工作をした、と暴露。自慢、高慢、バカのうち・・・バカですね、愚かですね、この人。

私は、いまだに安倍晋三の功績が称えられる意味がまったく理解できない。国葬になった意味も、経緯も、後始末もない。呆れるやら、脱力するやら・・・。
唯一の救いは、東京新聞7月15日付社説下欄の決意だろうか。
◆<ぎろんの森>「安倍政治」を問い続ける/東京新聞web版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/263305

護憲、民主主義、三権分立、専守防衛は譲れない!

「護憲+コラム」より
猫家五六助
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ドバイCOP28開催直前に流れているニュース

2023-11-23 16:38:49 | 環境問題
今月末からUAEドバイでCOP28が開催される。
我々が現在抱えている気候変動課題に対してCOP28が、そして国際社会がどのような討論を行い、どのような解決策を提示していくのか、を見定める際の参考になれば、との思いから直前に報道されている幾つかのニュースを紹介してみたい。

取り上げたニュースは以下である。
1. DeutscheWelle,2023年11月17日 “Who pays for climate damage and where does the money go?” Jeannette Cwienk記す
2. PakistanDawn,2023年11月18日 ”Climate action" Aisha Khan記す
3. AlJazeera,2023年11月18日 “COP28 must not repeat the mistakes of the African Climate Summit” Sydney Chisi記す

まず、DeutscheWelleの記事(誰が被害の請求書の支払者で、その資金は何処にむかうのか)から始めます。

一つは気候変動を止めるという目的(mitigation)で、もう一つは気候変動の結果として生じる被害に適応する目的(adaption)で、一連の気候変動基金(climate fund)が貧困国向けに約束され用意されている。しかしこれらの用意されている基金が実際には何をカバーしているのか、そして何ゆえにどの基金の運用もが物議を醸すことになっているのか、という疑問がある。

歴史的に見て、化石燃料を産業革命の動力源として利用し、温室効果ガスを大量に発生させ、結果として地球温暖化を引き起こしてきた米国や欧州の様な国が気候変動向けの請求書の支払者になるべきだとの議論がある。しかしながらその意味する所は正確にはどのようなものであろうか?以下順を追って見ていく。

(気候変動融資climate financeとは何か?)
気候変動融資の背後にある考え方の一つに、発展途上国が化石燃料に頼らない経済発展のかじ取りが出来る様に支援することがある。
もう一つの考え方に、気候変動の影響を最も受けている貧困国が気候の変化に適応できるよう、裕福な国々は支援すべきということがある。
これらの考え方は1992年のリオデジャネイロ世界気候サミット以降、世界の気候交渉の中心議題となって来ていた。
気候変動への資金提供というと一般的に連想されるのは、2009年のコペンハーゲン国連気候サミットで先進国が2020年までに年間1000億ドルを調達するという公約をしたことである。2015年のパリにおいて、参加者らはこの金額を2025年まで毎年支払い続けることで合意し、そしてその後新たな金額を設定するとした。

(気候変動融資はどのように実践されるのか?)
公約の1000億ドルの実施の点で、先進国側は当初公的資金(public fund)を想定していた。
しかし先進国側は徐々に民間投資(private investment)を通じての金額を上昇させようとしている。

資金の流れとしては、約50%は供与国から受領国に向けて2国間で流れており、主として開発援助の形式がとられている。
残りの流れは、多国間資金(multilateral money)の形式を取っており、複数の国家が資金を供出し、そして複数の受領国家が受領することを意味している。この資金は世界銀行やアフリカとアジアのそれぞれの開発銀行のような多国籍銀行を経由して運営されている気候変動プログラムから提供されるか、あるいは多国間気候変動基金(multilateral climate funds)を通じて割り当てられる。

(緑の気候基金、Green Climate Fund)
多国間の基金プールの中で最も著名なのは緑の気候基金GCFだろう。この基金は、再生可能エネルギーの拡大などの気候変動を遅らせるための対策向けと、異常気象やその他の温暖化の影響への適応向けの両方を目的とする。
これまでに富裕国側は約200億ドルの提供を約束している。その内128億ドル分のプロジェクトが承認され、これまでに36億ドルが特定のプログラムに既に供給されている。大半がアフリカとアジア向けだが、ラテンアメリカ・カリブ海諸国・東ヨーロッパ向けのプロジェクトもいくらかある。
4年ごとに供出国は基金を補充することが求められている。資金の半分弱は有利な融資の形(favorable loans)で供給され、残りは返済の必要のない直接補助金(direct grants)として提供されている。

(適応基金、Adaptation Fund)
富裕国側が公約する1000億ドルの資金を受け取るもう一つの別の基金(Fund)が適応基金。これは比較的規模の小さい基金であり、基金を補充するシステムはなく、富裕国側は可能な時に、あるいは希望する時に供出するやり方が取られている。
この基金の目的は、異常気象による影響に適応できるように各国の手助けになるプロジェクトを支援することである。これらの異常気象による影響としては、例えば洪水への対策や暑さに強い作物の栽培などの対策が挙げられる。
途上国は、融資の形でなく、補助金の形で受け取る。該当プロジェクトは通常、利益を生むことが無いような適応行動へ資金を提供するということが特徴である。故に売電可能な風力発電やソーラー発電のプロジェクトへの拠出は対象外となる。

(開発程度が最低の国家向け基金、Least Developed Countries Fund、LDCF)
この開発程度が最低の国家向け基金(LDCF)は、最貧国46カ国をカバーしている。
返済の必要のない助成金のみで運営されており、緊急の気候適応資金を提供することを目的としている。これまでにLDCFは360以上のプロジェクトに資金を提供しており、約17億ドルが支払われている。

(1000億ドルの気候変動資金の公約は果たされているか?)
結論としては、果たされてはいない。
OECDのデータによれば、2020年に国際気候変動融資に支払われた総額は約830億ドル。
Oxfamドイツの気候変動・政策責任者のJanKowalzig氏は、「830億ドルという額は大きく聞こえるかも知れないが、グローバルサウスの貧困国が必要としている額はもっと大きい」と指摘している。そして、「我々の調査によれば、適応対策向け費用だけでも、2030年までの期間、毎年3000億ドルを超えるものとなっている。そしてこの数字には気候緩和対策向け費用は含まれていない」とも指摘している。
また、国際開発機関(international development organization)によると、OECDが言う830億ドルは粉飾されている、という。Oxfamの計算では2020年の実際の気候変動支援金額としては最大約245億ドルだったとしている。OECDが公式にリスト化しているプロジェクトの多くは、気候への影響が殆どないものだ、とOxfamは見ている。
「その上、先進国は公約の1000億ドルの支払い方として、多くは融資の形で貸し出している」。従って途上国側はこれらの融資を返済する必要があり、ドイツの支援団体「Bread for the World」のMinninger氏は「このやり方は、ごまかしだ」と主張している。

(損失,Loss,と被害,Damage:気候変動対策資金調達のネックポイント)
世界は何十年もの間、熱波や干ばつによる作物の被害や地域の居住不能化など気候危機により引き起こされている損失(Loss)や被害(Damage)を誰が支払うべきか、について議論を重ねてきている。更に発展途上国はこの目的の為の追加資金を望んでいる。
先進国側は気候変動融資の範囲を超える損害賠償で訴えられることを懸念しており、また彼らは世界最大のCO2排出国の中国など経済的に強い新興国にも同様にドナー国としての支払いを望んでいる。
損失と被害については多くの疑問が未解決のまま残っている状況である。

(気候リスクに対するグローバルなシールド、Global Shield against Climate Risks)
気候リスクに対するグローバルなシールドは、2022年のCOP27においてG7とV20(気候変動リスクを特に大きく受けている約70カ国のグループ)により立ち上げられた。
壊滅的な異常気象に迅速に応えられるように、このシールド(絆創膏といった意味合いか)基金にはあらかじめ決められた金額が割り当てられている。
これまでに2.28億ドル以上が提供されており、その約80%はドイツ拠出となっている。

次いで、PakistanDawnの記事(気候変動への行動)を紹介する。

NASAの代表的科学者のJames Hansen氏は「産業革命以前に比べて世界の平均気温を1.5℃以内に抑えることは、ほぼ絶望的であり、2℃以内に抑えることも、もし我々が迅速かつ適切な行動を取らない限り、非常に困難な状況だ」と指摘している。

この終末論的シナリオ及び気候変動問題の議論に何ら進展が見られないという背景から、国際司法裁判所(International Court of Justice ,ICJ)は諮問手続きを開始している。
手続きには書面及び口頭諮問が含まれ、これにより気候変動に関する各国の義務についての指導基準が与えられることになる。
勧告的意見が下されるのは、2024年後半から2025年初めと見られる。

この動きは国連の下記の動向が引き金になっている。
国連総会(UNGA)はバヌアツ政府からのリクエストを支持する決議を採択した後、ICJに対して気候変動に対する国家の責務に関する勧告的意見を求めることを正式に決定し、ICJ に要請している。

これにより、気候正義の解釈に極めて大きな変化がもたらされ、気候変動対策の将来を形作る上で、またとない機会が提供されることになるだろうとみられる。
地球上から消滅の危険にさらされている国々や、生命を脅かす課題に直面している国々にとって、ICJが今後発表する勧告的意見は、国際法に基づく法的責任を大規模排出国に問う上で役立つ可能性がある。
この勧告的意見は、また現在および将来の世代で最も弱い立場にある人々に損害を与える気候変動に関する行為や不作為に対し政府の責任を追及しようとしている世界中の法域での気候変動に関する訴訟や裁判を強化する可能性がある。
これは気候変動対策の方針を変える画期的な機会を提供することになる。

ICJへの第一回目の書面提出の期限は2024年1月22日まで延長されている。気候危機の前面に立つ国々にとっては、この期間延長は気候正義について、より幅広く議論に取り組むことが出来る機会を提供するものと言える。

気候変動危機に最も責任を負う国々が、脆弱な国々に対する被害を抑制するために、今何を為すべきか、ということをICJ判事らに理解させるには、各国が人権・環境権や気候に関する国際法規的に確固たる証拠と先進的見解を持って、それぞれの訴訟ケースを如何に数多く提供するか、に掛かっている。
このことは、損失と被害を今後の気候変動交渉の最前線に据え、気候危機を管理するには道義的責任を超えて、拘束力を伴う法的義務をも国際社会に認識させることが必要ということである。

ICJの勧告的意見には、諸国が単に慈善的に脆弱国に対し援助を提供するという意識から脱却して、気候変動による被害と損傷に対する公正であり、法的に健全な賠償(reparations)という考えへの移行を促す面もある。被害のみを大きく受けている国々がこの機会を使いタイムリーにそして強力に主張すべきことを展開することが求められる所である。

地球が沸騰する時代、そして暴力が支配する世界にあって、この展開により多国間主義ならびに世界正義に新たな希望が注入される可能性がある。
自主性に任せて排出を削減するという考え方・システムは機能することはなかった。
この自主的削減の考え方は「解決策の計画」を策定する装置にはなったが、公正な将来への希望に関しては、反対に減退させていく方向に働いたと言える。
ICJの勧告的意見により、国家及び非国家主体(多国籍企業体をさすか)は、各国の法的責務を明確にして、履行に対する責任を負うプロセスに参加する機会を得ることになる。

ある国の開発と発展によって、世界の他の地域に暮らす人々の生活や生存が脅かされるのであれば、その開発と発展を推し進める権利は如何なる国であっても持っていない、という当然のことを世界に広める機会に、今回のCOP28がなるべきと考える。

壊滅的な猛暑と洪水が世界の半分に襲いかかるまでに、残されている猶予期間はもう7年だけだ、と言われている。

時を同じくしてネパールでICIMOD主催の初の極間会議(inter-polar conference)とフランスでの極地サミット(Polar Summit)が開催されており、地球の平衡感覚が危機に瀕していることを示す状況が生まれていると思われる。
「地球全体を想定するアプローチ」という視点を欠いては、今後は管理できないことが示されている。
現在人類に課せられた課題は、気候正義というレンズのみを通して判断すべきでなく、地球全体の生命システムの生き残りという全体的見方から判断すべきと、今回の国連総会のICJへの要請決定を捉えるべきである。
そして地球全体の生命システムのなかで、絶滅に向かうスピードを加速させているのが人類だけなのだ。

最後はAlJazeeraの記事(アフリカ気候サミットの間違いを、COP28は繰り返してはならない)になります。

グローバルノースのロビイストらがCOP28で誤った解決策を押し付けてくること、それを許してはならない。

11月末にドバイで開催されるCOP28。しかし会議に先立ち、気候変動政策へのアプローチに大きな変更が無い限り、有意義な進展はないだろうとの指摘が活動家や市民社会から既に打ち出されている。
グローバルサウス諸国側には、富裕国や多国籍企業が通常通りの事業を継続する施策が推進されており、貧困国は単に気候変動の矢面に立たされているのみではないか、という懸念が強くある。

この9月初めにナイロビで開催されたアフリカ気候サミットでも、この懸念は出されており、政府・企業・国際機関・市民団体から数千人の代表が集まったCOP28に先立つアフリカサミットで、アフリカの人々が損失(loss)と被害(damage)の補償、気候緩和、気候変動資金などの問題について共通の立場で合意を得る機会になると見られていた。

しかし発表された最終文書(ナイロビ宣言)ではアフリカ諸国間の一致事項やアフリカ諸国内にある最善の利益を反映するものには適っていなかったと言える。

グローバルノース諸国や多国籍企業のロビイストらには、彼らの誤った解決策を表明する為のスペースが与えられており、そして高いレベルでの会議アクセス権も彼らには与えられていた。
一方アフリカ大陸を支援する目的で透明性ある解決策を要求する活動家や市民社会代表らは、議事進行中のアクセスが困難な状況に置かれ、脇に据え置かれているのではないか、という状況であった。かかる会議の進行を考えるとサミット最終文書の結果は驚くべきことでもないだろう。

結果として、9月のアフリカ気候サミットでは主たる排出国のグローバルノースがアフリカ諸国を補償する政策を推進する一方で、サミットとしてはグローバルノースがアフリカ諸国に被害を与えることを継続するという政策を受け入れさせるものであった。

このサミット宣言では、炭素クレジット・炭素オフセットや炭素取り引きといった問題を含んでいる実践案に重点が置かれ、そしてそれを合法化したものであった。
これらは誤った解決策であり、アフリカ諸国が必要としているものとは言えない。
これらはグローバルノースがアフリカの土地と人々の支配を継続し、そしてアフリカ大陸の排出削減分に見合うクレジットを購入する一方で、グローバルノース側は温室効果ガスの排出を継続することが出来るシステムをアフリカの人々に認めさせたという、新植民地主義の戦術に他ならない。

炭素取り引き(carbon trading)という方策は排出国側が排出を継続することを目指して、その排出分に見合う炭素捕捉活動(アフリカにおける新規植林活動や森林保全活動等)をグローバルサウス側の国で行うというものであるが、ここで問題になるのは、これらの炭素捕捉活動を考えている地域には、そこに存在する森林や土地を生活手段として必要としている地元の人々が現に生活しているということである。
即ち、炭素取り引きの構図には、炭素捕捉という名目および自然保全という名目のもとで、地域に住む人々の生活権・生存権を脅かすという部分が含まれている。
このような計画では炭素排出量の増大に対処はできず、排出量の削減を拒否する富裕企業や先進国のグリーンウォッシングが可能となる構図を助長するということが良く知られている。
炭素取り引きのやり方が解決策でないならば、アフリカ諸国の損失と被害、適応と緩和への資金提供についてグローバルノース側はどういう形で支援を進めていくことが出来るのであろうか?

ここで「キャップとシェア(cap and share)」という考え方が対案となりえる、と気候活動家や市民社会が見なし始めている。
このシステムは世界規模の炭素税(international carbon tax)を中心に据えて、その税金の支払者はグローバルノースの化石燃料採掘組織であり、その主要な消費者だというものである。

この税は、世界規模のグリーンニューディール基金(global Green New Deal fund)向けに年間数兆ドルが見込まれ、その資金で再生可能エネルギー社会への移行や世界の全ての人へのエネルギー供給が可能となると考えられている。またこの資金により、損失と被害向けの助成金、グローバルサウスの適応と緩和活動、そして一般の人々を支援するための現金給付にも提供可能とみられる。

キャップとシェアは国民国家を超えて機能する税制を確立することになる。このことは気候正義の鍵となる考え方であり、永い間待ち望まれていたものである。

モデル化によると、世界規模の炭素税の経済効果は革命的であり、アフリカの全ての極貧状況からの脱却など、大きな利益が得られることが示唆されている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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映画「沈黙を破る」土井敏邦

2023-11-20 16:16:29 | 戦争・平和
「沈黙を破る」という、ドキュメンタリー映画を友人から紹介された。
http://doi-toshikuni.net/j/bts/

2000年、イスラエルからパレスチナへ派遣された若い軍人達が帰還した時、「沈黙を破る」というグループを作った。
2000年から7年間彼等を追いかけ、撮り溜めた沢山のビデオ映像を元に、土井敏邦監督が制作したドキュメンタリー映画である。

上記URLの映像の表紙に「考えるのをやめたとき、僕は怪物になった」と書いてあるように、彼等はパレスチナに派遣され、軍人として、現地での恐ろしい、悲惨な状況を見て、眼の前で繰り広げられた出来事に加担して、次第にその状況にも慣れていった。

しかし、その時パレスチナで起きていたことを、日本人の゙映画監督に心を開き、インタビューに答え語り始めたのだ。
内容は紹介したURLをクリックすれば見られる。

若い彼等が人間として復活するために「沈黙を破り」、発言して、行動に結びつけたのだ。これは彼等を追いかけ、沢山の映像と画像を発表し、世界に問い掛けた、土井敏邦監督の功績でもある。

翻って我が国、日本はどうだろう。

太平洋戦争が終わった時、生き延びて帰還した元日本兵は、長い間沈黙を守り、残された時間が短い今になって語り始めた人もいる。また、何も語らず黙って墓場まで持って行った人もいる。

どれだけ月日が経っても言葉に出来ない経験。人間が怪物にならなければ生きて行けない世界だったのだろうと思う。

今も昔も変わらない、戦場に赴き「残酷な任務を成し遂げよ」と命令されるのは、若い名もなき兵士達。命令するのは権力を握る者達。

だからこの映像を一人でも多くの人に観て欲しい。怪物ではなく、人間として生きようとした彼等の姿を、見つめて欲しい。

「護憲+コラム」より
パンドラ
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「憲法の戦後史」(予告)

2023-11-19 17:45:06 | 憲法
1. はじめに

今回の投稿は「コラム」ではありません。私は現在では、コラムを書くという日常になっていません。なので、執筆予定の「本」の予告しか、書くことはできません。あくまでも構想中の著作の予告です。

2. 日本の現状

まず、日本国の現状ですが、日本政府は、現在では、反憲法の政治をなんらの罪悪感もなく、粛々と進めています。中曽根政権からでした。憲法学が言う、立憲主義などは全く意に介さずに、堂々と憲法規定を覆して、憲法改悪を企図してきました。

現在の目立った動きは、カルト癒着問題で当事者であるくせに、一方の当事者である旧統一協会の「解散命令」を裁判所に提出しました。カルト癒着問題では、憲法違反の当事者は、二つの団体であり、一方は日本政府;自民党です。

これが「政教分離原則(憲法規定)」違反の、本来の「法律事実」です。ですが、日本国民の多くは、大学人を含めて、その意識すらありません。ここから、次の「論点」が派生してきます。

つまり、立憲主義の背景にある、近代憲法の重要な原則である、「法の支配」が蔑ろにされており、権力者などの「人の支配」になっています。

3. 「法の支配」と何か

「法の支配」の起源は古く、ヨーロッパ国家では、遥か以前から存在してきました。この原則を近代法(近代憲法体制)が継受しました。それと立憲主義との関係を、日本の憲法学は無視してきました。多分、マグナカルタが最初の起源の一つと考えられます。

「政教分離原則」の憲法規定の起源は、おそらく、近世の、ウエストファリア条約の締結時に、ヨーロッパで採択された条約ではないかと思われます。そこでは、「自然状態」の克服という提言により、これからは、主に「宗教戦争」などはしないという「社会契約論」が提唱されたのだと思います。

ところが、この「社会契約論」の提唱とウエストファリア条約が締結されたにも関わらず、日本国では、全く、明々白々に「政教分離原則」は一向に順守されていません。カルトの「解散命令」では、政教分離原則が順守されたことにはなりません。

4. おわりに

今回の「投稿」は執筆予定の「予告編」になりましたが、現在では政教分離原則違反の世界的な問題として、イスラエルによるガザへの侵攻が、ジェノサイドとして、世界的なニュースになっていて、国連は口頭で「市民の虐殺は、止めて」と言うのみであり、西側諸国も我関せずと、仲介に乗り出しません。

ウエストファリア条約はヨーロッパだけのローカルな条約であり、「自然状態」でもいいのは「中東」での問題だからなのでしょうか。再び「中世」に戻っている、世界情勢と日本国なのでしょうか。

「護憲+コラム」より
名無しの探偵
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「ヨーロッパ新世紀」欧州の福田村事件

2023-11-14 09:37:42 | 民主主義・人権
「ヨーロッパ新世紀」は、ルーマニアのトランスシルヴァニアの田舎町での「ディトラウ事件」という実話が元の映画です。
https://en.wikipedia.org/wiki/2020_Ditr%C4%83u_xenophobic_incident

映画の字幕が、ルーマニア語は白、ハンガリー語は黄色、その他の言語(ドイツ語、英語、フランス語)はピンク(3色の字幕なんて初めて観ました!)に表されるように、この地の歴史を反映して、人種も混じっています。

出稼ぎ先のドイツで「汚いジプシー野郎」とののしられて怒ったドイツ系のマッチョな男。実はこの村はジプシー(ロマ)を追い出しています。家に帰ると妻は冷ややか。ハンガリー系のインテリの元恋人に会いに行くが、やんわり断られます。

彼女はパン工場の責任者ですが、賃金が安いため村人は働きたがらず、スリランカ人を3人雇います。すると村人は、「移民が来た」と大騒ぎになり、家は銃撃され、集会では「汚い手で触ったパンは食べられない」と凄まじい偏見・差別の言葉の羅列。そしてルーマニア人とハンガリー人の反目に発展していきます。

差別される側が上位に立ちたいがために自分以下の人を求めれば、それは止まらない差別の構造です。そんな時、自分とは異質な人は、攻撃の対象にし易いのでしょう。「福田村事件」と共通するものを感じました。

世界のどこでも、自分達と異質な人を受け入れる時に摩擦は起きやすいのでしょう。グローバル化していくのは避けられない今、互いに違いを認め会いながら、人としての共通性を見出して行く力が要るように思います。言葉が通じなくても、その人には大事な家族がいるのだろうなと思う、そんなところから、互いを尊重し合う社会になりますように。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
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世界沸騰時代に対処するキーワード(1)「C3植物」対「C4植物」

2023-11-08 16:08:02 | 環境問題
「地球温暖化」危機というステージを飛び越え、次のステージ「地球沸騰化」時代に入ったとする話題が、今夏始まった。いよいよ「我々」は追い詰められたといえる。

ここで言う「我々」には、人だけが含まれる訳ではない。話題のクマも、その他すべての動物も含まれるし、蚊や蝶らの昆虫も、そして全ての植物も全ての微生物も含まれる。

即ち、地球沸騰化時代に突入するまで環境悪化を推し進め、放置してきた人の愚かさを、理不尽にも被害のみを受けている全ての動植物と全ての環境をも「おもんばかる」意識を、人が持つことが大切な姿勢と思う。

かかる観点から、「地球沸騰化」時代に対処する際に心得ておきたいキーワードを取り上げ、どちらの道を選ぶのが賢明かの選択に役立つ情報を提供してみたいと思う。

先ず、今回は「C3植物」と「C4植物」という言葉を通して、「地球沸騰化」時代における賢い農業政策選択の一視点を提供してみたい。

植物が光合成を行い、大気中の炭酸ガスを吸収し酸素を吐き出し、糖・脂肪・蛋白質等の様々な栄養素を作りだし、人を含め全ての光合成機能を持たない生物に対する食料を提供していることは、周知のことである。そして植物の持っているこの炭酸ガス吸収機能が、産業革命以降、主としてグローバルノースが化石燃料に依存する経済を拡大し世界支配を目指したことで過大に発生させた炭酸ガスの極めて有効な吸収装置になっていると捉えられていることも、周知のことである。

簡単に光合成のことをおさらいしてみる。

光合成の解明はカルビンとベンソンらの研究(1950年)から始まる。カルビン-ベンソン回路として知られる回路の存在を彼らは突き止め、光合成の機構が解明された。この回路は炭酸ガスCO2の同化吸収機構(植物の持つ炭酸同化作用とも言う)であり、グルコースやでんぷん、そして有機酸・脂肪やたんぱく質等が作りだされる出発の回路である。

このカルビン-ベンソン回路は植物の葉の維管束鞘細胞に存在しており、この回路の最初の段階を触媒する酵素(RuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、Rubiscoと呼ぶ)がそこに存在し、取り込んだ炭酸ガスCO2を、5つの炭素を持つ化合物のリブロース1,5-2リン酸(RuBPと略す)に結合させる働きを行っている。

そして一旦6つの炭素を持つ中間体を経由し、3つの炭素を持つ化合物のグリセロアルデヒド-3リン酸(3PGと略す)2分子へと変わる。この3PGと略される3つの炭素を持つ化合物が回路の最初の段階で作られることから、この回路をC3回路と呼び、この回路を持つ植物群を「C3植物」と呼ぶ。

米や小麦そして大豆などの主要な農作物と陸上植物の大半がこの「C3植物」である。

カルビンとベンソンらの研究によりC3回路とC3植物の存在が発見され、植物の持つ炭酸同化作用は明らかになったが、その後彼らの研究に触発される形で、世界各国でいろいろな植物の光合成の追試確認研究が行なわれた。その過程でC3回路とは別種の回路、C3植物とは異なる植物の存在が明らかになった。

それが、ハワイにおけるサトウキビを用いた研究であり、「C4植物」と言われる一群の植物の存在が明らかにされ、注目されるきっかけとなった。

「C3植物」との違いであるが、まずその「C4植物」の持つ「C4回路」の活動場所が「C3回路」の場所と異なる点が第一の特徴である。

即ち「C3植物」の「C3回路」は葉の維管束鞘細胞に存在すると述べたが、「C4植物」の「C4回路」の活動する場所は、葉の維管束鞘細胞に囲まれる形で存在している葉肉細胞においてである。

そして第二の違いは、葉肉細胞中に存在する酵素の働きにより、3つの炭素からなる化合物のホスホエノールピルビン酸が炭酸ガスCO2と結合し、4つの炭素からなる化合物オキサロサクサンが出来ることが異なる点である。即ち3炭素化合物が炭酸ガスを吸収して4炭素化合物に替わることでサイクルが始まることから、この一群の植物が「C4植物」と名付けられた謂れ、なのである。

4つの炭素を持つオキサロサクサンはリンゴ酸に変換され、その後、変換されたリンゴ酸は葉肉細胞から維管束鞘細胞に送られる。維管束鞘細胞でリンゴ酸(4炭素)はピルビン酸(3炭素)に戻され、その際生じる炭酸ガスCO2は既に説明した維管束鞘細胞に存在する「C3回路」に取り込まれ、以降「C3植物」で起こるのと同じ工程で各種有用栄養成分が作られていくことになる。

即ち、この葉肉細胞に存在する「C4回路」は、「C3植物」には存在していない別ルートの炭酸ガス吸収装置・濃縮装置とも言えるシステムであり、何らかの状況により炭酸ガスの利用が困難になった場合、2つのルートの炭酸ガス吸収装置を持つ「C4植物」の方が1つのルートしか持たない「C3植物」より有利になるとの予測が出てくる。この点が地球「沸騰化」時代の農業施策を考える際のポイントになる「C3植物」と「C4植物」との違いである。

以下「C3植物」と「C4 植物」の違いについて焦点を当てている文献を基に説明を進めていく。
  参考文献:植物生理学II 第9回講義(光呼吸とC4光合成)
       北海道大学農学部 環境ストレスと植物の反応
    他にも多くの文献がネット上で見ることが出来ます。

1. 炭酸ガスの有効利用性については「C4植物」の方が、「C3植物」と同じ機構がある上に、加えて炭酸ガス濃縮装置C4回路という特別装置を持っていることから優秀と言える。但し、C4回路を回転させるためには高エネルギー物質のアデノシン3リン酸ATPが余計に必要とされ、エネルギーを余分に必要とするという欠点が存在している。

2. C3植物の説明で、酵素Rubiscoが炭酸ガスCO2をC3回路に取り込む反応を触媒することから回路のサイクルがはじまると説明した。この酵素Rubiscoは炭酸ガスだけでなく、大気中のO2とも親和性があることが知られており、O2が酵素Rubiscoにより取り込まれると「光呼吸」と呼ばれる反応がスタートすることになり、植物組織内の有機化合物が酸化燃焼されエネルギーが発生利用されるとともに、炭酸ガスCO2が逆に発生することになる。いわばCO2とO2とのいずれが酵素Rubiscoに取り込まれるかは植物の置かれている環境に左右されることになる。よって現在の炭酸ガスCO2が過大に存在している地球沸騰化の局面では、C3植物は有利な環境とも言える。
 しかし炭酸ガスが過大な環境では必然的に気温が高くなっているわけで、この様な環境ではC3植物の光合成活動は抑制される、ということも知られている。それが次の3.の項目である。

3.「C3植物」と「C4植物」との決定的な違いが紹介されている。それによると
  -「C3植物」が有利な環境:湿潤・低温・日射が弱い方が好ましい
  -「C4植物」が有利な環境:乾燥・高温・日射が強くても良い
ここで日射が強く、高温で乾燥した環境が、「C3植物」に不利になる理由が説明されている。
 高温・乾燥(必然的に日射も強い)になると、植物は「葉の気孔」からの水分の蒸散を防ぐために「気孔」を閉じる方向になり、従って炭酸ガスを取り込むことが困難な方向になる。よって「C3植物」は光合成能力が低下し、高温乾燥条件下で萎れていくことになる。一方、「C4植物」は気孔の閉鎖傾向による炭酸ガス摂取力が低下するものの、それに打ち勝つC4回路という特別炭酸ガス濃縮装置を持っていることから生育が妨げられないという特徴を持っていることになる。

結論として、現在の地球「沸騰化」時代に賢く対処するには、米や小麦といった乾燥・高温・干ばつといった環境に弱い「C3植物」に偏った農業施策だけの遂行では、世界の食料安全保障は不安定な状況に導かれていく恐れが高いと言え、従って合わせてアワ・ヒエ・ソルガムといった「C4植物」の栽培を推進する農業政策が強く望まれることになる、との考えが出てくる訳です。今年も残す所2カ月を切ったが、2023年度が国際Millets年と国連が唱道している理由は、この辺りにあると言えます。

代表的な「C4植物」であるMilletsにはアワやヒエ・キビがあり、ほかにトウモロコシ・ソルガム・サトウキビ・ハトムギ等がある。

アワ・ヒエ・キビの世界の生産量は3,000から4,000万トンと言われ、国祭Millets年に関わらずそれほど拡大は起こっていないように見える。但しアフリカでは緑の革命(Green Revolution:GR)型の種子企業・穀物メジャー・肥料企業・農薬企業が先導する工業型農業が主流の状況下にあるが、その弊害が指摘され、それに代わる農業(Agroecologyという)が復興しつつある状況にあり、Milletsの生産量がアフリカで拡大する兆候が指摘されている。※Agroecologyについては次回に触れる予定。

ソルガムの世界生産量はもう少し多く6,000万トン程という。但し利用のされ方はどちらも家畜の飼料が大半で、最近バイオエネルギー関連での利用が注目されているという。人が食する場面では、美容にこだわる人や健康を重視する人が少し存在して食べているのが現状と思われる。

いずれにしてもMilletsとソルガム合わせても1億トン程度で、米・小麦・トウモロコシという主要穀物の生産量の27億トン程と比べると4%にも満たない、少ない状況である。

日本ではアワ・ヒエ・キビは現在年に200トンが流通しているだけでほぼ全てが飼料利用である。しかし文明開化以前の日本ではコメと共に主食の地位を占めていたという歴史がある。

今回「C3植物」対「C4植物」というテーマで「C4植物」の優秀性を示してきた。ことに地球「沸騰化」と言われる時代には、この「C4植物」の優秀性ということに着目することは、時代に対処していく上で重要なモノサシになると思う。

大気中の炭酸ガス量は産業革命前の250ppm程度だったのが、今や400ppmを越え、更に高まっていくことが強く予測され、そして今年が世界Millets年ということの重みに思いをはせ、賢明な対処策を世界が・国がそして個人個人が考えていくことが望まれると思う。

因みにここ数カ月アワと押し麦を主体に米は4分の1位に減らした食生活に替えて暮らしている。結構、ヨサげな感じで暮らせています。そして「エゴマ」の粒を毎朝7g程度すりつぶして食しています。こちらはDHAやEPAと同等の不飽和必須脂肪酸の摂取を狙っての食生活の智恵です。

更に、大豆は納豆(納豆は大切な食品です)の形で日に一個、それ以外の豆の摂取目的で「ひよこ豆」の煮たものを100g程度毎日食べています。大豆には大豆油が多く含まれており、農水省推奨の一日100gの豆をすべて大豆の形で食べると油分を多く取りすぎることになり、それを気にしての油分の少ない「ひよこ豆」を採用しているわけです。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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続・「ガザ地区停戦緊急行動」11/4

2023-11-07 11:30:50 | イスラエル・パレスチナ
前回の投稿(参加しました:「ガザ地区停戦緊急行動」11/4)、一部訂正しておきます。私の見える範囲で、20人単位の塊でざっと計算してみたのですが、7~800人というのは少なかったようです。

主催者発表で1600人、ある人によれば2000人はいたのでは?という事です。

上空からの写真があればもっと正確に割り出せるでしょうが、私の予想数は私の見える範囲の人ですから、確かにもっと大勢参加していたのでしょう。正確な数は把握できませんが、私の予想は過少だったようです。

ハマス攻撃に端を発した、イスラエルの報復攻撃はやはりもう止めさせなくてはなりません。それには国際世論が必要でしょう。
なぜ日本政府はハッキリした態度を示さないのか。私たち国民はこうした政府をいつまで許容しなくてはいけないのかと悔しく思います。

「護憲+BBS」「イベントの紹介」より
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オンライン署名【イスラエル・パレスチナでの「無差別攻撃の即時停止」と「医療の保護」、「人道性の回復」を】(国境なき医師団)

2023-11-06 22:32:30 | イスラエル・パレスチナ
イスラエルによるガザ地区攻撃で、恐怖に怯え、傷つき、命を落とすパレスチナの人々、とりわけ子供たちの痛ましい姿をテレビやネットで目にし、居てもたってもいられない日々が続いています。

ナチスに迫害された歴史を持つユダヤ人の国家イスラエルが、なぜ21世紀の今、パレスチナの人々に、かつて自分たちが受けたジェノサイドと同様の無差別攻撃をしかけるのか。余りの理不尽さに、人類とは争いから逃れられない愚かな存在なのかと、呆然としてしまいます。

イスラエルの存立~パレスチナとの関係等の歴史的意味や、日本が果たすべき役割、日本国憲法の存在意義などは、これからもきちんと考えていきたいと思いますが、命が無造作に、無差別に奪われている今は、虐殺行為を一刻も早く止め、一人でも多くの命を救うために、自分にできる有効な行動をなるべく多く、なるべく早くしたいと思います。

その意味から、日ごろ現地の人々に寄り添い、現在の差し迫った状況をよく知る「国境なき医師団」の署名呼び掛けに、(締め切りが明日(11/7)に迫っています!)是非協力していただくよう、(このコラムの場を借りて、)私からも皆さんにお願いいたします。

【イスラエル・パレスチナでの「無差別攻撃の即時停止」と「医療の保護」、「人道性の回復」を】(国境なき医師団)―オンライン署名
https://www.msf.or.jp/about/information/detail/20231024.html?argument=fkJbx1gw&dmai=a6542f0a7656c6&utm_source=twitter&utm_medium=display&utm_campaign=com_display_at&utm_content=com_mov0013_lp0026

署名期間:2023年10月24日(火)~11月7日(火)
***
イスラエルとパレスチナでの衝突の激化によってすでに6400人以上の人びとが亡くなっています(10月24日時点)。国境なき医師団は、紛争当事者に対し、「無差別攻撃の即時停止」、「医療の保護」、「人道性の回復」を求めます。日本政府は今年、G7の議長国であり、国連安全保障理事会で非常任理事国を務めています。皆さまの声を日本政府に届け、事態の早期沈静化およびガザ地区の人道状況の改善の必要性を国際社会に訴える取り組みを、さらに後押しする力とさせてください。
・・・
言葉が常に人命を救えるわけではありません。しかし、沈黙は確かに人を殺しえます。
——1999年ノーベル平和賞受賞スピーチにて 国境なき医師団会長(当時)ジェイムズ・オルビンスキ
***

「護憲+コラム」より
笹井明子
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