(1)棄民政策の実態
千葉県の電力不足は深刻。今回の事態ほど、現代の社会生活は、電力によって支えられているという実態を浮き彫りしたものはない。電気が無くなれば、人々はただちに【生存の危機】に陥る。その事を象徴的に示してくれたのが、今回の千葉県での電力危機だ。
「先憂後楽」という言葉がある。
※(北宋の忠臣范仲淹の「岳陽楼記」の「先二天下之憂一而憂、後二天下之楽一而楽」によることば) 憂うることは人に先だって憂い、楽しむことは人に遅れて楽しむ。忠臣の国を思う情。・・・精選日本国語辞典
要するに、君主は民が心配する前に心配し、民が楽しんでからその後に楽しみなさい、という君主の心構えを説いた教え。東京の「後楽園」、岡山県の「後楽園」(日本三名園の一つ)、いずれも、この言葉より採っている。
江戸時代以来、日本の政治家は、建前であったとしても、「先憂後楽」の精神を口にし、実践しようと心掛けてきた。こういう教えは、口にする事が重要。なかなか実践できなくても、日ごろから口にしておけば、自らの言動に対する「歯止め」にはなる。
ところが、「先憂後楽」の教えの正反対の行為をするのが、安倍政権とその仲間たち。千葉県を中心に甚大な台風被害が深刻化するなか、災害対応そっちのけで改造人事にウツツを抜かしていた。
昨年7月の西日本豪雨災害の時も、「赤坂自民亭」での飲み会に興じていた。結果、初動が遅れ、大方の批判を浴びたが、今回も同様。気象庁からは、「世界が変わる」ような被害が出る可能性があるという警告が何度も出されていた。それにも関わらず、能天気な判断で、内閣改造を行い、小泉進次郎フィーバーを政権浮揚に徹底的に利用した。
メディアもメディアで政権の思惑を承知の上で、進次郎フィーバーを演出した。それでいて、関東への台風直撃に対して、官邸での対策委員会すら設置していない。
菅官房長官は、17日の定例記者会見で初動の鈍さを指摘されると、「政府一体となって警戒態勢を確保し、対策を進めている。台風上陸前から迅速、適切に対策を行った。(上陸後は事務レベルの)関係省庁災害対策会議を5回も開催している」と強弁した。彼には反省の二文字はないようだ。
たしかに「先憂後楽」の言葉は、儒教的で古いかもしれないが、その精神は古びていない。為政者は、民の心配を先取りし、民の幸福を希求しなければ、為政者としての資格も存在価値もない。TBSの報道特集で金平記者は、【棄民政策】だと批判していたが、当然だと思う。
国民の命と安全を軽視する安倍政権の体質は一向に変わっていない。これがファッショ政権の特徴だ、と言えば、そうなのだが、いよいよ後戻りできない地点まで来たな、というのが率直な感想である。
実はこの体質は東電にも色濃く表れている。危機管理の鉄則は、「最悪を想定して準備する」ことにあるが、今回の千葉県の電力復旧の遅れは、東電の「危機管理」の認識の甘さを如実に示している。
福島原発事故の時も東電の事故想定の甘さが問題になったが、今回もその体質は全く是正されていない事が明らかになった。
日本を代表する企業から次々と噴出するあまりにもお粗末な対応を見れば、弱者の声を真摯に聞こうという姿勢が、完全に欠落している事が良く見える。現在の日本を象徴する「病根」である。
それは、安倍が改造内閣の最重要課題と位置付ける「社会保障改革」にも如実に表れている。
・・・安倍は11日の組閣後会見で、社会保障改革の司令塔として新設する「全世代型社会保障検討会議」の設置を表明していたが、さっそく20日に初会合が開かれる予定だ。
検討会議では、「全ての世代が安心できる社会保障制度」のあり方を議論するというが、読売新聞(12日)によれば、主な検討課題には年金、医療、介護の分野で苛烈な国民いじめメニューがズラリだ。
▽年金受給開始年齢引き上げの選択肢を拡大
▽短時間労働者の厚生年金加入
▽後期高齢者の窓口負担引き上げ
▽少額の受診でも一定額の負担を求める「受診時定額負担」の導入
▽介護保険サービスの自己負担引き上げ
▽軽度の要介護者に対する保険給付抑制
これだけざっと並べてみても、社会保障改革の実態が、国民負担をいかに拡大させるかという一点に尽きることが分かる。各分野の負担を引き上げる一方で、給付は抑制するという話でしかないのだ。・・・・日刊ゲンダイ
要するに「全世代型社会保障」などという口当たりの良いネーミングを持ち出したと言う事は、その内容はろくでもない事の裏返し。
この政権は、言葉で国民を騙すことに専念している。政権幹部は、官僚の存在意義は、いかにして国民を騙す手口と言葉を編み出すかにある、と考えている。
戦後すぐの官僚たちには、自分たちが国を背負っているという気概が感じられたが、そのような骨のある人材は、安倍政権下では決して出世しない。
(2)米国の日本収奪計画の歴史的経緯
歴代自民党政権、特に、小泉政権以降の【清和会】政権、なかんずく、安倍政権下で、米国が、どのように国民を貧困化し、奴隷化し、日本を後進国に転落させる政策が実施されたかを検証すれば、この政権が国民生活の向上や安寧のために存在するのではなく、米国支配のために日本の国富を提供している真の意味での【売国奴政権】である事がよく理解できる。
① 1985年 プラザ合意
(原因)米国の双子の赤字 (財政収支、経常収支)
(解消)円の切り上げ 1$=235円 ⇒ 1$=120円台
このため、日本経済は一時的に円高不況に陥る。
対処方法として、日銀が低金利政策などの金融緩和を打ち出す。結果、投機が加速。空前の財テク・ブーム。
(結果)1980年代後半のバブル経済や、その後の長期間におよぶ景気低迷のきっかけになったと言う説もある。
② 包括貿易法スーパー301条 =貿易制裁を決めている法律
※通商法301条
https://kotobank.jp/word/%E9%80%9A%E5%95%86%E6%B3%95301%E6%9D%A1-1822622
プラザ合意にも関わらず日米の貿易不均衡は解消しなかった。パパブッシュ大統領は、スーパー301条適用をちらつかせて、日本の構造改革、内需拡大、市場開放を迫った。⇒基本的に言えば、米国の日本に対する【内政干渉】
↓
●1989年9月 日米構造協議
●1990年6月 日米構造協議最終決定
当時の海部内閣⇒米国の内政干渉に屈服⇒
🔷10年間に430兆円の公共投資⇒関西新空港、東京湾横断道路、東京臨海部開発など
🔷大店法改悪⇒トイザラスをまもるため ⇒ 後にシャッター商店街を作る最大の原因になる
●1994年 村山内閣時 ⇒米国の要求で 公共投資200兆円積み増し
この一連の外圧に負けた日本政府の対応は、これ以降の日本経済に大きな影響を与える。
🔷財政赤字の拡大⇒10年間で630兆円に上る財政出動を行うためには、どうしても財源が必要になる。
ところが、日本は、バブル崩壊後、財政逼迫に直面する。財務省や政府は、上記の対米公約実現のため、「景気刺激」の口実で地方財政を使うことを考えた。特例枠を設け、地方の借金を奨励。単独の公共事業を乱発させた。
⇒この結果、大阪府のような放漫財政に陥り、地方自治体が借金漬けになり、地方の疲弊が決定的になった。
現在でもそうだが、財務省や政府の言い分を聞いていると、いかにも「財政赤字」は国民全ての責任であるかのように語るが、そんな事はない。これは、米国の「内政干渉」に負けた政府や官僚の失政が原因。太平洋戦争に負けた時、国民の手で「戦争責任」の追及をしなかったばかりか、「一億総懺悔」のスローガンのように、国民に責任を拡散する日本の支配層の無責任体質そのものである。
🔷一連の貿易摩擦交渉で日本が失った最大のものは何か
日米構造協議で失った日本の国益で最大のものは何だったか。これこそ、米国の最大の狙いだった。
現在ファーウェイ問題で露呈している、次世代をリードする技術開発を巡る激しい主導権争いが象徴しているように、米国の最大の狙いは、日本の国家予算をIT技術をはじめとする技術開発や普及に使わず、「箱もの」を中心とした公共事業に使わすことで、日本の最大の強みである「モノづくり」「技術開発」にストップをかけ、国際競争力をダウンさせるというものだった。
日米構造協議で同意したものをチェックするために、三年ごとにフォローアップ会議をすることも決まっていた。米国は、この会議を通じて、日本が米国の深刻な競争相手にのし上がらないように監視していたと言って良い。
この決定には、公共事業を地元に誘致する事により、自らの地位と権力とお金を手にできる政治家どもの賛成が背後にあった。
悪名高い【土建屋国家】の成立は、同時に日本経済が国際競争力を失い、世界の【後進国】に転落する最大の要因でもあったのである。
③ 年次改革要望書による日米規制改革会議
1993年 宮沢・クリントン会談で決定
【表向きの内容】
日米双方が「要望書」を提示し、それを話し合う形態になっている。
【実態】
米国が一方的に日本に押し付ける政策命令。
米国の要求は、通信、医療機器・医薬品、金融、エネルギー、流通などほとんど日本の全分野を包含するほど多岐にわたっていた。しかも、法律業務や、競争政策の変更など、完全な内政干渉とも受け取れるものが多く含まれていた。
🔷90年代⇒「商法」改正を要求
・米国型企業統治の導入(現在、日本の会社でも社長と言わずにCEOなどと呼んでいる)
・株式交換型(M&A)の解禁⇒日本企業の買収をやりやすくする
・独占禁止法の罰則強化 ・公正取引委員会の権限強化 ⇒NTTなどの巨大企業を規制し、米国企業が参入しやすくする
・郵政民営化
・司法制度改革
↓
🔷日本政府が行った改革
・97年 独占禁止法の改定 持ち株会社解禁
・98年 大規模小売店舗法(大店法)廃止⇒大型店出店野放し⇒地方の小売店が倒産⇒地方の疲弊化促進
・98年⇒建築基本法抜本改正⇒災害大国日本の建築基本法は、諸外国より厳しい。⇒仕様規定から性能規定へ⇒災害における家屋被害増大の一つの要因
・99年⇒労働者派遣法改悪で人材派遣を自由化⇒非正規労働者を増大⇒終身雇用制度崩壊⇒不安定雇用拡大⇒若い世代の貧困化⇒技術伝承の断絶⇒少子高齢化の大きな原因になる。
🔷米国は、「年次改革要望書」の実践過程に厳しく目を光らせ、日本が米国の要求に沿うような顔をして、ネグレクトする事を許さなかった。
🔷郵政民営化
・2001年⇒小泉―ブッシュ間で、今後「日米規制改革イニシアティブ」の名で年次改革要望書の発行を継続すると決定
当時、小泉首相は、【聖域なき構造改革】を絶叫していた。要するに、米国さんの要求通りにしますという意思表示。⇒米大統領と親密な関係とはそういう意味。これは現在の安倍首相も忠実に実行している。
・2003年段階⇒日本郵政公社発足
・2003年の年次改革要望書⇒04年までに郵政民営化計画を作成するように要望
⇒小泉政権は郵政民営化の制度構築に狂奔
・2004年6月 【骨太の方針】(経済財政諮問会議)発表⇒郵政民営化盛り込む
・2004年9月 郵政民営化閣議決定
・2005年8月 郵政民営化法案⇒参議院で否決
↓
・小泉首相⇒「自民党」をぶっ壊す、と叫び、郵政解散を決行⇒反対者に刺客を投入、メディアの関心を引き、郵政民営化反対勢力を【抵抗勢力】と位置づけ、メディアと一体で、選挙に勝利した。
↓
米国の要求を忠実に実行する事により権力を維持する【隷属構造】が定着した。
🔷次のターゲット
・農協・漁協などの相互扶助組織がおこなってきた金融・共済の解体
・日本の医療制度や国民皆保険制度の破壊
🔷さらに、安倍政権への要望
・2016年3月 「アベノミクスの中心転換経済成長に不可欠な新しい構造・規制改革」という提言発表=米日経済協議会(USJBC)
↓
・関税・非関税措置の撤廃 ・法人税率25%へ引き下げ
・働き方改革 ・統合リゾート推進法(カジノ法案)
④ 軍事・政治問題の対日要求(系統的、段階的要求)
●アーミテージレポート(全4回)
🔷2000年 第一次レポート
・集団的自衛権の行使容認 ・有事法制の国会通過 ・米軍と自衛隊の施設共用と訓練の統合・PKF本体業務への参加凍結解除・ミサイル防衛に関する日米協力の拡大・秘密保護法制定 などの要求
※
http://www.asyura2.com/07/war88/msg/830.html
☆日本の実行
・2001年⇒PKF本体への参加凍結解除 ・2003年⇒弾道ミサイル防衛システム導入決定 ・2004年⇒有事関連七法決定
🔷2012年 第三次レポート
・原発再稼働・TPP推進・日韓「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)締結・新たな安保法制の制定・武器輸出三原則の撤廃などを要求
※ 日本国憲法の改正も要求している
第三次レポート邦訳全文
https://ch.nicovideo.jp/iwj/blomaga/ar90847
☆日本政府の政策
・特定秘密保護法の成立・武器輸出三原則の撤廃・原発再稼働・安保関連法成立・TPP関連法成立・日韓GSOMIA締結(2016年)など
↓
米国の要求を完全に丸のみ
🔷第四次レポート アーミテージ・ナイレポート
・日米統合部隊の創設・自衛隊基地と在日米軍基地を日米が共同使用可能にする基準緩和
↓
自衛隊を丸ごと米軍参加に組み込む。日本全土を米軍基地化する目的
※
http://www.nd-initiative.org/research/6411/
(3)結語
ざっと俯瞰してみただけだが、小泉政権以降の「構造改革」と言う名で日本を米国の属国にする米国の戦略は、このように最初は強引に、日本国民の反発が強まると、日本政府が自主的に「改革」を進めたと見えるように秘密裏にそれでいて着実に行われてきた。例えば、「年次改革要望書」の存在そのものすら秘密にされていた。
このように、「年次改革要望書」や「アーミテージレポート」に代表される米国の内政干渉そのものと言って良い要望が着実に実行され、日本の富の収奪が行われてきたのである。
米国の日本に対する「改革要望」は、読んでもらえば一目瞭然。「新自由主義的改革」の押し付けに尽きる。
ベネズエラ問題:中南米の歴史(特にチリ)で触れたように、米国は中南米経済を新自由主義経済に染め直し、その富を収奪してきた。
※ベネズエラで進行している米国によるあからさまな政府転覆計画
小泉政権以降の日本は明らかに米国の収奪の主要ターゲットにされ、その結果、貧富の差、貧困化の進展が加速してきたのである。
現在の日本で安倍首相や小泉純一郎のように【改革】【改革】を強調する政治家は、99%米国の提灯持ちだと考えて間違いない。
小沢一郎や鳩山由紀夫が失速したのも、上記の文脈で見れば、当然だと言える。彼らは、「米国の隷属化」を拒否した政治家であり、米国から見れば「敵性政治家」と言う事になる。だから、彼らは嵐のような攻撃を受けたのである。
何故、安倍晋三のような政治家が権力を持ち続けられるのか。彼らは、民主党政権の失敗から深く学んでいる。米国の意図に逆らうと権力の座から追い落とされる。どれほど、国民から恨まれても良い。宗主国米国のご機嫌さえ損なわなければ、権力の座に座り続けられる。
米国からすれば、安倍晋三のように自ら進んでポチになる権力者ほど都合が良い。なんでも言う事を聞くのだから、何も気を使う必要もない。能力がないのだから、こちらの意図を見抜かれる危険性は少ない。おまけに度胸もないのだから、気づかれても脅しあげればどうにでもなる。
日本国民の事などどうでもよい。米国の言う事さえ聞くのなら、権力の座に据えておこう。おそらく、米国の腹はそんなところだろう。
両者の思惑が一致して、6年の長きにわたる安倍政権の存続があった。この結果、日本は、見事に先進国から滑り落ち、先輩たちが営々として築き上げた国富も米国に根こそぎ収奪されている。
今や安倍政権には、【棄民政策】を取る以外方法が残されていない。メディアは、「大本営発表」をするどころか、国民騙しのニュースを流す以外能がない。戦前のメディア以上の骨のなさ。大メディアの現状は救いがない。
もう数年もすれば、日本はぺんぺん草も生えない国家に成り下がる事は明らかだろう。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水