イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票で離脱派が勝利した。世界中の政府・メディアが注視したが、大方の予想を覆す投票結果だった。日本への影響は甚大で、円高は一時100円を切り、株価は一万五千円を割り込んだ。リーマンショックもそうだったが、こういう大変動時、世界経済の中で一番割を食うのが日本。まあ、これも当たり前で、対米従属一点張りの日本政府・外務省・財務省の国際性の無さがこういう大変動時への対応力を喪失させている。
特に株価の下落による年金の損失は甚大で、今回の下落前の損失が約5兆円。今回の大暴落で、損失額はその数倍に膨らんでいるはずだ。この事に触れないメディアや評論家など存在に値しない。
※(GPIFの年金資金、たった1日で約3.6兆円も消えた!イギリスショックで日経平均株価が1286円安!玉木議員「対策をするべき」
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-12205.html
2016.06.25 21:00 情報速報ドットコム )
日本での大方の見方は、EU残留派の主張に即したもので、スコットランド独立投票と同様に、なんだかんだ言っても、最後は残留派が勝利するだろうというものだった。
ところがそうはならなかった。
わたしは、23日の「サロン・ド・朔」の会合に出席し、よく24日に帰郷したのだが、倉敷駅で、EU離脱の号外が配られていた。多くの人が受け取っていたが、この投票結果をどう受け取れば良いのか、みな戸惑っているように見えた。わたしには、この戸惑いの表情が、現在の日本や日本人が置かれている世界的立場(国際性の喪失)を象徴しているように思えてならなかった。
たしかに、ニュースとしては、多くの国民が、英国の国民投票を知っている。しかし、株の乱高下や円高・円安の要因としての英国の投票は知っているが、一体全体何故このような投票が行われるのか。それよりも何よりも、そもそもEUとは一体何なのか。EUと英国の関係性は何なのか。歴史の中でのEUの意味とは何なのか。多くの人は、あまり良く知らないし、関心もそんなにないだろう。まして、EU離脱のニュースが何故号外になるのか、などは、ほとんど関心の外だろう。欧州や米国の人々の関心などは、日本人からすれば、ほとんど異次元のものだと言わざるを得ない。
この日本人の国際性の無さは、政府自民党のあわてぶりによく表れている。昨日からの安倍首相の演説、公明党山口代表の演説がその事を象徴している。彼らは、『こういう大変動の時こそ、政治の安定が必要』とのたまわっている。一言も株価の下落によるGPIFの損失(※一説には15兆円超)には触れない。中には、安倍首相が今回の離脱劇を予感していたなどと持ち上げるバカもいる。もし、それが予見できたのなら、GPIFに指示して、年金の下落を防ぐ手立てを講じていて当然である。それもしていなくて、何が予見か。馬鹿も休み休み言えと言う話だ。
英国のEU離脱による円高や株価下落は、市場のリスク要因というだけではなく、日本経済のリスク要因として備えておくのが為政者としての常識。最悪の事態に備えた手段を用意しておくのも常識。国民の虎の子である135兆円にもなる『年金』のリスク管理などイロハのイ。それすら何も出来てなくて、何を威張っているのか。本当に度し難い馬鹿としか言いようがない。
政府が国民に語るのなら、政府は最悪の事態に備えて、GPIFによる年金のリスク管理はきちんとしている。離脱派勝利による損失は最小限に抑えられたので安心してください。さらに英国で展開している日本企業の活動に対しても、最小限の損失で収まるように事前に手段を講じているので、安心しなさい、というメッセージだろう。それも、きちんとした数値と方法を提示しておこなうのが、最低限の政府の義務だろう。
つまり、政府の『国際性』とは、今回のような場合のリスク管理を伴うものである。これが「驚いた」「予想を外れた」などというのは、言語道断。正確で的を得た政策を打つために、外務省があり、多くの国際会議があり、政府間交渉があり、その為に多数の人員が働いているはずである。それにかかる費用も莫大。それでも、今回のような事態に備え、的確な手立てを講じ、被害を最小限にとどめる事ができれば決して高くない。それを「驚きました」「予想に反した」などというのは、個人の言い訳なら許されるが、政府としては決して許されない。
最初に紹介した安倍首相・山口代表の言葉にも唖然とするが、菅官房長官の『増税を見送って良かった。政策判断として正しかった』などという感想は、論外。ただ,運が良かったなどと言う程度の認識で国の舵取りをされたらたまらない。
★そもそも、何故英国は国民投票をしたのだろうか。世界の支配層の間では、キャメロン首相の選択を疑問視する声が多い。(日本でも、日本テレビの橋本五郎などその筆頭)
「英政府が今回、国民投票を行った理由」
①EUの先導役であるドイツとフランスが、EUの政治統合を加速しようとしている。⇒これは、EU加盟各国の国家主権(財政や安保などに関する議会の決定権)を奪う事になる
②英国の上層部には、EUに参加して国家主権を剥奪されることに反対する勢力が以前から存在する。(※特に保守党)⇒EUに残留して、国家主権を剥奪されるのを是とするか否とするか、国民投票に問えと主張⇒キャメロンは彼らの主張を抑えるため、国民投票に合意。2015年に2017年末までにEU残留の可否を問う国民投票を実施する法律を作った。⇒このキャメロンの見通しが甘かったというわけである。
★英国の過去の国家戦略
英国は、他のEU加盟各国と違い、EUを利用して、自国の都合のよいやり方を貫いてきた。独仏が主導する国家統合(国権剥奪を意味する)に参加はしているが、ユーロを通貨として採用していない。シェンゲン条約(国境検問をなくす)にも入らない。このように、うまいこと国権を残したまま、EU中枢部の政策決定に関与して、英国に都合の良い戦略(対米従属やロシア敵視など)を欧州にとらせてきた。これは、米国にとってもきわめて重要で、英国を窓口にして、EU中枢部の政策決定に影響を及ぼしてきたのである。英国外交戦略の大目標は、ドイツの台頭や欧州の対米自立(親露化)を防ぐため、EUを腑抜けにする事である。
その為、英国はEUの国家統合には賛成ではないが、戦後米国の方針はEUの国家統合に積極的であり、表だって反対できなかった。だから、国家統合には参加しながら、英国独自のスタンスを貫き、存在感を発揮してきた。大英帝国の伝統を引き継ぐ見事な大人の外交戦略を駆使してきたと言ってよい。
このように英国のEU戦略には、裏表がある。だから、英政府は国民投票などやりたくないというのが本音だった。しかし、イラク戦争後の米国の覇権後退。それを見た独仏は、EUの欧州統合(対米自立)を加速し始めた。ブレアのイラク戦争参加戦略の失敗もあり、英国は表立って欧州統合に反対しづらくなってきた。
★今回の国民投票でEU離脱派が勝利したのは、英国の国家戦略が大失敗に終わった事を意味している。
その理由の一つに、金融の中心シティの動向がある。欧州中央銀行を中心に国際的な金融取引に課税する計画がある。さらに、パナマ文書で明らかになったタックスヘイブンの問題がある。タックスヘイブンの多くが、かっての英領植民地である事からも明らかなように、このような問題にロンドンのシティが深くかかわっている。欧州統合がこれ以上進展すると、EUの金融ルールが適用され、シティの儲けが減少する。それだけではない。タックスヘイブン問題なぢで、道義的責任も追及の対象になりかねない。シティは表だってEU離脱は叫ばなかったが、どうやら積極的に残留支持にも動かなかったのではないか、と言われている。
★独仏はどう動く
昨日早速EUの声明が出た。他の加入各国に影響が出るので、英国は離脱手続きを急ぐようにというものだった。この声明に象徴されるように、おそらく独仏は、欧州統合=【国家統合】を急ぐつもりである。
もともと、EUの中枢部(独仏中心)には、米国の軍産複合体と結びつき、無理な東欧諸国の加入やウクライナ危機、ロシアとの緊張関係の増幅、米国と組んだトルコのエルドアンの移民放出作戦の許容など英国に対する不満が高まっていた。だから、英国のEU離脱は渡りに船。間違いなく、独仏は欧州統合【国家統合】を急ぐ方向に舵を切る。さて、英国はどう対処するか、みものではある。
★米国の動き
米国は今回の英国のEU離脱決定に大きな衝撃を受けており、きわめて不快感に包まれているだろう。あまり知られていないが、アメリカ国立公文書記録管理局で発見されたCIA文書に、EUはCIAの構想であり、狙いは、アメリカ政府がヨーロッパに対する政治的支配を行うのを容易にすることだ、と明確に書かれている。アメリカ政府にとって、28の個別の国々を支配するより、EUを支配するほうがずっと容易である。しかも、もしEUがほころび始めれば、アメリカ政府の侵略にとって必要な隠れ蓑であるNATOもほころびる可能性が高い。
米国から見ると、EUはアメリカ政府と1パーセントの支配者のために存在するものであり、他の誰のためのものでもない。イギリス人、フランス人、ドイツ人、イタリア人、ギリシャ人、スペイン人、そして他の全ての国民を、国民として消滅させるのが狙いである。全てがEU人であり、米国はEU政府と交渉すれば、全てに決着がつけられる。きわめて合理的であり、無駄な時間や労力を節約できる。
この視点から、TTIPやウクライナ問題、トルコ経由の難民流入問題などを眺めると、米国の壮大な戦略が見えてくる。現実にEUのリーダー層・官僚などは、明らかに米国戦略の意図通りに動いている。これは、日本の官僚が米国の意図を受けて動いているのと同じ構図である。
日本人はあまり考えていないようだが、西側経由のウクライナ問題などのニュースなども相当なバイヤスがかかっている。この事を考慮に入れて世界の動きを注視しないと、世界の孤児になる可能性が高い。
こう見てくると、今回の英国のEU離脱は、米国にとってかなりのダメージであり、その修復には相当な時間がかかると思われる。
★ロシア・中国の動き
ロシア・中国も英国のEU離脱を固唾をのんで見守っていた。プーチンと習近平は早速会談し、足並みをそろえて今後の世界情勢に対応するようだ。ロシアと中国は、自国通貨での決済を拡大すると北京訪問中のプーチン大統領が、明らかにした。
・・さらに、中国は、25、26日に北京で開かれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の第1回年次総会を開催した。当初、AIIBは57国参加を表明。(日本と米国は不参加)現在は、他に30ケ国が参加表明している。今回の年次総会では世界各国の元首や首相などの要職の経験者10人程度で構成する「国際諮問委員会」が設置される見通しで、金立群総裁が人選に奔走。これで中国主導との批判や透明性にも一定の評価が与えられるだろう。
また、「ロンドン、ニューヨーク、フランクフルトといった金融センターに資金調達を担う拠点を設ける」と既に発表しているが、東京が資金調達から外されている印象を世界のマーケットに示している。既にAIIBは、ADBや、欧州復興開発銀行(EBRD)、世界銀行とも協調融資の協議は進んでいて日本包囲網は出来つつある。伊勢志摩サミットの経済合意とは一体何だったのか。
・・・・・政界地獄耳 AIIBの日本包囲網
http://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1668335.html
2016年6月25日9時19分 日刊スポーツ
◎英国のEU離脱をどう見るか
今回のEU離脱の大きな理由に移民、難民問題を取り上げる解説が多い。EU域内(特に東欧諸国)の安い労働者の流入が、英国労働者の仕事を奪い、賃金を安くしている。同時に、毎日毎日テロにおびえるのはまっぴらだ、という心理的理由もある。この反移民・反難民感情はあるだろうし、無視できないかも知れない。しかし、今回のEU離脱の要因を移民・難民問題だけに限定して考えると大きく間違うだろう。何故なら、この種の報道や解説には、『差別主義』は良くない、という前提がある。『差別主義』に公然と賛成する人は少ない。この傾向に則り、EU離脱派を貶めるというプロパガンダに使われている場合が多いからである。これは、米国のトランプ現象やサンダース現象の場合にもよくつかわれた手法である。
では最大の要因は何か。『反グローバリズム』ただ1点である。EUに対するCIA文書で明らかなように、EUの『欧州統合』は明確な国民国家消滅プログラムである。マルクスの国家消滅理論は、人間に対する国家障壁消滅理論であり、人間に対する愛情が根底にある。
ところが、CIA(ネオコン)が計画する国民国家消滅は、米国一国支配の合理化のための計画であり、各国や各国民の紡いできた歴史や伝統に対する何の敬意もない。ただ、1%支配層の支配の合理性追求のための手段である。
今回の英国のEU離脱は、その指導者たちが、このような米国の狙いを熟知したうえで行われていると見るのが至当だ。つまり、米国内の米国一極主義者(ネオコン連中)と多極主義者の争いの代理戦争だと考えた方が良い。
米国と言い、英国と言い、『大衆の反乱』とでも呼ぶべき現象が起きている点に注目すべきである。新自由主義理論に基づいた経済政策の拡大により、貧富の格差は、もはや看過できないまで拡大している。さらに、この経済格差は、国家間の経済格差の拡大につながり、世界の不安定要因になっている。
最近のEUは、憂慮すべき情況にある。覇権後退が加速している米国は、EUが対米自立しないように全力で邪魔をしている。(※最近の日本の政治情況と酷似している)軍産複合体やネオコン連中は、NATOを使いロシア敵視政策を延々と続けている。
米連銀(FRB)は、欧州中央銀行(ECB)にQE(債券買い支え)やマイナス金利をやらせ、米国金融システムの延命に協力させている。(※これもまた黒田日銀の金融政策と同じ)
最近とみに独裁化したトルコのエルドアンに入れ知恵をして、難民を欧州に流入させる方策を取らせたのも米国。(※シエンゲン条約の空洞化)EU中枢部はトルコを嫌っているが、米国の圧力に負けて、エルドアンに寛容にならざるを得ない。
このように見てくると、今回の英国のEU離脱劇。米国の圧力に抗しきれなかったEU諸国(独仏など)中枢部にとって絶好の機会になるかもしれない。欧州統合を急ぎ、対米自立の方向を確立すれば、現在のEUを悩ましている多くの問題の解決の方向が見えてくるかもしれない。
しかし、現在のEUの情況に不満なのは、何も英国だけではない。多くのEU諸国にも不満が渦巻いている。その為、英国の離脱劇のドミノ現象が起きるかもしれない。
このように見てくると、以前にも指摘した事があるが、覇権力が衰退している米国の「悪あがき」が諸悪の根源である事が分かる。個人でも組織でもそうだが、覇権力の衰退期は、過去の栄光を取り戻そうとして無理をする。この無理が、周りにかかる迷惑を倍増する。この迷惑が、周囲の混乱を増幅する。
現在のEUの混乱は、日本の混乱と同根である。英国のEU残留を期待し、当然のこととした勢力は、米国一国覇権を当然と考える勢力である。彼らの思考はそこで停止しているので、今回のような予想外の出来事に対処できない。
ただ、英国でも米国でも現在の世界の理不尽な秩序に対する大衆の反乱が際立ち始めた。その点だけが、日本の情況と決定的に相違する。今回の株価の大暴落を契機にして、年金喪失を徹底的に追及し『大衆反乱』情況を現出すれば、安倍ファッショ内閣を追い詰める事は可能である。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
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