昨日、危険タックルで批判を浴びた日大DL(ディフェンス・ライン)の選手が、謝罪会見をした。名前も公表し、顔もさらしての謝罪だった。
弁護士の付き添いがあったとはいえ、20歳前後の若者にとって、それこそ清水の舞台を飛び降りるような決断だったろう。多数の報道陣の前に立つのは、針の山を登るような気分だったに違いない。
それでも、彼は「誠心誠意」自らの行為を詫びた。同時に、日大アメフト部の監督・コーチの悪口は言わなかった。たとえ監督・コーチの指示であっても、それを断らなかった自分が悪い、と言い切った。安倍晋三が口癖のようにいう「真摯で丁寧な説明」とは、こういう謝罪会見を指す。
そして、アメリカンフットボールを辞めると言い切った。彼は、日本代表に選出されている優秀な選手。高校からやり続けてきた生き甲斐でもあったと思われる選手生活を断念したのである。自分には、アメフトの選手を続ける権利はない(資格がない)という意味の事を語っていた。
会見を見ていたわたしは、久しぶりに真摯で懸命で心のこもった言葉を聞いたような気がした。おそらく、会見を見たり聞いたりした人の大半は、彼の反則行為それ自体は許せないが、人間としての彼を心の中で許したのではないか、と想像する。
謝罪とは本来そういうものだろう。彼の犯した行為は許されるものではないが、それを心の底から悔い改めた彼の姿は潔く、本当に美しかった。人間、様々な迷いや悩みや苦しみを断ち切った生身の自分の裸の姿を正直にさらけ出した姿は美しい。
それに引き換え、日大の内田監督の姿は、醜い。彼は、日大のNO2の実力者だそうだが、権力意識丸出しの姿を見せた。
昔、日大闘争というものがあった。当時の理事長はたしか古田といったはずだが、彼も誰もが認める絶対的な権力者だった。日大闘争の大きな原因の一つに古田氏の強権的大学運営があった。
どうやら、現在も同様なようだ。現在の理事長田中氏は相撲部の監督。NO2の内田氏もアメフトの監督。彼らのかっての大学体育会的陰湿で、強権的な運営方針には、多くの不満がたまっているようである。日大闘争から50年有余。いまだ日大の体質は変わっていないのかも知れない。
今回の問題だけではない。ここ数年、数多くの企業の不祥事、官僚の不祥事、政治の不祥事があった。その度に、彼らの謝罪会見を何度も見た。しかし、今回の日大宮川選手ほどの真摯さ、正直さ、心からの謝罪の言葉は聞いたことがない。特に、財務省の佐川氏、経産省の柳瀬氏。彼らの嘘と詭弁だらけの謝罪を聞いていると、人間に絶望する。人間、才能と道徳性(倫理観)は一致しないという典型である。
昔は「亀の甲より年の功」と言って、年輪を重ねた人間にはそれなりの重みがあり、知恵があり、人間としての深みと味わいがあった。しかし、謝罪や言い訳や屁理屈や詭弁を弄する彼らを見ていると、文字通り【馬齢を重ねた】という表現しか思い浮かばない。長年、権力の座に胡坐をかいていると、人間として腐敗し、退化するという証明のようなものである。ここでも【権力は腐敗する。絶対権力は絶対腐敗する】という法則が生きている。
まして、安倍晋三をはじめとする政治家ども。【信なくば 立たず】だって。「よく言うよ」としか言いようがない。安倍政権になって顕著な傾向だが、全ての言葉が表面をなぞるだけのただの言葉になった。平家物語ではないが、彼らの言葉は「ただ風に舞い散る」羽のように軽い。
謝罪の言葉のように、心の底から絞り出し、身を削るような思いが相手に伝わらなければならない言葉ですら、謝罪の言葉を言えば済みだ、という心根が透けて見える。否、これで誤魔化せた、という卑しい心情が透けて見える。
もはや日本国民の大半は、彼らの言葉を信じていない。国民の大半が白け切って彼らの言葉を聞いているのに、平然と馬鹿丁寧に「真摯に丁寧に説明する」と繰り返す。彼らに良心があるのか、という話である。
それに比べて、若い日大選手の真摯な事。文字通り、「泥沼に蓮」である。汚れ切った大人や政治家どもは、彼を見習った方が良い。
良心も何もかも売り払って、ただ「権力」にしがみつく。「権力維持」だけが自己目的になっている。この情けない姿が日本の政治家の姿であり、安倍政権の正体である。
ファッショ政治・独裁政治は、必ず腐敗する。なぜなら、そういう政権は、必ず【権力維持】が自己目的になる。「権力維持」が自己目的になった政権は、政治に対する理念(志)を喪失する。志(理念の)ない政権は、全ての言葉が政権維持の道具にならざるを得ない。こうなると、当然の事だが、彼らの行う政治は自らの延命のための権力行使になり、品格・品性を欠く。要するに政治が「野郎自大」になる。これはやくざやマフィアの統治と何ら変わらない。
若い日大選手の謝罪の言葉を聞きながら、道徳教育を受けなければならないのは、内田監督をはじめとする指導者であり、安倍首相を始めとする政治家・官僚どもだとつくづく思った。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
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