老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「朝日訴訟」判決の現代的意義と問題点

2022-03-31 21:33:38 | 憲法
1,はじめに

最近の憲法教科書では、憲法学者が若くなったのか、昭和32年(1957年)の朝日訴訟は割愛されているようだ。しかし、彼らはこの憲法訴訟を軽視していると思う。なぜなら、「朝日訴訟」最高裁判例は、現在の「生活保護法」の法的な指針であり、先例として、未だに大きな規範として影響力を持っているからである。憲法学の劣化を指摘しておく。(因みに、私はこの時は8歳であり、日本は未だ貧しかったと記憶している。)

2,訴訟の概要

結核患者である原告の朝日茂氏は、日本政府から1か月600円の生活保護による生活扶助と医療扶助を受領して、岡山県の国立岡山療養所で生活していたが、月々600円での生活は無理であり、保護給付金の増額を求めた。

1956年、津山市の福祉事務所は、原告の兄に対し月1500円の仕送りを命じた。福祉事務所は、同年8月分から従来の日用品費(600円)の支給を原告に渡し、上回る分の900円を医療費に一部自己負担分とする保護変更処分(仕送りによって浮いた分の900円は医療費として療養所に納めよ、というもの)を行った。

これに対して、原告は県知事に不服申し立てを行ったが却下され、次いで厚生大臣にも不服申し立てを行うも却下されたことから、原告が行政不服審査法による訴訟を提起するに至ったのである。

原告は、当時の「生活保護法による保護の基準」による支給基準600円では生活は出来ないと実感し、憲法25条、生活保護法に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する水準には及ばないことから、日本国憲法違反に当たると主張した。

3,判決

〇第1審の東京地裁は、日用品費月額を600円に抑えているのは違法であるとして、裁決を取り消した(昭和35年10月19日)。

〇第2審の東京高裁は、月600円はすこぶる低いが、不足分は70円に過ぎず、憲法25条違反の域には達しないとして、原告の請求を棄却(昭和38年11月)。

〇上告審の途中で、原告の朝日氏が死亡(1964年2月14日)。最高裁は、生活保護の権利は相続できないとして、本人の死亡により訴訟は終了したとの判決を下した(昭和42年)。

最高裁の判決は以上であったが、最高裁は「なお、念のためとして」次のような「所見」を述べている。

〇「憲法25条1項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るような国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に具体的権利を付与したものではない」とし、国民の権利は法律によって守られればよい、とした。
〇「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、厚生大臣の合目的な裁量に委ねられている」とする。

4,結語(最高裁判決、特に念のためという傍論判旨の評価)

1審の東京地裁判決のみが、原告朝日茂氏の「全面勝訴」であり、2審と上告審では敗訴になったが、最高裁の「念のため」判決が、特に一番問題である。以下現在の生活保護の現状から論評したい。

まず、最高裁の判旨では、『25条の生存権規定の、最低限度の健康で文化的な生活を営む権利を国政の責務として「宣言」したにとどまる』という解釈であるが、これは明確な憲法違反の結論であると言ってよい。

なぜなら、原告は実際に憲法25条に基づく生活保護の「具体的権利」を(不足するも)享受しており、「宣言」に止まっているわけではない。原告は、その「具体的権利」が「憲法」の保障する水準に達していないことを訴えているのである。

最高裁は、憲法裁判における論理的な判断ができていない、と思う。宣言に止まるという段階での訴訟ではないからである。生活保護の基準が「おかしい、生活不可能だ」という原告の提訴なのであった。

次に、最高裁は、「何が・・・、最低限度の生活であるかの認定判断は、厚生大臣の合目的な裁量に委ねられている」とするが、その最低限度の「判断」がおかしい、到底生活できないと訴えており、もし最高裁のように、行政官の自由な「裁量」に「委ねる」というのであれば、違憲立法審査権の「国民の権利」は、常に無意味なものとなるだろう。

当該行政官僚の「自由な裁量」に一任するのであれば、司法審査は何らの「法的意味」はないからである。その「裁量」自体が憲法の規定に違反しているとの「判定」の審査を裁判所に求めているからだ。

こういう日本の裁判(1審の東京地裁を別として)なので、現在でも、「生活保護」の捕捉率は20パーセントにとどまり、保護を拒否された残りの80パーセントの困窮者は路頭に迷っている「現在」なのである。

「護憲+コラム」より
名無しの探偵
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3月29日のコロナ関連記事

2022-03-30 08:52:47 | 社会問題
○米国:Pfizer‐BioNTechワクチン又はModernaワクチンの4回目の接種(2回目のブースター接種)を、50才以上を対象として政府当局が承認している。オミクロン変異株BA.2の新たな拡大の可能性からの対応。FDAは、この決定が3回目接種から4カ月以上経過する人の重篤化を抑制する向上効果が確認されていること及び安全性の点でも問題ないことが確認されていることから為されていると文書で発表している。加えて既に4回目の接種を受けている免疫不全の人にも、最後の接種から少なくとも4カ月経過している場合は、5回目接種の該当者になるとしている。
○ドイツ:Lauterbach保健大臣がオミクロン株に照準を合わせたワクチンの接種スケジュールが数カ月遅れて、目標としては9月頃になるだろうと欧州の保健大臣らの会合で発表している。欧州は主としてBioNTech社-Pfizer社のm-RNAワクチンに依存している。
○上海:2500万人都市の上海でスーパーのパニック買いが起こっており空の商品棚が出ているという。市を二分してのロックダウンの2日目、市の東部の住民は4日間の自宅待機に入っており、検査が義務付けられている。中国全体で昨日の感染者数は6886人。その内の4400人以上が上海地域で確認されている。
○ブラジル:感染者数と死亡者数の減少が見られていることから、保健当局が旅行規制の緩和を推奨している。ワクチン接種を行っていない入国者には検査陰性証明提示義務が継続されるが、隔離規制はただちに廃止されるという。コロナウイルス追跡目的で行っていた旅行者の健康状況の自己申告制度はただちに廃止し、ワクチン接種済み旅行者の検査義務も5月1日から停止するという。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
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3月28日のコロナ関連記事

2022-03-29 10:33:30 | 社会問題
○フランス:2月1日以来となる入院患者数の急増(前日の467人から21073人へ)が起こっている。1週間単位の平均で見ると、昨日は前週に比べて1.8%の上昇になり、上昇傾向が5日間続いているという。2月の初旬以降1週間ほど前までは入院患者数は漸減傾向であった。新規感染者数の傾向は3月初旬以降に再度上昇し始めている。一般的に新規感染者の傾向が2週間遅れで入院患者数の傾向に反映していくという。
○スペイン:軽度の症状の感染者に対する自主的隔離規制を廃止するという。コロナ感染をインフルエンザと同じ風土病・地方病(endemic illness)とみなす動きの一部といえ、重篤化しやすい患者や重篤患者に医療資源を集中していく新しい戦略と保健省は声明で述べている。隔離規制の撤廃に加えて政府は有症状者の検査または感染者と接触した人の検査規制を撤廃している。但し軽度の症状の感染者に対しては屋内施設でのマスク着用や他者との接触を自主的に控える等の慎重さが求められるという。
○韓国:2カ月以上続いていた感染拡大が先週初めて低下する傾向を見せている。しかし重篤症状患者や死亡者の増加は継続していると当局が発表している。先週の一週間は、新規感染者数の平均が約35万人であった。韓国疾病統制予防センター長のEunkyeong氏は、ピークを越し今後低減していくと見ている。但しソーシャルディスタンス規制の緩和や学校の対面授業の拡大やステルスオミクロンの拡大傾向等の要因から、この低減傾向はゆっくりしたものになるだろうと見ている。
○イスラエル:イスラエルとアラブ諸国との歴史的会談に合わせて日曜日に行われた、米国のBlinken国務長官との会談後に、Bennett首相が検査陽性になっているという。症状は軽く予定通りに自宅から執務を続けるという。
○上海:多くの地区でロックダウンを始めており、大規模検査をスタートさせている。Pudong地区とその隣接地区が月曜から金曜日にかけてロックダウンの予定で、次いで第二段階としてHuangpu川西岸のダウンタウン地区が金曜から5日間のロックダウンが予定されている。該当地区の住民は自宅待機を求められ、配達物は特定の場所に留め置かれる方式を採用して、外部との接触を避けるという。生活に必須の役所やビジネス以外は閉鎖され公共交通機関も停止される。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
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3月26日27日のコロナ関連記事

2022-03-28 10:43:14 | 社会問題
○香港:感染がピークから低下し続けていることから、搭乗旅客者に3人以上の検査陽性者を出した航空会社に行っている運航禁止措置の期間を、以前の14日から7日間へと短縮するという。この措置は金曜日から発効する。土曜日の感染者数は8841人で、金曜の10405人から減少している。
○上海:明らかに感染増を記録している上海では、市のパンデミック対策メンバーの一人が、当局は経済への打撃の観点から全面的なロックダウン策は避けることにしている、と発言している。感染拡大に見舞われている地域の多くの市民が、感染拡大とは言え他の国と比較するとかなり低いレベルの感染者数にもかかわらずに、市全体のロックダウン規制を受けてきていた。2500万人都市の上海では、よりターゲットを絞った対応策(個々の地域とその隣接地域を48時間ロックダウンし、大規模検査を行っていく)を狙っているという。
 25日の中国の感染者数は1335人(前日は1366人)を報告している。1335人の内の1280人は国内感染。一方無症状新規感染者数は前日の3622人から4430人に増えている。
○パキスタン:接種対象国民の75%が完全ワクチン接種済みになっている、と首相特別顧問のFaisal博士が発表。新規感染者数は310人。死者は5人。
○米国:Glaxo Smith Kline社-Vir社のコロナ治療薬の現行の服用量ではオミクロン変異株BA.2に対して有効ではない、とFDAが発表している。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
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ウクライナ主要都市の緊急の「無防備地域宣言」を!(小西誠さん)

2022-03-26 12:50:25 | 戦争・平和
軍事ジャーナリストの小西誠さんから、表記提言を出した旨お知らせがありました。

ウクライナの街が次々に破壊され、多くの人々が傷つき殺されていくニュースを毎日目にし、強い痛みを感じている者として、深く賛同し、提言がゼレンスキー大統領と欧州の首脳に届くことを願いつつ、そのままご紹介します。

***
●ウクライナ主要都市の緊急の「無防備地域宣言」を!

ゼレンスキー大統領および欧州の首脳への提言!

ウクライナでは、連日のように「火炎瓶を作っている女性ら」が、美談のように取り上げられている。あるいは、国民の戦争動員や義勇軍の勇ましい風景が、メディアで喧伝される!

だが、これらのメディアは「市民の戦争動員」ということの凄まじい結果を、誰も考えようとしない。それどころか、日本のマスメディアを始め、世界中のメディアが、「ウクライナ市民の英雄的抵抗」としてキャンペーンする。

――市民らが、都市で武器を取れば「壮絶な、無差別の市街戦」になることは軍事常識だ。どんな強力な正規軍といえども、「市街地戦闘」には困難がつきもの。都市のビル(迷路のような建物)などは、絶好の要塞であり、トーチカである。

だから、ロシア軍の攻撃は、市街地戦では「無差別」になる(残念ながら「戦争の掟」)。

これを避けるには、市民の武装の放棄・解除はもとより、市街地からの「退去」以外にない。また、ウクライナ軍自体も市街地から退去しない限り、無差別戦闘は避けられない。古典的レジスタンスの「英雄的美談」を吹聴する時代は、すでに終わっているのだ。

このためには、具体的には、例えばキエフなどは「無防備都市宣言」を行い、全ての軍隊・軍事力の退去が必要だ。これは国際法に認められたもので、歴史的にも、アジア太平洋下のマニラなどで、実行された。

ウクライナの悲惨な市街地での、市民の殺戮を即刻止めるためには、繰り返すが無責任に「美談」や「悲惨」をキャンペーンするだけではいけない。

そして、ゼレンスキー大統領および欧州の首脳らへ!

ウクライナの美しい街、そして市民の犠牲を避けるために、ゼレンスキー大統領、そして欧州の各国首脳、さらに世界の知識人に呼びかける!

この戦争から、ウクライナの市民、そして街々を守るために、国際法にのっとり、キエフなどの主要都市に「無防備都市宣言」を出していただきたい。この宣言下の街々から、軍隊と武器を撤去していただきたい。

これは、「敗北」の勧めではない。「名誉ある撤退」の勧めである。1941年、フィリピン・マニラを守るために、マッカーサー将軍が執った英雄的行為である。東洋一という美しい街を守るため、マッカーサーは、マニラの無防備都市宣言を行い、コレヒドール島へ撤退したのだ(ウクライナの場合、例えば、リビィウへの一時的退去)。

I shall return.  I shall return To Kyiv .

この戦争の現下の戦況を考慮するなら、「知将」は、必ずこの「無防備都市宣言」の選択をするだろう!

*一刻も早く「ウクライナ主要都市の無防備地域宣言」を!

*ウクライナーロシア戦争の即時停戦を!

以下略(英文とフィリピンの経験、無防備都市宣言に国際法上の規定は以下から)
https://note.com/makoto03/n/nbf9477c3bacb?fbclid=IwAR3Vk48m0Uu8KDdzcGSr2C9NflRQYUonFD2E7ZLT1erpD0Cr86viZFmKqPQ

***

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
笹井明子
コメント (1)
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3月25日のコロナ関連記事

2022-03-26 10:04:28 | 社会問題
○上海:無症状の市内感染者数が前日の979人から24日に1582人に拡大している(有症状感染者は前日の4人から29人へ)。他の都市が行っている大規模ロックダウンを避け、感染拡大抑制と経済‐社会生活維持の両立を目指して市が採用している切り出し‐分割策(slice&grid)は、感染拡大により批判の対象になっているという。
○香港:4月1日から香港は公共サービスを徐々に再開し、4月21日までには通常レベルに戻すと市当局が発表している。新規感染者数は昨日、今月最低レベルまでに低下している。レストランの18時以降の閉鎖規制の撤廃や多くの公共施設やスポーツ施設の再開が予定され、学校の対面授業も4月19日から再開される。
○北京:北京自動車ショーの組織委員会が4月後半開催予定のショーを最近の感染拡大を理由に延期を決定している。新たな開催時期は明確にされていないという。
○オーストラリア:新たな感染拡大が懸念される冬のシーズンを前にして、最も健康上に問題のある層を対象としての第4回目の接種(2回目のブースター接種)を来月から始めるとしている。対象とする層は1回目のブースター接種から4カ月以上経過する人、65才以上の人、50才以上の先住オーストラリア人、免疫不全の人になるとHunt保健大臣が発表している。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
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市民対国家をどう考えるか

2022-03-25 16:33:40 | 戦争・平和
yo-chanさんの記事「流水さんの投げかけた波動に共鳴します」で、わたしの問題提起を正確に受け取っていただいたこと、感謝します。

「市民」対「国家」の問題をどう考えるか、の問題は、人類が国家を生み出して以来の永遠の課題です。近代国家の様々な権利(“基本的人権”をはじめとする)は、その一つの解決方法だと思います。平たく言えば、国家と市民(個々人)の間に根源的に横たわる“利害対立”の一つの落としどころだと考えなければなりません。“革命権”などはその究極の表現でしょう。

🔶 “民主主義と人権”、“自由”の概念の違いと相剋

人間って奴は、どうしようもなく傲慢で、どうしようもなく自分勝手で、どうしようもなくだらしなく、どうしようもなく自尊心だけが強い生き物です。人間の欠点などあげつらえば、きりがありません。仏教でいうならば、百八つの煩悩でしょう。

“煩悩”こそが人間の“本能”だとわたしは思っています。生物としての人間という視点から見ると、どうしようもなく酷くて、駄目な奴ほど“生き物としての人間”の本性に忠実なのかも知れません。

しかし、人間が人間たる所以は、こういう“生き物としての本能”=“個人の欲望”を他者との関係の中で制御できる能力を持つことができた、という点にあります。

その最大の理由は、人間が“言葉”を持つことができ、それぞれの個人の“思い”を他者に伝えることができたことと、二足歩行ができたため、他動物を圧倒する頭脳を持てたことに尽きます。相手のことを理解できるツールと頭脳を持つことができた、という点に尽きます。

啓蒙主義が牽引した“民主主義”や“人権”という概念は、言語で培われた人間の能力(理性)を最大限に発揮。大きな普遍性を持ったため、世界中に広まりました。

これは何を示しているかというと、“民主主義”とか“人権”という概念は、本質的に人間の“理性”に基づいた概念で、きちんと論理的にものを考えることができ、深く思索できる人が本当の意味で獲得できる概念だということができます。きわめて後天的能力です。だから、人間しか獲得できないものなのです。

逆に言えば、この概念を血肉と化すことができる人は、きわめて理性的・論理的に思索できる人だということを意味します。残念ながら、そういう人は少数派です。

これに対して“自由”という概念は、感覚的に分かる概念です。“民主主義”とか“人権”などの概念は、かなり理詰めで物を考えて初めて獲得できる概念ですが、“自由”という概念は、そこまで理詰めに考えなくてもぱっと分かる概念なのです。

“自由”の哲学的意味はきわめて難しいものですが、そんな難しい理屈なしに“自由”が人間の本性だと本能的に理解できます。

▼“自由”と“支配欲”

人はなぜ政治家を目指したり、出世をしたがるのでしょう。一つは、他者を支配したいからでしょう。“支配欲”というものは、人間にとって骨がらみのものです。男にとっては、これが“性欲”と重なり合い、誰しもが悩みの種になっています。

もう一つは、本当の意味で“自由”を獲得できるのは、“権力”を持たなければならない事を本能的に知っているからです。だから、ネトウヨや右派と称される連中は、“自由”が大変好きです。彼らは、自分たちが好き勝手に発言でき、好き勝手に行動できる自由が大好きなのです。この自分勝手とも受け取られる“自由”こそが、彼らが権力を希求する最大の理由なのです。

理由は単純、明快です。“自由”に活動し、“自由”に生きるには、家族・他者・社会という存在が大きな障壁になります。下手をすれば、“自由”に生き、自由に活動した結果、家族や社会から完全に阻害される場合もあります。“自由”に活動し、“自由”に生きるためには、社会から疎外されないだけの“力”を持つ必要があるのです。人が“権力”を希求する最大の理由です。

▼“権力”とは

“権力”は、厄介なもので、これを手にした人間は、往々にして“権力”の使い方を間違えます。“権力”の使い方は、権力を手にした人間の“理性”と“知性”と“忍耐力”によってまるで違います。

完全な自由が欲しくて、“権力”を手にした人間は、実は最も“不自由”な人間になるのが権力者として最善なありようである、という逆説に直面します。なぜなら、“権力者”の自己抑制無き自由な振る舞いや言動は、それだけで他者の“自由”を侵害するからです。

“権力者”の“自由”のために、多くの他者の“自由”が奪われてしまうのです。だから、多くの帝王学は、権力の濫用をいましめ、最小限度の権力の行使を理想としているのです。

実は、市民対国家の対立の根源には、この「権力」の問題と、「権力者の自由」の問題が横たわっているのです。

今回のウクライナ侵攻。プーチン大統領が狂っている、と世界的なキャンペーンが繰り広げられています。特に、バイデン米大統領のプーチン大統領に対する罵詈雑言(呼び捨て、殺人者、戦犯などなど)は、覇権国家の大統領として理性のタガが外れたのではないかと思わせるほど酷いものです。

何故、バイデン大統領はここまでたけり狂うのか。

🔶“掟”と“個人の自由”の対立

池波正太郎の小説に「藤枝梅安」というのがあります。針医者藤枝梅安が仕掛け人としてこの世に生かしておけない悪人をお金をもらって殺す、という小説。様々な俳優が映画やTVドラマで演じているので、多くの人が知っている話だと思います。

その中で大阪の仕掛け人の元締め白子屋の話が出てきます。藤枝梅安が助けた小杉十五郎という若い武士を江戸から大阪へ逃がした時、大阪でかくまってもらったのが白子屋。ところが、白子屋は、小杉十五郎を「仕掛け人」として使ったのです。「仕掛け人=人殺し」のアリ地獄のような苦しみを知り抜いている梅安は、若い小杉十五郎を「仕掛け人」から抜け出さそうとして、白子屋と対峙します。その交渉の時、白子屋が梅安に言った言葉。

「わたしが元締めとしてやってゆけるのは、仕掛け人は死ぬまで仕掛け人。死ぬまで仕掛け人から抜け出すことは許さない。この掟を守ってきたからです。この掟を守らせなかったら、わたしは元締めとしてやってゆけません。梅安さんの心はよく分かるが、聞くことはできません」と梅安の願いを拒否するのです。

この元締め白子屋と藤枝梅安の対立は、人間社会では、きわめて普遍的な対立の構図です。もう少し利害の対立が複雑で重層的ですが、国家の対立も似たような構図になります。

バイデン大統領の発言(怒りというより、してやったりという喜びによるおごり高ぶりの要素が多い)は、唯一の覇権国家米国の仕切る世界秩序に対する秩序紊乱者プーチン大統領に対する怒りと憎悪の表現なのでしょう。白子屋の小杉十五郎に対する態度の表現なのです。

プーチン大統領の“自由”を認めたら、世界の秩序を取り仕切る“元締め”としての米国のメンツ丸つぶれだというのでしょう。だから、プーチン大統領を徹底的に貶め、見下し、蔑むことにより、米国の威厳を見せつけようとする意図が透けて見えます。傍で見ている人間には、バイデン大統領の心根の卑しさを見せられたようであまりぞっとしません。

それはそれとして、「国家」対「個人」、「社会」対「個人」の対峙になる場合、藤枝梅安のようによほどの覚悟がないと秩序に抗うことは難しいのです。

🔶国家秩序の力・社会秩序の力=“共同幻想”の力

理由は、吉本隆明が喝破したように、国家秩序や社会秩序などの持つ本当の力は、人々に対する【幻想】の力だと言ってよいのです。逆らったら、自分はどうなるのだろう、という【幻想】の【恐怖】の力なのです。

社会にしろ、国家にしろ、ある種の“秩序”があって始めて成立できるし、存続できるものです。社会の場合は、道徳や掟、取り決めなど。国家の場合は、法の支配に基づきます。この仕組みは、普通に考えれば、誰もがある程度納得できる“普遍性”があります。だから、これらのものは、大きな力を持つのです。
吉本隆明は、この力を【共同幻想】と呼びました。

この“普遍性”=【共同幻想】に抗うには、人々の感性に訴える以外に有効な方法はありません。多くの人が心にストンと落ちる“何か”が必要なのです。

今回のウクライナ侵攻。誰が見ても強者はロシア。弱者はウクライナ。こういう場合、弱者であるウクライナの有効な抵抗手段は、人々の感情の琴線に触れる話や最も弱い子供たちの悲惨な話を多少の誇張を交えても発信し、拡散するのがきわめて有効なのです。ここまでは誰もが納得します。日本のメディアでも連日報道されています。

今や“ロシア”支持などと言おうものなら、袋叩きにあいます。ウクライナ支援=戦争反対者という強固な図式が成立し、それに異議を唱えることすら難しい状況です。こういう状況を“共同幻想”と言うのだと思います。

戦前の世相は、この逆で、“戦争”するという方向にこの力が働いていたのだと思います。戦争反対とでも叫ぼうものなら、袋叩きではすまず、牢獄に入る覚悟がいりました。

🔶ウクライナ侵攻が明らかにしている世界の“多層構造”

実は今回のロシアのウクライナ侵攻は、世界の“多層的構造”を鮮明にしているのです。ソ連邦崩壊以降は、唯一の“覇権国家”は米国でした。現在でも多少力は衰えたとしても、“覇権国家”であることは間違いありません。

しかし、現在は、その米国に肉薄している“覇権国家”が出始めています。“中国”です。この中国に続く国家として、“ロシア”などが米国の対抗馬として現れています。

わたしは、この掲示板で何度も指摘しましたが、“覇権国家”が覇権を降りなければならなくなった時が最も危険なのです。理由は単純です。力がなくなってくると、余裕がなくなります。余裕がなくなると、簡単な解決法=“戦争”“紛争”を選びがちになります。

“ウクライナのアフガン化”でも書きましたが、バイデン大統領は軍産複合体の影響力が非常に強い大統領です。まず、力の弱いロシアを蹴落とそうと考えても不思議はないのです。

ヒラリー・クリントンがトランプに負けた理由の一つにメール問題がありました。これを米メディアに暴露したのがロシア情報機関だとして民主党とロシアの関係が悪くなったのですが、それの報復もあります。彼が大統領に就任以来、ウクライナに対するテコ入れを強化。ロシアとの関係を緊張させていたのです。“例;米国のロシア外交官の追放など”

▼ロシアから見たウクライナ侵攻 ⇒米国・NATO・ウクライナの煽り運転、幅寄せ運転に原因
 ⇒覇権国家米国の光と影

今回のウクライナ侵攻。一般的には、強者ロシアが弱者ウクライナを一方的にボコボコにしていると思われがちですが、ロシア側から見れば、親分アメリカの後についた腰巾着のウクライナが、ロシアに対して偉そうな態度を取り続けたのです。つまり、親分アメリカとNATOや腰巾着ウクライナのあまりに理不尽な振る舞いに我慢できなくなった、という図式になります。

そこら辺を、国際投資アナリストの大原浩氏がうまく表している。氏のコラム、「プーチンだけが悪玉かー米国の煽り運転、幅寄せ運転が原因ではないか」で 以下のように書いています。

・・・・・・ 国際法には軍隊の「煽り運転、幅寄せ」を罰する法律はない。「ウクライナがNATOに加盟したらロシアは終わりだ」とプーチン氏が考え、そのようなメッセージも明確に送っていたのに「危険運転」を行った米国やNATOにも大きな非があると思う。「手を出していない」から正義というわけではないということだ ・・・・・

わたしは教師でしたので、子供たちの喧嘩の仲裁を良くしたものですが、一方だけが悪いという場合は本当に少数です。大抵の場合、双方に原因があります。こういう争いを見る場合、先に手をだした人間が悪いのは当然ですが、原因を作った側も反省をしなければなりません。日本に昔からある“喧嘩両成敗”とは、こういう難しいもめ事をうまく解決する知恵なのです。

“暴力はいけない”のは当然だが、同時に悪質な“煽り運転”をした当事者たちにもきちんと罰を与えなければなりません。それが、“国連”や“国際司法裁判所”の役割なのでしょうが、あまりその役割を果たしてきませんでした。

基本的には、これらの機関は、“覇権国家米国”に反対する国や組織を裁き、断罪する役目を果たしてきた、と言ってよいのです。これが覇権国家米国が“世界の警察官”として君臨してきた所以なのです。戦後の国際秩序の守護神である米国は、ある意味で“法の外”の存在なのです。

日本人(特に沖縄)にはこの光景は当たり前。沖縄での米軍人の犯罪の処罰に沖縄警察が関われないのが大半。もはや日本人の大半は、なぜこうなっているのか、を問い返そうともしない状況です。

ロシアのウクライナ侵攻には、この米国の理不尽さに対する怒りと抵抗があると考えなければなりません。大原氏の言うように、“ロシア”と“プーチン”を【悪魔化】すれば事足りるものではないのです。

このように、一口に“戦争反対”と言っても、その内容は複雑多岐にわたります。現代のように、利害が複雑に絡み合い、虚実が入り乱れ、何が真実で何が嘘なのかを見分けるだけでも疲れ果てます。

こういう時代だからこそ、一人一人の個人の“自立”こそが、戦争反対のキーワードになります。“自立”した個人こそが、利害関係がもつれにもつれ、虚実が相乱れ輻輳した“戦争”に対して、屹立して対峙できるのだと思います。

この“自立”した個人が連帯して初めて国家の理屈を超えた“戦争”の悪に対して抵抗できると思います。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水
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3月24日のコロナ関連記事

2022-03-25 09:23:44 | 社会問題
○欧州医薬品庁(EMA):成人及び12才以上の青年を対象としてAstraZeneca社の抗体治療薬の使用を承認している。ワクチン接種時の免疫応答が弱い成人に対する有効な防御策になることが期待され、また医療保健制度の維持に役立つと期待される。EMAによるこの承認により、欧州委員会は直ちに追認し、実施されると思われる。
○中国のFauciと称される上海感染症専門家のWenhong氏が、ウイルス対策と日常生活の維持とのバランスを取ることが重要であると再度発言している。国のコロナ政策に関わるWenhong氏の行った昨年の意見に対しては大きな批判の圧力が起こっていた。また同じブログ上で、現在医療体制に感染拡大による圧迫が起こっているが、直に局面は変わると予測するとしている。氏の発言はゼロCovid政策を疑問視する市民の考えを当局が受け入れ始めている兆しを表していることかもしれない。
○シンガポール:4月1日から海外から入国する全てのワクチン接種者に対する規制を撤廃するという。これによりワクチン完全接種者と未接種の子供は、出国前の検査の条件のもと、隔離規制を受けることなく入国出来ることになる。Loong首相はSingaporeがコロナと共生していく大きな節目になると自賛している。併せて屋外でのマスク規制も撤廃する。2月に26000人程の感染者を日々記録していたが、この水曜には9000人程迄低下し、大半は無症状か軽度の症状に収まっている。人口550万人のSingaporeは92%ほどがワクチン接種済みで、ブースター接種者も71%になっている。
○米国:コロナパンデミックが原因として73%に及ぶ米国の郡において人口減少が2021年に起こっていたという。

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3月23日のコロナ関連記事

2022-03-24 15:52:45 | 社会問題
○Moderna社:6カ月から6才までを対象にしたワクチン接種の承認を目指しているModerna社の2回接種型のワクチンが、当該年齢層に対して安全であり強い抗体応答を産生することを認めたと発表している。18才から25才への投与量100㎍に対して、6カ月から6才のグル―プには25㎍を2回接種するという。18才から25才のグループに対する抗体応答産生性と同等の効果が見られているとBancelCEOが説明している。
○上海:6日連続して無症状感染者の増加が続き、新規感染者が1000人に近づいている上海市当局は、Weibo(中国最大のSNS、多くの中国人が商品購入に利用)マイクロブログ上で、全市のロックダウンの噂を否定し、市民に噂を信ずることなく、拡散に与しないよう要請している。噂により火曜日遅くAlibabaの食料品チェーン店“Freshippo”の配送アプリが使えなくなるというパニック買いが市内で起こっているという。市当局はロックダウン策でなく、近隣を一つ一つ精査していく“切り出し‐分割:slicing&gridding”策を採用するとしている。
○パキスタン:2020年3月23日以来2年ぶりとなる死者0人の記録を報告している。新規感染者数は443人。陽性率は前日の0.8%から1.3%へ上がっている。
○フランス:2月初旬以降で最大の感染者数の上昇が起こっているという。

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3月22日のコロナ関連記事

2022-03-23 10:04:34 | 社会問題
○ノルウェー:85才のHarald国王が検査陽性になり、症状は軽いという。Haakon皇太子が代わりに執務する。
○WHO:ドイツ・フランス・イタリア・英国を含む幾つかの欧州国家がコロナ規制を拙速に停止しており、それらの地域で現在更に感染性の高いBA.2変異株による感染増が見られ始めている、とWHO欧州地区Kluge代表が現状を楽観的に見ているけれども用心はしている、と発表している。欧州地域53カ国の18の国で感染が拡大傾向にある。特に英国・アイルランド・ギリシャ・キプロス・フランス・イタリアとドイツに顕著に見られている。
○中国:何度ものコロナ規制に“自宅待機を拒否”との不満の声が出始めているようだ。
○コロナ感染患者に2型の糖尿病を発症するリスクが高いことを示す研究が発表されている(Lancet Diabetes & Endocrinology誌)。2020年3月1日から2021年9月30日の期間にCovid-19と診断された退役軍人省の18.1万人以上の患者記録と、同時期のコロナ感染ではない退役軍人省の患者410万人の記録、及び2018年2019年の退役軍人省機関から医療行為を受けた428万人の患者の記録とを比較している。
 Covid-19と診断された患者が初めて2型糖尿病と診断される割合、または医師から血糖値抑制薬を処方される割合が他のグループに比べて46%多いと研究者らが解析したとワシントンポストが報告している。
 別の見方では、100人のコロナ患者の内の2人に2型糖尿病が発症の恐れがあり、2型糖尿病の患者の膵臓はインシュリン生産量が不充分であり、よって血糖値レベルのコントロールが上手く機能しないことに繋がり、腎臓や神経系・血管や心臓等に損傷を与える恐れがある。リスクの上昇は軽度の症状の患者や無症状患者に影響を与えると共に、重症患者には更に大きな影響を及ぼすという。
 この研究は原因と結果には踏み込んでおらず、Covid-19と2型糖尿病との強い関連性を証明するものであるとワシントンポスト紙は述べている。退役軍人省の患者は高齢であり、白人の男性が多いという特徴はあるものの、“今回の解析で見られるリスクの傾向は全ての分類グループに明白であり、従ってコロナ感染した人は血糖値に注意するように”とこの研究を主導している退役軍人省St.LouisヘルスケアシステムのZiyadAl-Aly氏が呼び掛けている。
【Washington Post “Covid infection associated with a greater likelihood of Type2 diabetes,according to review of patient records”、及びWalls Street Journal “New Research Shows Higher Risk of Developing Diabetes After Covid-19 Infection”でより詳細が見ること出来ます。】
○コロナ関連記事に収載できる記事数が目に見えて減ってきております。毎日掲載する意義に疑念もあり、状況によっては数日まとめての形になることもあり得ますことを前もってご連絡しておきます。

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