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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-1)

2024-07-02 14:43:54 | 社会問題
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-1)
『数千年間農民が作物改良に向けた育種の功績』対『種子メジャーの工学的育種の商品化』


今回は、遺伝子組み換え作物(genetically modified crops, GM作物)とゲノム編集作物(genome editing crops, GE作物)の話題を取り上げます。

GM作物やGE作物の現在の使用実態・安全性・危険性に関する現在の立ち位置・規制状況等、現在そして今後の「農業と食」を考えていく際に、避けて通れない極めて大きな問題です。

GM作物・GE作物が注目され、農業と食の分野にそれらが立ち現われた源は、一つの見方として、Norman Borlaug博士らが推進した「緑の革命」がきっかけだったと考えます。そこでは、例えば風水害時に倒れにくい形質を、近代的技術を駆使して如何に小麦やコメに組み込むかが行われた訳です。

ここで、GM作物・GE作物が「農業と食」を考えていく上で、避けて通れない大きな問題だとしても、我々はもっと視野を広げて、この問題を見る必要があると考えております。

即ち、GMやGE技術の品種改良という視点に立てば、なにもそこには目新しいものは全くなく、人類は農耕を始めて以来、人々はより良いものを、より多く作る、を念頭に試行錯誤を重ね現在に至ったという育種の長い実績と多大な功績を我々は既に持っているのです。
育種を通じて品種改良するという作業は、従って我々市民がもともと持っていたという事実を、我々は基本に置いておくことが大切なことだ、という点を指摘しておきます。

かかる観点から、我々市民は、「育種という品種改良作業」を、現代科学を駆使する種子メジャーらに白紙委任するという選択は、現在もそして今後も取るべきでなく、我々市民もその作業に関わる権利があり、作業を行う道を残していく努力が求められると思います。

しかし一方では、現代社会に蔓延している「科学技術の革新で世界を制覇する」という考え方があり、それを企業のみならず、市民も行政も広く受け入れているのも事実です。

農業と食の領域で『科学技術の革新化で世界の制覇』を狙う巨大企業側の戦略がGMビジネスであり、GEビジネスだと認識し、今後も更に巨大企業側はGM・GEと通じて育種ビジネスの『囲い込み』を強め、最終的には『育種の権利』と『普通の人々』との切り離し(今風に言えばデカップリング)を狙っている、と見ております。

結論的にいえば、『巨大企業の育種システム』と『我々が積み上げてきた育種の実績に基づく市民の育種システム』との共存、棲み分けがきちんと為される社会構造を目指すのが求められていると思います。
今回の一連の情報は、掛かる社会構造を目指すための情報提供と考えております。

まずは、GM種子・作物とGE種子・作物の現在の規制状況を紹介する記事から始めます。
参考にした情報は2つ、一つは欧州、もう一つはアメリカの話題です。
欧州の状況から始めます。

「ドイツの監視機関からの警告と特許論争が続く中、欧州議会は新たな遺伝子組み換え作物の規制緩和を支持」( euro news 2024年2月8日)

欧州議会は2月7日の投票で、新しいゲノム編集技術(new genome editing techniques, NGTs)を使用する作物に対しては、より緩い規制の対象にすべきだとする法案を僅差(307対263)で可決した。しかしドイツ連邦監視機関は新しいゲノム編集技術を使って改良された植物に「内在しているリスク」が軽視されており、科学的根拠はないと警告をしている。そしてEU各国では、新しい範疇のGMOsが特許で保護すべき対象かどうかの論争が、いまだに続いている。

新しいゲノム編集技術(NGT)の作物種は、アメリカでは既に市場に出回っているが、EUでは2001年制定のGMO指針の対象となっており、検査や追跡情報や表示義務等が求められる規制下に置かれている。

【作物に遺伝子工学処理を行う歴史は古く、先行した技術が生物の種の壁を超えて遺伝子操作を行うことを特徴とする、いわゆる遺伝子組み換え作物(genetically modified crops, GM作物)であり、次に出てきたものが種の壁を超えることは避け、一つの種が持つDNA内で遺伝子を操作することを特徴とするゲノム編集作物(genome editing crops, GE作物)。欧州議会や委員会及び各国では、GM技術を古い技術とし、新しい技術(ゲノム編集)で生まれるゲノム編集作物や種子を厳密に分け、現状では、この新しいゲノム編集作物が『従来の古い遺伝子組み換え技術』に課せられた規制指針と同じ土俵で取り扱われる状況を問題視し、『新しいゲノム編集技術』に対してはGM技術とは切り離し、緩い運用を求める法案を、今回賛否を問うたと言え、その法案が僅差で欧州議会を通ったという状況である。】

投票では、中道右派の欧州人民党(EPP)とリベラルなRenewグループが賛成に回り、中道左派の社会党と民主党は賛成・反対が相半ばしている。つまり緑の党と左派は提案を全面的に拒否することができなかったといえる。
この投票の結果、ポルフィエール氏率いる議会交渉団が政府代表と会談し、最終的な法案をまとめる任務を負うことになっている。

法案賛成派は、欧州の食料安全保障の強化に繋がる・気候変動に対処できる・肥料や農薬の使用量が低減できる等を指摘し、投票結果を歓迎している。

環境保護団体は一様に投票結果に否定的で、「欧州議会は人々の健康、環境、そして欧州農業の将来を守る義務を果たしていない。農家らが高い代償を払い、種子企業にますます依存するようになっていくだろう」と指摘している。

一方、同じタイミングでドイツの連邦自然保護庁は政策の公表を行っており、そこにおいて「新たなゲノム編集技術に対する規制に対しても、科学的根拠がある方式で行う必要性があり、もしその条件を欠けば、その考え方は予防回避原則に反するものであり、リスク回避が不充分になる恐れがある」と訴えている。この主張は、フランス食品安全庁(ANSES)と一致した主張であるという。

欧州の有機農業を行っている団体の評価は一面的ではない。
新しいゲノム編集に対する安全性検査の緩和に関しては、反対の立場。
有機農業の場から、「新しいゲノム編集を含めて全ての遺伝子工学技術を利用する作物を排除すべきとし、ラベル表示義務を課す」という法案内容には賛成の立場。
しかし、「新しいゲノム編集植物の特許化を全面的に禁止する」という法案内容については、有機農業団体は懸念があるとし、この内容では巨大バイオ企業が市場を独占したり、農家が煩わしい契約に縛りつけられたり、特許品目が有機農場に根付いた場合に訴追される恐れがある、とする懸念を表明している。

2つ目は、アメリカの情報で、「GMOsは安全か? 科学という衣をまとった食べ物の科学を府分けする」(Time.com 2024年1月5日 Jamie Ducharme氏記す)になります。

最初の遺伝子組み換えトマトがアメリカで販売されてから30年が経つ。
科学の衣をまとった食品に対し、懐疑心を持つ人は今も多い。
2020年のPew研究センターが行った調査によると、遺伝子組み換え食品が安全だと思っている人はアメリカでは27%、安全ではないと思う人の38%より低いのである(分からないとする人は33%)。

この傾向はアメリカだけではない。例えばフィリピンでは昨年初めて大規模に収穫された遺伝子組み換え米の「ゴールデンライス」に対し、活動家らはこの米が充分な検査を経ていないし、売りであるβカロテン含有(ビタミンA欠乏症による視力障害の予防を目的)という特徴も、遺伝子操作に頼らない、もっと安全な手法で解決できると指摘し抗議を行っているのである。

フィリピンの農民団体(MASIPAG)は「ゴールデンライスは飢餓と貧困に疲弊するフィリピンの抱える難題の解決策には全くなり得ない」と主張している。

遺伝子組み換え作物(genetically modified organism, GMO)の反対運動には長い歴史がある。反対運動は、多くの市民の懸念に基づいている。従来の食べ物とは違う毒性の問題、アレルギー症状が高進する、あるいは遺伝子組み換え野菜や畜肉を食べると人の遺伝子に変異が引き起こされるのではないか、という不安感が背景にある。

遺伝子組み換え作物を規制する機関の食品医薬品局(FDA)・米農務省・米環境保護庁は、GMOは安全と主張しているが、やはりこれらの食品に警戒心を持つ人は多いのである。

アーカンソー大学・農業経済学のトレイ・マローン氏は、「科学技術恐怖症(technophobia)という症状はとても一般的なものであり、古き良き時代に戻ることができれば、といった懐古趣味とも言えるもので、遺伝子編集(GE)や遺伝子組み換え(GM)に反対する風潮を生みだす心情的システムになっている」と指摘する。

多くの人が気付きにくい点に、人類は非常に長い期間、作物の改善を目指し、作物をいじくり回すといった努力を積み重ねてきた歴史があるということがある。
農民らは、数千年にわたり収穫物の中から最も良い形質の種を残し、次に使うことを繰り返して、将来の収穫量改善を目指し努力を重ね、時には異なった種の間での交配と言われる品種改良を、行い改良を継続してきた。
現在のトウモロコシ・バナナ・リンゴ・ブロッコリ等、皆そういった努力の結果出来て、今に繋がっているのである。

「遺伝子組み換え」とは、人類が長い期間積み重ねてきた作物の改善活動に関連する行動であり、高度の科学性を、身をまとっているものと言える。
行動の狙いは、例えば食べ物の香りを改善したり、栄養価値を高めたり、見た目を良くしたり、害虫からの食害を受けにくくしたり、といった形質を作物に持ち込むことである。
例としては、デルモンテのピンクの新鮮パイナップルやArcticリンゴ(arctic apple:カナダの企業が供給する褐変防止の形質遺伝子をリンゴに組み込み、皮を剥いても褐色化しない)がある。
これらの話題は注目をあび、人目に付く機会は多いのであるが、アメリカで販売されている遺伝子組み換え食品の割合は実は僅かなのである。
ノースカロライナ大学の農学教授のフレッド・グールド氏は遺伝子組み換え作物についての啓発活動を数多く手がけているが、彼は啓発活動の中で、スーパーで良く見かける光景の写真を使って、聴衆に問いかけるという。即ち写真の野菜の中で遺伝子組み換え野菜はどのくらいあると思いますか?それに対する答えはまちまちだが、中には90%程と答える人もいるという。しかし正解はゼロである。
確かにスーパーにおかれている遺伝子組み換え果物や野菜は、夏かぼちゃ(summer squash)やパパイヤや前記のパイナップル・リンゴ等幾つかある。そして10年前頃からFDAは遺伝子組み換えシャケ(成長が早いという特徴を持つ)やある種のアレルゲンを削除した豚肉を承認している。しかしながらアメリカ国内では遺伝子組み換え食品は加工食品の形に代えられて販売されることが多いのである。例えば調理用油や大豆製品・甘味料やスナック菓子類の形で出回っている。

実態としては、アメリカ国内で栽培される大豆・トウモロコシ・テンサイ(砂糖大根)や菜種(canola)のほとんど全ては害虫耐性(Bt形質の組み込み)や農薬耐性(glyphosate形質の組み込み)遺伝子を組み込んだ遺伝子組み込み作物なのである。
これらの遺伝子組み込み作物はアメリカ人が毎日食べる多くの包装菓子・スナック菓子向けに利用されているのである。

これらのスナック菓子類を毎日食べているアメリカ人たちは数十年にわたる「生体実験」に付き合わされて来ているともいえる」とグールド氏は指摘する。

アメリカ人やカナダ人は遺伝子組み換え食品を、今言ったように数十年摂食し続けてきている一方で、海外の人達の遺伝子組み換え食品の摂食頻度は少ない。

ここで、もし遺伝子組み換え食品(GMOs)が重篤な健康上の悪影響を持っているとすれば、北米に住む人々と欧州に住む人々との間の健康状況を比較する研究を行うことで、そこに明白な違いが観察されるはずである。

しかし、「データを見る限り、そのことを示すいかなる兆候も観察されない」とグールド氏は語る。即ち発がん性・肥満性・腎臓機能障害・胃腸傷害・自閉症等におけるアメリカ及びカナダ対欧州との間には遺伝子組み換え食品に基づく違いは観察されないのである。

動物を用いての実験においても、遺伝子組み換え食品が催奇形性・器官損傷や生殖機能の点で問題を起こすという証拠は認められていない。
リスクというものはかなりの時間が経ってから起こる可能性があるとも言われる。しかし今までの研究から得られていることから判断すると、そういった懸念も小さいのではないかと思う、とグールド氏は語る。

現在までに入手できる情報をもとに、マローン氏は、遺伝子組み換え食品を恐れるに足る明白な理由はなく、反対に遺伝子組み換え食品の利用を擁護する多くの理由が存在していると指摘する。
ゲノム編集(GE)技術は、栄養性を高めるだけでなく、農業と食の生産システムを合理化し、システムの持続可能性を高める働きがあると、マローン氏は指摘する。

研究の結果が示すように、遺伝子組み換え作物の栽培は、収穫量を増大させることができ、よって農家はより少ない耕地面積でより多くの作物を手に入れられるとし、結果的に農薬等の化学合成薬剤の使用削減ができると指摘する。同様のことが成育の早い遺伝子組み換えシャケの養殖において、従来に比べて投入資源の削減が可能だ、としている。

マローン氏は革新的技術がしめす明らかな利点を訴えていくことが、遺伝子組み換えの社会的認知度を高めるのに有効だ、としている。


以上、GM作物とGE作物の現状と規制状況を紹介したが、GM作物とGE作物が持つ利点に関しての評価には、欧州とアメリカとの間に違いがあることは明らかである。
ことにアメリカのタイム社の記事では、結論的主張としてマローン氏の考えを紹介しながら、未だ認知度の低い遺伝子組み換え作物と食品の社会的認知度を向上させていくことが必要なことであり、その為には革新的技術がしめす明らかな利点を訴えていくことが求められるとさえ、主張している点がアメリカ社会の現状を如実に表していると思う。

このアメリカ社会の現在の考え方(多国籍巨大企業が、革新技術の力を背景に、全てを差配し支配する農耕システムの推進であり、そこには数千年の歴史的重みを持つ市民の介在する権利は無視されている)が、ある意味一面的であり、楽観論に頼りすぎているのではないかという視点の情報を、これから紹介していく予定です。
かかる観点で紹介したい情報量はかなりのものになります。
今回は、最後にその一端を紹介する形で締めくくりたいと思います。

紹介する記事は「ブラジルにおける遺伝子組み換え作物と農薬の利用:拡大する危険性」
「Use of genetically modified crops and pesticides in Brazil: Growing hazards」
(researchgate.net 2024年1月13日)

要旨部分の紹介です。

遺伝子組み換え作物(genetically modified crops, GM crops)は2003年にブラジルで正式に承認された。本報文は、この技術導入後の13年間(2000年~2012年)の期間の農薬利用の実態を確認することを目的としている。

確認する測定項目は、農薬の使用量(kg)、一人当たりの農薬使用量(kg/1人)、ha当たりの農薬と除草剤の使用量(kg/ha)、作物生産性(kg/ha)である。

GM作物の導入により、農薬使用量は減少していくだろう、との我々の予想に反して、農薬全体の使用量は13年間で1.6倍に増大した。大豆に限ると、13年間で農薬使用量は3倍化している。

ブラジルではGM作物の採用により、農薬使用量は拡大し、結果として環境への影響及び人への暴露量の拡大化が起こっている。


どうやら、GM作物・GE作物の農業システムへの導入が、イコール使用農薬量の削減、環境への負荷軽減に役立つというアメリカ型農業システムの表看板には、直ちに首肯できない色々の話が有りそうな雲行きです。

次に続きます。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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