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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「最後の冒険家」(著:石川 直樹)

2014-05-07 23:24:10 | 【書物】1点集中型
 石川氏のあの独特の空気感を持った写真が好きで何冊か写真集を持っているが、文章メインの著書を読むのは初めて。かなり厳しい自然環境にも身を置きながら撮影活動をしているのだろうなとは思っていたけれども、確かにこれは石川氏も一般的なイメージとしての「冒険家」みたいな捉え方をされうる活動かもしれないなというのが、この本を読んで感じた最初の印象だった。ただ、文中で氏自ら語っていたように、地球上で人が足を踏み入れることのできない場所が事実上限りなくゼロに近くなっている現代、地理的に未踏の地を目指すという意味での「冒険」や「冒険家」というものはもはや存在しないということも確かだが。
 本書はそんな時代の少し前、熱気球飛行という手段を通じて「人のやらないことをやる」という意味での「冒険」に挑み続けた神田道夫氏を、石川氏の目を通して描き出したものだ。

 神田氏の冒険は、傍から見ていれば無謀と思われることも多々ある。実際、最後の飛行は、結果として単独行にならざるを得なかったことが示すように、通常の考え方からみてかなり困難の度合いが高く、フェイルセーフという点がほとんどと言っていいほど重要視されていなかった。そのことを石川氏は、読者に丹念に説いている。
 神田氏が消息を絶った半年後、そして石川氏が神田氏とともに太平洋上に着水してから4年後に再び出会った、2人の冒険の証となるゴンドラ。それは石川氏にとって、「別れ」という言葉が示すように一つの区切りとなったことは間違いないだろう。それでも、「冒険」の本質を神田道夫という存在に重ね続ける石川氏の思いは、絶えることはない。あの透徹した空気の氏の写真の1枚1枚にその精神が宿っているのだろうと、今あらためて思う。


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