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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「華竜の宮」(著:上田 早夕里)

2012-09-21 21:25:21 | 【書物】1点集中型
 世界設定はものすごく壮大なSF。裏表紙の粗筋には「黙示録的海洋SF巨編」とある。海が主な舞台で、圧倒的な自然の力が引き起こす地球規模のクライシスというと「深海のYrr」を思い出す。

 「アシスタント知性体」を駆使する陸上民の姿は、いわゆる「わかりやすい」SFのイメージ。マキやR・Rらアシスタント知性体が、SSAIのネットワーク上で行き交い、時にはバトルを繰り広げる様子はいかにもSFっぽくて楽しい(笑)。「攻殻機動隊」とか「ディアスポラ」とかを短絡的に思い出しちゃう。
 その反面、海上民の暮らしには、対となって生まれる魚舟や、その魚舟と心を通わすための「唄」などにファンタジーなイメージも見える。そしてそういう存在であるように彼らを「創った」のは陸上民の「技術」でもある。なるほど、SFってこういう組み合わせや落とし込みもできるんだなぁと、発想をとても面白く思った。

 そういった設定のSFっぽさとは逆に、中心になるストーリーそのものはかなり人間っぽい。主人公・青澄が外交官だからだけど、まさに政治小説みたいな。人脈と根回しと駆け引きと陰謀。その世界にあって青澄の姿というのは、ひとつの理想形ではある。こういう人にこそ世界を動かしてもらいたい、こういう考え方になら共感できるかも、という。
 物語の最終的な場面は、予見されている危機(=ホットプルーム)を回避するという、ある意味ヒーローもの的(って言うのも変だけど)解決を示すのではなくて、避けられない最後の事態が訪れた地球をいっそ淡々と描いてある。さらに、青澄やツキソメがその後、どんな人生を過ごしたのかに敢えてほとんど触れずにマキに締めくくらせたところを見ると、地球の歴史物語とも言えるかもしれない。「黙示録的」という表現が、言いえて妙だなーと思った。


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