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「数学の大統一に挑む」(著:エドワード・フレンケル/訳:青木 薫)

2016-06-07 22:46:30 | 【書物】1点集中型
 NHK(Eテレ)の「数学ミステリー白熱教室」でこの件をやっていたことを放送後に知って、見たかったな~と思って本を探した……んだったと思う。確か。数学は全く分からないのだが、数学や物理学の基礎研究に関するドキュメンタリー的なものにはとても興味があるので、つい読むことにしてしまった。原題は「Love and Math - The Heart of Hidden Reality」だそうだが、「大統一」というと物理学におけるいわゆる万物理論、大統一理論を連想するので、なにかしらそういうような話なのだなと見当がつけやすい邦題だと思う。

 で、この本で言うところの「大統一」に関わるのは「ラングランズ・プログラム」という、筆者曰く「多くの人たちが数学における大統一理論とみなしている」理論である。これは「代数、幾何学、数論、解析という、大きくかけ離れて見える数学の領域のあいだに、さらには量子物理学の世界にまで」橋をかけわたすことができるつながりがあるだろうという予想なのだそうだ。となると、さらに万物理論(が成立したら)ともつながっていく可能性もあるのではないか、と想像するとなんだかものすごく壮大な話でわくわくする。
 筆者はユダヤ系ロシア人である。数学者になるべくモスクワ大学へ進学を希望するが、反ユダヤ主義まっただ中の80年代のソ連で体制から退けられる。そして当時そういった学生の受け皿として機能していた石油ガス・モスクワ研究所(通称ケロシンカ)に進む。そこで学ぶ傍ら、モスクワ大学の授業に潜り込み、また熱意ある学生たちに対して学びや研究を授けてくれる教授たち0もに巡り会う。その中で筆者はラングランズ・プログラムに出会うのである。

 筆者自身の人生の軌跡と、その時々に関わる数学の理論の2本の柱で語られるような構成になっているのだが、数学の部分は個人的にはやっぱりかなり難しくて(笑)そっちはぶっちゃけ全然理解できていない。ただ、数学者になりたい、数学を究めたいという一心で壁を一つ一つ越えていく様子は、数学理論抜きでも十分にドラマチックだ。ソ連の体制の中でそれでも筆者を支えてきた両親の愛情と、数学者として成長させることになる師たちの心遣いも素晴らしいものだと思う。理論として収束していく数学、数学が実学に及ぼせる効果(医療プロジェクトへの貢献)が見出されていくこと、どちらも数学のエレガントさや美しさそのものだと思う。
 「これほど深くエレガントで、しかも誰にでも手に入れられるものは、この宇宙の中で数学のほかにない」――まさに至言である。そう考えると、筆者が「愛の方程式」を題材にした創作活動を行ったというのも、一見飛躍しているようでいて、筆者の中にある「愛」を表すという意味では、数学を研究することと根本的な違いはないんだろうと思う。

 数学は発明ではなく発見である、と言われるそうだ。確かに、数学の導き出す真理とは新しく生み出されるものではなくて、そこにそういう理論があるということが証明されることによって「見出される」ものである(その意味では物理学も)。真理は太古の昔からそこにあり、未来永劫そこにあり続ける。そうして存在し続ける真理には、まだ見出されていないものも残されているはずである。研究者たちは、それを知ることができる数学の可能性に直接触れられる力を持っている。それがとても羨ましい。


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