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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ディアスポラ」(著:グレッグ・イーガン/訳:山岸 真)

2010-10-27 21:57:42 | 【書物】1点集中型
 むむむ難しい~~。久しぶりに貸出延長をかけた本ですが、さすがは「ハードSF」です……。

 時代は30世紀、「人類のほとんどは肉体を捨て、人格や記憶をソフトウェア化して、ポリスと呼ばれるコンピュータ内の仮想現実都市で暮らしていた」(表4カバーのあらすじより)というのが設定の基本。で、「恒星間宇宙船に乗り込んだ主人公が太陽系を飛び出し、世界の成り立ちの謎を追い求めて銀河の彼方まで(そしてさらにその先まで)旅をする、壮大なスケールの宇宙冒険SF」(解説より)というのが大筋です。

 作中の世界で孤児の誕生が描かれる冒頭(「孤児発生」)は、読みながらなんとか頭の中で画を作ろうとするんだけど、作れない。なんとなくグリッドとか描いちゃう(笑)。のっけからいきなり「……どうしよう。わかんねえ。ついていけないかも……」と文系を青ざめさせる内容でした。
 で、読み進められるのかどうかちょっと本気で心配になったので(笑)途中で解説に逃避してみたら、この最初の15ページが最も難解=具体的にイメージしにくいパートのひとつ、とのこと。「読み出したはいいが途方にくれている文系読者」即ち私のような読者に対しては、「わからないところはばんばん飛ばす」だけでOKと書かれているではありませんか(笑)。
 おかげで、なんだじゃあここはなんとなくでいいんだな、と安心して、まあ「飛ばす」とまではいかないまでも、とりあえずわかったようなわからないような顔をしながら読み進めていったら、確かに「抜け出す」ことはできました。

 でも正直な話、1回通しで読んだ程度では、「なんとなく話の流れだけわかる」くらいの理解に終わってしまい、作中の世界での出来事を正しく認識できる段階にまでは頭は全然追いつきませんでした。しかもよりによって最後は、「つまるところ、すべては数学なのだ。」って。行き着くところはピュタゴラス(曰く「万物は数なり」ってやつ)ですよ。わかるけどー(泣)って感じですよ。
 ただ、孤児ヤチマがいろいろな人と出会い、別れ、また出会い、そして最後はまたひとりで先へ進んでいく、そのストーリーの中で語られるそれぞれの人のあり方は、なかなかに興味深いものでした。イノシロウがヤチマとあんなに早く離れてしまうのは、ちょっと寂しかったな。イノシロウの考えていることもよくわかったけど。

 そして最後にパウロがヤチマに言ったこと。

「(前略)けれどこのぼくは、見つけようとしていたものをこの宇宙で見つけた。ぼくにはもうなにも残されていない。それは死じゃないよ。完結というんだ」

 肉体を持たずに生き続ける、随意にさまざまの「バージョン」つまり自らのクローンを残すこともできる人々にとって、生きるということはどういうことなのか。ある意味、人間がその生きる意義を(命が有限であるにせよ無限であるにせよ)どう見出していくか、そういったことも描かれているんじゃないのかなと感じました。

 もうほんとに「ハード」という言葉がぴったりのSFだと思いますが、だけどただひたすら難解な(笑)舞台設定だけじゃなくて、それぞれの登場人物の表情を追っていくことのできる物語ではあると思います。なのでいつかじっくり再挑戦したい。描かれている世界を、今より少しでもわかるようになりたいです。わかるともっと面白く読めると思うので。


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