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偏愛と放浪の記録

「冷たい方程式」(著:トム・ゴドウィン他/編:伊藤 典夫・浅倉 久志)

2011-06-16 23:34:20 | 【書物】1点集中型
 クラークの「破断の限界」(「太陽系最後の日」収録)が「『冷たい方程式』もの」と解説されていたのをきっかけに読んでみた。世界にはまだまだいろんなSFがあるなぁ、と感嘆したのが正直なところ。しかもこのアンソロジー、1980年のだし……でも内容は全然古く感じない。

 詳しいストーリーは、ネタバレするのもナンだし、それを書いてると「粗筋だけで終わってしまう悪い読書感想文の典型」みたいになっちゃうので(笑)書かないが、「接触汚染」では個人のアイデンティティって? という疑問を突きつけられる気がするし、「過去へ来た男」では文明的な隔たりが生む悲劇を見せつけられる。そして「冷たい方程式」の、「物理的法則が規定」する「人間の手を越えた刑罰」。知っていれば決して破ることはなかっただろう取り返しのつかない規則。「多くを守るためなら少しの犠牲はやむを得ない」というようなシチュエーションがよく(いろんな物語に)あるけど、それと近いようでいて、どこか決定的に違う感じ。って、どこがと言われるとうまく言えないんだけど……強いて言えば、人間自身に本当の意味で選択権はないというところかなぁ。
 そういう雰囲気もあって、この3作品はlowというかdonwerな感じなんだけど、超能力者と宇宙船操縦という組み合わせが意外に面白い「操作規則」はちょっとコミカルな雰囲気もある。ハッピーエンドだからというのもあるかな? 「信念」も最後はユーモアすら感じられるし。「結局、人間ってそういうものだよね」と微笑ましく思える。

 結局、特定の環境下(まあ、物語の舞台にということだけど)におかれたときの人間の行動や心の動きをどれだけユニークに、しかしリアリティをもって描けるかということに、物語の面白さがあるんじゃないかと思う。
 その意味では確かに「冷たい方程式」は絶品だった。文字通り「究極の選択」を描いているわけだし……大体、タイトルも秀逸すぎるし。あ、「究極の選択」といえば「接触汚染」もそれに近いネタかもしれない。なんにしても、読み返したくなる作品群でした。


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