おにゆりの苑

俳句と俳画とエッセー

2015-07-20 15:41:36 | Weblog

 私は父親の嗜好に似て鮎が好きである。
もとより海岸線のない岐阜県人間であったから鰻と鮎と川魚が身近にあったと言う事である。
 鮎は海の魚のような生臭さがなくて香魚と言うだけあって色も味も品が良い。女学校の時席が隣あっていたAさんなぞは卒業すると岐阜の鵜飼やの杉山へお嫁に行った。忙しくて同窓会にも出席できなかったが此処四五年前に顔を出したと思ったらすぐ黄泉の人になってしまった。
 こちらで鮎をと言うと夫の生存中はよく香嵐渓の名前は忘れたが鮎専門の料理屋に毎年家族で行っていた。そこへ着くとほっとするような駐車場には何か動物だったか鳥だったかが飼われていた。刺身、塩焼き、煮付けに酢の物、鮎ご飯などとフルコースであった。
 ところがそれは三河の味であって、本当に美味しいと思っていたのは、やはり故郷の長良川のほとりにある湯の洞温泉のものであった。 風呂は入れるし外には秋海裳が咲いていたりして鮎雑炊などの味は絶品であった。
 しかし若いうちのことである。今となっては「行こう!行こう!」と言ってくれる人もなくせいぜいアピタで焼いて四五百円で売っているのを一二尾買ってきて独り居の膳を賑わせて居るに過ぎない。
 先日も売り出しのチラシをみて四百五拾円で二尾なら安いとスーパーへ駆けつけたら句友のHさんがいて「天然と養殖とでは味が全く違うからやめときなさいよ」と注意してくれた。「そういえば貴女は郡上の方でしたよねー」と言いながら買ってきてぞんざいに食べた。
 口先の鋭い天然ものを、うやうやしくささげ持ちながら頂きたいものである。そろそろ簗も組まれて、そのよしずや竹の上で、流れ着いた鮎が飛び跳ねている頃であろう。

   俳句  ミスト噴く学生乗り場夏休み 
        この奥にゲストルームや緑濃し

 

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする