おにゆりの苑

俳句と俳画とエッセー

その人の名は

2007-06-04 08:03:09 | Weblog

 

 四十五年来の無二の親友と別れた。
 風邪気味だからと、医者に処方してもらった薬を飲んだ夜から急に咳きがひどくなって、花粉症か、喘息か、肺炎かと、気をもんだ。
 タオルを熱してビニール袋に入れ温湿布にして、冷めると取り替えること、五回も六回も、それを胸の上に乗せて落ちないように、真直ぐ天井を向いて固まって寝ていた。
 夜になると、激しく咳き二晩そんな有様だった。

 別に冷ややかにされているとは思はなかった。


 子供に給食費を、持たせることを忘れても彼女との蜜月は、問屋稼業の店番を、冷やかしに来て以来果ては棺の中迄もと思っていたのに、あられもない格好で、咳き込む姿に向こうがあっけなく、私から手を引いた。
 腕にシールを貼ろうとガムを噛もうと、何でもありよと、許してくれていた私の親友の名前は、そう、「タバ子」であった。

缶入りのピースに始り、みどりや憩いのおばさんであったり、新生であったり、最後の十何年かはマイルドセブンの6番であった。先日旅行の折り免税店で買ってきたワンカートンが、所在なげに風邪の治った私を見つめている。

 俳句  * 五月闇寄る辺なき身を包みける

     * イヤリング光れる程の五月闇

 

 

コメント (2)
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