電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ジャレド・ダイアモンド『第三のチンパンジー』を読む

2019年07月15日 06時01分03秒 | -ノンフィクション
ジャレド・ダイアモンドという著者の本を最初に読んだのは、2000年末から2001年の正月にかけてでした。草思社刊の単行本『銃・病原菌・鉄』(上下)という本で、これがたいへん興味深く、その後も『文明崩壊』(上下)などを読んでおります(*1)。



今回読んだのは、「若い読者のための」という冠はついていますが『第三のチンパンジー』というタイトルの草思社文庫です。「人間という動物の進化と未来」という副題がついており、2015年に単行本で出て、2017年に文庫化されたものを、同年6月の出張時に某駅の書店で購入(*2)、昨年から少しずつ読み進めてきたものです。

そして、このたびもたいへんおもしろく興味深い内容でした。『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』でおなじみの内容も含まれますが、人間という動物の進化を考えつつ、人間社会と文明の未来を考えるという意味で、示唆に富む優れた著作だと感じます。



以下、当方がおもしろいと思った点を一部抜粋。

  • (旧人から新人への)大躍進を起こした要因は、これという正解がまだない考古学上の謎だ。不明とされている要因は骨の化石に残るようなものではない。それは私たちのDNAのわずか0.1%に起きた変化だった。そして、これほどの結果を引き起こした。私たちの遺伝子上の変化とはいったいどのようなものだったのだろうか。
     この疑問を考えてきたほかの科学者と同じく、私にも正しい答えはたったひとつしか思いつかない。言葉である。解剖学的あるいは身体的な変化によって、複雑な話し言葉を操ることが可能になったのである。(p.66、「小さな変化、大きな結果」より)

  • (農業が持つ否定的な影響について)、狩猟採集から農業への移行は、公衆衛生にとって決して好ましいものではなかった (p.193〜4)

    1. 狩猟採集民:タンパク質とビタミン、ミネラルを含む多彩な食べ物 vs 農耕民:主にでんぷん質の作物ばかりを食べていた
    2. 一種類〜数種類の作物に依存=栄養失調および作物の凶作による餓死の危機 (例)アイルランドのジャガイモ危機
    3. 伝染病や寄生虫 人口が密集し栄養不良の定住者が住む社会の形成=排泄物を介して互いに病気をうつしあう

  • 農業人口が狩猟採集民の人口よりも急速にその数を増やしていけたのは、定住社会の女性の場合、二年ごとにひとりの子どもを産めるのが普通だったからである。狩猟採集民の女性の場合、四年にひとりの間隔だったのは、子どもが仲間の集団について歩けるようになるまで、母親は子どもをおぶっていなくてはならなかったからなのだ。(p.196)

  • (地球外の文明が見つからない要因の一つに文明の継続性がある。文明が短い期間で滅べば、互いに出会う可能性は低いという意味で)「テクノロジーを高度に発達させた文明はどのくらいの期間存続するのかという問題」(p.227 第10章「一人ぼっちの宇宙」より)
  • 言葉と農業と高度な技術ー私たちの文化的な特質のなかでも、この三つによってヒトの存在はきわめてユニークなものになりえている。地球上に人間が広がり、世界の征服者たりえたのも、こうした特質のおかげだ。そして、この世界征服の過程において、異なる集団同士の関係をめぐり、ヒトという種は基本的な変化を遂げていった。」(p.232、第4部「世界の征服者」より)
  • よそ者嫌い、ジェノサイド、動物界の仲間嫌いと戦争、第二の雲(第一の雲=原子爆弾のキノコ雲、第二の雲=環境破壊の危険)


(*1):ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』上巻を読んでいます〜「電網郊外散歩道」2010年5月ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』上巻を読む〜「電網郊外散歩道」2010年5月ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』下巻を読む〜「電網郊外散歩道」2010年6月
(*2):パソコンを持たずに出張してみて〜「電網郊外散歩道」2017年6月


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