電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(下巻)を読む

2012年03月19日 06時06分23秒 | 読書
講談社文庫で、池井戸潤著『空飛ぶタイヤ』の下巻を読みました。走行中に外れたタイヤが歩行者の命を奪うという事故の背後に、自動車会社のリコール隠しがあった、という企業小説の続きです。

事故の証拠品となる、外れた車輪まわり部品の返還を自動車会社に求めつづけたら、部品を返還しない見返りに一億円の補償金を出すという申出がありました。赤松運送の赤松徳郎社長は、札束で懐柔しようというやり方を拒絶します。それは、赤松運送への対応に決着をつけ、商品開発部に転出するという、ホープ自動車内部における担当者・沢田の打算が打ち砕かれたことを意味しました。

赤松運送の経済的苦境は、同じ事故を経験した児玉運送の協力や、はるな銀行の支援によって、なんとかしのいでいたものの、子供のPTA内の不愉快な動きや、被害者が裁判に訴えたことにより、一段と深刻化してきます。頼みの綱の週刊潮流のスクープ記事も、ホープ重工グループの広告掲載を引きあげるという脅しによってあえなくボツになってしまいますが、担当記者が提供してくれた事故一覧をもとに、全国の運送会社を一つ一つ調べて回るうちに、赤松社長はホープ自動車の欠陥とリコール隠しの証拠をつかみます。それは、週刊潮流の榎本記者が足で調べ上げたリストにはない、整備不良と言い逃れることができない、決定的な証拠でした。新車で同じ事故が起こっていたのです(^o^)/



読了までハラハラドキドキ、実におもしろい企業小説でした。とくに、銀行や大企業組織内部の権謀術数、面従腹背、抜きつ抜かれつのデッドヒートなど、サラリーマン経験のない作家には描けない、組織の内部の世界が描かれているところは、圧巻です。赤松社長の不屈の意志と社員の団結力などは、いささか出来杉君の面もありますが、ホープ自動車や東京ホープ銀行などの大企業の生態は、いかにもありそうな話で、このあたりが元銀行マンという作者の面目躍如たるところでしょうか。


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