電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

碧野圭『凛として弓を引く』を読む

2024年07月23日 06時00分51秒 | 読書
しばらく前に書店に立ち寄った際に、ビニルパックされた文庫本の中で少女が弓を引いている表紙が目に付きました。講談社文庫50周年記念の書き下ろしで、碧野圭著『凛として弓を引く』という題名の、「弓道女子の青春物語」だそうで、どんな話か興味津々です。ただ、何かと忙しい日々で実際に読むのは後回しにされ、最近になって入院生活の中でようやく読み始めたところでした。

主人公は矢口楓さんという中学校を卒業し高校に入学する直前の女の子です。たまたま通った神社の境内にある弓道場で、弓を引いている姿に見惚れてしまい、それがきっかけで弓道体験教室に参加することになります。残念ながら高校に弓道部はなく、社会人中心の神社にある弓道場で弓に取り組みます。高校生の仲間もいて、良い指導者にも恵まれ、徐々に技量も向上していきますが、どうも友人となった兄妹の家庭には弓道が複雑な陰を落としているようで、気になります。ある日、尊敬する指導者の一人が流鏑馬を引退するという話を聞き、どうしても見たいと出かけたのでしたが、そこで知った意外な真実とは……。

うーむ、物語としてはミステリー風の要素も含み、高校生くらいの若い人にはドキドキの展開となるでしょう。射法八節など、一つ一つステップを追って練習する様子の表現などは正確ですし、作者が弓道経験者であることがわかります。しかも、これほど克明に初心者の時を描けるのですから、たぶん近年になってから弓道を始めたのではないかと想像します。若い人だけでなく、元若い人でも弓道に接したことがある人ならば、共感するところが多いのではないかと思います。



山形県の場合、旧制中学校、女学校の流れを組む高校にはほぼ弓道部があるようですし、そうでなくても最近は弓道部が人気があるのだそうな。確かに、袴姿で執り弓の姿勢は緊張感がありカッコいいですし、打ち起こしから引き分け会に入り離れに至る一連の動作には美しさがあります。特に三人立ちの場合や高校生の競技のような五人立ちの場合、射位に進む一連の動作は合理的で、退く姿も静かで落ち着きがあります。若い人は、今流行するヒップホップのようなものとは違う、魅力を感じているのかもしれません。

かく言う私も元高校弓道部員でしたし、大学生時代は体育の授業で弓道を受講し、経験者ということで伸び伸びと引かせてもらったものでした。社会人になってからも30代前半まで機会を見つけては楽しく弓を引いていましたので、30代の終わり頃に右腕の腱を痛めるまでは、元弓道三段を自負しておりました。今は実際に弓を引くことはなくなりましたが、平常心を重視し、他人に勝つことよりも自分に負けないことを大切に考えるなど、弓道を経験して得たことが何らかの形で生きているように思います。

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