電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐藤賢一『黒い悪魔』を読む

2012年12月08日 06時03分32秒 | 読書
文春文庫で、佐藤賢一著『黒い悪魔』を読みました。『モンテ・クリスト伯』や『三銃士』等の作者、アレクサンドル・デュマの父親、トマ・アレクサンドル・デュマの生涯を描く、破天荒な冒険譚であり、かつ人間の自由・平等・博愛を希求するフランス革命の精神をあくまでも追求しようとした、激動の時代を描きます。

フランスの貴族の私生児として生まれたトマ・アレクサンドル・デュマ。しかし父親の姓を名乗らず、自分の力でのし上がろうとします。その焦りと葛藤は、軍隊という一種独特の集団の中でも、必ずしも所期の目標には届かないのですが、フランス革命という時代の偶然もかなり作用して、その地位を押し上げていきます。前半の、妻となる女性と結婚することを正式に認めてもらうために、いささかどころか、かなり乱暴なやり方で出世しようとするあたりには、博士課程在学中の担当教授との軋轢など、認められない不遇時代の作者の心情も反映しているのかもしれません。

後半は、ナポレオンとの確執とが中心となります。圧倒的な強さを持つ超人的な肉体と勇気で兵士達の信頼を集めながら、戦略的な視点に乏しい自分を自覚します。これに対し、小男で兵士達の信頼は乏しいが、天才的な戦略眼を持つナポレオンは、デュマと組むことを希望しますが、デュマはナポレオンの下に甘んじることを拒否します。このあたりは、フランス革命の理想をどう維持するかという違いを根底に持ちながらも、個人対個人の力の優劣という観点から逃れられないデュマの狭さでしょう。

コメント