電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

クリフォード・ストール『カッコウはコンピュータに卵を産む(下)』を読む

2010年12月14日 06時02分22秒 | -ノンフィクション
1990年代の初頭以来、ノンフィクションにおける MyFavorite のトップの一角を占めている、クリフォード・ストール著『カッコウはコンピュータに卵を産む』下巻を読みました。前回も書きましたが、1991年以来、実に10回目の再読になります。私が UNIX の世界に関心を持ったのも、たしかこの本と、それから GNU-2 CD-ROM がきっかけでした。



ローレンス・バークレー研究所等を経由してあちこちの軍事施設に侵入を繰り返しているハッカーは、西ドイツから接続して来ていることが、逆探知でわかりました。ところが、そこから先がなかなか進みません。ドイツの捜査令状が必要なのですが、FBI がドイツに要請するには、ドイツの米国大使館の法務参事官が申し入れをしなくてはなりません。ところがこの法務参事官は、全然動こうとしない。読んでいるほうも、お役所仕事に腹が立ってきます。他の機関も、警告は無視するくせに、いざ周囲が動き出すと、所轄庁である我が方に連絡がないとは何事かと噛みついてきます。ちゃんと報告してあるのに(*)、です。

それはさておき、謎の侵入者は、ペンタゴンの Optimis 陸軍データベースに入り込み、中部ヨーロッパ戦域核配備計画文書のリストを手に入れてしまいます。FBI のマイク・ギボンズ捜査官は担当を外され、NSA は煮えきらない。CAI もだんまりを決め込んでいるうちに、今度はアメリカ空軍システム司令部のコンピュータに行き着き、なんと管理者特権を入手してしまいます。空軍の全コンピュータシステムの保安監査の権限が与えられるというのですから、唖然呆然愕然の事態です(^o^)/

この時期の、捜査を打ちきる方針だという FBI の動きは理解できません。具体的な被害額が軽微だから捜査の必要なし、ということでしょうか。やれやれです。CIA の T・J に連絡すると、どうやら裏から手を回して、FBI の方針も動かしてしまったようです。

とまあこういう具合で、政府機関のモタモタに業を煮やして、著者とマーサのカップルは、勝手に偽情報をでっちあげて、おとり捜査を開始します。名づけて「シャワーヘッド作戦」です(^o^)/
これに食いついてくるか、捜査の結末はどうなるのか、以降のあらすじは省略いたしますが、実際に犯人が逮捕されてみると、かなり大掛かりな国際スパイ事件だったわけです。

著者がこの事件の経過と教訓をあちこちで講演したり、CIA で感謝状をもらったりするときの、官僚機構のしきたりに外れたおかしさもけっこう笑えます。また、マーサと結婚式を挙げるエピソードも、とても素朴で好感が持てます。



今だから分かる、アメリカの意図を明示する会話もあちこちにありました。

秘密の用向きで西海岸に行くというグレッグ・フェネル(注:CIA)と一緒の飛行機でバークレーに帰った。なんとグレッグはさる天文台の長を努めたことのあるれっきとした天文学者だった。私たちは宇宙望遠鏡の話をした。近々打ち上げが予定されている10億ドルの精密観測装置である。
「94インチの望遠鏡を大気圏外に打ち上げたら、惑星の表面がびっくりするほどよく見えるでしょうね」私は言った。
「望遠鏡を地球に向けたらどうなると思う?」
「地球なんか見てどうするんです?面白いことは全部地球外じゃないんですか。それに、宇宙望遠鏡を地球へ向けるのは物理的に不可能ですよ。無理にやれば、センサーが焼けちゃいますからね」
「かりにそういうことができる望遠鏡を作ったとして、それを地球に向けたら何が見えるかね?」

こういう会話が、1980年代の終わりに交わされていたことを思うと、なるほどな~と思います。ほかにも、現在の目で読むと思い当たる節がたくさんありますし、情報管理の視点は、現在もなお新鮮なものです。

(*):このあたり、記録の大切さは、当方も何度も経験済み。なにせ、業務日誌というか備忘録が電子化されているのですから、検索はすぐできます。
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