電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

一回性と反復

2010年12月10日 06時03分08秒 | クラシック音楽
若い頃に、よく「演奏の一回性」という言葉を聴きました。本来の趣旨は、この日、この時の演奏はただ一度きりのものであって、おろそかには聴くまいぞ、という戒めだったように思います。特に、若い頃に直面した、思わずぞくぞくするような体験は、こういう言葉に対し、うなづかせるものを持っています。

しかしながら、演奏の一回性だけが至高至純のものであり、録音を反復再生し聴取するような行為は、演奏の一回性に対する冒涜であるとするような議論は、いささか極論に過ぎると感じてしまいます。

その日、その時の一回性は信じつつ、録音を何回も繰り返して聴く中で、あの時代のあの演奏の意味合いを実感するということは、むしろ音楽ファンの醍醐味なのではないでしょうか。

多くの演奏家が、多忙なスケジュールをやりくりして演奏会を開催しながら、なお録音にチャレンジする理由も、同じことのように思います。演奏の一回性を信奉し録音やその反復再生を否定する演奏家はごく少数で、大多数は演奏の一回性を大切にしつつ、録音の持つ力も認め、それを世に問うという姿勢を示しているのだろうと思います。

ごく一部の有名演奏家の場合は、録音の経済的なメリットも少なくないことと思いますが、その比率はごく少なく、大部分の演奏家にとっては、クラシック音楽の録音がそれほど経済的な恩恵をもたらすとは考えにくいように思います。世の中には、演奏会に足を運び、音楽を楽しめるような状況にある人ばかりとは限りません。むしろ研鑽の成果を多くの人々に聴いてもらいたいという要素が強いような気がします。

(*):何度もくり返し聴く楽しみ~「電網郊外散歩道」2006年3月

写真は、サクランボの冬芽です。来年の春に花が咲く準備は、冬の間にすでに整っております。



初冬の果樹園の様子です。花芽を育てて役割を終えた葉が、一面に広がっています。クローズアップすると、こんなふうに。


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