電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『侘助ノ白~居眠り磐音江戸双紙(30)』を読む

2009年12月23日 06時11分25秒 | -佐伯泰英
第28巻で、父に同伴して土佐へと旅立ったでぶ軍鶏こと重富利次郎が、前巻で霧子さんに負けじと活躍を見せておりました。佐伯泰英著「居眠り磐音江戸双紙」シリーズ第30巻『侘助ノ白』は、利次郎の土佐での波乱の日々と江戸の佐々木道場の日常を交互に描く形で展開していきます。

第1章「斬り合い」。土佐に到着した重富利次郎は、土佐藩江戸定府の近習目付を勤める父・百太郎と共に、分家の御槍奉行・重富為次郎の屋敷に滞在し、従兄弟の寛二郎に勧められて藩校教授館の朝稽古に参加します。これまでの修練がものをいい、五人抜きと実力を発揮し、多くの知己をえますが、城帰りの父を護衛し、城下で襲撃者を撃退します。どうやら、土佐藩内にも商人と結託した不穏な動きがあるようで、父の用務は、どうやら秘密の監察にあるようです。

第2章「餅搗き芸」。こんどは師走の江戸に場面が変わり、尚武館佐々木道場の餅搗きの場面です。杵搗き餅はかたくなりにくく、実においしいのですね。賑やかなよい場面です。旅の武芸者・小田平助さんも、飄飄としてなかなか気持ちの良い苦労人の様子。どてらの金兵衛さんの風邪見舞いが縁で今津屋の用心棒をつとめることになりますが、こちらは定番の安心感です。

第3章「闘剣士」。古代ローマのカタコムブと闘技場を一緒にしたような、あるいは清朝の阿片窟とスペインの闘牛場を一緒にしたような、奇怪なイメージの一編。妻女の病の薬代にと闘剣を志願した憑神さんも気の毒ですが、多くの観客がいるという想定は、あまり後味が良いものではありません。

第4章「桂浜の宴」。気持ちの澱みを玲圓との真剣稽古で洗い流した磐音のもとに、土佐の利次郎からの手紙が届きます。霧子に宛てた追伸をそっと伝えるあたり、他人のことだとよく気がつくのですね、磐音クン。
その高知城下では、利次郎を名指しの襲撃などという陰謀の手も伸びますが、利次郎は果敢に撃退します。一方、江戸の正月は、小田平助を加えた佐々木道場における和気藹々、対照的な和やかさ。竹村武左衛門の娘・早苗も木刀を手に初稽古に。凛々しいですね~、父親とはえらい違いです(^o^)/

第5章「漆会所の戦い」。土佐藩内の紛争も、城内では藩政改革派が勝利しますが、漆会所に立て籠もった反対派の東光寺無門は、下士の怨念を理由に抵抗の姿勢を崩しません。藩主不在時に多人数の争闘を避けようと、東光寺の師・麻田勘次は利次郎を伴い漆会所に乗り込みます。藩校教授館の朝稽古で利次郎に苦杯をなめた下士の稲葉安吉と利次郎の戦いで始まり、麻田勘次と東光寺無門の師弟対決は師匠の側に凱歌が上がります。
一方、江戸では田沼意次の息子の意知が雇った不逞の武芸者が尚武館に挑みますが、小田平助に撃破されます。なんとも強烈な、得がたい門番です。そして利次郎と麻田勘次の稽古後の会話は、なにやら禅問答のようです(^o^)/



ようやく年内に第30巻まで到達しました。これで既刊は全巻読破したことになります。新年早々、新刊の発売も予定されているとのこと、作者の精進のおかげで、当方の楽しみもまだまだ続きそうです。喜ばしい限りです。
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