電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マーラー「交響曲第6番」を聴く

2009年12月10日 06時19分36秒 | -オーケストラ
ここしばらく、あちこち出張をはさみながら、ずいぶん長い間、マーラーの交響曲第6番を通勤の音楽としておりました。作曲者44歳の1904年に完成された、Wikipedia によれば「彼の交響曲中、最も完成度の高いもの」(*1)だそうです。聴いているのは、エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団による演奏で、DENON の CD 2枚組、60CO-1327-28、たしか発売と同時に購入したレギュラー盤です。

作曲家44歳の1903年の夏に、休暇を利用して作曲を進め、第1楽章から第3楽章までを完成、翌年の夏に、「亡き子をしのぶ歌」とともに第4楽章を完成したのだそうな。Wikipedia の同記事にある楽器編成を見て、あらためて驚き呆れました。
ピッコロ、フルート(4:ピッコロ持ち替え2)、オーボエ(4:イングリッシュホルン持ち替え2)、イングリッシュホルン、クラリネット(4:ソプラニーノクラリネット持ち替え1)、バスクラリネット、ファゴット(4)、コントラファゴット、ホルン(8)、トランペット(6)、トロンボーン(4)、チューバ、ティンパニ(2)、グロッケンシュピール、カウベル、むち、低音の鐘、ルーテ、ハンマー、シロフォン、シンバル、トライアングル、大太鼓、小太鼓、どら、そりの鈴、ウッドクラッパー、ハープ、チェレスタ、そして弦5部、というものです(^o^)/
たしかに「普通じゃない」。これは、当時の新聞等に、様々に揶揄される記事が出たのも無理はありません(^o^)/
でも、音楽はキワモノではありません。

第1楽章、アレグロ・エネルジコ、マ・ノン・トロッポ、イ短調、4/4拍子。多人数の軍隊の行進のような、行進曲ふうのリズムで始まります。ときに不安気に、ときに威嚇するように、音楽はこの楽章だけで十分に一曲ぶんのボリュームです。
第2楽章、スケルツォ、重みをもって、イ短調、3/8拍子。独特のリズムで、ヒグマのスキップみたいな音楽で始まります。中間部、必ずしもリズムに乗らない、ムラ気な様子もあり、音響的にも面白いものです。
第3楽章、アンダンテ、変ホ長調、4/4拍子。やわらかな始まりですが、優しく幸福な牧歌とばかりは言えないものがあります。忍び寄る不安の影。いかにもマーラーの緩徐楽章らしい、この楽章の繊細な美質は、冬タイヤのロードノイズに隠されてしまって、必ずしも通勤の音楽には適さないようです。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ・モデラート。ハ短調、2/2拍子。様々な鳴り物を駆使した巨大な音響と、対立する旋律が息長く展開される、長大で、厳しく迫力にみちた音楽です。たしかにハンマーは効果的ですが、それだけがクローズアップされるわけではない。全体の中で、打ち倒されるような衝撃を表す、そんな役割でしょうか。高揚する金管群が、クライマックスを盛り上げます。

添付のリーフレットには、録音についての技術的な解説も掲載されていました。それによれば、第4番のように、従来ワンポイント・ステレオ録音を主体としてきたけれど、この第6番のような楽器編成の場合、ワンポイントですべて収録するのは難しい。しかし、マルチマイクでミキシングすると、実際に音が伝わる速さとマイクロホンからケーブルを伝わる音声信号電流との間で、遅延が起こってしまいます。そこで、ワンポイント録音を主体とし、ムチやハンマーといった特殊楽器には補助マイクを立てて、デジタル遅延ミキサーで調整する、という手法がとられたのだそうです。

その効果は、たいへん自然な形で成功しており、直接音と間接音とが、バランス良く収録されていると感じます。DENON の代表的な名録音の一つでしょう。

■インバル指揮フランクフルト放送響
I=24'24" II=14'46" III=14'36" IV=30'03" total=83'49"

マーラーの交響曲第6番には、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団による正規録音もあったはず。こちらは、残念ながらまだ入手しておりません。今後の楽しみの一つです。
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