電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

伊坂幸太郎『モダンタイムス』を読む

2009年12月25日 06時17分44秒 | 読書
『死神の精度』(*)に続き、伊坂幸太郎作品『モダンタイムス』を読みました。著者は、大学卒業後、1990年代中~後半には、SEとして働くかたわら、文学賞に応募していたのだそうな。ちょうど Windows95 やインターネットの普及期にあたり、SE としてはたぶん相当に忙しかったことと思います。よく小説を執筆する暇があったものだと感心します。本作は、そういう経歴を知ると「なるほど」と思える、「検索から監視が始まる」という未来社会を描いた物語です。

『死神の精度』でもそうでしたが、著者は日常性の中にありえないような非日常の想定をすべり込ませるのがうまい。始まりの部分の展開は、妻・佳代子への恐怖感が中心であって、この女性の背後に謎の組織でも出てくるのかと思っていたらさにあらず。主人公は、妙な会社の仕事を請け負い途中で失踪した先輩SEの後任として仕事をはじめますが、この仕事というのがどうも胡散臭い。そのうちに、私立中学校の襲撃事件を解決して名を上げた国会議員が登場するやら、検索システムが監視され、いくつかのキーワードを組み合わせて検索した人が襲撃されたり社会的に抹殺されたりするようなのです。

せっかくのミステリーですので、あらすじは省略いたしますが、なるほど『モダンタイムス』とは言い得て妙なネーミングです。チャップリンの同名映画だけでなく、監視社会を描いた某映画にも触発されたような印象。なかなかおもしろいです。

都会で恋愛結婚したカップルの場合は、相手の背景や過去に恐怖感を感じたりすることが、理論上ありうるのですね。当方、互いに同郷の幼なじみ結婚(?)ですので、そういうフクザツな心境は、まるで想像もできませんが(^o^;)>poripori

システムや法律が、最初の目的をどんどん外れて別の生き物のようになっていくという自己運動性、自己展開性がテーマのようにも見えますが、組織やシステムの自己組織化というのは、近年の分子生物学等の影響でしょうか。遠くの蝶の羽ばたきが回り回って地球の裏側に影響を及ぼすというような意味で、複雑系の理論をも下敷きにしているようです。その意味で、理系的な親しみを感じる要素もあるかもしれません。

一方で、井坂好太郎という似た名前の小説家を登場させ、狂言回しのような役割を振るなど、思わず微苦笑してしまうようなところもあり、ストーリー・テラーとしての資質は相当に大きなものがありそうです。今後、続けて読んでみたいと思わせる作家の一人です。

(*):伊坂幸太郎『死神の精度』を読む~「電網郊外散歩道」
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