電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

レオン・フライシャーのこと

2009年12月06日 06時13分45秒 | クラシック音楽
先日、ちょいと酒席があり、ご機嫌で宿泊先の部屋に戻りました。テレビで、レオン・フライシャーの番組を放送していたので、思わず見入ってしまいました。金曜の夜、22時30分からのNHK教育テレビ、「芸術展望」です。特集されていたのは、ピアニストのレオン・フライシャー。ジョージ・セルとクリーヴランド管との録音で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(*1,*2,*3,*4,*5)や、グリーグ、シューマンのピアノ協奏曲(*6,*7)等を好んで聴いている演奏家です。

その才能を愛され、将来を嘱望されていたシュナーベル門下の青年ピアニストが、たまたま指を怪我して練習を休み、回復してから猛練習したのがたたったのか、右手の小指と薬指が、曲がったまま伸ばせなくなるという症状が現れます。困ったことに、日常生活ではまったく問題がなくて、ピアノの前に座ったときだけ、この症状が現れるというのです。

おそらく、自分で自分を叱りつけ、なんとか演奏しようとしたことでしょう。でも、指は動かない。このときのふがいなさ、絶望感は、察するにあまりあります。これは、実は局所性ジストニア(*8)という病気だったことがわかります。脳の一部の基底核と呼ばれている部分の機能障害で発症する病気ですから、気持ちの持ち方でどうにかなるようなものではありません。フライシャーは、諦めずに様々な治療法を試します。左手のピアニストとして活動する他、指揮者として、教育者として活動しました。たしか、一時肩を痛めて、指揮者としての活動も休止していた時期もあったはず。たいへん困難な半生と言えます。

やがて、ボツリヌス菌の毒素を用いるという治療法とリハビリが功を奏し、40年ぶりに、両手のピアニストとして復活します。もちろん、右手の自由度は、若い時代と同じではありません。でも、超絶技巧でバリバリ弾きまくるような年代はとうに過ぎています。音楽の深さで、説得力ある演奏を展開します。最後の曲目、シューベルトのピアノソナタまで、酔っ払いにはもったいないほどの、実に素晴らしい時間でした。

(*1):ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第1番」を聴く~電網郊外散歩道
(*2):ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番」を聴く~電網郊外散歩道
(*3):ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」を聴く~電網郊外散歩道
(*4):ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」を聴く~電網郊外散歩道
(*5):ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を聴く~電網郊外散歩道
(*6):グリーグ「ピアノ協奏曲」を聴く~電網郊外散歩道
(*7):R.シューマン「ピアノ協奏曲イ短調」を聴く~電網郊外散歩道
(*8):ジストニアとは
コメント (9)