電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

東野圭吾『時生』を読む

2008年02月08日 05時51分16秒 | 読書
講談社文庫で、東野圭吾著『時生』を読みました。終わりが始まるになり物語、閉じた円環のような物語です。トキオ君は、いつまでもぐるぐる廻っていることになるのでしょうか。

情報通信技術の会社の、おそらく役員待遇であろうと思われる父親は、グレゴリウス症候群という遺伝病により、チューブにつながれた状態で三年になる息子の最期に立ち会っています。そこで、妻に打ち明けた話が、この物語の基本的なストーリーです。今は立派な父親の役割を演じていますが、実は、若い頃に、花やしきで息子トキオ君に出会い、助けられているのでした。せっかくの物語ですのであらすじの詳細は省きますが、まあ、Back to the Future! と似た構造を持つ物語です。

二冊目の東野圭吾作品、なかなか面白かった。大いに楽しみました。
作者の物語づくりには、大いに感銘を受けましたが、ちょいと中年おじんの感想を言わせてもらえれば、すぐキレるダメなあんちゃんの性格が、一連の事件でがらりと変わるようなことがあるのだろうか、という点については、いささか疑問も感じます。昔はグレたことがあったけれど今はよさそうな人だと思い結婚したら、何かのきっかけで激しいDVに陥るというケースは、よく耳にします。人格は積み上げられるものであり、急にぱっと転換はできないものだろうと思います。皆無ではなかろうが、そう多くはないように思います。

グレゴリウス症候群が発病し、チューブにつながれた状態で三年になる息子の治療費は莫大なものでしょうが、夫婦は生活に困っている風もありません。息子が元気な頃は、四輪駆動のワゴン車を買って、北海道など各地を旅しています。かなり裕福な家庭を築いているというべきでしょう。コンピュータ・ネットワーク時代を見通す予言的な展望が、おそらく役員待遇の生活を実現したのではないかと思われます。

一定の社会的地位と裕福な生活を営む中年男性の人格と、巷間よく見かける短気で乱暴な若者の人格を、死んだ息子が引き合わせる事件を通じて、木に竹を接いだような荒業で結びつけたような印象を持ちます。文選工がつとまらない短気な人に、移動体通信や情報通信技術関連の、根気の要る仕事がつとまるものだろうかと、首をかしげてしまいますが、まぁそのあたりの抽象性が、作家のドラマ作りの秘密なのかと思います。
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