電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

「アマデウスへの旅」第3回~山響モーツァルト全曲演奏定期演奏会

2008年02月10日 09時52分09秒 | -オーケストラ
土曜の夜、山形交響楽団による、モーツァルトの交響曲全曲演奏を目指す定期演奏会「アマデウスへの旅」第3回を聴きました。演奏会の前に、山形北ロータリー・クラブから社団法人山形交響楽協会へ、山形交響楽団の古楽器購入のための支援金として、百万円が贈呈されました。地域が山響を応援していることの好例でしょう。指揮者プレトークでは、簡単な曲目の紹介と、古楽器の紹介がありました。まず、木製のフルートを金属性のフルートと並べて紹介し、古楽器の区分には入らないことや、音色のやわらかさなどを、首席奏者の安達祥治さんの演奏で紹介。次にピストンを持たないバロック・トランペットを井上直樹さんの演奏で、さらにバルブを持たないナチュラル・ホルンについて、開口部に入れた右手で音階を作ることを紹介。最後にバロック・トランペットとナチュラル・ホルンでファンファーレを演奏。近代の楽器の輝かしい音色に慣れた耳には、やわらかな音色が逆に新鮮です。音楽監督の飯森範親さんは、定期演奏会で古楽器のホルンやトランペットを使っているのは、たぶん日本国内では山形交響楽団だけだろうと指摘、できれば古楽器のトロンボーンも購入して、魔笛やレクイエムで使ってみたい、と話します。これも、興味津津です。

さて、楽団員の登場。女性団員は色とりどりのドレスで、たいへん華やかです。楽器配置は、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを左右に分けた、いわゆる対向配置。コンサートマスターは高木和弘さん、犬伏亜里さんがお隣に坐ります。最初の曲目の交響曲第5番変ロ長調K.22は3楽章構成、弦5部、オーボエ2とホルン2という編成です。この曲は、まだ9歳のモーツァルトが、お父さんが病に倒れたロンドンで大バッハの息子のヨハン・クリスチャン・バッハの指導を受け、オランダのハーグ滞在中の1765年12月に完成したものらしいです。
第1楽章、アレグロ。弦楽器主体で、オーボエとホルンの使い方はさしずめ調味料でしょうか。第2楽章、アンダンテ。9歳の子供が、けっこう深刻な表情の音楽を書いたことに驚きますが、旅の心細さは子供心にも深刻な体験だったのかもしれません。第3楽章、速い快活なモルト・アレグロです。

続いて交響曲第26番、変ホ長調K.184です。飯森さんによれば、モーツァルトの第3回目のイタリア旅行の成果の1つらしいです。第22番から第30番までにあたる9曲のうちの最初の作品と言われているとのこと。モーツァルトはどうもイタリアでワインを覚えたらしく、晩年はワイン太りで相当に太っていたらしい、と紹介。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト君、やっぱり「清く貧しく」のイメージとはだいぶ異なります(*)。楽器編成は、弦5部にfl(5),Ob(2),fg(2),hrn(2),tp(2)と、だいぶ管楽器が充実してきています。
第1楽章、モルト・プレスト。強弱の対比が印象的な、明快な音楽。高木さんのソロとオーケストラが、協奏交響曲ふうにかけあいをするところもあります。第2楽章、ハ短調のアンダンテ。深刻ではありませんが、ややメランコリックな音楽です。第3楽章、アレグロ。優雅で活発なフィナーレです。

次に、ファゴット協奏曲、変ロ長調K.191です。ファゴット独奏は、山響の若いファゴット奏者である、高橋あけみさん。以前の、文翔館でのパストラーレ室内合奏団の演奏会(*2)以来、すっかりファンになっています。本日は、ラベンダー色というのでしょうか、うすい藤色のロングドレスにて登場。ドレスと楽器がよく似合います。
モーツァルトの唯一のファゴット協奏曲、楽器編成は、弦5部にOb(2),hrn(2) のみ。第1楽章、アレグロ。ユーモラスな低音、歯切れ良いスタッカート。旋律はよく歌い、時にオーケストラの中に溶けこみ、またオケに埋もれず独特の音色を聴かせてくれます。ソロとオケが調和しつつ対話する、そんな演奏。そして現代的で見事なカデンツァ。楽器を持つ手に、たくさん汗をかいたのではないでしょうか。そういえば、私の席からはファゴットをつり下げるストラップが見えません。
第2楽章、アンダンテ・マ・アダージョ。響きが、音楽が、融けあっています。オーケストラの一部でありながら、たしかにソロを感じさせる一体感。
第3楽章、ロンド、テンポ・ディ・メヌエット。再び明るく快活な表情のフィナーレです。
すばらしい演奏に、大きな拍手。ステージ上でおじぎをしながらも、少々はにかんでいます。でも、嬉しそうです。高木さんにもほめられていたみたい。

休憩の後は、今夜のメインである美しい交響曲第29番、イ長調K.201です。
この曲は、26番やファゴット協奏曲と同時期の作品ですが、J.C.バッハが確立した、三楽章スタイルではなく、メヌエットを加えた四楽章からなっています。すでにハイドンの影響を受けていると言ってよいのでしょうか。楽器編成はまだそれほど大規模なものではなく、Ob(2),Hrn(2)に弦楽5部、といったもの。
第1楽章、アレグロ・モデラート。優美な音楽ですが、響きに量感があります。
第2楽章、アンダンテ。ヴァイオリンの対向配置が生きています。右手で音階を作る古楽器のホルン特有の音色が感じられます。ひたすら優美な音楽です。
第3楽章、弦楽器中心の活気あるメヌエット。
第4楽章、アレグロ・コン・スピリト。軽快なフィナーレです。

いや~、モーツァルトのギャラント・スタイルの時代の作品を、じゅうぶんに堪能しました。良かった~!

終演後のファン交流会にも参加いたしましたが、飯森さんが蔵王で30年ぶりにスキーを楽しんだ話、初日はだいぶ転んだけれど、二日目は昔のカンが戻ったとのこと。高木さんはドイツ・アルプス仕込で、スキーもたいへん上手なのだそうです。



高橋あけみさんのストラップの秘密も面白かった。実は、市販のストラップは黒いものしかなくて、せっかくのドレスの色とあわない。困っていたら、手芸の得意なお友達が、発熱をおして同系の生地でストラップを作ってくれたのだそうです。もう嬉しくて、一生モノです!と裏話を紹介してくれました。
また、所属する山響については、エキストラ時代から活動に参加しているけれど、創立名誉指揮者の村川千秋さんが、自分で大型免許を取り、バスを運転して学校を回った情熱に感銘を受けたこと、町で買いものをしているときに、山響団員であるとわかると、お店の人が「私も小学校の音楽教室で聴きました~」などと言ってくれるのだそうで、地道に学校を回る、地域に根ざす活動が大切だと思っています、と考えを披露。若いチャーミングなお嬢さんとばかり思っていましたが、しっかりした考えにふれて、たいへん感動いたしました。山形交響楽団を、今後も大切にして、応援していきたいと思ったことでした。

(*):モーツァルトの年俸~「電網郊外散歩道」より
(*2):パストラーレ室内合奏団でベートーヴェンの七重奏曲を聴く~「電網郊外散歩道」より
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