電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

『小説家を見つけたら』を読む(2)

2007年02月11日 09時50分36秒 | -外国文学
本来はこういう文庫を手にすることはなかったであろうに、某ブックオフで105円という値段とショーン・コネリーの顔につられて、ついでにDVDまで購入したJ.W.エリソン著『小説家を見つけたら』(石川順子訳、ソニー・マガジンズ文庫)。先日(*)の続きです。

物語は、バスケットボール・チームと作文の授業を中心に、ジャマールの学園生活が展開されます。同じバスケ・チームのハートウェルはジャマールをライバル視し、なにかと対立します。作文のクロフォード先生は、ブロンクス出身の黒人少年の作文の質の高さに驚嘆し、盗作を疑います。それが思わぬ展開をうみ、ジャマールは窮地に立たされてしまいます。

作文コンクールにジャマールが提出した作品が、ピュリッツァー賞を受賞した大作家と同じ題名であったことから、審査会で説明を求められますが、ジャマールはフォレスターとの約束を守り、一切弁明をしません。バスケットボールの試合も、大事な場面でフリースローを落とし、クロフォード先生と理事会への謝罪を拒否したジャマールには、退学の道しか残されていませんでした。

ところが、対人恐怖、群集恐怖に捕われていたウィリアム・フォレスターが、メイラー校の作文コンクール発表会場に現れ、スピーチをさせてほしいと言います。大勢の生徒の前で見事なスピーチをしたフォレスターの原稿は、実は彼のオリジナルではなかった。それは、・・・という物語です。



環境に恵まれない少年のサクセス・ストーリーの展開を基本とする、アメリカらしい物語です。ブロンクスの生活と仲間の率直さに、メイラー校に代表される富裕な社会の雰囲気とを対比させつつ、いったん筆を折ったウィリアム・フォレスターの秘密と、若い友人に最後の作品と希望を託して命の尊厳を全うするエピローグなど、少年向けとばかりは言えない香りもあります。

映画の方も、ショーン・コネリー扮するウィリアム・フォレスターが格調高く素晴らしい演技です。古風なタイプライターや、タイプされた原稿が年代順に納められたファイル・キャビネットなど、懐かしいものがいっぱい登場します。ワードプロセッサを用い、ハードディスクに格納される原稿の保管に慣れ切っていますが、たしかに格調は失われたよなぁ、と感じてしまいます(^_^;)>poripori

(*):『小説家を見つけたら』を読む(1)
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