電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

吉村昭『アメリカ彦蔵』を読む

2006年08月08日 21時34分03秒 | -吉村昭
新潮文庫で、吉村昭著『アメリカ彦蔵』を読みました。本作品は、親を亡くした播磨の国の少年が、炊事見習い夫として船に乗り組み、嵐のために太平洋を漂流してアメリカ船に救助されます。仲間とともに帰国を望みますがかなわず、親切なサンダース夫妻の援助により米国の教育と洗礼を受け、米国に帰化してアメリカ市民となり大統領にも面会した最初の日本人となります。やがて、日本語と英語の会話力を買われて米国領事ドール付の通訳として日米交渉にのぞみます。このあたりは、『海の祭礼』に描かれた日本側の通訳である森山栄之助とはまったく逆の立場です。
井伊大老の暗殺に見られるような世情不安の中で、身の安全を不安に思った彦蔵は、いったん米国に戻り、海軍の物資補給係の職を得ようとしますが、米国は南北戦争に突入し、アメリカ政府の日本への関心が低下した時期にあたるのでした。彦蔵は求める職をなかなか得ることができず、日本に戻り領事館の仕事を続けることとなります。その頃、南北戦争の終結に伴う武器の供給過剰が、生麦事件を契機にした薩英戦争から薩長同盟を経て明治維新への激動が始まるのでした。(以下略)

「明治維新は南北戦争のおかげでござる」と喝破した西郷隆盛の言葉の背景がよくわかる物語です。特に、『黒船』や『生麦事件』などは日本を舞台に描かれますが、この物語は日米をまたにかけ、南北戦争を視野に入れた点が、日本近代史に弱い理系にとって目からウロコでした。
コメント