電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

初めて読んだ吉村昭作品は

2006年08月02日 20時57分40秒 | -吉村昭
吉村昭氏が亡くなった。79歳。すい臓ガンだったという。おそらく、腰が痛い、背中が痛い、といった症状が出ていたと思われるが、作家特有のデスクワークに伴う持病だと思われていたのではなかろうか。まことに惜しまれる。

私が最初に吉村昭氏の作品を手にしたのは、たぶん『漂流』か『黒船』だと思う。『黒船』は、幕府のオランダ語通詞であった堀達之助が、英語学者の草分けとして英語の辞書を編纂したが、晩年は不遇な生活を送った経緯が、淡々と語られる物語だった。まるで理系の論文の総説を読むような感覚を覚えるほどに、綿密な実証の裏づけのある記述が多かったが、その中にも人間らしい情感が脈々と流れているのが感じられた。
その後、『アメリカ彦蔵』『光る壁画』『白い航跡』『長英逃亡』『海の祭礼』『夜明けの雷鳴』『海馬』『日本医家伝』『零式戦闘機』『月下美人』『島抜け』『陸奥爆沈』『プリズンの満月』『仮釈放』『生麦事件』『大黒屋光太夫』『海の史劇』『深海の使者』『ふぉん・しいほるとの娘』『落日の宴』『大本営が震えた日』『戦艦武蔵』『三陸海岸大津波』などを読んできた。何度も読み返すほどに、味わいのある作品が多いと思う。
中でも、『アメリカ彦蔵』『白い航跡』『生麦事件』『海の祭礼』などは、好んで繰り返し読んでいる。こういう作品が読めるということに対して、故人となった作者に心から感謝したいと思う。
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