電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ブラームスのヴァイオリン協奏曲を聞く

2005年09月17日 22時05分24秒 | -協奏曲
ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、若い頃も好きだったが、中年以降に特に親しみ深く感じられるようになった。独奏者の技巧の冴えやオーケストラの華麗で色彩的な音響を誇示する種類の音楽ではないのだが、充実した中にもしみじみとした味わいがある。

LPの時代から好んで聞いているのは、ダヴィッド・オイストラフ(Vn)とジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団による演奏、1969年のEMI録音(EAA-106)、解説は渡辺學而氏。第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ、ニ長調。オーケストラの重厚な響きで始まり、独奏ヴァイオリンが堂々と主題を歌う。協奏曲を聞く醍醐味を感じるところだ。ここでは、作曲と初演に深く関わり、献呈を受けたヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒム作のカデンツァが用いられている。第2楽章アダージョは、前奏に続くオーボエの美しいメロディのあと、オイストラフがゆったりと、大きくて優しい演奏を展開する。第3楽章では、軽快で切れの良いリズムを刻むオーケストラをバックに、独奏ヴァイオリンが技巧を駆使して活気に満ちた演奏を繰り広げ、胸がすっとするところだ。

実は、オイストラフは1967年の10月に、クリーヴランド管弦楽団の定期に登場している。このときは、ウェーバーの「オイリュアンテ」序曲の後にブラームスのヴァイオリン協奏曲があり、ソロをつとめたオイストラフが、後半ショスタコーヴィチの交響曲第10番を指揮している。セルは、60年代のクリーヴランド管弦楽団のソヴィエト楽旅に際し、多くのソ連の演奏家と接する機会を得たのかもしれない。セルがなぜかショスタコーヴィチを振ろうとしないこともさることながら、セルとの共演が、オイストラフ側のアプローチによるものらしいということも興味深い。テンポはやや速いがほとんど同じスタイルの1967年のブラームスの協奏曲が、セル最晩年のこのLPに結実したことを思うと、このEMI録音は実に得がたい記録だと思う。

CDでは、レオニード・コーガン(Vn)とキリル・コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聞いている。これもまた、ややタイプは異なるが、実に力に満ちた堂々たる演奏だ。第1楽章のカデンツァは、やはりヨアヒム作のものである。

参考までに、演奏データを示す。
■オイストラフ(Vn)セル/クリーヴランド管(EMI録音)
I=22'25" II=9'33" III=8'26"
■コーガン(Vn)コンドラシン/モスクワ・フィル
I=21'34" II=9'00" III=7'47"

なお、オイストラフ(Vn)セル/クリーヴランド管(1967定期)では、意外に速い。
I=21'19" II=9'20" III=7'55 となっている。
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ヴィヴァルディは女学校音楽部の顧問の先生

2005年09月17日 10時41分10秒 | -協奏曲
週末の爽やかな朝、ここ数日通勤の音楽として聞いて楽しんできたヴィヴァルディの協奏曲集「和声と創意への試み」作品8の全曲を、自室で通して聞いた。演奏はイタリア合奏団で、デンオンのCOCO-70722-3という型番を持つ、2枚組1500円というありがたいものだ。1986年7月、イタリア、コンタリーニ宮でのデジタル録音。

最初に取り出したCDの2枚目、二部に分かれて出版されたうちの後半、第2集冒頭にあたる協奏曲第7番、第1楽章の弦楽合奏の鮮烈な開始に思わず息を飲む。通勤用のカーステレオの音とは一線を画す、華麗で迫力のある音と豊かな残響に魅了される。イタリア合奏団のこの録音では、基本的にはヴァイオリン協奏曲集の形態を取っているが、そのうち2曲だけ、第9番と第12番はオーボエ独奏を含む印象的なオーボエ協奏曲のスタイルを取っている。
続いて1枚目を聞くと、やはりこの曲集のうち、親しみやすさでははじめの4曲、春夏秋冬の四季が抜群に印象的だとあらためて思う。あまり標題にとらわれるつもりもないが、印刷出版された楽譜に短いソネットを付けたくなる気持ちが理解できる。実際に聖ピエタ教会での演奏の際も、誰かがソネットを朗読し、それぞれの曲を演奏する、というスタイルを取ったのかもしれない。現代の聴衆もわかりやすい標題を好むのだから、18世紀ベネツィアの貴族や市民たちもまた、四季の標題を喜んだのはたぶん間違いないだろう。

以前放送されたNHKの番組「シャルル・デュトワの音楽都市めぐり(1)イタリア」の中で、ヴィヴァルディについてこんなふうに紹介している。
ヴィヴァルディは、聖ピエタ教会の裏で生まれ、この教会の司祭兼聖ピエタ養育館の少女達の音楽教師として生活し、少女達のオーケストラが毎週演奏するために膨大な曲を作曲した。有能な少女のためにソロパートを書き、弦楽合奏や管楽器がかけあいをする形式、つまり協奏曲を発明した。
そう考えると、12曲の協奏曲集は、12人の有能な奏者が次々に立ち、交代でソロを演奏すると考えると、よく理解できる。現代風に言えば、女学校で音楽部の演奏会で上級生が交互に立ち上り、スタンドプレイを演奏し拍手を受ける、そういう風景だ。おそらくヴィヴァルディは、女学生に信頼され愛された、才能豊かな顧問教師のようなものだったのだろう。

このCDのメインは一枚目の「四季」であり、ついでに全曲を聞いてみたい、というのが主な購入動機なのだろうが、コンタリーニ宮での録音の良さと、イタリア合奏団の演奏水準の高さから、繰り返し聞いて楽しむことのできる、素晴らしいCDだと思う。
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