今では店に買いに行く。
昔は店がやってきた。
豆腐屋・魚屋・八百屋・靴や傘や鍋の修理屋・・・
年末には餅つき屋がやってきた。
紙芝居屋もきた。
十姉妹のおみくじやも来た。
商店街や市場のそばにはたいてい行商がいた。
子供たちは行商が大好き。
肉屋の行商が来ると、あれは犬の肉を売ってるんだと、噂しあった。
子供たちは怪しげな話が大好きだった。
しかしなんといっても子供たちの一番のお気に入りはヘビ屋。
子供たちは怖いものが大好き。
ヘビ屋が来ると一番前に座り込んで、もぞもぞ動く赤い袋をこわごわ見つめて話が始まるのを待った。。
ヘビ屋の話はいつも同じだった。
まもなく発売されるヘビの薬の宣伝に来た。
と言って液体の中にヘビが入った大きな瓶を見せた。
この液体、ヘビエキスを傷につけるとどんな傷もたちどころに治るという、
それはそれは素晴らしい薬なのだ。
この素晴らしい薬をあとでみんなにタダであげるという。
それから袋からアオダイショウを無造作に取り出して、
ヘビをおもちゃにして遊ぶ。
首にかけて首飾りにしたり、
鼻の穴に突っ込んで鼻掃除をしたり・・・
夏は一緒に寝るとひんやりして気持いいなどという。
そのあと毒蛇の話を始める。
毒蛇番号なるものがあって1番がキングコブラ。
これはもっとも危険な毒蛇で噛まれるとたちどころに死ぬという。
続いて2番、3番と危険な毒蛇をあげていき、沖縄のハブは6番だという。
ここで金網のケースに入ったハブを見せる。
なんとそれが緑色。
あれっ、ハブって茶色じゃなかったかな?
なんでもクサハブいう種類らしく、普通のハブの数倍も危険らしい・・・
でもクサハブねぇ???
図鑑には載ってなかったんだけどなぁ・・・
と思いながらも、遠くからこわごわ見る。
ところがこのクサハブ、寝るのが大好きらしくて、いつも眠っている。ちっとも動かない。
ヘビ屋もあまり見られたくないらしくて直ぐに話を変える。
今度は別の袋から無造作にマムシを4~5匹取り出して手のひらに乗せる。
そしてマムシに腕をかませて、ヘビの薬で直ぐに治るところを見せるという。
腕を固く縛り口に水を含んでぷっと腕に吹きかける。
それから一匹のマムシを取り出して腕に噛み付かせる。
すると腕は青くなりぶるぶると震える。
そこで先ほどのヘビのエキス、瓶の中に入った液体を塗ると、不思議なことに腫れは引き、震えも止まる。
しかしまだ疑ってる人がいるといけないので今日は特別にこの後、クサハブに腕を噛ませるという。
しかしその前にこの薬を皆にあげよう。
欲しい人は手を上げて!!
するとみんないっせいに手を上げる。
そこでヘビ屋は子供に聞く。
これもらってなんに使うの?
子供は答えられない。
たまに「傷にぬる」と答える子供がいたら、今度はもっと小さい子に「なんに使うの?」と聞く。
こうして答えられない子供がいると、そこですかさずいう。
「このようになんに使うのかわからない子供も手を上げている。
そこで、本当は見本としてただであげたいのだけど、少しだけ金を頂けないか。
来月薬屋で1000円で売られるのものだけど、今日だけ特別に一瓶300円頂きたい」
こういって薬売りがはじまる。
買う人がいるとヘビの入ったエキスを小瓶に詰めて売る。
でもいつも買う人はまばらで少ない。
するとヘビ屋は怒っていう。
これほど体を張って宣伝しているのにあまりに誠意がない。
もうやめた!
といって店じまいを始める。
え~、クサハブは?
・・・と思いながらも客は仕方がないので立ち去っていく。
あるとき珍しくたくさん売れたことがあった。
今日はハブに腕を噛ませるところが見れるな・・・
と期待していたら、急に黙って立ち尽くした。
いつまでも黙ったままなので仕方なく客は一人減り二人減り・・・
でも子供だけは目を輝かせて立ち去らない。
それでヘビ屋は仕方なく言った。
「もう終わった」
えっ、クサハブは?
「終わった」とヘビ屋は繰り返すだけ・・・
しぶしぶ子供たちも立ち去った。
それからぱったりヘビ屋は来なくなった。
近所のおばさんの話では新聞に載ったらしい。
それは間違って牙を抜いてないマムシに腕をかませて病院に運ばれていったヘビ屋の記事だった。
きっとあのヘビ屋だったのだろう。
でもどうしてあの薬を使わなかったのだろう?
そういえばいつまでたってもあのヘビの薬、薬屋で売ってる気配はない。
それにあのクサハブはどうなったのだろう?
今でもヘビ屋の押入れの片隅で眠っているのだろうか?
それともとっくに粗大ゴミとして捨てられたのだろうか?
昔は店がやってきた。
豆腐屋・魚屋・八百屋・靴や傘や鍋の修理屋・・・
年末には餅つき屋がやってきた。
紙芝居屋もきた。
十姉妹のおみくじやも来た。
商店街や市場のそばにはたいてい行商がいた。
子供たちは行商が大好き。
肉屋の行商が来ると、あれは犬の肉を売ってるんだと、噂しあった。
子供たちは怪しげな話が大好きだった。
しかしなんといっても子供たちの一番のお気に入りはヘビ屋。
子供たちは怖いものが大好き。
ヘビ屋が来ると一番前に座り込んで、もぞもぞ動く赤い袋をこわごわ見つめて話が始まるのを待った。。
ヘビ屋の話はいつも同じだった。
まもなく発売されるヘビの薬の宣伝に来た。
と言って液体の中にヘビが入った大きな瓶を見せた。
この液体、ヘビエキスを傷につけるとどんな傷もたちどころに治るという、
それはそれは素晴らしい薬なのだ。
この素晴らしい薬をあとでみんなにタダであげるという。
それから袋からアオダイショウを無造作に取り出して、
ヘビをおもちゃにして遊ぶ。
首にかけて首飾りにしたり、
鼻の穴に突っ込んで鼻掃除をしたり・・・
夏は一緒に寝るとひんやりして気持いいなどという。
そのあと毒蛇の話を始める。
毒蛇番号なるものがあって1番がキングコブラ。
これはもっとも危険な毒蛇で噛まれるとたちどころに死ぬという。
続いて2番、3番と危険な毒蛇をあげていき、沖縄のハブは6番だという。
ここで金網のケースに入ったハブを見せる。
なんとそれが緑色。
あれっ、ハブって茶色じゃなかったかな?
なんでもクサハブいう種類らしく、普通のハブの数倍も危険らしい・・・
でもクサハブねぇ???
図鑑には載ってなかったんだけどなぁ・・・
と思いながらも、遠くからこわごわ見る。
ところがこのクサハブ、寝るのが大好きらしくて、いつも眠っている。ちっとも動かない。
ヘビ屋もあまり見られたくないらしくて直ぐに話を変える。
今度は別の袋から無造作にマムシを4~5匹取り出して手のひらに乗せる。
そしてマムシに腕をかませて、ヘビの薬で直ぐに治るところを見せるという。
腕を固く縛り口に水を含んでぷっと腕に吹きかける。
それから一匹のマムシを取り出して腕に噛み付かせる。
すると腕は青くなりぶるぶると震える。
そこで先ほどのヘビのエキス、瓶の中に入った液体を塗ると、不思議なことに腫れは引き、震えも止まる。
しかしまだ疑ってる人がいるといけないので今日は特別にこの後、クサハブに腕を噛ませるという。
しかしその前にこの薬を皆にあげよう。
欲しい人は手を上げて!!
するとみんないっせいに手を上げる。
そこでヘビ屋は子供に聞く。
これもらってなんに使うの?
子供は答えられない。
たまに「傷にぬる」と答える子供がいたら、今度はもっと小さい子に「なんに使うの?」と聞く。
こうして答えられない子供がいると、そこですかさずいう。
「このようになんに使うのかわからない子供も手を上げている。
そこで、本当は見本としてただであげたいのだけど、少しだけ金を頂けないか。
来月薬屋で1000円で売られるのものだけど、今日だけ特別に一瓶300円頂きたい」
こういって薬売りがはじまる。
買う人がいるとヘビの入ったエキスを小瓶に詰めて売る。
でもいつも買う人はまばらで少ない。
するとヘビ屋は怒っていう。
これほど体を張って宣伝しているのにあまりに誠意がない。
もうやめた!
といって店じまいを始める。
え~、クサハブは?
・・・と思いながらも客は仕方がないので立ち去っていく。
あるとき珍しくたくさん売れたことがあった。
今日はハブに腕を噛ませるところが見れるな・・・
と期待していたら、急に黙って立ち尽くした。
いつまでも黙ったままなので仕方なく客は一人減り二人減り・・・
でも子供だけは目を輝かせて立ち去らない。
それでヘビ屋は仕方なく言った。
「もう終わった」
えっ、クサハブは?
「終わった」とヘビ屋は繰り返すだけ・・・
しぶしぶ子供たちも立ち去った。
それからぱったりヘビ屋は来なくなった。
近所のおばさんの話では新聞に載ったらしい。
それは間違って牙を抜いてないマムシに腕をかませて病院に運ばれていったヘビ屋の記事だった。
きっとあのヘビ屋だったのだろう。
でもどうしてあの薬を使わなかったのだろう?
そういえばいつまでたってもあのヘビの薬、薬屋で売ってる気配はない。
それにあのクサハブはどうなったのだろう?
今でもヘビ屋の押入れの片隅で眠っているのだろうか?
それともとっくに粗大ゴミとして捨てられたのだろうか?