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イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「前田建設ファンタジー営業部」読了

2022年12月18日 | 2022読書
前田建設工業株式会社 「前田建設ファンタジー営業部」読了

水木一郎が亡くったというので読み始めたわけではないが、偶然にもマジンガーZ関連の本であった。

とある土曜日の午後、何気なくテレビを見ていたら、そんなもの造れないだろうと思えるような巨大建造物の建設見積もりを作るような番組を放送していた。(僕が見た時には太平洋を横断する列車用のトンネルの建設費用であった。)えらく古いネタをやっているなと思ってみていたが、こんどはBSのチャンネルを回していると、「前田建設ファンタジー営業部」という映画を放送していた。ああ、古いと思ったのはこの映画の記憶があったからだとわかった。元々、空想科学の世界は興味がある分野であるので、せっかくだから再放送があれば観てみようと思いネットで検索してみるとこの本が見つかった。たくさんのシリーズが出版されているようだが図書館での蔵書はこの1冊だけであった。

著者は実際に存在するゼネコンである。準大手ゼネコン4位だそうだ。その会社が、一般にはなじみが薄いゼネコンの業務内容を広く周知させるため、また、「ゼネコン汚職事件」などから流布しているゼネコンに対するネガティブなイメージを払拭するべく立ち上げた企画が「ファンタジー営業部」というものであったということだ。
これが、大手だと、月面都市や1000メートルを超える立体都市の構想ということになるのであろうが、準大手だと空想科学の世界のそれを求めるようだ。
設定としては、空想科学世界の登場人物から前田建設が開発した“空想世界対話装置”を通して巨大施設の建設発注があり、工法や見積もりを考えるというものである。その初回がマジンガーZの格納庫だったというものである。ここでちょっと突っ込みたいのだが、空想世界ではすでにマジンガーZの格納庫は存在しているのに、それの建設発注があるというのはまったく矛盾しているのではないかと思うのである。まあ、そんなことをいちいち言っていてはこんな本は読めない。

空想科学の世界というと、柳田理科雄の空想科学読本シリーズだが、それとはかなり趣が違っている。柳田理科雄のシリーズは物理や化学の知識を駆使して空想科学のとんでもない世界を数値で表そうというものだが、先に書いた通り、この本は企業PR、業界PRという面が強く出ている感じである。どちらかというと、お仕事BOOKというものだ。だから、建設の見積もりから施工への流れや業界用語の説明がたくさん盛り込まれている。そういった説明をマジンガーZの格納庫の建設見積を作る過程で説明をしている。

格納庫を作る過程の大きなセクションは、立坑の掘削(穴を掘る)、掘削面を固める、マジンガーZを浮上させるジャッキや格納庫の蓋などの機械設備の設置の3段階に分かれている。
前田建設工業はダムなどの土木工事が得意な企業なので掘ったり固めたりという工事の部分についてはかなり詳細な説明を盛り込んでいる。
そのサイズは、12メートル×32メートルの矩形で深さは50メートル。
その中に25メートルの上下動が可能なジャッキを設置し、プールの底を兼ねているスライド式の蓋を取り付ける。



工法についてここで説明を書いても面白くもないので、読んでいるうちにこれは面白いと思った専門用語だけを少し書いておく。
〇土建屋さんが「ユンボ」と言っているショベルカーだが、正式には「バックホウ」というらしい。
〇穴を掘ると掘った分だけの土砂が出るが、それは「ズリ」と呼ばれていて、これの処分費用が掘るときの費用よりも高くつくという。だから建設会社は敷地の中に山を作るとか、凸凹のところを埋めて平坦にしてしまうとかしてできるだけ他所に持って行かないように工夫をしている。
掘り出した土砂は圧縮されていたものが解放されるので堆積が増える。その比率のことを「ふけ率」といい、土質によってその率は変化する。
〇工賃の計算には「歩掛(ぶがかり)」というものがあって、単価が決められている。そしてそれは月毎に変化するので「物価本」というものがあって、毎月そんな本が出版されているそうだ。電話帳並みの厚さがあるという。

しかし、いちばん驚いたのは、格納庫のカモフラージュとして設置されていた施設が、汚水処理場であったということだ。



僕はずっとプールだと思っていた。永井豪はどうしてそんな夢のない施設を設定したのか、ひょっとして遠い将来、誰かが本当にこれを建設するための見積もりを作るということを想定していて、そんなときにはプールよりも汚水処理場だろうと考えたのだろうか。もしそうなら永井豪は鋭い先見性を持っていたのだろうなと尊敬の念を覚えてしまう。

見積もりの結果は意外とお安く、72億円、工期は6年5ヶ月。



地方ヒャッカテンにおける某高級ブランドショップの設置費用が僕の記憶では2億4千万円だったことを思えば意外以上の安さだと思えてくる。
オチとしては、兆円単位の金額が見積もられてそこにツッコミを入れるというのが妥当な流れだと思うが、流石に企業PRの面を持つ著作としてはかなり現実的であったのだ。

読みながら思ったのは、モノ作りの面白さだ。その面白さというのはこういうことを空想することだと思った。そしてそれを実際に創り出せればその喜びはなおさらである。
僕も何かを作るということが大好きで、完成形を想像し、製作工程、材料費、効率的な作り方を考えることを楽しむことが多い。
時々、どうしてそういう職業を選ばなかったのかと今になって悔やむこともあるのだが、結局、何に対しても不平や文句を言うことしかできない自分には、楽しいことは職とはせずにあくまで楽しみとして楽しむ方がやっぱりよかったのではないかとも思うのである。

本を読み終わってわかったのだが、古いと思った記憶はこの本の内容が「ほんわかテレビ」で取材されていて、模型としてつくられた格納庫がテレビで映っていたことだった。
20年ほど前の放送だったようだが、僕自身も会社で何か面白いことはできないかといつも考えているような頃だったのだろう、こんなことをやっている会社があるのだと強い印象が残っていたのだと思う。そんな頃のサラリーマン生活が一番面白かったのだと思うのである。

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