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イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」読了

2023年06月20日 | 2023読書
さかなクン 「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」読了

ずっと読みたいと思っていたものの、児童書の書架に並んでいるのでこれはちょっと還暦間近のおっさんが読むものではないと思っていたのだが、少し前に「さかなのこ」という映画を観たのでこれはやっぱり原作を読むべきだと思い恥ずかしいのを我慢して借りてみた。
すべての漢字にルビがふられているので読みやすいといえば読みやすい。間違いなく子供向けの書籍である。しかし、さかなクンはこの本を読むであろう子供たちの親へのメッセージも本の締めくくりとして残している。それはこのブログの最後に書こうと思う。

映画に出てくるエピソードはかなり脚色しているのかと思っていたらそうでもないらしい。
それはないだろうと思っていたヤンキーさんたちに絡まれたけど逆に友達になって釣りを教えてあげたとか、カブトガニを学校で飼っていたとかいうのも本当のことだったらしい。
主演ののんちゃんとさかなクンは「あまちゃん」でも共演していた。なんだかつかみどころのないさかなクンのキャラクターとのんちゃんのキャラクターは確かにシンクロしている。
面白い映画だった。

本と映画両方に共通するのは自分の好きなことをひたすら追い求める情熱と人との出会いだ。普通ならこんなことをしていても将来何の役にも立たないとかこれで大成しなかったら何も残らないとかそんな消極的な考えになってしまう人が大半なのだろうけれどもこの人は違った。魚に関われる仕事をひたすら追い求めて今の地位を築いたのである。
アキちゃんもこう言っている。
「海女は好きだけど、今じゃなくてもできるべ。だけど、ユイちゃんど、東京さ行って、アイドルさ…なれるかどうかわがんねえけど、それは今しかできねえべ!」
それを本当にやってのけたのがこの人だ。
そしてこの人のお母さんという人も、そんな我が子をひたすら応援し続けたという。普通なら、「そんなことしてる暇があったら勉強しろ!」とひたすら叱りまくるというのが普通なのかもしれない。ちなみにさかなクンの父親という人は囲碁のプロ棋士だそうだ。まあ、もとから普通の人とはちょっと違ったという事実もある。
しかし、よく考えてみると、どの世界でもこうして自分の好きな道をひたすら突き進んだ人がその世界で第一人者となっているに違いない。歌を歌う人でも、周りからはいつまでもあんなことをしていて将来はろくなものにならないなどと言われていたに違ないない。L'Arc〜en〜Cielのhydeさんなんて和歌山にいる頃はおそらく近所ではろくでなしと呼ばれていたことだろう。しかし、そんな雑音を無視して続けていたから有名になれたのだ。
プロ野球の選手なんて、全員がそんな人なのかもしれない。
釣りの世界では中井一誠という人がいて、タイラバの第一人者としてテレビに出演したり自分の名を冠した商品を開発したりしているが、僕と同じ歳でしかも雑賀崎の出身だ。おそらくは同じ頃同じ場所で魚を釣っていたに違いない。ちからさんの話では、かつてちからさんが経営していたダイビングショップでドライスーツをあつらえて離れ磯に泳いで渡ってスズキを狙っていたらしい。その頃からけったいな人だと思っていたらしいが、後年、こんなに有名な人になってしまった。
そこまで突き抜けないと夢は叶わない。僕にはそこまでの情熱はなかった。
そして、どんな人にも誠実に接することができるということがもうひとつの条件なのだろう。それが新たな出会いを呼び込む。さかなクンもヤンキーとも仲良くなれる誠実さがあった。それはきっと自分の進む道に自信があったからに違いない。そこまでの自信をつけるにはどれだけの努力と集中力が必要だったのだろうか。さかなクンはそういったところを軽く書いているが、好きこそものの上手なれというような生易しいものではなかったに違いない。
そういったことが様々な出会いを生んだ。
さかなクンが世に出たのは高校生時代にTVチャンピオンというテレビ番組で5回連続チャンピオンに輝いたからだという。
その後は大学受験に失敗し生物系の専門学校に入り、水族館での実習や寿司屋、ペットショップでのアルバイトをしながら魚と生きてゆける道を模索していた。こういった仕事もたくさんの人との出会いがあったことの結果であった。
さかなクンはこう書いている。
『それまで自分にとって絵を描くということは、誰かに見てもらうためでも誰かのために描くものでもありませんでした。ただただ絵を描くのが好きで、大好きなものを描きたい。そんな自己満足だけで描いていたのです。ところが、そんな自己満足のかたまりのようなミーボー新聞(さかなクンが小学校時代に作っていた壁新聞。これも当時の先生との出会いが生み出したものだ。)を、たくさんの人が毎回楽しそうに読んでくれる。そのことに、驚くとともに、言葉にしつくせないほどのうれしさがこみ上げてきたのでした。
このときを境に、自分の中で、絵を描く心構えがガラリと変わっていきました。』
こういった心持ちがさらに人との出会いを増やしていったのだろう。

寿司屋でのアルバイトでは不器用さから寿司を握ることはなかったが絵の上手さを買われ寿司屋の外装を手掛けることになるのだが、それが評判になってイラストレーターへの道が開け、芸能プロダクションの目に留まり今の活躍につながったという。
これはもう、幸運というだけでは語れないと言えるだろう。タイトルの「まいにち夢中な人生!」を全うした結果なのだろうと思う。
憧れの大学の客員教授という肩書も得たのである。
しかし、これは有名人に限ったことではない。一般サラリーマンでも、自分の仕事が好きかどうかで仕事の質も変わるし人生が幸せかどうかの分かれ目にもなる。自分がやってきた道を振り返ってみても、単にこの会社は平日に休めるからという理由だけで就職したので何の愛着もない。流通業だと思っていたら実体はファッションビジネスで休みの日はコーナンスタイルからワークマンに変わったとはいえ作業着を着続けているのに変わりはないのだからファッションとは無縁で、仕事を通しては“ブランド”というものの無意味さを知ってしまったら余計に自分の仕事の虚しさを身に染みて感じるのである。
加えて性格上、誠実さのかけらもないのだからここに留まっているのも仕方がないと児童書を読みながらタジタジとなるのである。


「らんまん」のモデルになった牧野富太郎は、読めば読むほど、知れば知るほどこんな人はまずいないだろうと思っていたら、さかなクンは現代の牧野富太郎ではなかったかと気づいてしまった。
ふたりに共通するのは対象への情熱と絵の上手さだ。こういう表現力というのはもって生まれた才能なのかもしれないが、多くの人に感動を与えるというのは、絵画や音楽でその才能に恵まれたひとの特権なのかもしれない。僕が富太郎に興味を持ったのも、テレビで富太郎が描いたあまりにも精巧な標本の絵を見たからだったし、さかなクンの絵にしても、普通釣り師は魚が一番大きく見える横からの映像しか見ないのに対して、一見デフォルメして描かれたような、正面から見た躍動感あるイラストは精巧でもある。



二人とも子供の頃から学業そっちのけで絵を描いていたらしいから才能だけでもなかったのだろう。

さかなクンというとものすごい知識量だけれどもあのオーバーアクションはちょっと鼻につくなと思っていた。しかし、この本を読んでみる目が変わった。あのアクションはテレビ出演の最初のころからあんな感じであったというのでそれも持って生まれた才能だったのだろう。多分これからは「ギョギョッとサカナ★スター」は毎回欠かさず見ることになると思う。シャーク香音ちゃんも寿恵子さん同様、現実的ではないほどかわいいし・・。

そして、さかなクンのメッセージだが、
『もし、夢中になっているもの、大好きなことがあったら、ぜひ続けてみてください。好きなことを追いつづけるのはすばらしいです。ひょっとしたら将来の道にはつながらないかもしれません。
途中でスーッと気持ちが冷めてしまうこともあるかもしれないし、まったく別の道を歩むことになるかもしれません。それでもいいと思います。夢中になってひとつのことに打ち込んだという経験は、けっしてムダにはなりません。人生のどこかできっと役に立ちます。
もしお子さんがいらっしゃったら、いまお子さんが夢中になっているものが、すぐ思い浮かぶはずです。それは虫かもしれないし、ゲームやお菓子かもしれません。つい「もうやめなさい!」なんて言ってしまいたくなるかもしれません。けれど、ちょっとでもお子さんが夢中になっている姿を見たら、どうか「やめなさい」とすぐ否定せず、「そんなに面白いの?教えて。」ときいてみてあげてください。きっとお子さんはよろこんで話をしてくれるはずです。その小さな芽が、もしかしたら将来とんでもない大きな木に育つかもしれません。』
という内容だ。なるほどと思うが、これも還暦間近のおじさんにはことすでに遅しという箴言なのだ。しかし、まったくそのとおりだとも思うのである。