イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」読了

2017年02月23日 | 2017読書
戸部 良一、寺本 義也、鎌田 伸一、杉之尾 孝生、村井 友秀、野中 郁次郎 「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」読了

太平洋戦争で日本軍がどうして敗北したのかを軍事力の面ではなく、組織論を中心として分析した内容だ。

その要因の主なものは陸軍と海軍の戦略思想の齟齬、参謀本部と前線の意思疎通の無さと日清、日露戦争時代の成功体験を引きずり、敵戦力の変化に対して自ら変化をすることができなかったというものだ。
アメリカ軍との比較される違いをいくつか挙げると、その組織構成の部分では、人員の任命について日本軍は陸、海軍大学や士官学校での席次で序列が決まり、昇進についても年功序列が普通であり、敗戦の将であっても責任を問われることは少なく、逆に名誉挽回の機会を請い、そのまま認められるというような状況であったのに対し、アメリカ軍では抜擢人事や参謀クラスでもジョブローテーションがおこなわれ、敗戦の責任は厳しく問われていた。
人的配置については、日本軍は常勤が当たり前であったのに対し、たとえば海軍では艦上勤務、地上勤務、休暇とローテーションを組んでおり、ガダルカナル戦では後方でテニスをしながら休暇を楽しんでいた将兵を見た日本軍側はびっくりしたそうだ。米軍はそれだけ余裕をもって将兵のモチベーションを高めていた。
というようなものであった。
戦力配備の部分では米軍は真珠湾の戦闘の教訓から、艦隊戦中心の戦闘形態を空母を中心にした空中戦形態に変更したが日本軍はソ連軍との日本海海戦の成功体験から抜け出すことができなかった。陸戦もそうで、すでに世界は戦車戦となっていたが気合で乗り切る白兵戦が基本戦術であった。装備も驚くことに、明治40年代に制定されてからは更新されずにいたらしい。
日本軍は情緒主義、アメリカ軍は成果主義と人にやさしい組織と言ったところだろうか。

このような日本軍側の組織構造というものは勝っているとき、成長期には絶大な威力を発揮するが、いざ、負けが込んできたり停滞時期を迎えると激変する環境に対応できなくなる。この本には、「組織が進化するためには新しい情報を知識に組織化しなければならない。つまり、進化する組織は学習する組織でなければならないのである。組織は環境との相互作用を通じて、生存に必要な知識を選択淘汰し、それらを蓄積する。」と説明されているが、これが日本軍にはできなかった。
また、このような痕跡は日本政府の官僚機構に色濃く残り、逆に戦後、財閥の解体を経験した一般企業ではそれを克服したと書かれてはいるが、この本が書かれたのは1984年、まだバブル経済の絶頂期を迎える直前だ。まさに連戦連勝の時代で、著者たちにもその後のバブル崩壊を想像することはできなかったのであろう。バブル後、リーマンショック、ひょっとしたら東日本の大地震もそうであったかもしれないが、まさしく著者たちが分析したとおりになってしまった。

この本は小池百合子東京都知事が座右の書としているというので読んでみたのだが、実は日本企業にも旧日本軍の組織構造を根強く引き継いでおり、急激な環境変化に大多数の企業が対応できなかったということを図らずも証明してしまった。
近々でもシャープや東芝というような巨大企業があっけなくも崩壊してしまった要因もおなじようなことに言及されそうだ。

組織が進化、永続してゆくための方法というのは、ビジネス書によく書かれている経営戦略論に見られるような、外部環境の分析、SWOTと呼ばれるような自社の強みと弱みの分析から戦略を導き出す。それを効率的に運用する組織作りとイノベーションが必要であるというものであった。
おそらくシャープは自社の液晶技術を過信してサムスンにしてやられ、東芝は世界が反原発に動いている中で、東日本大震災は想定外ではあったものの、俺たちのやっていることに間違いはないと錯覚をしてしまったのだろう。そしてそれが間違っていることに気付いた人がいたとしても、それを意見できないような会社の雰囲気と硬直した組織構造が出来上がってしまっていたのに違いない。

インパール作戦の立案の際、ある参謀は兵站確保に関して、「われらが空に3発銃を発したら敵はすぐに降参するからそこから兵站を確保すればよい。」と言ったそうだ。ウチの会社でもそうだが、上の人の言うことにおいそれと意見具申を言うことは恐ろしい。(僕だけが持っている印象かもしれないが・・・。)そうやってなんだかそうしなければならないというような、“空気”みたいなものが生まれてくるというのは今の時代もこの時代も変わっていないようである。特に負け組みに属するような企業ではそんな伝統をずっと守り続けているに違いない。


「組織の行為と成果にギャップがあった場合には既存の知識を疑い、新たな知識を獲得する側面があることを忘れてはならない。既知の知識を捨てること、つまり自己否定的学習が必要である。」ということも著者たちが導き出した教訓である。
“自己否定”・・・いまさら自分を否定して新しい知識を獲得することはできるだろうか。
無理だ。絶対無理だ。大好きな魚釣りでさえ変革を望まずに愚直に今までの釣り方を守ることしかできないのだ。会社で自己否定して新しいことを提案して実行するなんてことは絶対に無理だ。ビジネスの成功事例なんかで、よく、周りから、絶対に成功しないから止めておけ。と言われながらやり続けたことが成功をもたらしたというようなものが出てくるが、たとえ新しいことを提案できたとしても、止めておけと反対されたらすぐに手を下してしまう。
それが現実だ。やっぱり戦場では地面に深く顔を埋めて攻撃が治まるのを待つのにかぎるのだ。そして船上では今まで使ってきた仕掛けを使い続けるのが確率的には一番いい。会社ではなんとか逃げ切れる方法を考える。釣れなければさっさと帰る。というのがいまのところの僕の最強の戦略だ。


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