鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

泣ける「母べえ」

2008-02-17 | Weblog
 16日は東京・渋谷は山田洋次監督の映画「母べえ」を観賞した。ベルリン国際映画祭に出品し、受賞が決まると客足が伸びるかもしれない、と思って空いているうちに見ておこう、と思ったのだが、上映開始の10分前に飛び込んだせいか、前から2列目しか空いてなかった。吉永小百合主演の映画は「北の零年」以来であり、「母べえ」は暗い映画である感じがして敬遠してたが、どうしてどうして途中何回も泣けてくるごどの感動の大作だった。
 「母べえ」は昭和14年頃の太平洋戦争突入前の東京の街に住む娘2人の大学教授の家で、なぜかお互い父親のことを父(とう)べえ、母親のことを母(かあ)べえと呼び合っている。父べえの書いたものが特高の目に留まり、ある日父べえは警察に踏み込まれ、連行され、留置場へ入れられる。戦争に反対している、と見なされ、改心するまで釈放は叶わない。ところが、当たり前のことを思っているだけで、なぜ留置されているのかわからない母娘は世の中の厳しい目にもじっと耐えている。
 そんな母娘のところへ父べえの教え子だった青年、山崎が現れ、激励に通ううちに母娘にとってかけがえのない人になっていく。刑務所へ一緒に行ったり、宿題を教えてもらったり、羽根突きをしたり、海水浴に行ったり、まるで家族のように時を過ごす。時に母べえの義妹や叔父が現れ、母べえは代用教員をしながら、戦争中を過ごしていく。
 そして、遂に父べえは釈放されることなく、獄中にて死んでしまう。その悲しみの去らないうちに山崎は徴兵に取られ、戦地に赴く。戦争も終わり、義妹も広島で爆災に遭い、病死し、ひもじい中のある日、山崎の戦友が訪ねてきて、山崎が死んだことを伝えられ、山崎から「死んでも3人の幸せを祈って見守っている」との伝言を聞く。
 で、突如30年経って、中学校の美術の先生をしている妹に電話がかかってきて、母べえが危篤だ、と伝えられる。急いで、姉の勤める病院に行くと、母べえが死の床についていて、「天国で父べえに会いたくない」と言って死んでいくところで幕となる。
 見ている間はどうしていまごろ戦争中の話なんか、と思っていたが、母べえと姉妹3人と山崎の心温まるやりとりを見ているうちに画面に引き込まれ、さてどういう結末にするのだろうか、と心配になってきた。見終わって、確かに最後は母べえが死ぬところまで引っ張るしかない、とも思った。
 また、山崎が海水浴で溺れるくだりでは、主演の吉永小百合が服装のまま海に飛び込んで、得意の泳ぎを披露して、助けに行くシーンには笑ってしまったが、全体に好演であった。父べえ役の坂東三津五郎、山崎役の浅野忠信、義妹役の檀れいと脇役陣の好演も光った。
 黒澤明監督の美術を担当した野上照代さんの原作で、実話なのだろうが、暗い地味なお話を心温まるストーリーに仕立て上げたのは山田洋次監督の功績が大きいのだろう。ベルリン国際映画祭で最高の金獅子賞を獲得するのは間違いない、と見たが、さてどうなることやら。

追記 18日夕になって、ベルリン国際映画祭で「母べえ」は受賞しなかった、とのニュースが流れた。代わりに新人監督の作品がなにか賞をもらったようであるが、この種のことは事前にあまり期待されると受賞しないようである。経済面での地位は低下したとはいえ、日本は世界のなかで注目を浴びる国であるのは確かで、その日本が一体どんな映画を作っているのだろう、という意味で注目を集めたのだろう。特に欧州の国際映画祭で賞をもらう作品は哲学的な色彩があるもののような気がする。「母べえ」は確かによく出来ているが、哲学的に観る人に何かを感じさせるものか、という点ではそこまでいっていない。でも戦争を考えさせるいい作品であるのは間違いない。
コメント
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