鈍想愚感

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どこまで優位が保たれるのか、万能細胞研究

2008-02-01 | Weblog
 万能細胞(IPS細胞=人工多能性幹細胞)なるものに注目が集まっている。京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授が発見したもので、60億個あるとされているヒトの細胞の再生が可能となる画期的な成果として早くもノーベル賞ものとの声が出ている。京都大学はさらに研究を進めるため山中教授を長とするIPS細胞研究センターを発足させ、大阪大の澤芳樹教授らとの心臓治療での共同研究も始まったが、同じ頃に万能細胞を発見した米ウイスコンシン大でも同様の取り組みが進んでおり、人とお金の両面かけた熾烈な競争となりそうだ。
 万能細胞とは体細胞へ数種類の転写因子を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)に似た分化万能性を持たせた細胞のことである。元来、生物を構成する種々の細胞に分化し得る分化万能性は胚盤胞の内部細胞塊や、そこから培養されるES細胞、およびそれらを用いた核移植細胞や融合細胞のみにみられる特殊な能力であったが、IPS細胞樹立法の発見により、受精卵やES細胞を全く使用せずに分化万能細胞を単離培養することが可能となった。
 分化万能性を持った細胞は理論上、体を構成するすべての細胞や臓器に分化誘導することが可能であり、ヒトの患者自身からIPS細胞を樹立する技術が確立されれば、免疫を拒絶しない移植用組織や臓器の作製が可能になるとされている。かねてよりヒトのES細胞の使用において懸案であった胚盤胞を滅失することに対する倫理的問題の抜本的解決につながることから、再生医療の実現に大きく前進するのは間違いない。
 米ニューヨークタイムズ紙は昨年2回にわたって、山中教授を紙面で大きく取り上げた。1回は6月7日付けで、マウスの皮膚細胞から心臓や神経、角膜などあらゆる細胞に分化する可能性を持つ新「万能細胞」を発見したと科学雑誌「ネイチャー」に載った直後で、もう1回は12月11日付けで、科学雑誌「セル」の電子版に成人の皮膚細胞由来の万能細胞作製を発表した時に時の人として取り上げられた。
 新年早々にNHKの「クローズアップ現代」に登場した山中教授は万能細胞を発見した時のことを聞かれ、1万以上あるヒトのDNAから万能細胞にあたる因子を24くらいに絞り込み、このうち4つで万能細胞を構成することが判明し、4つを組み合わせて実験すると、天文学的な時間と暇がかかるので、困った、と語った。それで、ある学生の思いつきで24個の因子から1つの因子を取り除いた23個で24個の時との変化を見て、4つに絞り込んだ、というから、なうほどと感心した。
 この種の研究は時間との勝負でもある。お金をふんだんにかけて力技で持っていく手もあるが、それだとスピードで負けてしまう。日本にように人も少なく、お金もあまりかけられないところではこうしてアイデアで勝負するしかないだろう。
 問題はこれからで、万能細胞は一旦発表され、公知のものとなってしまった以上、これからは応用面での競争となる。すでに米国では日本の数倍の人とお金かけた研究が始まっており、発見では一歩リードした日本がどこまで優位を保たれるのか、保証はない、と言い切った山中教授の顔が忘れられない。
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