北海道日本ハムファイターズの新しい球場が、隣接市の北広島市になるという計画が打ち出されました。
北広島市から誘致の動きが出た後追いで、札幌市もいくつかの場所を提示して誘致活動を展開しましたが、市の提案箇所はどこも「帯に短したすきに長し」。
そもそも「札幌ドームを出る」という決断をされた以上、交渉のイニシャチブは日ハム球団が握ることになるのは当然ですし、日ハム球団が交渉上手だと思ったのは、北広島市と札幌市を競わせたことです。
このことで、道庁までを巻き込んで、北広島市と札幌市との支援メニューの充実合戦になり、ポーカー用語で相手より多くのベットを積み上げる「レイズ」をし合う羽目になりました。
「ここで弱気になったら、相手に持って行かれる」という疑心暗鬼で支援策が積みあがるのを、日ハムさんとしてはさぞ喜ばしく思ったことでしょう。
嫌味でもなんでもなく、「交渉事というのは競わせてうまくいく」という鉄則を貫いていたようにお見受けしました。
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とはいえ、いざここにきて、札幌ドームから日ハム球団が去ったことによる経済的マイナスが語られるようになりました。
地下鉄東豊線の収支が悪化するとか、ドーム周辺のお店の収益が下がるとして批判的な声が今になって上がってきています。
こんなことは、「もしそうだったらどうなるか」という想定などはこんな話が出たときにまず行っていたはずで、小出しにする条件闘争によって最後は折れてくれるはず、という読みが失敗したという事でしょうか。
聞くところによると、日ハム球団側による施設借り上げに関する交渉は過去何年にも及んでいて、決してあっさりと決裂したわけではない、ということのよう。
ある程度時間をかけた交渉でも、一向にらちが明かなかったということは、ドーム側が条件を緩和する余地が少なかったことが考えられます。
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札幌ドームの利用規則は、札幌市の条例で定められています。
「札幌ドーム条例」があって、具体的なことを定めた「札幌ドーム条例施行規則」があり、さらに細かい「取扱要領」と「利用規定」まであります。
これだけの施設を管理するのですから、しっかりと文章で管理の在り方を定めておくことはとても重要です。
それに、日ハム球団のように大口の上客には、ある程度利用料について便宜を図る余地だって、条例には定められています。
ところが、利用規定には融通の利かないことも書かれていて、催事の運営については、たとえば、「もぎりチケット係数業務」や「託児業務」、「大型映像装置管理操作業務」、「イベント清掃管理業務」、「イベント物販業務」、「周辺雑踏警備業務」、「イベント施工管理業務」については、「会社が指定する業者に行わせるものとし、利用者は、独自に業者を指定することはできない」とされています(利用規定9条)。
このあたりには、例外規定なども見当たらなくて、交渉できる余地がないようで、こういうあたりに、ビジネスの可能性を広げたい大口利用者の不満もたまりそうです。
こうしたことに限らず、管理の決まりが条例や規則などで定められていて、柔軟に対応できる余地が現場にはないというのでは、良い管理をするための個別最適の決め事が、結果的に大口の利用者を逃がして全体最適にならない、という事例をよくみかけるのです。
公共施設によくありがちな「公共のためには、特定の者に対して利益誘導をすることがはばかられる雰囲気」というものが、特例を認めさせなかったということがないでしょうか。
市全体に利益を与えるならば、特例だってなんだって柔軟に使えば良くて、それは行政者の範疇ではなくて、全体を考える政治のマターであるような気もします。
さてさて、何を反省すればよいのやら。