バイデン大統領は就任して最初の大仕事である3月の200兆円にのぼるコロナ対策に加え、今回はインフラを中心にした220兆円の追加支出を提案しています。そしてさらに第三弾も計画中です。いったいこんなに巨額な財政出動を連発させて、アメリカ財政は大丈夫でしょうか。
長期の米国債投資を考える方には当然気になる大盤振る舞いに見えます。私の結論は、「ぜんぜん大丈夫」ですが、その理由を説明します。まず簡単に上の2つの政策の内容を見てみましょう。
バイデンが「米国救済計画American Rescue Plan」と名付けた最初の計画は主に家計や低所得者・中間所得層をターゲットにした政策で、それにワクチン普及費用や中小企業の支援、失業保険の拡充延長、州・自治体への支援金などを含めたものです。
American Rescue Planの主なポイント
・高額所得者を除き、一人あたり1,400ドルの現金給付、42兆円
・失業者の通常給付額に追加で300ドル給付、26兆円
・コロナ対策、ワクチンや検査に7兆円
・中小企業対策に52兆円
・州など地方政府に37兆円
そして今週になりバイデン大統領は第2弾となる「アメリカ再強化計画American Job Plan」を発表しました。これは競争力強化のためのインフラ投資を中心としています。この強化策は8年の間に支出されますので単純平均では年に27.5兆円です。
この計画の重要な点は、支出には見合いの増税が組み合わさっていることです。従って財政的には中立的に作用するのですが、増税期間は15年と支出の8年の約2倍の長さになっているため、その間は赤字の要因になります。
追加の220兆円ですが、中身はアメリカの競争力アップのために重要なものが多く、日本的赤字垂れ流しの財政支出ではありません。中身を示しますと、
American Job Plan
・大容量通信インフラ整備、70兆円
・EV化を中心に交通インフラ近代化、65兆円
・製造業の基盤強化、サプライチェーン強化、45兆円
・水道・電力網整備、80兆円 自然エネルギーに対する税の優遇措置付
・高齢者と障害者支援、45兆円
上から4つの項目はいずれも将来の競争力強化として非常に重要で、今後台頭する中国に負けないためには必須のポイントとして大いに評価できるものです。なお、世界のかく乱要因となっている中国に関しては、次回以降じっくりと私の見方をお知らせします。
そしてこれらの支出を支えるための増税案は、
・トランプが減税した連邦法人税を21%から28%に戻す
・税逃れとして批判の多い巨大多国籍企業の海外での収益に21%を課税
この増税は一見競争力を削ぐように思われますが、行き過ぎた世界的減税競争に歯止めをかけることとして評価できると私は考えます。インフラ支出により競争力が改善すれば、それが税収のさらなる増加となって米国債の信頼性にも寄与することにつながります。またイギリスも先月、19%だった法人税を来年4月から25%に増税することを決めました。これは50年ぶりの増税だそうで、世界の減税競争による消耗戦は収まりつつあると思われます。
ここまでバイデンによる第一弾の200兆円の支出案と第二弾の220兆円の支出案の中身を吟味してきました。第二弾はこれから国会で審議されることになり、修正の可能性はありますが、就任からわずか3か月弱でこれだけの大胆なプランを提示する大統領の行動は敬意に値するものです。
そして上記の支出計画に対する市場の評価を見てみますと、これだけ大胆な計画を出しているにもかかわらず、米国債の長期金利は就任時の1%ちょうど近辺から、一時1.74%まで上昇したものの、直近は1.6%台に低下し心配するレベルではありません。
この金利上昇の原因は財政支出計画によるものではなく、むしろ最近のインフレ率の上昇傾向によるものと解釈されています。その間、FRBも長期金利の市場には介入していません。日銀による官製相場とは大違いです。つまり市場も私と同じく将来の競争力アップを積極的に評価し、長期ではアメリカ経済に楽観的であり、財政に大きな問題は出ないと見て取れます。
3月2日の記事で私は「この長期金利の高騰を見て私が抱いたことは、「アメリカは健全だな」ということです。」と書きましたが、このところの金融市場の動きを見ればそれがまさしく当たっていたと思われるのです。
今後バイデン政権はさらに第三弾の計画を発表する予定ですので、それが出そろったときにまた評価することにしましょう。