ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アベノミクス一周年をどう評価するか

2013年11月15日 | 2013年からの資産運用

 アベノミクスが一周年を迎えました。今後何回かに分けて、これまでの歩みを私なりに振り返ってみたいと思います。みなさまが今後の見通しを考える上でヒントとしていただければ幸いです。

 昨年の11月13日に党首会談の席上で野田前総理の解散宣言のあった日を起点にした「アベチャン指数」をこれまで折に触れて見てきました。アベチャン指数とは私が勝手に名付けた、株価の変動と円ドルレートの変動を並行して見ているものです。アベノミクスに対する市場の通信簿とも言える指数です。

 では1年間の指数の推移をレビューしましょう。( )内%が昨年11月13日対比です。


                 日銀総裁に   バーナンキ   
        解散宣言   黒田氏就任    緩和縮小発言   安値     1年終了
        11月13日    4月3日     5月22日       6月13日      11月12日
日経平均  8,661円    12,362(43%)   15,627円(80%)  12,445円(44%)   14,588(68%)
円レート   79円      92円(16%)    103円(30%)    95円(19%)     99円(25%)                         

 株価は昨年の解散宣言以来上昇を続け、黒田氏が日銀総裁に就任してからさらに速度を速め、5月22日のFRBバーナンキ議長の緩和縮小発言の寸前に高値の15,600円台、80%高をつけました。

 そこをピークに6月13日にはちょうど黒田効果を打ち消す12,000円台のレベルまで下落しました。その後は上下を繰り返し低迷していましたが、FRBの緩和基調の継続が確認された以降は、下値不安が薄れて徐々に回復し、今週になり再び明るさを取り戻しているように思えます。

 円ドルレートも昨年11月以来株価とカップリングの様相を呈し、株価と同時の5月22日に103円、昨年対比30%高のピークを付けました。その後も株価の動きとカップリングは続いていて、現在のレベルは100円程度になっています。

 ではこうした株高と円安は誰が作っているのかをみておきます。

 統計がつかめるのは、株式相場は東証が発表する投資家別売買動向、為替相場はシカゴIMM通貨先物ポジションくらいです。それらによりますと、株は昨年以来続いている外人買いは依然として継続しており、夏場までの10兆円レベルの買い越しが9月以降はさらに増加し、現状では12.7兆円まで膨らんでいます。
 それに対して売り越しているのはもちろん日本人ですが、売り越しは個人が約半分の6兆円、年金と保険が6兆円程度です。


 こうして見てくると、この1年を通して株式市場でのアベノミクスに対する好評価は外人によるところが大きいと言えます。

 一方の為替ですが、実需の統計がないためはっきりしたことは不明ですが、プロの参加するシカゴ先物のポジションだけを見るなら、円売りが1兆円弱のポジションを作っています。ということは、将来はそのポジションを解消(清算)する必要から、円の買い戻しの可能性があるということです。しかしこのことだけでは株価と為替のカップリングを説明したことにはなりません。

つづく
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債券の格付け、鋼鉄の男さんへの回答

2013年11月10日 | 2013年からの資産運用
  鋼鉄の男さんから債券投資の判断と格付けについて3つのご質問がありました。みなさんの参考になると思いますので、以下回答させていただきます。太字は引用文です。


>欧州危機の際、ギリシャ、イタリアの10年物国債の利回りが一時7%を超えて話題になりました。(7%を超えると返済が難しくなる、という扱いでした。)

現在、新興国で10年物国債の利回りが7%を超えるものが見受けられます。(例えば、インド、インドネシアなど)

1.新興国の財政状況は先進国に比べて健全であり、インフラ整備、産業振興などで資金需要が伸びるため、7%を超えても話題にならないのでしょうか。

 いいえ、そうではありません。信用力がないので高い金利を払わないと投資してもらえないためです。ギリシャ・イタリアと同じです。そして実はもっともっと危険です。何故ならイタリアあたりは低金利に戻りますが、インドは戻らないからです。

インドもインドネシアも単なるジャンク、もしくは一歩手前で、イタリアやギリシャが信用を失ってその域に達したのです(笑)。

新興国の債券はシロウトが手を出すしろものではありません。証券会社はジャンクを「ハイイールド」などと勝手に称して誘いますが、甘い言葉には騙されないようにしましょう。

最近証券会社は、「高利回り」と言うのはよくないと諌められたのですが、何とパンフレットで「好利回り」と称しています。もー笑うっきゃない!

2.米ドル建て新興国国債(例えば、米ドル建てインドネシア国債)について、林さんはどのように見ているでしょうか。世界銀行債のようなスーパーソブリン債と同様の考えで、格付けによって判断(AAAであれば超安全)ということでしょうか。

  まず、新興国の国債はAAAは絶対にもらえません。世界では十数カ国の先進国がAAAを保有していますが、新興国は入っていません。私はAAAなら大丈夫とも考えていません。仕組み債は信用できませんので。スーパーソブリンは本来の意味で高い安全性を有していると考えています。

  先ほども申し上げましたが、そもそも新興国の債券はシロウトの投資対象になりません、投機対象、ギャンブルです。


  債券の世界はみなさんが普通に考えている世界と、ちょっと異なります。格付けは成長性を評価せず、安全性のみを評価するからです。もっと言えば返済能力のみを見ています。

  例で申し上げますと、伸び盛りの企業、グーグルやアップルなどの世界的一流レベルの企業でもAAAはなかなかもらえません。2社も5年後10年後にはとんでもない競争相手が出てきて消えているかもしれないからです。もっともマイクロソフトはAAAを持っています。成長力はすでに低下していますが、事業がITの中でも安全性の高いインフラ系企業と考えられていて、保有キャッシュで投機の勝負はせずにいるからでしょう。もっとも私自身はMSのAAAには疑問を感じていますが。


3.バンクローン(銀行貸付債券)は、どのようにお考えでしょうか。
 利回りで比較すると、米国リート < バンクローン < ハイイールド債 です。 私の考えは、格付けの低い企業の債券なので利回りが高いですが、担保がついているので、米国リートに準じる投資先と考えて良いと思っています。


 バンクローンとはローンを束ねた仕組み債(CDOなど)と理解します。その中身は端的に言えば不動産担保の付いたサブプライムローンと同じです。多くのローンに分散投資しているし、担保があれば安全性は高いだろうという統計学的発想にたっていますが、それはすでにサブプライムで破綻しています。たとえAAAでも私は投資をお薦めしません。

 リートは利回り商品の一面はありますが株式投資です。元本も配当も大きく変動しますし、償還もありません。ある時点のリートの配当と債券の金利を比較するべきではないとおもいます。よいリートの価格は成長しますし、ダメなリートは低下します。下がったら償還まで持ちきるという戦略も取れません。

 リスクを取りたくなければ米国債、リスクを取って高い配当を求めるならリートもありです。ジャンクボンドよりずっとましなトラック・レコードを持っています。

みなさんへ、

「格付けは成長性を評価せず、安全性のみを評価する」
ということ、是非覚えておいてください。
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日米の株価見通し、その2 秋生さんへの回答

2013年11月07日 | 2013年からの資産運用

 日米の株価の先行きが今回のテーマです。前回の<その1>をまとめますと、

1.アメリカ株はFRBの量的緩和の影響もさることながら、企業業績により強い反応を示している
2.日本株はアベノミクス開始以降の上昇が大きいこともあり、FRBの緩和削減の可能性だけで大きく下落し、5月の高値を抜けていない



 では今後の株価を見通すために大きな要素である両国のファンダメンタルズを見てみると

1.アメリカ経済は住宅がちょっと息切れ気味だが、製造業の回復が企業業績全般を引っ張り上げる状況は続く

2.日本経済はそれまでの低めの巡航スピードを上回る好調さが持続するため、企業業績も上向きが見込まれる


 このように、私は両者ともにファンダメンタルズは悪くないと見ています。

 ではFRBの量的緩和の先行きと株価への影響をどう見るか。

 来年のいずれかの時期に量的緩和の縮小があると思われるますが、緩和の縮小であって、引き締めに入るわけではありません。そしてこの量的緩和縮小のインパクトは本家のアメリカ株には強烈なパンチとはならない。むしろそれだけ実体経済が強いことの証となるため株価が大きく下げることはない、というのが私のアメリカ株の見方です。

 日本株も、FRBの緩和策の縮小に対して今後は前回ほどの強い反応はないと思われ、業績の切り上げに沿った上向きの展開になるだろうと見ています。そして日銀の緩和策にゆらぎはないでしょう。

 もう一つ、日本株にとって大事な為替とのカップリングですが、貿易赤字の定着が円高への反転を阻止し、当面は株価を下支えする力となり、マイナス材料とはならないと思われます。

 
 ここまでをまとめますと、「半年レンジくらいでは、ファンダメンタルズは株価には追い風、緩和策の縮小も強い逆風にはならない」と思われます。


じゃ、今後半年程度で見て日米ともに株は買いなのか?

 私の答えは、

「これからの参戦は見送り、すでに保有している株はホールド、高値を追ってくればむしろ売り」というところです。


 ただし以前から申し上げているとおり、今後の世界は何かにつけて予想を超える大激震が起こりやすくなっています。天変地異しかり、中国の動向しかり、そして中期的に見れば日本財政もしかり。

 大激震はいつどこで起こるか予想できません。株価はそれらに大きく影響されます。米国債はそれらが起こればいつでも買われます。

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日米の株価見通し、その1 秋生さんへの回答

2013年11月06日 | 2013年からの資産運用
  秋生さんより、金融バブルの懸念から「アメリカも日本も株価が下落されると見られていますか?」とのご質問をいただきました。

  株価の見通しは私の専門外ですが、にもかかわらず2回に分けて私なりの見通しをお伝えすることにいたします。株価については日米ともに半年レンジくらいでは悲観的には見ていません。理由をお知らせしていきます。

  まず秋生さんのコメントの中にあった「現在アメリカは金融バブルだ」という記事についてです。超緩和政策が継続していることを言っているのだと思います。それがどの程度株価を支えているのかを見るには、緩和を縮小するかもしれない、と言ったバーナンキ発言に対する株価の反応を見るのが一つの方法かと思います。

 5月末のバーナンキの「今後2-3回のFOMCで緩和ペースを落とすかもしれない」という発言で日米の株価が大きく動きました。しかし9月の中旬以降、特に9月末のFOMC以降は、バーナンキ発言が次第に後退し、年内の緩和はないのではないかとの見通しに変化しました。

 ではそうしたことに株価がどの程度インパクトを受けたか、簡単に数字で見てみましょう。比較はバーナンキ発言直前の5月21日、その後のボトム6月24日、現在と3時点で比較します。(日付は日米で1日のずれがあります。カッコ内は5月21日比です)

         NYダウ     日経平均
5月21日  15,387      15,627
6月24日  14,659(-5%)  13,062(-16%)
11月4日  15,639(+2%)   14,225(-9%)


 NYダウの反応はバーナンキ発言後のボトムでマイナス5%、たったの5%と言ったほうがよいかもしれません。それに対して日経平均はマイナス16%と大きく反落。

 では現在はどうか。NYダウはすでに5月21日の高値を2%ですが上回っています。それに較べ日経平均は依然として9%のマイナスです。

  バーナンキ発言のインパクトを見た理由は、今後の株価を見通す上で、FRBの緩和策修正のインパクトを今後どの程度と見るかのヒントを得るためです。いずれは緩和の縮小は避けられないので、それを推し量りましょう。

  まずアメリカ株は史上最高値近辺にいるため高値警戒観があるはずですが、前回の政策変更発言での影響は軽微でした。アメリカ株はFRBの政策変更より企業収益のほうが影響は大きいのです。現在も経済指標の発表などに多少の影響は受けますが、企業収益の影響が支配的だということが見てとれます。7-9月の企業収益は4-5%のプラスで、株価もその範囲での動きです。

  日本株はどうか。日本の株価はバーナンキ発言以前にかなり上昇していた反動もあるとは思いますが、日本独自の悪材料が出たわけではないのに大きく下落しました。むしろ安倍政権と黒田日銀のアベクロコンビはその後も株価をサポートする発言や政策を続々と発表してきました。その中での大きな下落です。

  日本株のトレンドを大きく変えたのは間違いなくバーナンキ発言と、それに伴う為替の変動、つまり円安トレンドの頭打ちでした。

  こうしたことを踏まえて、次回以降で今後の株価について考えてみましょう。
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米国リートの見通しについて、ひまわりさんへの回答

2013年11月05日 | 2013年からの資産運用
ひまわりさんへ

  私のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

  連休にちょっと東京を離れていたため、返答が遅くなりましたが、以下回答させていただきます。

 「米国リート投信の見通しを」とのご質問をいただきました。私3月26日の記事をリファーしながら、現時点での私の見通しをお伝えいたします。

 まず米国リートのインデックスを短期で見てみると、今年の年初は160程度でスタートし、5月末のバーナンキ発言の前には年初から15%ほと上昇して185程度でピークを付けました。その後バーナンキの発言により低下し、8月にはピークから20%程度低い150程度でボトムを付け、現状はボトムから10%程度高い165くらいに戻しています。

 一方、3月の記事で私はアメリカのREITの特徴を次のようにまとめています。

引用

1.1970年前後から40年以上の歴史がある
FTSE NAREIT指数の配当込年平均リターンをドルベースと円ベースで比較すると以下のようになります。 以下の数字は、驚くなかれ年率のリターンです。       
          10年   20年   30年
  ドルベース  11.7%   10.3%   9.9%
  円ベース    9.0%  8.9%    6.5%

  10年・20年・30年とみてもとても安定したリターンをもたらしています。

2.バブったのは2回、日本と同じで開始当初70年前半、及びリーマンショック前07年

3.多くのセクターに分かれて専門REITが運営されている
例.オフィス、商業モール、住宅、ホテル・リゾート、病院、倉庫、物流施設などで、日本のようにオフィス(5割程度)に偏ってはいない

4.市場規模は日本の10倍で、市場に厚みと流動性がある
時価総額(1月末); 日本 4.6兆円、米国 43.4兆円

  REITは株式会社の株が投資対象ですから、価格の上下はあって当然だしそこに投資の面白味もあります。アメリカのREITももちろん価格の上下変動 はあります。しかしREITができた当初の70年代はじめと40年後のリーマンショック時を除けば、バブル⇒崩壊の繰り返しではありませんでした。
引用終わり
  
  このように、アメリカのリートは数年単位の長い目で見ると、大変安定的なパフォーマンスを上げています。安定したリターンの基礎は、

1.アメリカ経済の長期的成長性

2.経験豊かなリート会社による経営

3.リートの配当の仕組み


  こうしたことにあります。基本的にリート会社は儲けの9割を配当に回すことが義務付けられているため、投資家には安定したリターンが見込まれるのです。今後も上下の波があいてっても、上昇トレンドに決定的変化があるとは思えません。

  私は著書では、リスクを取りたくない方には米国債、リスクを取るなら米国リートというお薦めをしていますが、その考え方は現在も全く変わっていません。現在お持ちの投信をどの時点で買われて、損得がどうなっているかはわかりませんが、当面現金化する必要がなく継続が可能であれば、保有の継続をお薦めします。
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